2004年11月01日

シリーズ第3回『マンドラゴラ始末記』その5:首吊り山の絞首台村

 目録に書かれた仕入れ元は、首吊り山の絞首台村。
 カハウ=キンキへ向かう街道の先、本道からは少し外れた場所にある集落で、トルスッガ=スガからはざっと七日ばかりの道のりになる。
 
 ……が。
 薄気味の悪い土地の名前だけに、そこへ向かう街道のうわさもどうにも芳しくない。曰く、幽霊が出没するだの、街道で野営をするたびに必ずひとり頭数が減るだの、化け物蔦が森の奥からくねり出してきて馬をくびり殺すだの。そうしてお決まりの追いはぎにもことかかないのだとか。
 そりゃまぁ仕事は仕事だから、街道を通る限りは護衛はするよとオルガは言ってくれたのだが、流石にここまで来ると3人でも心もとない。もう何人か人を雇わねばならないかと思ったところで、折りよく集落を巡る行商隊が出るという話。有難く同行させてもらうことに話がついた。

 馬車一台では危険極まりない街道も、隊を組んでゆけばどうということもない。追いはぎや化け物も出るには出たが、遠くから弓弦を鳴らし矢を射掛け、勢を頼んで通り過ぎた。

 そうしてたどり着いた首吊り山は、山というよりは小さな丘だった。村の名前からもわかるように、どうやら昔は処刑場だったらしい。幾多の罪人の血を吸った丘の辺は上質のマンドラゴラを多く生やすようになったのだとか。
 村人から教えられたマンドラゴラ取りの家は、村もずいぶんはずれのほうにぽつんとあった。なんということもない古びた田舎家で、門柱にはたれ耳の犬が一匹つながれ、眠りこけている。

 アルテアがドアを叩く。返事はない。どうやら家人は外出中らしい。
 と。
 「きゃああ、ちょっとちょっとちょっと!!」
 ウィチカの悲鳴に振り返ると、目を覚ましたたれ耳の犬がウィチカの腕を抱え込み、カクカクと腰を振っているところ。
 「動物じゃぁしかたがないよ、それにしちゃあちょっと、いや随分、時期ハズレだけど……」
 苦笑しながらアルテアは犬のほうに手を伸ばす。と。
 「ちょっと待て違うだろなんであたしに!!」
 わふわふわふ、とにやけ顔の犬。

 と。
 「この、バカ犬ーーーーー!!!」
 叫び声と同時に犬の体が見事に宙を舞った。
 「ったく、なんてバカなんだお前は!いい加減にしろって何度も言わせるんじゃないよ……って、飼い主にサカるなーーーー!!!」
 もう一度思い切り犬を蹴飛ばしておいて、それから二人のほうを見遣る小柄な娘。
 「……うちになんか、用かい?」
 
 二人が手短に訳を話すと、娘は小さく頷いた。
 「わかって商売してる奴らばっかりじゃないってことだね。あんたたちには災難だったよ。まぁいいや、入って。立ち話もなんだし、それにここにいるとまた……ああ、アルテア、だっけ?足にサカられんのが嫌なら遠慮なくそのバカ犬蹴っ飛ばしてくれていいよ。どうせ死にゃしないから」

 家の裏は畑になっていて、見事な朝鮮人参がうわっていた。朝鮮人参としての品質もそこそこのうえ、通称がマンドラゴラなだけあって、ホンモノのマンドラゴラの産地から出してやると随分人気が出るのだという。犬も『仲介業者が喜ぶから』わざわざ犬の死体を拾ってきて商標代わりにつけて出しているのだとか。
 「ホンモノのマンドラゴラには犬なんかつかないよ。当然だ。マンドラゴラをどうやって探すか知ってるかい?犬に探させるんだよ。そんじょそこらの犬じゃだめだね。マンドラゴラをかぎ当てられる犬なんざそうそういやしない。だから、犬に抜かせるときだってちゃんと犬にも耳栓をしてやるんだ。でなきゃ死んじゃうからね。
 ……何度も言うようだけど、マンドラゴラをかぎ当てられる犬なんかそうそう見つからないからね。一本引き抜くごとに死んでもらっちゃ困るんだ。そういうわけだから、犬のついてないのがホンモノのマンドラゴラってわけさ」
 にっこりと笑うマンドラゴラ取りの娘。

 訳はわかったが、それはそれとして今度こそホンモノのマンドラゴラを仕入れないといけない。そういうとジェラと名乗ったマンドラゴラ取りの娘は急に顔を曇らせた。
 「今は在庫は出払ってる。それに……マンドラゴラ取りをやってるのはあたしじゃなくて、あたしのじいちゃんなんだ。そして、じいちゃんはこないだ山に入ったっきり、もう2週間も戻ってない」
 「……それ、長いの?」
 「まぁ、長いっちゃ長いかね。なにしろ生り物商売だ。すぐに見つかれば3日で山を降りてくるし、見つからなきゃ1ヶ月でも2ヶ月でも山の中……」
 「でも、こちらも急ぎだし……ジェラさんはマンドラゴラ取りは?」
 「一人で行ったことはないんだけど……」
 ジェラはちょっと考え込むふうでウィチカとアルテアを当分に見たあと、
 「あんたたちが付いて来てくれるんだったら、山に入ってもいいよ」
 そう言った。



  このシーンの裏側。ってか、裏話。

 この犬の描写についてはDM氏に全責任があります。私は知りません。

 ついでに、マンドラゴラは引き抜かれるとき「キタ――――!」と絶叫し、それを聞くとなんかイタくて死んじゃうんだそうです。まったくどこの世界の話だって感じです。えーと、だから私に責任はありませんってば。

 あ、あと、この絞首台村、この地図でいうと、カハウ=キンキへ向かう街道を、カハウ=キンキのちょっと手前で山の中のほうに折れた側道の先に位置するのだそう。トルスッガ=スガからは全部で7日の行程になるそうです。……ユーレイ話その他は側道に関する噂だったのかな?

 前に書いたことからも勘案するに、たぶん実際のトルスッガ=スガはこの地図に示されたものよりちょっと南寄り、ちょうどエウン=リラへ向かって街道が分岐するあたりに位置する……のかな??
posted by たきのはら at 21:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 渡る世間は竜ばかり〜細腕繁盛記〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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