川向こうからやってくるのは、足を引きずりながら歩く巨大な木偶人形、竜首人4体、黒い蜥蜴人、そして木偶人形の頭上の祈祷師。
「思ったよりは少ない……な。まあ、あの木偶巨人だけで充分ともいえるが」
ビエントがひとりごちた。その後ろでエミアスが顔をしかめている。ビエントちゃんや、ひょっとしたらわしらが今見てるのは、あの集落丸々ひとつ分の蜥蜴人なのかもしれん。あの集落の蜥蜴人はみんなあの木偶人形の中に押し込められたんじゃなかろうか。自分で立ち歩く木偶人形を作るには、中に魂を込めなきゃならんのじゃ……空耳ならいいんじゃが、あの巨人の心臓が脈打つたびに、ちっぽけな蜥蜴の子供がきぃきぃと泣き喚く声が聞こえるような気がするんじゃがのう。
「あの巨人は確かに木偶ですよ。頭にのった祈祷師が命令を下してからようやっと動いている。祈祷師をあの世に送るのが早道かもしれない」
村から借りたクロスボウを構えて狙いを定めながら、スズランが言った。その脇でロウィーナが小さく歯軋りをするのは、祈祷師を呪ってやろうとして投げた視線を、走り出してきたちっぽけな竜首人に邪魔をされたからか。
「まだだ、まだだ、まだだ……よし射て!!」
ファイアスパーの号令が飛び、門の右側からいっせいに5本の投槍が飛んだ。竜首人を掠めたものもあれば届かず川に落ちたものもある。一散に村人たちが退避していくのを確認すると、ファイアスパーはひらりと飛び上がり――長い腕をゆっくりと後ろに振って剣を構えた巨人の頭上、祈祷師のいる柵の中に姿を現わした。仰天した祈祷師が後ずさった瞬間、今度はその隣をどうと風が吹き過ぎたかと思うと、ビエントもそこに立っていた。それを避ける間もなく祈祷師は顔色を変えて飛び上がり、そのまま足を滑らせた。スズランの手にしたクロスボウから飛んだ弾が過たず巨人の心臓の真上を撃ち、その瞬間、巨人は身をこわばらせて大きく揺れたのだ。
祈祷師に折り重なるように、ビエント、そしてファイアスパーまでが柵の中で倒れてしまったので、左翼の投槍隊への号令はスズランが下した。こちらも村人たちの退避を確認すると、スズランは大声で叫んだ。
「巨人は心臓が弱点です! 祈祷師が偉く慌てていました、ひょっとしたら奴が心臓を操っているのかもしれません!!」
「その巨人は自分じゃたぶん何にもできないわ、あたしの呪いの的にもならないぐらいタマシイが希薄なの! ホントに半分人形みたいなもんよ。あと、さっさとその祈祷師を立たせてちょうだい、見えなきゃ呪えないわ!!」
ロウィーナも叫ぶ。
からくりは、おそらくこういうことなのだろう。蜥蜴人の卵ありったけ、そして集落の蜥蜴人のほとんどの命を“魂の芯”にし、“星の兵士の心臓”の拍動を歯車の代わりにして作られた巨大な操り兵士。操っているのは祈祷師。そしてその周囲にいる数名の竜首人たちは、人口のほとんどを“星の兵士”を立たせるためにつぎ込んだ集落のわずかな生き残り。“星の兵士”はおそらく成長途中の人造で、身動きのままならぬ今ならまだ倒せないものでもないだろう。
これが正しいのなら、倒せるやもしれぬ。如何に巨大な兵士とて。
上下に二分された戦場で、それぞれに戦端が切られた。
巨人の頭上ではビエントとファイアスパーが祈祷師と一進一退の戦いを繰り広げていた。が、次第に分が悪くなると見て逃げ出そうとした祈祷師をファイアスパーが引きずり戻したあたりで流れは決した。ビエントに祈祷師の始末をまかせ、ファイアスパーは柵から乗り出し、槍の先で心臓をこじりだそうとしたが上手くいかぬ。ええい、もどかしい、とひとことつぶやくと、ファイアスパーは剣を手に柵を乗り越え、暴れる巨人の身体を伝ってその胸元へと移動し始めた。
竜首人たちはアーニャが一手に引き受けていた。魔法の眠りと氷が地面を覆って竜首人の足を鈍らせ、そこに炸裂する炎が襲い掛かった。
川を渡って村に押し入ろうとした黒い蜥蜴人は、一度はエミアスが何ごとかつぶやいた瞬間、わけのわからない恐怖に駆り立てられ、一散に駆け戻らされる羽目になった。はっと気付いてまた川を押し渡ろうとすると、今度はスズランの剣に阻まれた。力ずくでそれを押しのけると、今度は妖しい女の放つ妖しい火に焼かれた挙句、目がくらんで得物を振り下ろす手が鈍った。村に三歩ばかり入ったところで、結局黒蜥蜴人は引きずり戻された。そしてその時には祈祷師はビエントに切り伏せられ、制御を失った巨人が、味方のはずの竜首人を片っ端から殴りとばしていたのだった。
「座れ……座れ!! ちくしょう、どうやってこれを鎮めたらいいんだ、竜語でないと効かないのか!?」
祈祷師を切り伏せたはいいものの、肝心の巨人を止める術がわからない。このままではファイアスパーが心臓を掘り出すこともできないだろう。柵にしがみつきながらビエントは叫んだ。それを聞きつけたアーニャがお座りなさいと竜語で叫ぶ。
「オスワリナサイ!!」
渾身の力を込め、片言の竜語でビエントは念じた。
と、ぴたりと巨人は動きを止め、座り込んだ。
奇跡のような数瞬を、ファイアスパーは無駄にはしなかった。崩れかけの泥土を剣で掘り崩し、胸の中から心臓を押し出す。
心臓の2つの半球が地面に転がった瞬間、巨人は崩れて泥と流木の小山に変わった。
それを目にした瞬間、黒蜥蜴人はものすごい勢いで逃げ出した。待て、生かしてはおかんとスズランが叫び、水面に浮いていた投槍を拾って投げつけたが、届くものではない。
ひとまずは――村の危機は去った。
が、逃げた黒蜥蜴人は後々の遺恨ともなりかねない。
そして、彼らが古代からのとんでもない遺産――星の兵士――の謎を抱えてしまったのも確かなのだった。
このシーンの裏側。
ここは、技能チャレンジを行ないつつ“星の兵士”と戦っていました。巨人の足が地面からほとんど持ち上がらない、鈍重な動きしかできないこと、どうやらリザードフォークの卵を魂の核としているらしいこと、祈祷師がアクションを使って命令を下すのにしたがってしか動けないらしいこと……このあたりを〈知覚〉や〈魔法学〉で読み取っていきます。成功が溜まったことの直接の結果が何だったのかは説明されませんでしたが、たぶんこちら側に有利なように敵側の行動が進むとか、そういうんだったんじゃないのかな。
そして、祈祷師はというと巨大ロボ(笑)の上で超いい気になって意地悪するつもりだったのに、絶叫エルフとか覚醒した魔法剣士とかがいきなり隣に出現して(ファイアスパーはエラドリンのフェイ・ステップ、ビエントはウィンドソウル・ジェナシのウィンドウォーカーを使用)すっかりあてがはずれた、らしい。確かにパワー次第で1レベルから“飛べる”わけで。
一方黒蜥蜴人ことブラックスケイル・スポーンも村に押し入って大暴れする予定だったのが、スズランとエミアスの鉄壁の守りに阻まれた形に。スズランが具体的に足止めし、殴っても殴ってもエミアスがフォローしてスズランを回復させてしまうので、結構止められてしまった感じでした。
そして巨人の心臓をくりぬいた時点でひとまずは今回の事件は終わったのですが、キャンペーンとしてのクエスト“星の兵士の心臓の正体を知る”というのが提示されました。
いや、超巨大フィギュアがマップに置かれた時点ではいったいどうなることかと思いましたが、なんとかなるっちゃなるもんですね。いろいろと話の流れで敵の数が限定されてたのもあるんだろうとは思いますが。
あと、前回のオベリスクに引き続き、今回も“黒蜥蜴人”という“やり残し”を出してしまいました。なんかキャンペーンを通じての敵役とかになりそうだよなぁ……今回は名前もなかったけど。
というわけで、戦闘と技能チャレンジを組み合わせた遭遇は、ちょーっと緊迫感が欠けたかも知れず。また、ここでも技能チャレンジでなにができるかという最終結果を示すの忘れた。あと、難易度もここは公開して良かったかも知れず。ズバリではなくても、水準は言って良かったかも
私は単純に「あー、4thになって、1レベルキャラでも派手なことができるようになったので、DMも派手な敵を出したんだなー」と思っていましたよ……
あと、“星の兵士”が、呪いが機能しないぐらいの自我の薄い存在だというのを聞いて、ようやく“祈祷師がマイナー・アクションか何かを使って命令を下すのを止めればこの巨人は止まるんだ”ぐらいに理解してました。
そして技能チャレンジについては、わざわざ標準アクション使って技能判定してるので、成功すれば何かいいことが起きるんだろうってのは思っていたんだけど、そういえば成功するとどうなって、失敗するとどうなるのか、きちんと理解してなかったよなぁ、と。
……いや、こういうイイカゲンな感じなのは拙いんですが。これはPL側ももうちょっと意識的にならなきゃですね。