2006年04月18日

『幽霊学園』その12:水曜日3限・決戦

ネタバレ注意!!
以下は「FN1 Haunted School」という未訳シナリオを遊んだものであり、多分にネタバレを含みます。今後先述のシナリオを遊ぶ可能性のある方はお読みにならないことをお勧めいたします。


 裏口から図書館に入り、職員室の脇の階段を抜けて校長室に行った。
 鍵は当然のようにかかっていたが、リッチーがポケットから取り出した針金でしばらくいじっていると、鍵はなんなく開いてしまった。
 部屋の中には――誰もいない。が、耳を澄ますと、何やら禍々しい呪文の詠唱が聞こえた。あわてて廊下に飛び出すと――聞こえない。やはり部屋の中で「儀式」は行われているらしい。

 「あれじゃないかしら」
 ジェニファーが指差す先には――校長室の真ん中に聳え立つアテナ像。
 うん、ポリー先生の趣味だって褒められたものじゃない。

 像を調べていると、アテナの持った盾の部分が動くのにリッチーが気がついた。盾をどけると、アテナの像の中には隠し階段が下へと続いていた。そして、呪文ははっきりとそこから聞こえてきていた。

 もう、一瞬の猶予もない。
 ついでに言うなら、儀式の最中なら向こうもそうそう自由が利くわけじゃないだろう。チャンスかもしれない。
 わたしたちは階段を駆け下りた。

 目の前にはどうにも怪しげな光景が繰り広げられていた。
 林立する柱に取り付けられた火皿の中でちろちろと火が燃え、その明かりの中、祭壇を挟んで立つ男女。もちろん新校長とオリンピア・スミス。そして祭壇の上には縛られたゴルディスティン先生とリー先生。
 儀式の場に踏み込んだ私たちを見ると、新校長は噛み付きそうな目で睨んでよこし――そして呪文の詠唱を止めた。つまり、闖入者を片付けるのが先決だとおもったってこと。

 おとなしく片付けられるわけにはもちろん行かない。
 ヘアスプレーの霧の中、リッチーがオリンピアに殴りかかり、そのままはたき倒される。が、その隙に飛び掛った<委員長>の砂入り靴下がオリンピアの後頭部を直撃。あわててそちらへ行きかけた新校長の背後に立つと、私は呪文の朗詠を始めた。ここならオリンピアも新校長も一気に呪文に巻き込める。
 新校長の熾火みたいな目がこっちを向き、そしてつかみかかってくる。ふん、それぐらいで止められるもんですか。朗詠を続けながらわたしは身をよじった。首でも絞められなきゃ読み続けられるわよ、これぐらい。
 新校長ともつれ合うようにしながらわたしは呪文の朗詠を終えた。

 すさまじい悲鳴と、そして何かが割れる音がした。
 そこにおいてあった妙な形の壷が割れて、そしてポリー・マッキンタイア校長先生がそこにうずくまっていた。先生は顔を上げると、疲れの隠せない顔で……でも、にっこりと笑った。
 「助けてくれたのね、ほんとうにありがとう」

 結局、すべては「悪霊となってこの学園にとどまっていた」マーカス・マッキンタイアの仕業、ということだった。

 生前、マーカスはオカルトに手を染めるだけでなく、オカルト関係の物品――相当に違法なもの――の密輸にも手を出しており、そしてアテナ校を隠れ蓑にして密輸の手を広げることをたくらんでいたらしい。
 どうも学校の経営には関係のなさそうなことをしているようだ、というので当然ポリーは兄と不仲になる。そんなところへ、これは本当に偶然、マーカスは事故死した。しかし死してなおマーカスの霊魂は校内にとどまり、復活の好機を狙っていたということだった。マーカスの事故の後に死んだ三人の教師は、マーカスの影響を受けたオカルティストであり、マーカスの死を機に「事故に見せかけて肉体を捨て、完全なる自由を目指した」らしい。そしてこれもまた悪霊となって学園にとどまっていたのだという。

 10年前もマーカスは私の肉体を奪って復活しようとしたのです、と、ポリー校長先生はおっしゃった。それがあの10年前の落馬事故だ、と。しかしそのときは校長先生もまだお若かったので、悪霊に肉体を乗っ取られずに済んだということらしい。
 
 先生は学園中の徹底的な捜査を行った。アテナ像の中は勿論、墓場や教会、森の中まで。とうとう、廃屋と化した教会の中から何やら奇怪な彫刻を施した杖をはじめとする儀式の道具らしきものが見つかった。また、四冊の灰色の本以外にも怪しげな書物が見つかった。先生はそれを集めるとすっかり焼き捨てた。これでマーカスが再び肉体を得ることはできなくなった、と先生はおっしゃった。

 いなくなっていた先生や学生も戻ってきた。
 マシューももちろん戻ってきた。驚いたことに、月曜の晩、リッチーの腕を引っ張っていたのはマシューだったらしい。幽霊になるにも「姿だけになるもの」と「見えない手になるもの」があったようだ。そして、火曜の夕方、取り乱した様子で廊下を駆け回っていたメルディスは、マシューを探していたもののようだった。
 ――あのときね、私、マシューは『この』世界にいる、って、なぜかわかったの。でも、探しても探してもマシューには会えなくて……
 「見える」霊体と「見えない」霊体では存在する位相が違うという学説は本当だったのねとわたしは思ったけれど、とりあえずそれについては伏せておくことにした。それはそうと、二人ともきちんと人間に戻ったというのに、メルディスはマシューに思いを告げるどころか相変わらず声もかけられないでいる。どうにもままならない話。
 可哀想なのは意地悪舎監のジェラルド・フォーニーで……彼は幽霊になったことがあまりにもひどい体験だったようで、本当に発狂してしまったという。
 火曜日の昼、叫びながら通り抜けていったジェラルドの幽霊は……。ジェラルドはあの時もう完全に狂ってしまっていたのかしら。

 とにかく、事件は終わった。
 わたしたちはこのことに関して散々なこと――図書館で叫んだり、嘘をついたり、窓ガラスを割ったり、本を盗んだり、鍵をこじあけたり――をしでかしたけれども、それはすべて不問に付された。わたしたちは学生の身でありながら学校の危機を救ったのであり、これまでのことは事件解決には必要だったのだから、と。そう、新校長があからさまに奇妙な戒厳令や禁足令を敷いたりしていたし、それにジェラルドの幽霊を見た生徒も大勢いたので、今回のことは「学校の中の公然の秘密」という扱いになっていた。そして、わたしたちは学校で表彰され、メダルと奨学金を授与されたのだった。それともうひとつ、「引っ込み思案のクリス」は今では馬術部の期待の星のクリスだ、っていうことも言っておかなくちゃ。初めての乗馬で森に乗り入れ、スリーピー号を操りきったのがきっかけ、らしい。

 だから話はめでたしめでたし、のはずなんだけれど。一点を除いて。
 <委員長>がゲイであるという噂だけは消えてない。ひょっとしたらリッチーが裏で何か口走ったんじゃないかとわたしはひそかに疑っている。ジェニファーにいたっては、ゲイの噂のある<委員長>ならずっと一緒にいられるから、とかひどいことを言っていたのだけれど……

 おや? それって、実は結構意味深なんじゃないかしら?
 でもまぁ、事件が終わってしまった以上、どれもこれもわたしには関係のないことなのだけれど。


このシーンの裏側。
posted by たきのはら at 15:19| Comment(1) | TrackBack(0) | d20ホラー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『幽霊学園』その11:水曜日・昼休み

ネタバレ注意!!
以下は「FN1 Haunted School」という未訳シナリオを遊んだものであり、多分にネタバレを含みます。今後先述のシナリオを遊ぶ可能性のある方はお読みにならないことをお勧めいたします。



 <委員長>はリッチーの部屋の洗濯籠から靴下を引っ張り出すと、無言で階下に下りていった。戻ってきたときには二つの靴下には砂がぎっしり詰められていた。誰かに見られなかったでしょうねと確かめようかと思ったけれど、据わった目で靴下に砂を詰め込む<委員長>の姿は想像するだに恐ろしかったから、見られていたとしても見たほうは見なかったことにするだろうということは確信できた。

 昼休みが終われば教師達・職員達はおろか学園全体にわたしたちが「呼び出されている」ことは周知徹底され、見つけられ次第否応なしにわたしたちは校長室に引き立てられるだろう。時間はもうわずかしか残されていない。
 委員長とリッチーは砂の詰まった靴下を隠し持ち、わたしは本を取り上げ次第すぐに必要なページが見つけられるように、(もっとも必要なはずのページの直前で途切れた)コピーの内容を頭に叩き込んだ。

 「まず、どこへ行く?」
 「職員室はまずい。僕は……校長室でギル・タウンゼントにぶん殴られた傷が痛んでろくに動けないんだ。多人数相手の殴り合いは、ちょっと」
 冗談じゃない、じゃ、ひょっとしたらまともに動けるのは僕だけか、と<委員長>は心底うんざりしたため息をついた。……でも、教師を襲って魔道書を取り上げようっていったのは貴方よ?

 というわけで、わたしたちはまず保健室に行った。
 Dr.ジェファーソンのオフィスは閉まっていて、ペーター・ハモンのオフィスのほうだけに人の気配がする。かえって好都合。
 すみません、といって入る。
 「何だ、君達は。だいたい君たち三人は校長から呼び出されていたはずだろう?」
 「ええ、そうです、でも……」
 といってわたしは上着の袖をたくし上げた。昨日、茨でざらざらになった腕を出す(わざわざ包帯も外してきていたのだ)。あらためて自分で見ても、ひどい。
 「昨日、転んで茨の中に転がってしまって……ひどく痛むんです。ちょっと診ていただけませんか? その後校長先生のところに行こうと思って……」
 うわ、こりゃひどいな、とハモン先生が消毒綿を片手に寄ってきたところを。

 <委員長>とリッチーが後ろに隠し持った砂入り靴下で殴りつけた。わたしもそのへんにあったシーツをハモン先生にかぶせてしまおうと思ったのだけれど、男子生徒二人がめったやたら靴下を振り回すものだからうまく立ち回れない。と思っているうちにどちらかが振り下ろした靴下がハモン先生の後頭部にあたり、先生は声も立てずに倒れた。すかさずシーツやら何やらでぐるぐる巻きにしてしまう。
 「ヴェロニカ、あれだ。あの灰色の皮装丁の本」
 リッチーが指差す先には確かに怪しげな本があった。いそいでページを繰ると、相当長い呪文が、けれど慣れ親しんだラテン語で記されている。急に覚えろと言われたらつらいけれど、読み上げる分には問題ないわ。
 
 呪文は影響を及ぼすべき相手の至近にて唱えないと効果がない、ということだったので、倒れたハモン先生の足元に立って本を読み上げた。呪文の最後の文句を発音し終わると同時にハモン先生は消え、そして隣の部屋で何かどさりと重いものが――ありていに言えば人でも倒れるような音がした。

 「ジェファーソン先生!?」
 鍵のかかったオフィスのドアをたたくと、どうにも青ざめた顔色をした先生が内側から鍵を開けてくれた。 
 「先生、幽霊が……」
 「わかっている、自分の身に起こったことが事実である以上、信じられなかろうがなんだろうが事実には違いあるまいよ」
 そういうと、先生はわたしたちを中に入れてくれた。
 「気をつけなさい。あの悪霊たちは一人の人間の肉体だけを奪い取っているわけじゃない。奪った肉体が多くなればなるほど、奴らは生気を得、強力になっていく。ハモンはブランニー先生と私、それに君達の学年のメルディス・オパールの肉体から出来ていた。時間があったらメルディスを見てやってほしい。きっと部屋に戻っているはずだ」

 果たしてジェファーソン先生の言ったとおり、寮に戻ると、部屋の床にメルディスが倒れていた。呼んでも目を覚ます風もなかったし、単に気を失っているだけという状態だったので、とりあえずベッドに寝かせておいた。クリスとジェニファーについては残念ながら「ハズレ」だったようで、相変わらず半透明の姿のまま、そこにいた。

 次の襲撃相手はできればオリンピア・スミスあたりにしておきたかった。が、彼女はどうやら職員室にいるらしい(クリスが窓から見てきたのだ)。とすると。
 「ギル・タウンゼントか……」
 リッチーが心底嫌そうな声で呟いた。
 「気をつけないと。奴は一撃で僕を半殺しにしたんだからな。おそらくジェラルドかなんかの肉体を使ってるんだろう、あの脳味噌筋肉の」

 相手は物理実験室で午後の実験の準備をしている。昼休みが終わって生徒が来てしまうまでに片をつけなければ。もう余裕はあと数分。ためらっている暇はなかった。
 わたしたちは物理実験室に忍び込み、背後からギル・タウンゼントを襲った。男子生徒たちが殴り合っている間に私はどうにかギルの近くに位置を占め、十数秒はかかる呪文を唱え終えた。ものすごい悲鳴を残してギルは消えた。
 ギルが消えたのを見届けるがはやいかわたしたちはその場を逃げ出し、寮へ戻った。悪霊教師がいなくなったところで、生徒が来てしまえばそれはそれで面倒なことになる。

 今度はありがたいことに半分だけ「アタリ」だった。
 舎監室で悲鳴のようなうなり声のようなものがひっきりなしにしているのはともかくとして、ジェニファーが「戻って」きていた。とはいえ、肉体に霊魂が戻ったばかりでふらふらの状態だったが。それにリッチーもさっきの殴り合いでまたもやギルのこぶしが掠ったとかで、あと一度でも殴られれば本当に気絶しそうだと真っ青な顔で呟いていた。
 しかし、一人でも悪霊教師が残っていれば解決にならない。抵抗しているのが私たちであることはもうわかっている以上、そして向こうの狙いややり方が完全にわかっているわけではない以上、このまま一気に相手をつぶしてしまわない限り、わたしたちが今やったことは「最悪の事態の到達を遅らせただけ」にしかならない。

 わたしたちは寮を抜け出した。
 砂入り靴下を持った、目の据わった<委員長>。
 同じく砂入り靴下を持った、真っ青な顔のリッチー。
 ヘアスプレーを握り締めた、おぼつかない足取りのジェニファー。
 半透明でふわふわ浮いているクリス。
 そして、魔道書を持ったわたし。

 むちゃくちゃだ。

 ちょうど、昼休みの終わりを告げる鐘が鳴った。


このシーンの裏側。
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2006年04月17日

『幽霊学園』その10:水曜日・2限

ネタバレ注意!!
以下は「FN1 Haunted School」という未訳シナリオを遊んだものであり、多分にネタバレを含みます。今後先述のシナリオを遊ぶ可能性のある方はお読みにならないことをお勧めいたします。



 目の前ではギル・タウンゼントが苦虫を噛み潰したような顔をして何やら読書中だった。タウンゼント先生はわたし達に物理の授業をする気はまったくなさそうで、演習問題をいくつか黒板に書き付けると、後は自分の読書に忙しいということのようだった。
 まぁ、それはこちらとしては一向に構わない。わたしも読書に忙しかったのだから。

 物理の教科書に隠して私は「学校に関する諸資料」をせっせと読み解いていた。そう、間違いない、資料の中には学校の設立に関する話題があり、マッキンタイア兄妹が学校の設立には一致協力したものの経営に関しては方針が一致していなかったという記録があり、そしてマッキンタイア氏は事業を興す一方でオカルトにも手を染めておりハーブや怪しげな薬品をも事業の一環として取り扱っていたということが記されていた。あの「悲劇的な落馬事故」と、その後連続した教師の事故死についてももちろん記されていた。事故の犠牲者の生前の写真もあった。新校長とオリンピア・スミス、ギル・タウンゼント、ペーター・ハモンの顔をわたしは改めて古びたページの中に確認した。

 そして、今まで知らなかったこともそこには書かれていた。
 マーカスの落馬事故は例の墓場近くでのことであったということ。
 そして、同じ場所で10年前にポリー・マッキンタイア女史がやはり落馬事故を起こしていたが、そのときは大事に至っていなかったということ。

 ……何やらつながりそうだ。

 そう思ったとき、わたしの目の前で<委員長>がいきなり立ち上がった。
 「ちくしょう、失敬な!! ジェニファーはそんな娘じゃないぞ!!」
 まったくもってわけのわからないことをわめき散らすと、<委員長>はそこにあったコート掛けをものすごい勢いで窓際に座っていた生徒めがけて蹴り飛ばした。狙いは外れ、コート掛けは脇の窓に突っ込んだ。
 「どういうことだ、授業中だぞ!!」
 タウンゼント先生は手にした本を放り出すとこちらへ走ってくる。視野の端で、その本をさらって外に走り出すリッチーが見えた。
 ……そういうことか。

 私は読んでいた資料をすばやく机の中に押し込むと立ち上がった。
 「……あの、タウンゼント先生」
 先生の前に立ちふさがると、必要以上に声を落として言う。
 「すみません、あの……」
 「何だ!?」
 「<委員長>、このごろちょっとおかしいんです。ゲイだって噂もあるし……ええっと、あれは神経がおかしくなるとそうなるんでしたっけ?」
 ……そんなわけがあるものか。
 ともあれ、いかにも物知らずの小娘のふりをして、忌まわしそうに気の毒そうに、ひそひそと先生の耳にささやく。先生はうんざりしたような顔をしてわたしを見、<委員長>を睨み、周囲を見回し――そして怒りの声を上げた。
 「私の本が!! 誰か取って行っただろう!?」

 結局リッチーがまた窓際にこっそり本を戻しておくまで、先生は怒り狂った牡牛みたいに怒鳴り続けた。で、本が見つかった後も、泥棒がここにいるに違いない連帯責任だ、明日は全員で校舎裏の清掃をやらせるからなと叫んでわたしたちを解放したのだった。

 授業時間が終わるとわたしと<委員長>はまっすぐリッチーの部屋に行った。
 「魔道書のコピーをしたよ。ラテン語なんで僕は読めないが」
 「読めるわ。見せて」
 そういってリッチーがベッドとマットレスの間から引っ張り出した紙束を受け取る。そうすると、わたしの肩越しに誰かがそれを覗き込んだ。振り向くと半透明になったクリスだった。
 「うるさいな、校長もこの本を持ってたってのはわかったんだからお前はもういいって言ったろ。あっち行ってろ」
 リッチーが眉ひとつ動かさずに言う。するとクリスはひざを抱えた姿のまま窓辺のオジギソウのところに漂っていき、オジギソウをつつこうとした。けれど半透明になったクリスの指はそのまま植物をすり抜けてしまうのだった。
 あんまりだ。

 が、もっとあんまりなことが判った。
 「リッチー、あなた魔道書をコピーする箇所、どうやって決めたの?」
 わたしは言った。きっと随分冷たい声だっただろう。
 「全部をコピーするだけの手持ちがなかったから、本の自然に開いたページ周りをね」
 「運が悪いわ。……儀式のやり方までは書いてあるんだけど、肝心の、幽霊にされた人の肉体から悪霊を追い出して本来の持ち主に戻す呪文の直前でコピーが終わってるの」
 しばらく、沈黙が落ちた。

 そのとき、リッチーの部屋のドアを誰かが激しくノックした。
 「リッチー、お前何したんだ!? 校長から呼び出されてるぞ。寮のロビーに張り紙が出てた。即刻出頭せよだってさ。リッチーに<委員長>、それにヴェロニカもだ。いったい、何をやった!?」
 「なんでもない、後で行くよ」
 答えたリッチーの顔は、さすがにこわばっている。

 「……仕方ない。こうなったらできることはひとつだ。教師を襲って魔道書を奪おう」
 台詞そのものよりは、それが<委員長>の口から出たことのほうが恐ろしかった。
 <委員長>の目は完全に据わっていた、ように、思う。


このシーンの裏側。
posted by たきのはら at 17:44| Comment(1) | TrackBack(0) | d20ホラー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『幽霊学園』その9−2:水曜日・1限後半

ネタバレ注意!!
以下は「FN1 Haunted School」という未訳シナリオを遊んだものであり、多分にネタバレを含みます。今後先述のシナリオを遊ぶ可能性のある方はお読みにならないことをお勧めいたします。


 その頃。

 スリーピー号に二人乗りしたクリスとジェニファーは森の奥へとひたすら馬を駆っていた。やがて開けた草地に出る。
 と、そこにはマッキンタイア女史とドレイク先生の霊体が浮かんでいる。何かを訴えるかのような表情をして。
 「先生、いったい……」
 クリスが言いかけたとき、不意に三人の霊体の顔が一様にこわばった。と思うと、ふっとその場から消えうせる。
 「いったい何が……」
 「わからないわ……いい、行きましょう!!」
 ジェニファーが叫ぶ。クリスはきっと口を結んで頷くと、スリーピー号を再び走らせ始めた。……が、今度はそれほど速度が出ない。
 「どこへ向かってるの?」
 「スリーピーの嫌がる方向へ」
 鋭く答えるクリス。
 「馬は人間より勘がいい。何かが行われているのなら避けようとするはずだから」

 果たして。
 馬上の二人の目に映ったのはなんとも怪しげな光景だった。
 中央に朧に光る三人の霊。それを取り囲む三人の教師――新校長、オリンピア・スミス、そしてペーター・ハモン。三人は腰に奇怪な形の壷を下げ、そして灰色のなにやら怪しげな本を持っているのをクリスの目は捉えていた。
 「急ぐよ!! ジェニファー、しっかりつかまってて!!」
 嫌がるスリーピーをクリスが無理やりせきたてる。が、一瞬遅く、二人の目の前で三体の霊は三人の教師の腰の壷にそれぞれ吸い込まれていってしまう。
 「……!!」
 「いいから!! そのまま走らせて!!」
 ささやくと、ジェニファーは馬の背の上で思い切り伸び上がった。ふん、普段鍛えてればこれぐらいなんてことないわ。
 「悪事もそこまでよ、マーカス・マッキンタイア!!」

 新校長がはっとした顔でこちらを見た。そのまま数歩後ずさる。
 「今よ、クリス、このままスリーピーで踏み潰しちゃえ!!」
 そんな無茶な、という悲鳴は誰に対して向けられたものか。三人の教師が何事か唱えると今までクリスの手綱さばきに従っていたスリーピーがいきなり棹立ちになった。たまらずクリスは放り出される。動かないところを見るとどこかぶつけて気を失ったか。
 「このままじゃ済まさないから!!」
 「普段の鍛錬の成果」で、うまいこと着地したジェニファーは叫びながら新校長に向かってまっすぐ走り出す。新校長は逃げもせずなにかぶつぶつ呟いており、その声が止んだと思った瞬間――ジェニファーの目の前が真っ赤に染まった。それでも勢いで数歩走り――そしてそのままジェニファーも気を失った。

 どれだけ気を失っていたのか。
 気がつくとジェニファーは後ろ手に縛られて薄闇の中に転がされていた。無理やり首をねじってあたりを見回すと、すぐ隣にクリスも転がされており、そしてどうやら二人が横たわっているのはなにやらまがまがしい模様を描いた祭壇の上のようだった。暗闇でないのは柱に取り付けられた火皿のうえでちろちろと火が燃えているからで、そして耳鳴りだと思ったのは――もういまさら驚く義理もないのだけれど――呪文の詠唱だった。
 つまり。
 このままではあたしも幽霊にされちゃうってことだわ。
 と知れた以上、なんとか脱出しなくてはならない。幸い手をねじったり引っ張ったりしているうちにどうやら縄が緩んできた。こっそりと縄目から手を引き抜くと、今度は足にかけられたロープを解きにかかる。教師たち――呪文を唱えているのはもちろんさっきの教師たちで、やはり先ほどと同じ灰色の本を手にしていた――は呪文を読み上げるのに夢中でジェニファーの縄抜けには気付いていない。

 ――よし。
 足の痺れが取れたのを確認すると、ジェニファーは祭壇から飛び降りた。手近の柱まで一気に走ると、そこにあった火皿を外し、一番近くにいたオリンピア・スミスに投げつける。命中。
 スミスの呪文が止まる。新校長が顔を上げて炎のような目でジェニファーを睨んだ。が、呪文を唱える声は止まらない。しまった、目標を間違えた。新校長を止めなきゃいけなかったんだとジェニファーは思ったが、もう遅い。新校長の唇が奇怪な音律をつむぎ終わり、一瞬止んだと思った瞬間、ジェニファーの目の前でクリスの姿が消えた。薄闇の中、出口らしきものはどこにも見えない。手の届くところに取り付けられた火皿はすべて投げつけたが、新校長の呪文はとめられなかった。
 もうこれまでと目の前にいた教師のどれかに殴りかかりかけたまま、ジェニファーは消えた。


このシーンの裏側。
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2006年04月11日

『幽霊学園』その9:水曜日・1限。

ネタバレ注意!!
以下は「FN1 Haunted School」という未訳シナリオを遊んだものであり、多分にネタバレを含みます。今後先述のシナリオを遊ぶ可能性のある方はお読みにならないことをお勧めいたします。



 翌日はさらにもうひとり先生が消えた。生物学のブランニー先生は体調を崩されてしばらく教壇には戻らないという話だった。そして新たに先生が増えた。物理学の先生だった。名前はもちろんギル・タウンゼント。

 ありがたいことに1限の授業は物理学ではなく、乗馬のクラスだった。今日は交互に馬に乗ってみましょうということになった。人数が多いので女子や身体の小さい男子は二人乗りをすることになった。コースは単純。厩舎の前から出発して、森の入り口まで行ってそこで引き返してくるだけ。三頭ずつの班になって行っては戻ってくる……わたしたち――<委員長>、リッチー、クリス、ジェニファーにわたし――はたまたま同じ班になって出発した。わたしはジェニファーの後ろに乗っていた。
 森の入り口まで来かかったとき、真昼間だというのに目の前をゆっくりと鬼火が流れた。とっさにジェニファーの後ろから手を回して彼女の口を塞いだ。
 「頼むから叫ばないで!!」
 ひとしきり背中を震わせたあと、ジェニファーはわたしの手を引き剥がした。
 「叫ぶわけないでしょ。馬鹿にしないでちょうだい!!」

 ともあれ、わたしたち5人と三頭の前には、半透明の霊体の姿になったブランニー先生が浮かんでいることだけは確かだった。わたしたちが逃げもせず先生を見ているのを確認すると、ブランニー先生の霊体はすうっと森の奥のほうへ引いて行く。
 「どうする、追う?」
 「追うべきなんだろうが……二手に分かれよう。全員で一箇所に固まって一度に敵の手に落ちるわけにはいかない」
 <委員長>が言うと、クリスが、じゃあ僕が行くよと言った。身軽なクリスはどうやらずいぶん器用に馬を操っているようだった。
 「わかった、それじゃわたしは戻って調べ物をするわ」
 待って置いて行かないでよとジェニファーが言ってクリスの後ろに移る。
 「調べ物は任せたわよ!!」
 そのまま二人を乗せた馬は森の中に駆け込んで行く。

 それを見送るとわたしたちは無茶な速駆けで厩舎に戻った。大変だ、スリーピー号が暴走してジェニファーとクリスを乗せたまま森に駆け込んでしまったと叫びながら。
 暴走の言葉に驚いたゴルディスティン先生は(ありがたいことに)出発したときにジェニファーはわたしと同乗していたはずだということなどころりと忘れて、わたしたちに解散を言い渡すとサンディー号にまたがってまっすぐ森へと飛ばしていった。

 さて、クリスとジェニファーが幽霊を追ってくれているのだからこちらも少しでも状況を進めておかなくては。
 1限が終わる前にわたしたちは「図書館のロッカーの中の本」についての調査を進めることにした。まぁ、ありていに言えば、わたしと<委員長>が騒ぎを起こして職員の目をひきつけ、その間にリッチーがロッカーのある場所まで忍び込んで錠前を破り(……何故か彼はそういうことができるらしい)、本を取り出して持ってくるということなのだけれど。
 
 図書館に行くと、当然のように「今は授業中でしょう、生徒がここに出入りしていていい時間じゃないわ」とアマンダに怒鳴りつけられた。アマンダに限らず、職員も教員も今朝からすこぶる機嫌が悪かった。電話は壊れたままだし、そのうえ校長が禁足令を出して誰も学校の敷地の外に出られなくなっており、さらに何やら戒厳令が敷かれたようで、逆らうものは即刻解雇すると言い渡されているらしい……というのは、カウンターの奥の図書館員のおしゃべりから聞き取ったこと。
 ……ありそうなことだ、と思った。
 「すぐに教室に戻りなさい、そうでないと校長先生に報告せざるを得ないわ。そうしたら問答無用で処罰されるわよ!!」
 「処罰するならしてください、昨日図書館に忘れ物をしたんです、あのノートがないと授業のほうでどうせ処罰の対象になっちゃいますから」
 ほとんど悲鳴みたいな声でわたしは叫んだ。ここで一歩だって引くわけにはいかない。とにかく騒ぎを大きくして職員の目をひきつけないと。
 「ミス・モンゴメリ、いい加減にしなさい!!」
 職員がこちらにやってくる……が、ああ、ダメだ、もう一人残ってる、どうしよう!!

 そのとき、外で派手にガラスが割れる音がした。ややあって顔色を変えた<委員長>が駆け込んでくる。
 「大変です、図書館の窓に石をぶつけている連中が!! たぶん上級生だと思うんですが!!」
 なんだと、というので職員は外に駆け出して行き、その場は空っぽに。あっという間にリッチーが奥へと駆け込んでゆく。

 しばらくすると、本を抱えたリッチーの姿が職員室の向こうに見えた。けれど……まずい、これでは戻ってきた職員とリッチーが鉢合わせしてしまう。うまく通用口に抜けられればいいけれど……
 そのとき、ドアが開いた。最大級に怒り狂った顔の職員が入ってくる。で、入ってくるや否や
 「ミス・モンゴメリ、まだここにいたのか!!」
 「待ってください、まだ忘れ物が……」
 肩を掴まれて外につまみ出されそうになりながら、わたしはわっと泣き出した。
 「あのノート、今日中に提出しないと今度こそ落第……!!」
 いったい何のノートなんだろう。まったく。

 で、抵抗の甲斐なく図書館外に放り出されたときには、リッチーは見事に外に抜け出しており、「これまで築き上げてきた人望と信頼が」と嘆き続ける<委員長>と一緒にわたしたちは2限目の教室に向かったのだった。
 
 当然、わたしのかばんの中に「学校に関する諸資料」を隠し持って。


このシーンの裏側。
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2006年04月10日

『幽霊学園』その8:火曜日・夜。

ネタバレ注意!!
以下は「FN1 Haunted School」という未訳シナリオを遊んだものであり、多分にネタバレを含みます。今後先述のシナリオを遊ぶ可能性のある方はお読みにならないことをお勧めいたします。



 その日の夜。
 わたしたちはこともあろうに集団で墓地に潜んでいた。
 男の子たちの手には厩から(こっそり)借り出したまぐさ用のフォーク、そしてわたしが握り締めているのは寮の廊下から取ってきた非常用懐中電灯。

 あの後、いろいろあったのだ。
 部屋に戻ると、メルディスからの伝言が枕の下に押し込んであった。「私の部屋に来て」。ジェニファーに声をかけて二人で行くと、メルディスは当然居るわけもなかったけれど、扉と床の間にメモが挟んであるのを見つけた。

 『この学校に関する資料が図書館からなくなってる。抜かれた本は図書館の建物の中のロッカーに保管されている。マシューに連絡したいけれど、電話交換機が壊れていて連絡できない』

 「ロッカーの中……か」
 「好奇心よりも恋心のほうが人を駆り立てたってことよ。負けたわね」
 それからジェニファーは真面目な顔をして言った。
 「あたし、ラヴレターを書くわ」

 で、そのラヴレターの結果をわたしたちは墓地で待ち受けているというわけだった。
 ジェニファーは、主だった部活のキャプテン全員のシューズボックスにこんな手紙を入れたのだ。
 『あたしは勇気のある男が好きなの。今晩、墓地を最初に掘り返した男に、あたしの……
 あとはご想像のとおりよ。待ってるわ。』
 新任の教師たちが本当に墓から蘇った死人なのか、部活のキャプテンであるところの脳味噌筋肉たちに墓を掘り返させて確かめようと言う作戦だった。

 が、墓地の奥で鬼火がぼうっと燃え始めると、作戦は途中でどうでもよくなった。ただしわたしに関しては、他の三人が鬼火を追う間、ジェニファーにしがみついて口を塞ぎ、「いい、叫ばないでよ、叫んだら何もかも終わりだからね」と言うのが先だったけれど。

 幽霊はポリー先生だった。
 話しかけてももどかしそうな表情をするばかり……幽霊は言葉が話せないということかしら。そのとき、リッチーがはっと気付いたような顔をして
 「あなたは、ポリー・マッキンタイア校長ですか?」
 と尋ねると、幽霊は静かに頷いた。どうやら、「はい」と「いいえ」でしか意思表示ができないということらしい。
 その後いろいろ尋ねて……結局こんなことがわかった。

 新校長はマーカス・マッキンタイアである。
 ポリー先生は死んではいない。メルディスもマシューもジェラルドも生きている。
 肉体に宿る魂が入れ替わっているためにこのようなことが起きているのであり、幽霊にされた人たちを助ける方法は確実に存在する。
 それには死霊術の儀式が必要であり、儀式に必要なものは図書館にあり、校舎にも存在する……

 「それは何ですか……って、答えられないのよね」
 わたしは自分のばかばかしい質問に自分でうんざりした。どう質問すればいいのかしら。それは本ですか? それはわたしたちの知っているものですか? それは厩にもありますか? それとも……

 突然、幽霊の表情が険しくなり、そしてあっという間にわたしたちの目の前から掻き消えた。幽霊のいた空間のずっと向こうで、明かりを持ち馬に乗った誰か――新校長だろうと誰もが思っていた――が駆けていくのが見えた。明かりの行く先を目で追う。明かりは校門のあたりでしばらく止まり、そしてまたもと来た方向へと戻っていく。

 「まずい、新校長が敵だとわかった以上、奴と夜中に外で鉢合わせたらどういうことになるか。戻ろう」
 そうリッチーが言って、全員で墓地を出ると……げんなりした顔をした<委員長>に出くわした。そういえば幽霊とわたしたちが話している間、おかしなことが起こらないように見張っていてくれたんだっけ。それにしても……

 げんなりしきった表情の理由はじき判った。
 <委員長>が筋金入りのゲイであるという噂で寮中はもちきりだった。なんでもジェニファーの名を騙って有力部活のキャプテンを墓地に呼び出し、「僕と夜を過ごす気がないのなら帰ってくれ」と言ったとか……

 「仕方なかったじゃないか!! 君たちは幽霊と話すのに夢中だし、奴らに邪魔させるわけにはいかなかったし!!」
 可哀相に。とはいえまさか本当のことをはなすわけにもいかないのだった。

 嘆く<委員長>を残して女子階に戻ると、メルディスの幽霊に会った。声をかけようとしたが、彼女にはわたしたちがみえていないようだった。それどころか自分がどこにいるかすらわかっていないようだった。くるくると何かを探すようにまわりながら、メルディスの霊体は壁の中に消えていった。


このシーンの裏側。
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『幽霊学園』その7:火曜日・放課後

ネタバレ注意!!
以下は「FN1 Haunted School」という未訳シナリオを遊んだものであり、多分にネタバレを含みます。今後先述のシナリオを遊ぶ可能性のある方はお読みにならないことをお勧めいたします。


 放課後。
 わたしは傷だらけの腕の包帯を取り替えると、クリスと一緒に植物園のリー先生のところに行った。園芸用の大鋏を借り出すと、今度は見咎められないうちに大急ぎで墓地に行く。
 「……怪しまれたらどうしよう、それに何か悪いことがあったら」
 「大丈夫よ、お墓の掃除をしてあげるんだもの、感謝されたって祟られる覚えはないわよ!!」
 半分は自分を励ますつもりで言いながら、墓地に到着。

 墓石がきちんと立っているのは四つ。あとは大昔のものだろう、倒れたり崩れたりしているから、とりあえずそれには手を触れないでおくことにした。
 まず、「最近動かされた」墓石の茨を切り落とす。

 ……どうしよう。
 「これ、まずいんじゃ……」
 クリスがかすれ声で言うのが遠くで聞こえた。

 『マーカス・マッキンタイア 1920−1960』

 「ほ、ほかのも見てみましょう!!」
 恐ろしいものを見ることになるのはわかっていたけれど。

 『オリンピア・スミス 1928−1960』
 『ギル・タウンゼント 1924−1960』
 『ペーター・ハモン 1924-1960』

 「30年前……ね」
 自分の声さえ、遠くから聞こえた。
 「十分だよ、もう、戻ろう」
 クリスの声に我に返り、わたしたちはそっとその場を後にしたのだった。

 いつの間にか集合場所になってしまったカフェテリアに戻ると、<委員長>、リッチー、それにジェニファーがひどくあわてた顔をしてそこにいた。
 「どうしたの? こちらは墓石の主の名前を見てきたわ。マーカス・マッキンタイアの墓には最近動かされた跡があった。あとは知っている名前よ。オリンピア・スミス、ペーター・ハモン、そしてそのうち来るだろうギル・タウンゼント」
 <委員長>が、なんとも形容のしがたいため息をついた。
 「そうか。こちらは『いなくなった』。メルディスだ。それと舎監のジェラルドもいなくなった。寮に掲示が出てたよ。フォーニー氏は学校を離れました、とね。この学校にふさわしくない人物であると知れたのでくびにしたそうだ」
 「新舎監の名はギル・タウンゼント……そう書き足しておきましょうか?」
 「いい加減にしろ。それと、メルディスだ。マシューの急な転校が納得行かない、せめて連絡を取りたいと校長に掛け合いに行ったらしい。そのあと、取り乱した様子で職員室の出口から飛び出していったのを誰かが見ていて……それっきり、だと」
 「違う。取り乱したメルディスを職員が取り押さえて、新任のスクール・カウンセラーのところに連れて行ったんだ。カウンセラーは彼女が一時的に大変不安定になっていると判断、精神病院に送り込んだ」
 <委員長>の後を引き継ぐようにリッチーが言う。
 「どうして知ってるの?」
 クリスがおそるおそる尋ねる。
 「ペーター・ハモンと話した。……まともそうな男に見えたけれどね」
 「まともなわけないわ。死んでるのよ、あいつ」
 「死人だとかなんだとか、昼間っから世迷言もいいかげんにしてくれ。事態はオカルト趣味じゃ済まない。メルディスがあんまりかわいそうだったんで、僕は自宅に電話して、マシューのご両親の連絡先を聞いてあげようと思った。僕の家とヒギンズ家は付き合いがなくもないからね」
 (と、そこで<委員長>の顔を誇らしげな色が一瞬掠めた。そういえば二人ともご立派なお金持ちのご子息だったわ)
 「……けれど」
 <委員長>は顔を引きゆがめた。
 「つながらない。電話交換機が壊れたんだそうだ」

 背中が急に寒くなった。誰もが凍りついたような顔で黙っていた。
 ややあって、吐き捨てるようにジェニファーが言った。
 「あたしたち、閉じ込められたってわけね」
 「週末まで、な。週末になれば親が迎えに来る連中もいるから、たとえ学校側が外出禁止令を出したとしてもそこでは家に帰さざるを得ないだろう。学校を出てしまえば電話も通じるようになるし、ヒギンズ家にだって連絡が取れる。
 つまり、ひどくよくないことが起こっていて、放っておけば金曜日までに最悪の事態が完成するってわけだ」
 リッチーが静かに言った。
 「どうする?」

 「何かが起こっているのは……認めざるを得ないな。が、幽霊は信じないぞ」
 この期に及んでも<委員長>はそんなことを言っていた。とにかく、信じるにしろ信じないにしろ、僕は昨日見えない腕に引っ張っていかれた職員室の奥に行ってみようと思うとリッチーが言った。そこでまずは図書館に行き、職員の目をごまかしながら奥へ進むことにした。

 幸い、わたしがよく図書館の奥の書庫に出入りしているのはみんな知っている。そのせいでどう思われているかは知ったことじゃないけれど。
 ぞろぞろと入ってきたわたしたちをアマンダは睨みつけ、「もうすぐ閉館時間よ」と言った。
 「かまいません、大急ぎで見ておきたいものがあるので」
 そのまま、リッチーと一緒に奥へ抜ける。足音を忍ばせて行ったのだけれど、職員室を通過するところでわたしだけ見つかってしまった。
 「ここから先は立ち入り禁止だ、知らないわけじゃないだろう」
 もめているうちに、どうやらリッチーは4階へ向かったらしい。これで大丈夫、当分もめておこう……

 と思っているうちに、職員室の反対側にリッチーの顔が見えた。ひどく顔色が悪い。なにやら顔をしかめていて、怪我でもしたのかしら。しまった、このままじゃリッチーが見つかるわ、もう一騒ぎ起こさないと!! 早々にその場を退出し、図書館の外で待っていたジェニファーと<委員長>に知らせる(クリスは厄介ごとに巻き込まれると気絶してしまうらしいので、この種の仕事は向かないと思った)。<委員長>が顔をしかめる一方、ジェニファーはまかせといてと言うとものすごい勢いで図書館に乗り込んでいった。

 「アマンダ、この図書館ではルール違反が行われているみたいなんですけど」
 開口一番。
 「閉館後も上級生がこちらで勉強するのを許されているって、あたし、聞きました。それとも許されてるんじゃなくて勝手に入ってるのかしら? ずるいと思います。それが許されるなら、私だってチアの稽古が終わった後、図書館で勉強する時間が取れるはずよ?」
 女王様でもアマンダの鉄壁の守りは崩せなかったようだけれど、ともあれジェニファーがつまみ出されてきたときには、真っ青な顔をしたリッチーも外に出てきていた。

 「やられた。校長室に入ったら、知らない男がいて……いきなり殴り飛ばされた。あいつ、殺す気だったと思う」
 なんでも校長室の鍵をこじ開けた(!!)ところで、部屋の中にいた「見知らぬ男」と鉢合わせしてしまったらしい。
 そのままリッチーは保健室によろめいていった。フットボール部の脳味噌筋肉に喧嘩を売られたことにするという話だった。

 リッチーが(ペーター・ハモンの部屋でなく)ジェファーソン先生の部屋に入っていくのを見届けた後、わたしたちは寮に戻った。
 寮は……大騒ぎになっていた。ジェラルドはくびになったんじゃない殺されたんだと誰かが叫ぶのが聞こえた。
 そう、ロビーの端にジェラルドが居たのだ。半透明の霊体の姿で。幽霊の顔は完全に正気を失っており、目ばかりが赤くぎらぎらと光っていた。立ちすくむ私たちの前で、ジェラルドの幽霊はすさまじい狂気の叫びを上げ、まっすぐこっちへ突っ込んできた。ぶつかる、と思った瞬間、ジェラルドの姿はわたし達をすり抜け、壁の中に消えてしまった。

 ジェニファーの悲鳴だけがいつまでも残っていた。


このシーンの裏側。
posted by たきのはら at 16:04| Comment(1) | TrackBack(0) | d20ホラー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『幽霊学園』その6−2:火曜日・昼休み。厩舎〜カフェテリア

ネタバレ注意!!
以下は「FN1 Haunted School」という未訳シナリオを遊んだものであり、多分にネタバレを含みます。今後先述のシナリオを遊ぶ可能性のある方はお読みにならないことをお勧めいたします。


 昼休みが始まり、みんなが食事へと向かう中、ジェニファーは珍しく誰の誘いも断って厩舎前に残っていた。

 「……ゴルディスティン先生?」
 「あら、ジェニファー。どうかしたの?」
 馬を厩舎に戻し終わって出てきたゴルディスティン先生は、にっこり笑って足を止めた。
 「あなた、馬術に興味があったの? よい事だわ」
 「ええ、ありがとうございます。……あの、実は気になったことがあって」
 いいながらジェニファーは「もっともらしい言い訳」を考えている。さっきリッチーから聞いたこと……リッチーが渡された鞍には「M.M」のイニシャルが焼き付けられており、それは30年前にこの学校で命を落としたという、前校長の兄、マーカス・マッキンタイア氏を指しているのではないかということを確かめてみなくては。それにしてもM.Mなんて山ほどいるでしょうに、どうしてその人じゃないかと思ったのか、どう説明しろっていうのかしら。しかもわざわざ授業が終わってから!! まったく気の利かない男だこと。

 「どうしたのかしら?」
 「いえ、先ほどクリーニングの稽古用に配られた鞍ですけど、個人の持ち物があったんじゃないかと……」
 まったく、堅物<委員長>や何でも気にするクリスじゃあるまいし、どうしてあたしがこんなこと気にしなけりゃいけないのよ!?
 「個人の?」
 「ええ、イニシャルが焼き付けられていて……M.Mって」
 「ああ、それはマーカスさんのだわ。確かに個人のものだけれど、持ち主はもう30年も前に亡くなっているから……そんな古い鞍も混ざってたのね」
 「マーカスさん?」
 「そう、マーカス・マッキンタイアさん。前校長のポリー先生のお兄さんだったの。乗馬がお好きでね。」
 「ご存知なの?」
 「あまりよくは知らないのだけど。私がこの学校のジュニアに入ったばかりの頃よ。……乗馬がお好きでお上手だったのに、落馬事故で亡くなられたの。私も当時から乗馬が好きでそのあたりのことは気にしていたから、ショックでね。それで覚えてるのよ。
 ……ああ、そういえば」
 そこでゴルディスティン先生は少し首をかしげ、笑った。
 「新しい校長先生は、マッキンタイアさんにちょっと似ているような気がするわ」
 ジェニファーは自分の表情がこわばっているのを感じた。
 「……その……マッキンタイアさんも真珠色の白馬に乗ってたんですか? あんなふうな……」
 「危ないジェニファー!!」
 ぐい、と肩をつかまれたジェニファーの目の前を、蹴上げた馬の前足が掠めた。
 「言ったでしょう、ナイトメアは校長先生以外の誰にもなつかないから危ないって……それで、マッキンタイアさんの馬? いいえ、そこまでは覚えてないわ。まさか幽霊話を信じているわけじゃないでしょうね?」
 「……え、いいえ、もちろん」
 「……まぁいいわ、気にもなるわよね。マッキンタイアさんが亡くなってからほかの教師が3人立て続けに事故で亡くなるなんて、確かに幽霊話にはもってこいだもの」
 そういってゴルディスティン先生は苦笑した。
 「先生は当時をご存知なんですよね? 亡くなった先生方って、いったい……」
 「ジェニファー、ジュニアに入ったばっかりの子供じゃないんだから止めなさいな。……さすがにその後死んだ先生たちのことについては覚えていないわ。シニア担当の先生方だったようだし、私はそれこそ入学したばかりの子供だったから」
 そうですか、お騒がせしましたと素直にジェニファーは謝った。
 立ち去り際にナイトメア号のほうをちらりと見ると、真珠色の白馬は苛立たしげに床を踏み鳴らし、一声いなないた。その声はどうにも敵意に満ちているように感じられた。
 「あの馬、とんでもないわね。ゴルディスティン先生もどうぞ気をつけて!!」
 相当にうんざりしながら、ジェニファーは遅くなった昼食を摂りにカフェテリアへ向かった。

 カフェテリアでは<委員長>が頭をかかえていた。その周りにはリッチーにクリス、そして腕に巻いた包帯に血をにじませたヴェロニカ。
 「リッチー、聞いてきたわよ。あんたが見つけた鞍はたしかにマーカス・マッキンタイアのものらしいわ。あと、ゴルディスティン先生によると新校長はマーカス・マッキンタイアに似てるらしいけど。それにしてもあのナイトメアってとんでもない馬ね。きっと雄だわ。あたし近寄ったら襲われたもの」
 ジェニファーが一気に言うと、一同、いっせいに顔を上げた。
 「……そうか。こっちはこっちで大ごとだよ」
 返事ともつかない返事を<委員長>が返した。
 「ろくでもないいたずらをしたやつがいるらしい。メルディスがマシューと連絡を取りたいとあまりに泣くから、それじゃご実家に電話をすればいいじゃないかと言ってやれば……」
 「まさか電話のかけ方がわからないとかいうんじゃないでしょうね?」
 「くだらないことを言わないでくれジェニファー。マシューの電話番号がないんだ。マシューだけじゃない、生徒の名簿がきれいさっぱりなくなっている。よって、電話のかけようがない」
 「……陰謀ね」
 ジェニファーはきっぱりと言った。
 「新校長はきっと悪いやつなのよ。そして何らかの目的でこの学校をのっとろうとしてるの。新しく来た教師もきっと奴の仲間よ。まぁ大体教師なんてみんな敵なんだけど!!」
 「ちょっと待てジェニファー、その根拠はいったい……」
 「あたしの勘よ」
 やれやれ、と<委員長>は深いため息をついた。
 「だから言ったでしょう、おかしいことが多すぎるわ。突然やってくる新校長、次々と入れ替わる先生。オリンピア・スミス先生と新校長は何か雰囲気が似てたわ。きっと同類よ。そして、さっき校長に会ったら、彼、何だか顔色がよくなっていたのよ」
 「……そして、生物学のブランニー先生が急に体を壊したとかでおやすみすることになったんだよね」
 ヴェロニカに続いてクリスも言う。
 「……吸血鬼かな」
 リッチーの台詞に<委員長>がとうとう悲鳴じみたうなり声をあげた。
 「いい加減にしてくれ、今は中世時代じゃないんだぞ」
 「そうよ、だから奴らはなにか悪いたくらみでこの学校を乗っ取ろうと……」
 勢い込んでしゃべりだしたジェニファーの言葉が止めを刺した。
 「もうやめてくれ。僕は君たちの電波な会話のほうがよっぽど怖いよ!」


このシーンの裏側。
posted by たきのはら at 14:36| Comment(0) | TrackBack(0) | d20ホラー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『幽霊学園』その6:火曜日・2限目〜昼休み。厩舎〜教会・墓地

ネタバレ注意!!
以下は「FN1 Haunted School」という未訳シナリオを遊んだものであり、多分にネタバレを含みます。今後先述のシナリオを遊ぶ可能性のある方はお読みにならないことをお勧めいたします。



 明けて翌日。
 リッチーとクリスは「昨夜、勝手に外出した罰」で、早朝から洗面所の掃除をさせられていたらしくて、すこぶる不機嫌な(少なくともリッチーは)顔で授業にやってきた。
 1限目は化学の講義で、とりあえずわたしはぼんやりとノートを取るだけ。リッチーはえらく真面目に聞いていた。この人、あんまりよろしくないクスリを合成して学生仲間に売りさばいてるってうわさもあるんだけど、まさか本当にそうなんじゃないでしょうね。

 2限目は乗馬のクラスで、先生はこの学校の卒業生でもあるオードラ・ゴルディスティン先生。四十代半ばのはずだけれど、きりっとしていて若々しくて、生徒にはずいぶん人気がある。
 乗馬のクラスが始まるのは今学期からなので、最初の授業はまずは馬具の手入れの方法から。二人にひとつ、泥や埃のついた鞍が渡され、クリーニングの方法を習う。一通り自分でもやってみて、それから手が空いたのでなんとなく厩舎の裏手のウサギ小屋にウサギをからかいに行った。
 誰がいたずらしたのかわからないけれど、毛並みが真っ赤に塗られたウサギが混じっていた。見ていると、その赤いウサギはこちらをちらりと見て、にっと笑った。そう、笑ったのだ。きゅうと横に押し開いた口から、ウサギ特有の前歯の代わりに二本の牙が見えた……気がした。

 絶対に何か間違ったことが起こってる。
 とにかく気色悪すぎたので、大急ぎでみんなのところに戻った。

 ちょうど、厩舎から12頭の馬が引き出されてきて、それぞれの名前と性格について紹介されているところだった。
 チャーム号は牝馬だけれど気が荒い。自信のないものは触らないように。
 斑点のあるのはスリーピー号。これは初心者にも乗りこなしやすいわね。
 ベア号はすらりとした痩せ型の馬で、これは早がけの稽古によいと思う。
 様子のいいのはサンディー号で、この子はホースショーで何度も優勝している……

 厩舎の一番奥のほうに、もう一頭、真珠色に輝く毛並みのおそろしくきれいなスタリオンが残されていた。あれは? とたずねると、新しい校長先生の馬で、名前はナイトメア号だという。とにかく気が荒く、ゴルディスティン先生ご自身もやっとのことで餌をやっているぐらいなので、生徒は決して近寄らないようにとのこと。

 そうしているうちに授業は終わり、昼休みになった。

 わたしはクリスに声をかけ(リッチーはジェニファーとなにやら話し込んでいたし、<委員長>にはあからさまに避けられていたし、ジェニファーにはそもそも幽霊のゆの字でも聞かせたとたんに叫びだしそうな気がして怖かったのだ)、校舎を挟んで厩舎とは反対方向に続く森の中に立つ教会と、そして教会の裏手の墓地へ向かった。
 ……何故って?
 ここしばらくの幽霊騒ぎを解き明かす何かは、きっと死者と一番関係の深いところにあるだろうと思ったからだ。乗馬は興味深いことではあるけれど、死者と幽霊のほうがわたしにとってはよほど気になることだったから。

 教会は、アテナ校の建物が個人の邸宅だった時代に、ごく私的な教会として使われていたものらしい。今は完全に使われなくなっており、教会のほうへと続く森の道は雑草や両側から伸びてきた潅木の枝でどうにも歩きにくくなっていた。うんざりしながら歩いていくと、どこをどう間違ったのか、先に裏手の墓地のほうに出てしまった。墓地にはいくつかの墓石が並び――これは確か「本来の邸宅」のものだったか、それとも「マッキンタイア家」のものだったか――そして、うちひとつは最近動かされたかのように傾いていた。
 そう、最近。
 そっと近づいてみると、墓石の周りに土の崩れた後があり、新しい黒土が覗いていたのだから間違いない。といっても墓石本体のほうはどれもこれも生い茂った茨に覆い尽くされて、墓碑銘を読もうにも読めなかったのだけれど。

 しょうがないわね。
 上着の裾で手をくるんで、わたしは茨の端をつかみ、墓石から引き剥がそうとした。が、瞬間襲ってきた焼け付くような痛みに、あやうく揚げそうになった悲鳴を必死に飲み込む羽目になった。
 「……まったく、どういうことよ!!」
 もう一度忌々しい茨を引き剥がそうとかがみこんで、クリスに止められた。
 「ダメだよヴェロニカ、大怪我してるよ。こんなの続けてたら死んじゃうよ!!」
 言われてみると、茨に絡まれた右腕は血だらけになっており……あわてて左のてのひらで血を拭うと一瞬なんだか肌の下の白っぽいものや赤黒いものが見え、今度こそ叫びだしそうになったけれどなんとかこらえた。
 「……たいしたことないわ。あとで保健室に行くわよ。さ、教会も確かめてきましょ」
 たぶんえらい震え声だったと思うけれど。

 こんなところに自分の血のしずくを落としていくのはきわめて気が進まなかったので、上着を脱いで腕をくるむと大急ぎで教会に向かった。
 教会は完全な廃屋になっており、床も壁も柱も今にも腐って崩れ落ちそうだった。足音を忍ばせて中に踏み込んだけれど、屋根もだいぶ落ちていたし、床にあいた穴から伸びてきた茨が信者席に絡んでいるのも見えた。
 クリスが小さく悲鳴を上げた。指差すほうを見ると、梁の上に赤いウサギが座っているのが一瞬見えて、そして消えた。

 どちらからともなく「戻ろう」というと、爪先立ちで教会を抜け出した。傷だらけの腕をかばいながら森の道を戻り、保健室に行くとちょうど校長先生が出てくるところだった。

 また人事異動があった、という。
 学校の新体制に向けて、新しいスクール・カウンセラーを雇い入れたらしい。カウンセラーの名前はペーター・ハモン。なんだ、怪我でもしたのかね? 今、校医のジェファーソン先生は食事中らしいが、ハモン先生も手当てぐらいなら……

 いえ、たいした怪我ではありませんからと言って大急ぎでその場を逃げ出した。
 傷は洗って包帯でもしておけばいいわ。寮に薬箱だってあったはずだし。

 歩きながら、そういえば校長先生の顔色がずいぶんとよくなっていたことを思い出した。


このシーンの裏側。
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『幽霊学園』その5:月曜日・夜。

ネタバレ注意!!
以下は「FN1 Haunted School」という未訳シナリオを遊んだものであり、多分にネタバレを含みます。今後先述のシナリオを遊ぶ可能性のある方はお読みにならないことをお勧めいたします。



 その夜、わたしはまた幽霊とかかわる羽目になった。
 今回は、幽霊が現れたのはリッチーの部屋の窓だったらしい。わたしが寮のロビーで本を読んでいると――アンジェリカにジェニファーからの伝言を伝えたとたん、アンジェリカはものすごい勢いで泣いたり叫んだりし始めて、とても読書どころではなくなってしまったのだ――なにやら表情を硬くしたリッチーとクリスが部屋から降りてきたのだった。それもどうにもただ事ではない。リッチーときたら誰かに腕を引っ張られでもしているような姿勢で歩いていくし、クリスは顔色が真っ青だ。
 どうしたのと聞いてみると、クリスが答えて言うには、どうも窓に「白い女の霊」が映りこんだらしい。女は乗馬服に身を包んでおり、髪を振り乱したいかにも恐ろしげな様相で、しかしとても悲しい目をしていたという。二人が女の姿に気づくと、女は何も言わずに手を上げ、ある方向を指し示すようにしたらしい。そして、それと同時にリッチーの腕をなにやら見えない手がつかみ、女が指し示している方向へとリッチーを引っ張り始めたというのだ。
 「だから、リッチーは……」
 そうクリスが言いかけたとき、わたしは一瞬身体をこわばらせた。
 「そこにいるのは誰だ、学生は外出禁止の時間のはずだ。さっさと部屋にもどれ」
 ジェラルド・フォーニー。フレイア寮の舎監だ。うっとおしくて暑苦しくて子供嫌いでどうしようもない男。もとアメフト選手だったとかいう話だけど、重要なのはこの舎監殿がわたしたちを管理することだけに喜びを見出してるに違いないってこと。
 「クリス、リッチー、ここは任せて!!」
 低くささやくとわたしはロビーへ出てきたジェラルドの前に立ちふさがった。
 「ジェラルド、おなかが痛いんです。寒気もしてて吐き気が酷くて」
 言いながら口を覆って屈みこむ。顔をよく見られたら仮病なのがバレかねないと思ったのだけれど、ジェラルドはあっさりひっかかった。
 「なんだ、風邪でもひいたか悪いものでも食ったんじゃないか?」
 「知りませんそんなの。でも気分が悪くて……」
 言ってるうちになんとなく涙が出てきた。いい感じ。この分で行けば……

 そのとき、外で悲鳴が聞こえた。クリスの声だ。ジェラルドが飛び出していく。それを追いすがって止めようとしたけれど(うわぁ、われながら元気な病人だこと!!)、当然みたいに振り切られる。どうしようかと思ったけど、ずいぶん無茶な病人を演じてしまった以上、このまま部屋に戻るのもなにやら不自然。仕方なく椅子にへたり込んだ振りをしていると、ジェラルドが戻ってきた。
 あきれたことに、気を失ったクリスを抱えて。

 それからしばらくして、リッチーが寮に忍び込もうとしているのが見えたので、ひとしきり咳の発作を起こした振りをしてジェラルドの目を引いているうちに、どうやらうまく忍び込めたらしいリッチーが洗面所のほうから何食わぬ顔をしてロビーにやってきた。何していたんだ、クリスを殴ったそうじゃないかと問い詰めるジェラルドに、リッチーはけろりとした顔で「何の話ですか、僕はお腹を壊してずっと手洗いにいたんですが」と言う。
「嘘をつけ、だいたいインコってのは何だ」
 と、ジェラルド。リッチーはというと眉ひとつ動かさずになんですかそれは、何かの聞き間違いでしょう、用がないなら僕はもう部屋に戻りますがと言い返す。
 ジェラルドは忌々しそうにロビーの生徒三人を睨んでいたが、ついに気を失ったクリスをリッチーに押し付けると、
 「信用したわけじゃないからな。明日は罰として二人とも便所掃除だ」
 と言い渡した。それから心底うんざりした顔でわたしに薬をふた粒寄越して、さっさと部屋にもどれ、辛いようだったら薬を飲んでおけと言ったきり、ロビーを出て行ってしまったのだった。

 あとから聞いた話では、どうやらリッチーは見えない腕に引っ張られるまま図書館の建物に行き、裏口から内部に侵入したのだが(「見えない腕」氏はそのあたりの事情をよくわかっており、裏口から入ればどうやら誰の目を引くことも泣く図書館に出入りが可能だったらしい)、行き先が職員室に近づくにつれてどうにも剣呑になってきたので「腕」の導きをご遠慮して引き返してきたのだという。それじゃ気絶したクリスはどうしてああなったのかと聞くと「そんなの知るもんか」というのが答え。
 さらにクリスに聞いたことによると、どうやらクリスが悲鳴を上げたかなんだかしたのでとっさにリッチーはクリスを殴り倒してひとりだけ逃走を図ったということらしい。それはずいぶん酷いのだけれど、クリスはクリスで、屋外でジェラルドに捕まったときに、「リッチーに殴られました」とはっきりと言ったうえ、リッチーの「兄さん」のこと(「兄さん」の構内への持ち込みは当然違反だし、ジェラルドにはもちろん内緒になっているというのに!!)を口走り、それを問い詰められて都合が悪くなるといきなり気絶した(僕、身体が弱いので、あんまり緊張すると気を失ってしまうんだ)らしい。

 どっちにしろ酷い話だと思った。
 とっさに病人の振りまでしてあんたたちをかばったわたし、馬鹿みたいじゃない。
 まぁ、とりあえず、例の「窓の女」がマッキンタイア女史であるというのをリッチーやクリスも一緒に再確認できたのだけが収穫といえば収穫かしら。



このシーンの裏側。
posted by たきのはら at 08:58| Comment(1) | TrackBack(0) | d20ホラー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『幽霊学園』その4−2:月曜日・放課後。厩舎と植物園

ネタバレ注意!!
以下は「FN1 Haunted School」という未訳シナリオを遊んだものであり、多分にネタバレを含みます。今後先述のシナリオを遊ぶ可能性のある方はお読みにならないことをお勧めいたします。



 月曜日、放課後。
 ジェニファーは苛々しながら歩いていた。
 たまに部活(彼女はチアリーディング部の花形であり、よって部活にはたいそう真面目に出ていた)が休みだと思えばあいにくとデートする相手を切らしているなんてね。そのうえメルディス・オパールが四限目が終わるあたりからしくしく啜り泣きをはじめて、うっとおしいったらありゃしない。聞いたらマシューが急にいなくなってさよならも言えなかったということらしい。……さすがにお得意の「別にいいじゃない、あいつ、ゲイよ」を言う気にはなれなかった。
 ……可哀想に。

 だから余計苛々しながら歩いていると、いつの間にか校舎からずいぶん離れた厩舎のほうに来ていた。この学校には厩舎があって、12頭の馬が飼われている。馬術部が使うということもあるけれど、授業のカリキュラムにも乗馬が入っているのだ。
 ふと見ると、馬術担当のオードラ・ゴルディスティン先生が厩から見事な白馬を引き出しているところ。真珠色に輝くつややかな毛並み。……でも、あんな馬、今まで居たかしら?
 ジェニファーが見るともなく見ていると、乗馬服に身を包んだ新校長が現れた。どうやらゴルディスティン先生は校長先生のために馬の支度をしていたらしい。校長先生はジェニファーの目の前でひらりと馬にまたがると、颯爽と駆け去っていってしまった。それを見送ったゴルディスティン先生も厩舎へと入っていってしまう。
 誰もいなくなった厩前の空間をしばらく眺めたあと、ジェニファーはひとつ息をついて厩舎の裏手に回った。
 そこには何故かウサギ小屋があって、数羽のウサギが丸くなっている。うち一羽は誰かがいたずらでもしたのだろうか、毛並みが真っ赤に染まっていた。名札を見ると「ヘイヤ」となっている。様子を見ようと近づいていくと、ヘイヤは身じろぎし、ぎらりとジェニファーをにらみつけた。
 「何よ、水かけるわよ!!」
 反射的に怒鳴りつけると、ジェニファーはくるりときびすを返して、敷地内を流れる小川のほうへと歩き始め、さらに苛々する光景を目にする羽目になった。
 本当ならジェニファーとデートしていなければならないはずのアレックスが、何とヴェロニカと同室のアンジェリカとなにやら話し込んでいる最中。そっと近寄って様子を伺うと、どうやらアレックスがアンジェリカを映画に誘っているらしい。
 「アレックス、相変わらず映画のセンスはないのね」
 突然姿を現したジェニファーに驚いたアレックスはそのまま足を滑らせて川の中へ。アンジェリカの悲鳴を背後に聞きながら、ジェニファーは最大級の苛々を体中にまとわりつかせつつその場を後にした。寮の近くに戻ってくると、ヴェロニカと行き逢った。なにやら話しかけてくるのを一切無視してジェニファーは言った。恐ろしく低い声だった。
 「ヴェロニカ、アンジェリカが帰ってきたら伝えといて。アレックスと映画に行くのはろくなこっちゃないわよって。特に恋愛映画なんかだと最悪。あいつ、映画の最中に寝るのよ!! おお、恐ろしいったら……!!」
 「ふうん、わかった。伝えとくわ。『アレックスと映画に行くときは気をつけろ』ね。」
 ……何か恐ろしく違った内容に聞こえる。まぁ、ヴェロニカが何を言おうが、もうジェニファーには知ったことじゃない。

 その頃、クリスは植物園で生物学のリー先生と話し込んでいた。
 昼休みにリー先生に会い、自分が中国の『風水』に凝っていること、風水の理論にしたがって窓辺に緑の鉢植えを置いていること、それ――テーブルヤシだったが――が、昨夜急に枯れてしまったので代わりに何か手ごろな鉢を分けてもらえないかということを頼んでおいたのだった。

 「ああ、このテーブルヤシは寒さで枯れてるアルね」
 そう、リー先生は言った(先生は中国生まれで、だからもちろん風水にも詳しいのだけれど、英語にちょっと訛りが残っている)。
 「ヤシは南の植物だから、ここの寒さにはきっと耐えられなかったアルよ。窓辺で寒さにさらしたのがよくなかったアルね。来なさい、君にぴったりの鉢を分けてあげるアルよ」
 そうしてリー先生がクリスにくれたのは、オジギソウの鉢だった。クリスが細い指の先でおそるおそる葉をつつくと、オジギソウの葉はいっせいに閉じて下を向いた。……そう、まるでおどおどと下を向くクリスのように。
 面白がってつつきすぎると、植物が疲れて枯れてしまうアルよ、となにやら不吉めいたことを言いながら、リー先生はクリスを植物園から送り出してくれた。

 そして、鉢を持って帰ってきたクリスを見るや否や、リッチーはきっぱりとこういったのだった。
 「ああ、その鉢は見えるところに置いとこう。これがまた枯れたら危ないことが起きるってわけだ」
 そうそう枯れられちゃたまらないよ、というクリスの小さな声は完全に無視されたが、それでも鉢は結局クリスの枕元の窓辺に置かれることになったのだった。風水的な意味とは無関係に、ともかくそこは二人の目がすぐに届く場所だったのだ。



このシーンの裏側。
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『幽霊学園』その4:月曜日・昼休み。図書館

ネタバレ注意!!
以下は「FN1 Haunted School」という未訳シナリオを遊んだものであり、多分にネタバレを含みます。今後先述のシナリオを遊ぶ可能性のある方はお読みにならないことをお勧めいたします。



 二時間目はラテン語の授業だった。でも珍しくわたしは授業は上の空。昼休みに図書館に行って学校史を調べれば、あの「窓の女」が誰だかわかるんじゃないかという考えに夢中になっていたから。

 それで、授業が終わるとすぐにわたしは図書館に駆け込んだ。
 ううん、実は「すぐ」じゃない。図書館に行く前に、ジェニファーにあの「窓の女」が誰かに似てたのに気づいたかどうか確かめようとしたんだけれど、やっぱり無駄だった。女王様ったら、「ええ、あたしは確かに昨夜酷い夢を見たわ、でもなんであんたがあたしの夢の中に入ってくるのよ!!」とかなんとか、聞きようによっちゃ哲学的に聞こえなくもないことをわめき始めたので諦めるしかなかった。

 図書館は職員オフィスと兼用の4階建てになっていて、1階がロビーと受付け、それに読書室。2階が書庫で、3階が職員室。4階には校長先生のオフィスがある。ロビーに座っているのはアマンダ・ウィリスっていう、踏んづけられたガーゴイルみたいな顔をした司書さんで、この人、絶対に図書館員としては最不適だとわたしは思っている。何しろ愛想が悪い。学生が学校の図書館を利用するのは本来望ましいことのはずなのに、この司書女史ときたらこの世で一番嫌いなのは図書館にやってくる学生なのだ。愛想は悪いし、探している本について尋ねたら「みつからないのならないんでしょう」と当然みたいに答えるし、最近は私が図書館に入ろうとすると睨み付ける。夏休み前に、ギリシャ語の辞書を3回頼んでも置いてくれないのはあなたの怠慢だといってやったのがそんなに気に触ったのかしら。

 とにかくアマンダに一応会釈をして入館手続きをし、書庫への階段を上っていると、上から校長先生が大急ぎな様子で駆け下りてきた。私をちらりと見ると微笑して(おお、この人こんな表情もできるんだわ、と、正直ほっとした)
 「勉強かね?」
 といった。
 「はい、そうです。こちらの図書館はとても気に入っています。もっと新規購入図書の希望を容れていただけると嬉しいんですけれど……」
 「なに、学生が勉強熱心なのはいいことだ。がんばりたまえ」
 早口に言うと校長先生、ものすごい勢いで階段を駆け下り、外に駆け出していった。
 ……励まして下さったのは嬉しいけれど、先生、わたしが言ったことちゃんと聞いていらしたのかしら。わたしにはとりあえずギリシャ語とラテン語とヘブライ語の辞書が図書館に入ってくれることのほうが重要なんですけれど。

 ともあれ、校長先生を見送った私は書庫に急いだ。
 学校史か……それともこの学校関係の記録が載っている地域史でもいいわ。何かないかしら。

 ない。
 わたしは思わず息を呑んだ。
 学校史も、地域史も。この学校のことについて調べられそうな本は一冊残らず書架から抜き出されていた。
 慌ててアマンダに言うと、アマンダは苦虫を噛み潰したような顔でぶっきらぼうに言った。
 「そのあたりの本は閉架に移しました。夏休み中に盗難があって重要な資料が盗まれたんです。そのため、その種の資料はすべて学生への公開を取りやめました。閲覧には校長先生の許可と立会いが必要になります」
 ……なんてこと。
 これは絶対に何かただならぬことが起こってるわ。で、それがこの学校に深くかかわっていること、特に学校の歴史にかかわっていることは間違いない。だって、この学校の歴史を調べさせたくない奴がいるのよ。歴史の中に闇がある以上、何か超自然のものである可能性も高いわね。あの「窓の女」だって学校関係の誰かの顔に違いないし……

 そこまで思ったとき、私は思わずロビーの真ん中で小さな悲鳴を上げてアマンダににらまれた。

 思い出した。
 あれ、あの窓の女。あれはポリー・マッキンタイア女史、前の校長先生だわ。間違いない。

 それに思い至った瞬間、わたしは図書館を飛び出してクラスメートがいるはずのカフェテリアに駆け出していた。
 幽霊。
 先生の幽霊。
 学校史の中の闇。
 意図的に隠された資料。

 たぶん、すべてがある一点を指している。何とはわからないけど、重要でおぞましい一点を。

 そして――わたしはもうひとつ、薄気味悪いことを思い出していた。
 この学校で幽霊が出るのは初めてじゃない。というか、そもそも私が入学したときから、「先生の幽霊が出る」といううわさはあったのだ。それも不自然な死に方をした先生の幽霊が。

 もう30年も前、この学校で教師の連続死が起きている。これは噂でも隠された歴史でもなんでもなく、みんなが知っていること。亡くなったのは四名。一人は教師ではなくマッキンタイア女史の兄上で青年実業家だったマーカス・マッキンタイア氏。マッキンタイア氏は教育者ではなく実業家だったけれど、妹の作った学園を非常に愛しており、随分この学校に出資してくれている。乗馬を好み、仕事に休みが入るとアテナ校にやってきては静かな山の中で遠乗りを楽しんでいたという。ひょっとしたらマッキンタイア氏は学校ではなく、静かな山上に立つ古い館(まぁ、ジェニファーに言わせれば、医者で政治家でゲイの金持ちが立てただだっ広いだけの悪趣味な屋敷、になるんだけど。なんでそういうのが出てきたんだったかしら。とにかく彼女にとってこの学校の建物の何か(たぶん冷暖房設備とかそういうのだと思う)が気に食わなくって、あと、『ゲイ』ってのは最大の悪口らしい、ってのはそのときわかったけど)と、そこに寝泊りして過ごす休日を愛していたのかもしれない。そして、氏の命を縮めたのは皮肉にも、氏が愛してやまなかったこの学校周辺での遠乗りだった。
 マッキンタイア氏が落馬事故で亡くなると、それが呼び水になったかのように次々と教師が亡くなったのだという。その教師たちがどういうひとだったのかまでは誰も覚えていない。でも、一人の実業家と三人の教師、都合四人の連続死はいかにも不自然だ。当然、突然命を絶たれた四人の幽霊が出るという噂が広まった。

 ……でも、30年前の話だ。
 今は「四人の幽霊」の話は新入生を脅かすよくない馬鹿なうわさでしか、ない。結局のところオカルトとしては意味のない話ということだろう、と、実のところ、わたしもろくに信じてはいなかった。

 間違いだったかもしれない。
 いや、間違いだったんだわ。30年前、ものすごくよくないことがあった。そして幽霊はほんとうに出るのよ。そして「よくないこと」が再び起きようとしている。

 半ば確信に近い思いを抱きながら、わたしはカフェテリアへと走っていた。



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2006年03月31日

『幽霊学園』その3:月曜日・朝

ネタバレ注意!!
以下は「FN1 Haunted School」という未訳シナリオを遊んだものであり、多分にネタバレを含みます。今後先述のシナリオを遊ぶ可能性のある方はお読みにならないことをお勧めいたします。



 授業の初日だというのに、あまり眠れていない頭を抱えてクラスに出るのはあまり気分のいいものではなかった。カフェテリアで3杯めのコーヒー――明らかに度が過ぎてる――を飲みながら、わたしはあたりを見回した。
 昨日の悲鳴事件の主人公はまだ来ていないわね。クリスは一応来てる。リッチーは昨夜クリスを締め出したというのに何食わぬ顔で朝食中。ときどきパンをちぎってそのあたりにそっと除けて置いているのは、胸ポケットか袖の陰か、とにかくそのへんに隠してる「兄さん」のためのはず。<委員長>は……<委員長>は来てないわね。どうしたのかしら。
 「クリス、<委員長>はいったい……」
 言いかけたとき、ようやく<委員長>がカフェテリアに入ってきた。なんだか慌てたような表情。何かあったわね。
 「おかしい、マシューがいないんだ」
 開口一番。
 「マシューって……隣のクラス・クラウン?」
 「そう。今朝のうちに一緒に新校長に会いに行くはずだったんだが、いつまでたっても来ない。ゼウス寮まで声をかけに行ったら部屋にいる様子はない。隣室の奴を捕まえて聞いたら、朝早く呼び出しがかかって一人で校長室に行ったみたいだという」
 そこで<委員長>、ひとつ息を継ぎ、
 「で、職員に問い合わせたら、今朝がた転校していったとのたまうんだ」
 「転校!?」
 同じテーブルにいた三人――クリス、リッチー、わたしは同時に声をあげた。
 「そう、転校。校風が合わないといって今朝早く荷物をまとめて出て行った、らしい」
 そうしてもうひとつ、息継ぎ。そして
 「そんなはずがあるか馬鹿馬鹿しい、だいたい昨日『新校長には期待している』といった人間がいきなり校風が合わなくなって転校だと? そもそもあいつはアテナ校が気に入ってた。マッキンタイア女史のやり方は学生を自由にさせすぎだと文句を言っていてさえここが気に入ってた。それが期待の新校長に会いに行った瞬間に転校。むちゃくちゃだ」
 吐き出すように言って椅子に身体を落とした。
 「……むちゃくちゃだ。まったく筋が通らないよ」
 「何が無茶ですって?」
 これまたとんでもなく不機嫌な声。ジェニファー登場。顔を見ると今朝はいつになく化粧が濃い。で、努力のあともむなしく化粧の乗りは最悪。ってか、アイライン濃くしたって目がはれぼったいのはごまかせないと思うんだけど。
 「おかしいんだ。マシュー・ヒギンズがいなくなった」
 「マシュー? ふん、あんな奴関係ないわ。だいたいあいつ、ゲイだし」
 ……は? 初耳だけど。
 「ゲイじゃないわけないでしょ。あたしに興味がないなんて」
 ああ、そうきましたか。
 「違う、ゲイなのはマシューじゃなくて<委員長>じゃないかな」
 それまでインコにパンちぎってやるのに忙しかったリッチーが大変に冷静な調子で割り込んでくる。
 「昨日はクリスをわざわざ部屋に泊めてたし」
 「……おいこらリッチー、君がクリスを締め出したんじゃないか、だから僕は……」
 それきりマシューの話題は沙汰止みになってしまった。教室へと移動しながらわたしはわたしでジェニファーに、大丈夫、ゆうべあのあとちゃんと眠れたの、化粧ののりがよくないみたいだけどと声をかけてみた。
 「冗談じゃないわ、あたしの化粧はね……」
 しまった、これから教師が来るまで化粧品とその効果的な使用法についての結構なお経を聞かされるわけだわと思った瞬間、教室のドアが開いた。

 入ってきたのは国語のドレイク先生ではなく新校長。その後ろに……知らない顔だわ。がっちりした体格の女の人。
 「諸君、残念なお知らせと喜ばしいお知らせがある」
 新校長はおもむろに言った。
 「ケヴィン・ドレイク先生だが……ご家庭の事情で、今朝早く、アテナ校を一時的に離れられた。ご家族にご不幸があったとのことだった。こちらに知らせがあったのは昨夜で、急なことで、諸君らに挨拶ができないことをドレイク先生は大変嘆いていらした」
 きびきびとした口調で告げる新校長。相変わらず病人みたいに青白い。引き結んだ薄い唇。絶対「子供たちは厳しく厳しく育てるべきだ」と思ってる人間だわ、あれ。で、校長先生、一歩下がって後ろにいた女の人を前に押し出す。
 「新学期早々の休講となっては諸君ら……というよりは諸君らのご両親に申し訳がない(といって、校長先生はかすかに笑った。きっとものすごく気の利いた冗談のつもりだったんだろう)。そこで急遽代わりの先生をお呼びした。早速今日から授業を担当していただくことになる。オリンピア・スミス先生だ」
 「ふぅん、ご大層だこと。ギリシャで鍛冶屋でもやってたのかしら」
 わたしのすぐ後ろに座ったジェニファーがいらいらと呟く。
 まぁ、確かに「オリンピア」って雰囲気じゃなかった。がっちりして見えたのは洋服の着こなしでごまかしてるのが半分。授業が始まって10分もすれば残りの半分がごまかしきれなくなる。ええとその、どういうことかっていうと……つまり。講義が一段落してグループ・ディスカッションのパートに入ったとき、同じ班になったメルディス・オパール(可愛いけど、あんまり賢い子じゃない。でも気持ちの素直ないい子よね、というのがアンジェリカが彼女を評して言った台詞。まぁ、あたってると思うな)が「ねえねえ、スミス先生ってどう思う?」と聞いてきたときに、ジェニファーが言った台詞どおり。
 「P. B. F!!」
 「え、何よ?」
 「Pale, but Fat。白豚って言ったのよ。あんただってそう思ったでしょ」
 おおお、女王様ったらご機嫌の悪いこと。でも間違いじゃないわよね。
 実際スミス先生はものすごく色白だった。抜けるように、っていうんじゃない。まぁ、色白の人が太ってるということはつまり、「抜けるような色白」感は消滅して、なんだか水っぽくべったりしてくる、てのはこの世の真理のひとつとして明確なんだけど、スミス先生はそれとも違って……病的なのだ。そうだ、新校長と同じなんだわ。

 それに気づいて、わたしはなんとなく背筋に寒気を感じた。
 何か、嫌なことがおこってるんじゃないかしら。
 「嫌な予感」に、メルディスのおしゃべりが拍車をかけた。メルディスは昨日の夕食時、ドレイク先生に会ったらしい。そしてそのとき、先生は急用とも家庭のご不幸とも何もおっしゃっていなかったというのだ。
 ……おかしい、絶対何か嫌なことが起こってる。

 嫌なこと、といえば昨夜の白い女が誰だったかもまだ思い出せない。確かに見覚えがあったんだから「見たことがある」顔に違いない。それにあれはたぶん「学校関係で見覚えがある」顔だった。カフェテリアや教室に誰かの肖像画がかけてあったりしないかしらと思って今朝から注意して見ていたのだけどそれらしきものはなかったし。ああこういうのってどうにも気持ち悪い。

 その反面、私はスミス先生に対して(とても見苦しく太っていて病的に色が白いことを除いては)特に悪い感情を持ってはいなかった。先生の教え方は……これはリッチーも同意してくれたけれど、とても古風で典雅だった。父さんの学生時代のノートがちょうどこんな感じだわ、と思うぐらい。シェイクスピアはやっぱりこんなふうに教えてほしいわ。そんなに年取った先生でもないのに、おばあちゃま先生につかないとやってもらえないような素敵な授業をなさろうと、どこから思いついたのかしら。
 それに関しては、授業が終わって早速話をしに行った。きっと喜ばれると思ったから。ところが先生は困ったように首をかしげて、
 「それは古いとか新しいとかそういうことではなく、教え方の流派の違いかもしれませんね」
 とおっしゃったのだった。
 ……わたしの言い方が「古いやり方」を責めているように取られたのかしら。心外だわ。




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2006年03月23日

『幽霊学園』その2:窓の影

ネタバレ注意!!
以下は「FN1 Haunted School」という未訳シナリオを遊んだものであり、多分にネタバレを含みます。今後先述のシナリオを遊ぶ可能性のある方はお読みにならないことをお勧めいたします。



 階段を駆け上がっている間も悲鳴は続いていた。よくあんなに声が出せるわねと一瞬思った。さすがチアリーダーだわ。それから心配になった。普通に鬼火が出ただけならいいけれど、何か危険な意志を持った邪悪な霊魂だったら……
 悲鳴がぱたりと止んだ。最悪のことが頭の中をよぎった。
 「ジェニファー、ジェニファー!!」
 ドアをガンガン叩いて声の限りに呼ぶ。と、ドアが内側から開いた。
 「あ、ああああ、まど、まど……あ、アレックス……」

 「何どうしたの、アレックスが窓から来たの? 5階の窓ぐらいだったら貴女のために忍び込むぐらい、やるでしょあの男なら」
 足にしがみついてきたのを助け起こしながら言った。怪我したり血を吐いたり首を絞められたりした様子もないし、見たところ無事ね、だったら大丈夫だわ。とりあえず落ち着いてもらわなきゃ。
 「アレックスちがう……来ない、アレックス窓に石を投げるだけ……ちがうちがう、白い女が……」
 やれやれ。
 また叫びだしたりしないようにしっかり身体を抱えておいて背中をさすってやりながら、指差している窓のほうを見る。

 ……ああ、これか。
 一瞬ぎょっとしたけれど、深呼吸して、耐えた。息を呑んだのがジェニファーにばれなきゃいいけど。

 窓に、いかにも幽霊然とした女の姿が映っていた。乱れた髪、悲しそうなうつろな瞳。そして、全ての色が抜け果てた、真っ白な影。見ているうちに影は薄れ、もうふた呼吸もした頃には拭ったように見えなくなっていた。そして……なんだかこの世のものじゃないみたいな寒さが部屋から薄れていく。ああ、寒かったんだわ。ここ。気が付いてから、今更みたいに背筋が冷えた。
 とにかく、この場をなんとかしないと。ジェニファーはわたしの肩にしがみついたまま、白い女が、とか、アレックスが、とかうわごとみたいに言い続けている。
 「ジェニファー、もう居ないわよ、もう何にもいないわ、安心して」
 まだ細かく震えているジェニファーの目を覗き込んで言う。ええっと、どうやって落ち着かせたらいいかしら……何を見間違えたの、やっぱりアレックスだったわよとか言うのかしら。まさかね。

 答えはわたしの後ろからやってきた。
 悲鳴を聞きつけてやってきたのだろう<委員長>が、開け放した扉の向こうから不機嫌な顔でこちらを睨んでいた。その後ろには……あら、どうしてクリスが? まぁいいわ。
 「しっかりしてよジェニファー。<委員長>がびっくりして様子見に来てるわよ。だいたいそのベビードールみたいな寝巻、どうかと思うわ。一応殿方が……」
 「<委員長>? 別に彼なら関係ないからどうでもいいわよ」
 弱々しい、でも確かに正気が戻ったらしき答が返ってきた。
 「そう、だったらよかったわ。 ……大丈夫? 今晩はわたし、ここで一緒に居ようか?」
 「冗談じゃないわ、結構よ」
 覿面。
 ジェニファーはきっとこちらを睨んで寄越した。ジェニファーときたら、やたらめったらプライドが高いのだ。最上階の個室にいるのだって、「誰かと空間を分け合うなんてとんでもないから」とか「あたしのアタマの上に人が居るなんて耐えられない」とかだって噂も聞いたことあるし。
 ともあれ。
 「この部屋はあたしの部屋よ。 ……出てって」
 「大丈夫そうね、OK。それじゃ、おやすみなさい」
 それだけ言うと、<委員長>と、おどおどと部屋の中を覗き込んでいたクリスをせきたてて廊下に出る。
 「大したことじゃないわ。とりあえずジェニファーはどう理解してるかわからないけれど、大丈夫なことは大丈夫。説明は後でするわ。……廊下で立ち話も見つかったときが厄介だわね。<委員長>、そちらの部屋で話させてもらってもいい?」
 <委員長>も個室住まいだ。親御さんがお金持ちのお医者で、山ほどの寄付金と引き換えに一人部屋を得た、って、専らの噂。

 そして。
 説明はまったくもって説明にはならなかった。
 <委員長>ときたら、霊魂の存在を毛ほども信じていない。クリスが窓においていた植物も急に枯れたといっているし、わたしだって鬼火や「白い女」を見たと言っているのに、まったく信じようとしないのだ。
 「だったらいいわ。わたしは説明しただけよ。おやすみなさい」
 同室のリッチーに部屋を追い出されて<委員長>の部屋に泊まるらしいクリスを置いて、わたしは部屋に戻った。

 ベッドにもぐりこみ、さっきのことを思い出し……そしてわたしは突然気付いた。
 あの「白い女」。
 わたしは彼女の顔を知っていた。あれは確かに見たことのある顔だ。それもとても身近に……
 けれど、それが誰の顔だったのか、どうしても思い出せなかった。頭をかかえても何をしてもどうしても思い出せない。落ち着かなく寝返りをうちながら……それでもいつの間にか眠りに落ちていたらしい。
 その夜の夢は鬼火と白い女が交互に現れた。
 が、彼女――白い女――が誰だったのかはとうとう思い出せなかった。


このシーンの裏側。
posted by たきのはら at 20:01| Comment(2) | TrackBack(0) | d20ホラー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月16日

『幽霊学園』その1−2:始業式の夜2

ネタバレ注意!!
以下は「FN1 Haunted School」という未訳シナリオを遊んだものであり、多分にネタバレを含みます。今後先述のシナリオを遊ぶ可能性のある方はお読みにならないことをお勧めいたします。


 始業ディナーから寮への帰り道。
 肩を叩かれて、<委員長>ことヘクター・アンダーソンが振り返ると、隣のクラスの優等生、マシュー・ヒギンズが立っていた。
 「<委員長>、さっきの新しい校長、どう思う?」
 「ああ、きちんとした人、という感じだったね。君はどう思った?」
 「やっぱり<委員長>の見立ても同じか……僕は彼に期待してるよ。この学園はこれまで少しばかり自由が過ぎた。落ち着いて勉強を出来る雰囲気じゃなかったからね。
 実は、明日の朝、校長室に呼ばれているんだ。そのあたりのことについて話し合うことになるんじゃないかな」
 ああ、やれやれ、と、ヘクターはこっそりとため息をついた。こいつは一匹狼ふうだが心底優等生なんだっけ。
 「それはいいね、マシュー」
 それからかすかに笑みを浮かべて答える。
 「学園の今後については僕も大いに興味がある。よかったら、明日、新校長のオフィスに同行させてくれたまえ」

 確かに一人で来いとも言われなかったからな、行くときには声をかけるよと告げてゼウス寮のほうへ立ち去るマシューを見送ると、ヘクターは自室のあるフレイア寮へと向かった。この学園にある四つの寮はすべて5階建てで1階はホールになっており、2・3階が男子寮、4・5階が女子寮になっている。3階と4階をつなぐ階段は学生は通行禁止で、舎監にみつかれば処分の対象になる。……なんだってこんな面倒しいことをしているのだか。

 ヘクターがマシューと話し込んでいるころ、フレイア寮の3階の一室では、「占いができる」というので評判のクリスことクリストファー・クロスがベッドの上に膝を抱えて座り、新しいルームメイトとなんとか仲良くなろうと――部屋替えの度に繰り返し、そのたびに失敗してきた――必死の努力をしていた。
 「……君、絵を描くの?」
 今度のクリスのルームメイト、リッチー・パートリッジは、クリスに目をむけもせずスケッチブックの上に屈みこんでいる。クリスはため息をつきかけて飲み込んだ。
 彼は、あまり幸せな育ち方をしてはこなかった。家族の中で一人だけ、親に似ず整った顔立ちに生まれ付いてしまい、母親の浮気の子に違いないと父からも兄弟からも疎まれて育った。唯一の味方は母親で――彼女は八方手を尽くしてクリスをこの全寮制の学園に入れてくれたのだった。ここでは彼は自由なはずだったが――疎まれ殴られて育ったせいか、すっかりおどおどした性格になってしまったクリスは、ここでも乱暴な生徒たちのからかいの対象だった。とはいえ、クラスメートの半分、すなわち女生徒たちとはうまくやっていけた。クリスは占いができた。……というよりは、女生徒たちの顔色を読みながら、彼女たちが一番聞きたいだろう言葉を紅茶のカップの底に残った茶葉の形にことよせて話してやることができた、というのが真実なのだが。そしてそれは一方でクリスを一層不幸にした。女々しいクリス、女生徒の間にいるのがお似合いのクリス……。
 だから、リッチーにそっぽを向かれても、クリスはこっそりとため息をつくしかできなかった。

 「……ねぇ?」
 もう一度思い切ったように口を開いたクリスをにらんで、リッチーは明確なイギリス式の発音で言った。
 「うるさいよ、兄さんが驚くじゃないか。……大丈夫かい、兄さん?」
 そう言ってリッチーが呼びかけたのは、頭に赤い羽毛を生やした一羽のインコ。リッチーはこのインコをいつだって隠し持って連れ歩いていた。というのも、彼は幼いころに死に別れた兄ジョシュがこのインコに生まれ変わって自分と一緒にいる、と、固く信じていたのである。
 とんでもない変わり者リッチー。だが、リッチーの立場はクリスよりは随分とマシだった。「英国の名家」パートリッジ家における家庭教育がどういうものだったのか、それともよっぽど放任主義の家庭に育ったのか悩ましい問題ではあるのだが、とにかく、彼は文書偽造におそろしく長けていた。たとえば学期末の成績書がとんでもないことになった学生が、「家に持ち帰るための」成績書をリッチーに頼むことがある。……自分の秘密を知っているものを快く思うものなどいるわけがない一方、彼がいなければ最終的に困るのは自分。となれば、方法はひとつ、敬して遠ざけるのみである。
 というわけで、リッチーは「仕事」のあるとき以外は誰からも構われることなく、「兄さん」との学生生活を楽しんでいたというわけである。

 「何か勘違いしているようだから言っておくけれど、この部屋の君の領分はそのベッドの上だけだ。後は僕の部屋だからな」
 「待ってよ、それじゃベッドとドアの間の行き来も出来ないよ」
 「ふん、それぐらいは許してやってもいい。あとその窓のところのヘンな植物は除けろよ」
 クリスは泣きそうな顔になった。
 「そ、それぐらいいいじゃないか。中国の風水の考え方では、窓のところに植物を置くのはいいことなんだよ、だから……」
 うるさい、口答えは許さないぞとリッチーが言いかけたとき、急に窓ががたんと鳴った。窓辺に置いたクリスの小さな鉢植えが落ちる。インコの「兄さん」が怯えたように一声叫ぶと、リッチーの胸元から舞い上がった。天井の隅で狂ったようにバタバタと羽ばたく。違う、逃げようとしているのだ。何かから。
 「……枯れてる……」
 クリスがぽつりと言った。落ちて壊れた鉢の欠片の中で、ついさっきまで鮮やかな緑色だったちいさなテーブル椰子は、縮かんで、黒くしなびていた。
 「煩い、そんな鉢なんかなんだ、それより兄さんが、兄さんが……!!」
 インコを呼び戻そうと必死なリッチーを、ベッドの下からクリスはじっと見上げている。そして、
 「……君、死ぬよ」
 瞬間、息が詰まったような顔でクリスをにらみつけ、それからリッチーは冷ややかに言った。
 「出て行け。君が今いる場所は、僕の領分だと言っただろう。君の分はそのベッドだけだ」
 「待ってよ、それじゃ洋服掛けも置けないじゃないか」
 「そんなのは廊下に置けばいいだろう。置いて来いよ、今すぐ」
 クリスは無言で立ち上がると、洋服掛けを廊下に引きずり出した。クリスの身体が部屋の外に出たとたん、リッチーはドアをバタンと締め、鍵を掛けてしまった。
 
 邪魔者はもういない。急いで兄さんを助けて、それから……
 そう思ったとき、リッチーは急に骨に染み透るような寒気が部屋中に満ち満ちているのに気が付いた。寒気だけじゃない。「何か」が居る。何か邪悪なもの、邪悪な「意思」がここへやってくる。遠くから押し寄せてきて、徐々に濃密な霧のように……
 リッチーはベッドの上から伸び上がって、どうにか「兄さん」を捕まえ、懐に突っ込んだ。そしてそのまま頭から毛布をかぶる。冗談じゃない、冗談じゃない、冗談じゃない……
 そのとき、ものすごい悲鳴が女子階のほうから響いてきた。リッチーはいっそうきつく毛布を身体に巻きつけた。全くもって冗談ではなかった。

 一方、締め出されたクリスはというと、<委員長>の部屋に居た。
 「開けてよ、開けてよ!!」
 力の限りドアを叩いて叫んでも、リッチーが答える様子はない。クリスはじきに膝を抱えて廊下に座り込んでしまった。
 ――こんなのはもう、ずいぶん慣れっこだ
 そのとき廊下の隅の一人部屋のドアが開いて、<委員長>が出てきたのだった。
 「どうしたんだ。舎監に気付かれたら面倒なことになるじゃないか」
 ――この偽善者
 筋肉バカの学生にいいようにからかわれているとき、常に助けてくれるのはこの<委員長>だった。が、彼がどうも「筋肉バカどもの気が済んで、そしてこれ以上やると問題になりかねない」というタイミングを計って助け舟を出しているのではないかとクリスはうすうす気付いていた。もちろん、助けてもらっているのには少なくとも変わりはないのだが。
 「……締め出されたんだ」
 「そうか。……じゃあ、僕の部屋で泊まるといい。リッチーには明日、僕から話をする」
 「……あ、ありがとう」
 
 部屋に入ろうとしたとき、上の階から凄まじい悲鳴が響き渡った。女生徒の声だった。
 「……やれやれ」
 委員長はうんざりしたようにため息をついた。
 「今夜は面倒ごとが多いな、まったく。様子を見に行くとするか」
 そのまますたすたと階段のほうへ行きかける。待って置いていかないでと言いながらクリスも後を追った。「通行止め」の階段を使っていて舎監に見つかるのも怖いが、この廊下に一人で取り残されるのはもっといやだったから。



このシーンの裏側。
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2006年03月06日

『幽霊学園』その1:始業式の夜

ネタバレ注意!!
以下は「FN1 Haunted School」という未訳シナリオを遊んだものであり、多分にネタバレを含みます。今後先述のシナリオを遊ぶ可能性のある方はお読みにならないことをお勧めいたします。



 夏休みもあっという間に終わって、9月最初の日曜日の夜。
 わたしは久しぶりの青いアカデミック・ガウンをきちんと着て、カフェテリアの椅子に座っていた。
 この夏休みは結構有効だったわ、とわたしは思った。父さんの神学校時代の教科書を見つけて頑張ったから、ずっと懸案だったヘブライ語もだいたいマスターしたと思うし、ギリシャ語もたぶん完璧だと思う。ラテン語だったら母語同様に操れると思うし、シーザーが目の前に現れたってたぶん会話できるわ。本当にシーザーの霊を呼び出せたら面白いのに……ああ、この学校の図書館にもうちょっときちんとした教科書があればいいのに。でなければ交霊術の本とか、古い写本とか、そういった類のもの。卒業して、ちゃんとした図書館のある学校に行けるにはあとどれぐらいかかるのかしら。

 そんなことをぼんやり考えていると、急に硬い足音がして、わたしは我に帰った。カフェテリアの前に設えられた演壇に、見知らぬ男性が立っている。ああ、きっと新しい校長先生だわ。今日の昼に寮に戻ってきたとき、校長のポリー・マッキンタイア先生が落馬事故で腰を傷められて、長期療養のために引退なさった、代わりの校長先生がみえられるって貼紙が出てたもの。
 果たしてそのとおりで、そのひとはウェルダン・クリスティアンソンと名乗り、新しく校長に就任したことを告げて挨拶を始めた。型どおりで、次に言う言葉だって先にこちらで言えちゃうような挨拶。つまんない。そのうえ、なんだかとんでもなく厳しそう。ああ、でも、わたしには関係ないわ。わたしは図書館の本さえ読ませてもらえればなんの問題もない生徒だと思うし。それにしても随分色白なひとだこと。ううん、色白なんじゃない、血の気がないんだわ。若そうなのにすっかり色の抜けた髪、艶のない肌。唇だって蒼ざめてるし……まぁ、どうでもいいわ。
 そのとき、カフェテリアの半分ぐらいから、拍手があがった。拍手をしていない残りの半分はというと、どうにもうんざりした顔をしている。隣に座っている同室のアンジェリカにこっそり尋ねると、どうやら新校長先生は、規律正しい学生生活を送れるよう改めて学校の校則を整備した、新校則については明日発表する、と言ったらしい。

 ……そういうことね。
 マッキンタイア先生はわりと放任主義的な先生で、夏休み前の学校はよく言えば自由闊達、悪く言えば、ちょっとばかり「自由すぎ」た。夏休み前に用務員室からチェーンソーを持ち出して振り回して謹慎処分になった生徒の顔が見えないのは「そういうこと」の裏づけだろう。ドイツだかフランスだかの旧家というか騎士の家系に繋がるとかいう名家の出身で、そうそう退学にはならないと思っていたんだけれど。

 とにかく、そういうことで「新学期開始の挨拶」が終わり、あとは新学期前夜のディナー。わたし達もカフェテリアの前に席を占めた先生がたをちらちら見ながら食事を始めたけれど、すぐにおしゃべりに夢中になって新校長先生のことなんか忘れてしまった。

 ところで――そう。
 私の名前はヴェロニカ・モンゴメリ。15歳。父さんは牧師で、私もゆくゆくは神学校か大学の神学部に進む予定にしつつ、ここ、アテナ・アカデミーに来ている。本当は飛び級してすぐに大学にいければきっと面白かったと思うのだけれど、そこまで出来はよくなかったし……それに、山の上の古城を改装した全寮制学校という響きに惹かれて入学した。けれど、まぁ、そのあたりははっきり言って期待はずれ。古城といったって要するにただの広くて古いお屋敷で、別に幽霊が出たり秘密の書庫があったりするわけもない。ああ、やっぱり大学にすぐにいけないんだったらイギリスに留学するって言い張ればよかったかしら。

 そうこうするうちにデザートが出て、ディナーはおしまい。カフェテリアからぞろぞろと寮に戻る最中、うちのクラス委員長のヘクター・アンダーソンを、隣のクラスのマシュー・ヒギンズが呼び止めているのがちらりと見えた。マシューはいわゆる秀才で一匹狼。憧れている女の子も多い。たしかうちのクラス一というか学校一のプレイガール、ジェニファー・ロゴスともつきあってたんじゃなかったっけ。フットボール部か野球部の人間しか相手にしないはずのジェニファーがマシューと3日もつわけないって皆で賭けてたけど、まさか1時間で破綻するとは誰も思わなかったわね、そういえば。でも、わたしには関係のないこと。ジェニファーが青いカラーコンタクトを入れていて、茶色い髪を見事な金髪に染めてるのだって関係ないこと。

 というわけでわたしは自室のあるフレイア寮に引き上げた。ここ、アテナ・アカデミーの寮は4つ。ゼウス寮・オーディン寮・ヘラ寮・フレイア寮。いったい何を考えて命名したのかわからないけど、そうなんだから仕方がない。
 アンジェリカがとっとと寝てしまう脇で、わたしはスタンドの明かりを点け、家から持ち込んだ本を読み始めた。そんなにすぐ寝ちゃったら、何にもできないじゃない、と思うのだけれど。

 さしてしないうちに、ふと、小さな硬い音がどこかで続いているのに気がついた。
 ……カタカタカタカタ……
 窓だ。窓が細かく震えている。風かしらとおもったけれど、窓の外の木は揺れていない。わたしはベッドから滑り降りた。さっき読んだばかりの交霊術の本の一節がゆっくりと頭の中を回り始めた。それはあんまりにも出来すぎだろうと思ったけれど、傍に寄っても窓の音は止まらない。そして、森から青白い光がひとつ、ゆっくりと漂いだしてくる……あの色、あの動き方、間違いない、鬼火だ!!
 「アンジェリカ、アンジェリカ!!」
 窓を開け放ちながらわたしは叫んだ。
 「起きて、鬼火よ!!」
 「……何よ、眠い……寒いじゃないの窓なんか開けないでよ……」
 「だから鬼火だってば!! こっち来なさいって!!」
 ベッドまで起こしに行けば早いけれど、そうしたら鬼火を見失ってしまうかもしれない。窓から身を乗り出して鬼火の行方を目で追いながらアンジェリカを呼ぶ。
 「わかったわよ、わかったから……」
 ようやくアンジェリカが置きだす気配がして……けれど、彼女がようやっと窓辺にたどり着く直前に、ゼウス寮のほうに流れていった鬼火はふっと見えなくなってしまったのだった。
 「……ヴェロニカ、オカルト趣味もいいけど、人巻き込まないでよね……」
 わたしが説明するのも聞かず、アンジェリカはベッドに戻っていってしまった。まったく、聞く気がないのなら最初っから起きてこなきゃいいのに。

 と、その時。
 上の階から凄まじい悲鳴が響き渡った。
 どこ、と考えるまでもない。あの声はジェニファーだ。わたしは部屋を飛び出した。飛び出すときにちらりとアンジェリカのベッドを見たら、彼女はもうぐっすり眠っていた。霊的現象よりも彼女の睡眠欲のほうがよっぽど非常識だわ、と、わたしはちらりと思った。


このシーンの裏側
posted by たきのはら at 18:56| Comment(4) | TrackBack(0) | d20ホラー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『幽霊学園』前口上

 えーと、本来なら『不揃いな冒険者たち』第1話を仕上げてから書くべきものなんですが……連日で遊んじゃったのと、とりあえず書きかけておかないと忘れそう!! ということで。

 3月5日に遊んだd20ホラーキャンペーン(らしい)第1回、『幽霊学園』です。

 えと、今回は割と初めてご一緒する方が多かったので先にちょっと言い訳じみたものを。
 私の「レポート」は正確には「報告書・記録」という意味でのレポートではありません。ゲーム内で起こったこと、ゲームの外でなされていた雑談、それを「ゲームの中で展開していた物語的に書くとどういうものが見えたか」という観点で書いている、だいぶ二次創作めいたものです。
 何か事実と違うことを書いていたら、遠慮なくご指摘下さい。それは間違いなく「たきのはらの覚え間違い」なので、速攻直します。

 そのあたり、ご了解いただいた上でお読みいただければなぁ、と……

 えーと、それで。
 今回はホラーで学園もの。というか正確には学園オカルトミステリ?
 メンバーはざっとこんな感じ……

マスター:DM-SKMさん
PL:
March Hareさん:リッチー・パートリッジ。イギリス出身。超能力者。こっそりペットのインコを飼っている。
でみさん:ヘクター・アンダーソン。通称「委員長」。医者の息子で穏やかなリアリスト。眼鏡。
えでぃさん:ジェニファー・ロゴス。テキサスの大農場の農場主の一人娘。金髪のチアリーダー。幽霊なんか信じていない。
アニマさん:クリストファー・クロス。通称クリス。少女のように整った顔立ちの、引っ込み思案な少年。占い好き。
たきのはら:ヴェロニカ・モンゴメリ。牧師の娘。読書好き。ギリシャ語とラテン語とヘブライ語と古英語に通じるオカルト好き。

これでどういうことになるかというと……
posted by たきのはら at 16:12| Comment(2) | TrackBack(0) | d20ホラー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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