そういうことになり、全員で鼻を地面にすりつけんばかりにして朧な足取りを追った。ケナフがいればと誰かが言うたびに、いないもののことを言わず足跡を探せとファイアスパーが応じた。その甲斐があったかなかったかはともかくとして、一行はどうやら“星の兵士の心臓”を乗せたのであろう大きな木ぞりらしきものの後を見つけ出し、それが街道へと続いていくのを追った。おやこれは村に向かったかと思ううちに、そりの跡は街道を外れ、それでも追っていくうちに広大な湿地帯へとたどり着いてしまった。
ずぶずぶと柔らかすぎる地面に、そりの跡はもうない。
「さて、困ったのう」
エミアスが言った。なんでもこの先から南は魔神の沼と呼ばれて悪名高く、夜になれば怪火が燃え、霧の出たときに通りかかれば何者とも知れぬ巨大な人影を見ることも多いのだという。
「まぁ、街から来た連中は、沼からは燃える気体が出ることもある、それに人影は、霧の表に自分らの影がうつって揺らめくにすぎない、これだから田舎ものはと馬鹿にして言うんじゃがの」
やれやれ、と一行はため息をついた。魔神の沼はともかくとして、ただ葦が揺れるばかりの沼地に、この先何を当てにして進めばいいのやら。と、そのとき、スズランがぽん、と手を叩いた。
「エミアスのじいさま、確かこのあたりに蜥蜴人の村があったはず。特に交流もないが特に悪い関係でもない。彼らの村を訪ね、巨大なそりを押し引きした見慣れぬものを見なかったか聞いてみましょう。何、蜥蜴人とてこの地に暮らす同士、私がことを分けて話せばわかってくれるでしょう」
そうしてにっこりと笑う。確かにこの笑顔を見て心を開かぬものもそうはいまい。
というわけで、一行は、エミアスとスズランのおぼろな記憶を頼りに、果ては「こちらのほうが葦の生え方が密だから、蜥蜴人たちが村を作るならあの向こうに隠れ住むに違いない」などと言い合って、道があるわけでもない湿地帯を進んでいったのだった。
そんな道行きの割には沼地の中で途方にくれることもなく、日が西に傾き始めた頃、葦原の彼方に何やら集落らしきものがぼんやりと見えてきた。ありがたい、あれが目指す蜥蜴人の集落に違いない。ではまずスズランを先頭に村に入っていって、村長に話をしてみよう、彼らが何か見ていたとして、ただは教えてもくれなかろうから、この間の盗賊退治で手に入れた匂い袋なり怒り牙なり、それとも使い手のいない魔法のスリングを手土産に手渡すか。ちょっと惜しいがさっき手に入れた翡翠の宝玉を差し出してもいい――
そこまで相談をしたとき、ファイアスパーが急にはっとした顔をした。
「このあたりには、ほかに蜥蜴人だの何だの集落はあるのか?」
「いや、なかったと思うねえ」
「……諸君らが退治たその盗賊は、どれもこれも蜥蜴の係累だったのだろう? まさかとは思うが、その連中の根城がこの村だったりは……」
いやまさか、そんな間抜けなことは、と誰かが言いかけたとき、それはあり得る、とビエントが言った。
「蜥蜴人は群を作り、その群を率いるものを爬虫王と呼ぶ。この爬虫王は蜥蜴人とは限らず、強力な竜種――つまり蜥蜴人の係累がその座に収まっていることもある。さらに、蜥蜴人の本性は悪とは限らない。が、彼らの中には人を喰う習慣のあるものもいる。この村の連中がどうだかは知らぬが……」
「ビエント、とりあえずあんたの着てるその外套、裏ッ返しにするかなんかしたほうがいいかもね」
最後まで言い終わらないうちにロウィーナがさえぎった。確かにビエントが今まとっている魔法の外套は、オベリスクの遺跡にいた盗賊の頭領、ひときわ身体の大きい竜首人が身につけていたものだったのだ。
しまった、俺たちはのこのこと敵の本拠地に来てしまったのかもしれん、万が一そうだった場合、どうやってしらを切りとおすか――
が、相談している暇はなかった。
村の前から動こうとしない見知らぬ連中を不審に思ったのか、集落の中から蜥蜴人たちが姿を現した。
危惧したとおりの間抜な状況である可能性は、どうやら随分と高そうだった。
村の門から出てきたのは、蜥蜴人の兵士にどうやら番犬代わりらしい万力顎の大鰐、そして見忘れようもない、緑色の小型の竜首人。
このシーンの裏側。
敵の本拠地に、普通に交渉して情報を貰うつもりでのこのこと乗り込んでしまいました。いやもう、なんで気付かなかったのか、今考えてもちょっと想像も付きません。村に入る直前に、どうやって交渉して情報貰おうか、と相談を始めてようやく
「……俺たち、ひょっとして敵の本拠地に乗り込んでない?」
「そしたら、戦利品つかって交渉とかできないよね? 『うわあこれはジャックの使っていたスリング!』とかいうことに……」
「まずい、そりゃ拙い。でもまぁ、遺跡では私たちの顔見た連中は全員死んでるから、面が割れてはいないよね?」
「……それで大丈夫ってのは無理があるぞー^^;;;」
ってなことに。
あと、レンジャーのいない状態で魔神の沼に踏み込むのは結構な冒険だった気が。このあたりは技能チャレンジで、リザードフォークの村について聞きかじったことはないかとか、リザードフォークの住んでいそうな地形について何か知識はないかとかいろいろ知恵を絞って判定をしてたように思います。こうなるとほとんど〈自然〉での判定になっちゃうんですが、技能を持っている人は限られているので、今回は“アイデアは全員で出すけど判定は技能を持っている人だけがやる”でもOKということになりました。RP的にはたぶん、みんなの思いつきを、技能を持っている人が実行して試してみる、という感じかな。
技能チャレンジについては、今までロールプレイしつつ自発的に判定をさせてもらってたところにガイドがついた、という扱いなのかも。わりと融通無碍な感じです、とのことなので。
そらそうと、オボロゲな記憶と動物的な勘と“リザードフォークはこういうところに住むのでこっちに行けばいい”で沼地に踏み込むってのは……危なっかしいのかカッコいいのか。レンジャーがいるとカッコいい感じになるんだろうけど、今回は何となく迷子ギリギリのところを上手いことたどり着けたような気がしてるんですが……
これはあれか。「すみません、〈自然〉の技能0なんで、援護に回っていいですか? ……そらそうと、援護で失敗するとどういう扱いに?」「うん、道を探すのを手伝おうとして谷地坊主に嵌ります」とか言われたせいか^^;;;
「村と対立はしていない」というか「交流はない」
というDMからの情報から、じゃあ一応中立状態だろうから交渉で
情報もらえるかなーという事だったと思うけど。
リザートフォークの習性をちゃんと調べようと思ったのは、ホントよかった。
沼地での集落を見つけるのくだりは結構無理したようなきもしますが、
技能チャレンジって“何々がないとダメ”ってのが減っていいなあと
思うんですよ。
3版だったら、レンジャーなりローグなりがいない状態では沼地をなんとなく
進むぜーってやらないと思うんだけど、技能チャレンジで意見を出し合って
問題を解決していくのって、ちょっとした達成感もあるし、PLが意見を言うことで
他の場面でも発言しやすくなるんじゃないかなーと。
そうだ、そうだった>のこのこ入っちゃった理由
それにしても、リザードフォークの習性を調べるまで、本当に
“彼らが中立である”ことに対して疑わなかったよなー、とレポ書いてて思ったことでした。
技能チャレンジの件は私もそう思う。
技能があまりにもないとやっぱりダメなんだけど、
自分の考えたことを区分の大きい技能に当てはめられれば
きちんとルールに従って有効な判定ができるのが楽しいよね。
“その判定は○○だからここではできる人いないよね”で詰み、ってのがないし
口プロレスでなんとか凌いだけど本当に有効なのかよくわからない、ってのでもなく
“誰でもきちんと無理ができる”感が気に入ってます。
……以前なら私の顔見ただけでDMに
「沼地をなんとなく進む……君は迷うんじゃない?」
って言われてたところだ(←微妙に根に持ってる^^;;;)
どれだけ切実かというのは教えないとフェアじゃなかったですね。このあたりの運用手順は要検討。
うーん、まぁ、星の戦士(ところで“星の戦士”と“星の兵士”とどっち? 私のメモでもごっちゃになってるので、先に出てきたほうで統一してます)の一件は、集落の入り口につくまで、ここが黒幕の可能性があるとか(何故か)思わなかったわけで……
そして話の流れ上、それも仕方ない気がするとか、とりあえず失敗すると帰れないくらい道に迷うんじゃないかとかは思ってたわけだし。
どうなんだろうなぁ。そのへんの切実さは、遊んで失敗の経験を一度やらかしてみないと、卓の上に置かれた“失敗”のチップがどれだけ怖いものなのかってのはわからない、のかも。
実のところ、崖から落ちてダメージとか毒キノコに当たってダメージとかはあったけど、最終的に技能チャレンジで失敗したことないしなぁ。