2009年01月27日

『石の心臓』その6:蘇る兵士

 ただじゃ口は割らないわよね、脅すんなら任せて。でも話すのはあなたがやってね。あたし竜語なんて喋れないから。

 アーニャの言葉を聞いた途端、ロウィーナはこともなげに言うと、返事も待たずに眠りこけている竜首人を蹴飛ばした。そして竜首人が目を開けるや否や、尻尾をその首に巻きつけて吊り上げる。何が起こったかわからずに手足をばたつかせている竜首人に、アーニャが畳み掛けるように言った。

 「あなたの仲間はみな死にましたわ。あなたも死にたくなければ私の質問に答えなさい。それとも彼女に言って、あなたを地獄の炎で炙らせましょうか?」

 首に巻きついた尾がかすかに緩む。悪口雑言で答えかけた竜首人の首を再びロウィーナの尻尾が締め上げた、ぐい、と捻じ曲げられた顔の前に、熾火のように燃える真っ黒な瞳。ぎゃあ、という悲鳴を上げて、手もなく竜首人は降参した。

 最初は、殺すなら殺せ、ここで生き延びたところで長にもっと惨い死を与えられるだけだ、などと勇ましいことを言っていたのだが、ロウィーナが尻尾をもうひとつ引き寄せると竜首人はとたんにべらべらと喋り始めた。

 いわく。

 そうだ、我らが長の夢枕に神が立ち、“星の兵士”の作り方をお示しくださったのだ。そこで我らは準備に準備を重ね、そしてついに先ごろあの遺跡から兵士の心臓を持ち帰ったのだ。愚かな鱗なしどもめ、もう手遅れだ。“星の兵士”は既に心臓を得た。今日はそのための祭り日なのだ。集落の者たちはみなその儀式のために村の奥の祭儀場に行っており、俺たちは留守居をしていたのだ。もう生贄も捧げ、儀式も終わる頃。俺たちを倒したからといって得意になるのはまだ早い、“星の兵士”を手に入れた長と我らが軍勢は、もうじきお前らなどひと揉みに揉み潰してしまうぞ。さあ、聞かれるだけのことは話したぞ、とっとと離せ。

 「あなたはさっき聞いたことに答えただけです。まだ質問は終わっていません。後は――そうね、あなたは蜥蜴人でなく竜首人だけれど、この村の長は竜首人なのですか?」

 そう問われた瞬間、竜首人はひきつけを起こしたように笑い出し、またロウィーナの尾に締め上げられて酷く咳き込んだ。

 「まさか。我らが長は正真の蜥蜴人、沼地の偉大なる祈祷師だ。そしてこの村にいるのは正真の蜥蜴人の卵から生まれたものばかり。“星の兵士”と共に戦う戦士を作るため、長は孵卵場に手を加え、殻の中で眠る子蜥蜴が偉大なる“獣”の力を身に受けられるようにしたのだ。そうして生まれたのが我等、竜首の蜥蜴人というわけだ!」

 「へえ、ねえ、あたし、こいつを絞め殺していいかしら」

 アーニャの通訳を聞きおわるとロウィーナはぼそりと言った。

 「星がどうのこうの、とか本気で言ってる奴にろくなのはいないわよ。こいつがその同類だったら最悪。地獄の悪魔と取引した連中のほうがまだ付き合ってて気持ちのいい相手だわ。よく知ってるあたしが言うんだから間違いないわよ」

 まぁ待ちなさい、とたしなめるスズランの声は、村の奥から響いてきたものすごい悲鳴にかき消された。起こるはずのないことに驚き怯えたような、そして酷く恨みがましいそれは紛れもない断末魔だった。悲鳴は次々と上がり、沼地に長々と尾を引き、そして消えた。

 一瞬の沈黙の後、村の奥に、いかにも禍々しい濁った青と緑の光の柱が立ちあがった。今のはなんだ、生贄の悲鳴じゃないのか、それとも生贄が足りなくて、そのあたりにいた身内もたたっ斬ったとか――と口々に言い交わすのに、ちょっと待て、様子を見てくるといってビエントとファイアスパーが村の奥に走りこんだ。その間にスズランとエミアスが村の入り口付近の様子を探る。
 確かに村は無人。そして、もうひとつ、スズランがおかしなことに気付いた。
 ――孵卵場に卵がひとつもない。

 これはどういうことだ、と言っているうちに泥の中からビエントが、そして木陰からファイアスパーがそれぞれ姿を現した。二人が口々に言うには、

 ――とんでもないものが出来上がっている。雲つくような巨大な木偶人形、その身体は泥や流木の寄せ集めだが、何やら蜥蜴人に似ていないこともない。確かに二本の足で立ち、全身から禍々しい光を発しながら歩いてくる。なりは大きいが動きは鈍く、足取りもおぼつかない。戦って戦えないこともないだろう、が、皆、どうだ、まだ戦えるか。

 「すまんが……1日1度の大技はもう使ってしまったんじゃよ。あんたがたがやるというならわしも頑張るが」

 エミアスが力なく言った。

 「いや、無理は良くない。俺も今日一日の大技は種切れだ。……“星の兵士”とやらを手に入れた奴らが目指しそうな場所と言って、心当たりはあるか?」
 「この集落に一番近いのはドンゴ村じゃの」
 「では、退いて、体勢を整えるべきでしょう。こんな足場の悪い場所でわざわざ戦うことはない。村に危険を近寄らせるのは心配ではあるが、ここで私たちが倒れてしまっては、却って連中の前に守り手のいない村を晒すことになる」
 「尤もだ、私もそう思う」

 そういいかわすうちに、村の奥からゆっくりと、だが確実に地響きが近づいてくる。

 「時間がない。行くぞ!」

 ファイアスパーがひと声叫ぶと、ロウィーナの尻尾から竜首人を引き剥がして一刀のもとに斬り捨てた。それを合図のように一行6人はドンゴ村目指して夕暮れの沼地を走り出した。


このシーンの裏側。

 えーと、ティーフリングの尻尾はものをつかんだりはできないとPHBに明記してありますが、これは〈威圧〉のエフェクトなのでいいことになっています。あ、つまりここでは機能してるのはロウィーナの〈威圧〉だけなのですね。どうやら言葉が通じなくても(ペナルティは来るけど)威圧は可能、ということなので。というわけで、威圧しつつ隣のアーニャがコミュニケーションを取る、と。

 そらそうと、尻尾で締め上げますこれは〈威圧〉の一環として許可を要求しますと言ったら「逆触手プレイだ〜♪」と大喜びしていた人はちょっと反省すべきだと思う。

 敵の本拠地に乗り込み、何だか訳のわからないものを拵えている現場を抑えたはいいのですが、ほとんどが[一日毎]パワーを使い切ってしまっており、しかも足場は悪い、土地勘はない。一方、向こうの巨大兵士の移動速度は極端に遅く、その足取りも実のところおぼつかないというので、これは沼と街道を渡って村までやってくるのに一晩掛かるだろう、その間にこっちは大休憩を取って仕切りなおそうということになりました。

 後は行きがけの駄賃に村を燃やして足止めするかとか言ってたのですが、まぁ、留守居の兵士を切ったのはしょうがないにしてもわざわざ村まで燃やして連中を激怒させることもあるまい、ということでそのまま退去。まぁ、皆持っているのが冒険者キットの中に入っている陽光棒ばっかりで、「いずれ火付けはやるだろうと思って」松明を持ってたのが一人だけだった、って理由もあるんですが。

 あ、でも火の元はやっぱり常備してないとですね。ほんとに(←本当か)


posted by たきのはら at 22:20| Comment(2) | TrackBack(0) | 猛き大陸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
前回ロウィーナ姐さんは、「何でティーフリングの尻尾はあんなに
立派なのに、戦闘で使えないのよー」と憤っておいででしたので、

ウルトラギャラクシー大怪獣バトルNEVER ENDING ODYSSEYとゆー
ウルトラ怪獣がポケモンバトル(大体あってる)という設定の番組に
でてくる、ゴモラの尾っぽ使いを見せ「ティーフリングのモンクが
そのうち4版で出たらこういうことできるよ…多分」となぐさめた
甲斐が……あったんだろうか(汗

いきいき威圧していたのでよろしいことです。
Posted by なおなみ at 2009年01月28日 21:08
ゴモラ尻尾はたいそう理想の尻尾使いでありました♪
おかげさまで堪能させていただきました^^
ついでにゴモラはお顔もちいちゃくて可愛らしくてよかったです。
あとはティーフリングのモンクがただただ待ち遠しいです……

そらそうと、技能とダイスの目から相手が威圧されているのは間違いないので、
フレーバーの部分だけでも尻尾を使えたのはたいそう幸せなのです。
早くWotCはティーフリングが尻尾を使えるようになる特技を出すといいと思うよ!!
Posted by たきのはら at 2009年01月28日 22:04
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