2009年01月25日

『石の心臓』その1:黄昏の軍学者

 「――そのようなわけだから、ファイアスパー殿。ここからさらに南下した大陸で、入植者たちの民兵組織の指揮指導をお願いしたいのだ」

 竜都の港から南下して数日、かつては“帳”の中に封じられていた海域に浮かぶ小島、ガランティア島でのこと。海を望む小高い丘の上に建つ、海神“潮風の”ガニラウの神殿で、司祭アーチバルトは傍らに佇むエラドリンの士官にそう告げた。

 「それは願ってもないこと。暗黒大陸と呼ばれるあの大陸には、かつて我々の一族が住みなし、相当の隆盛を誇っていたと伝えられている。南の“獣”の支配下に入るまでは……
 が、それが再び我らの目の前に姿を現わしたのだ。我が父祖の残した足跡を辿り、失われた知識に再び命を与えることこそが我が一族の望み、そして私の望みでもある。そのための足がかりを得られることになるのであれば――」
 「ありがたい。ではさっそく、村長へ紹介状を書こう。ここから船に乗れば、ハラ=ジュゴルという港町に着く。行っていただきたいのは、そこから馬車で1日行った場所のドンゴという村だ。町と村をつなぐキャラバンは定期的に出ているから、彼らと一緒に行くと良い」
 「お心遣い、いたみいる。本国にて習い覚えた我が白鴉の軍学、必ずや役に立つことと――」

 かくして、一見もの思わしげな風貌のエラドリンの士官は船で南を目指した。


 そして一方、ドンゴ村では。
 街道の安全を確保するための野竜掃討のはずが、ひょんなことから謎の遺跡発見、そして竜首の盗賊団と殴りあう羽目になってしまった一行、何をしているかというと――なんとなく村の集会所にたむろしていた。
 冗談じゃねえこんな田舎に収まっていられるか、と最初は呆れたりいきまいたりしていたものの、住む場所と食べるものとできることがあって、それなりに頼られるともなれば居心地がいいわけである。最初に「報酬として家を用意した」と言われたときには真っ先に抗議の声を上げたはずのケナフにいたっては、実は一番熱心に村の周囲の警戒に当たっていたりした。どうやらまんまと村長の思う壺にはまったのかもしれないが――。

 そこへ、にわかに表が騒がしくなった。といっても嫌な騒ぎではない。食料はあるか、だの、板金は持ってきてくれたんだろうな、だの、手紙は届いてますか、だのの声からすると、町からの定期便の到着だろう。

 「おや、今回は護衛がひとりだけだ。今日来たのはよっぽど凄腕なんだな」

 スズランがちらりと窓の外を見てつぶやいた。
 そうしばらくもしないうちに、その“凄腕”氏は、村長と一緒に集会所に入ってきた。うへぇ、とスズランはらしからぬ声を上げかけた。入ってきたのはひと目でわかる、エラドリンの士官だった。士官なら一人で充分だな。荷主や馬番だってあの手の士官がひとりいれば半人前ぐらいには戦える。しかし――エラドリンか――。

 「いや、先生、よくいらして下さいました。おかげでうちの村も随分と安心してやっていけます。この村で民兵として戦えるのは今のところ10人ほど。これに週に1度ほど、武器の扱いや戦う際の動き方などを教えていただきたく……」
 「承知した。週に1度といわず、武器の扱いを知りたいものはいつでも私のところに来てくれれば教えよう。あれは習うよりまずは慣れるものでもある」
 「ありがたい、助かります。先生の家はもう用意してあります。身の回りの世話をするものも二人ほどつけましょう」
 「うむわかった。それで、私の指揮下に入るのは彼らか?」

 エラドリン士官――ファイアスパーはそう言って集会所の奥にいる人影を顎でしゃくった。その先にいるのはもちろんスズランやビエント、アーニャたちである。

 「いや、あの人たちは民兵なんてものじゃなく、村の用心棒です。でも改めてご紹介しましょう。というわけで……」
 「うむわかった。ではビールを要求する!」

 ファイアスパーはきっぱりと言い切った。いぶかしげな顔をする村長の前で、再度繰り返しさえした。

 「ビールを要求する!」
 「ワインを要求する!」
 「ラム酒を要求する!」

 どうやらわざわざ“紹介する”必要はなさそうだった。ファイアスパーの声に答えるようにスズランが、そしてビエントが歩み寄ってきた。つまりは同種の人間――いや、人間は一人もいないのだが――ということらしい。

 そして。

 「りんごを要求する!」

 止めのようにエミアスがにっこり笑って言った。じいさま、りんご酒で勘弁してください、ここじゃあ北の果物は貴重品ですよう、と村長はなさけない声を出した。エルフだの精霊だのの流儀というのは――時として、随分やっかいなシロモノにもなるのだった。

このシーンの裏側。

 ガランティア島(最初調べたらガルガンディアと出てきたのですが、正式名称はガランティアだったそうです)は、以前の“南海キャンペーン”(南海諸島を船でめぐる、海洋冒険ものキャンペーンだったそうです……って、伝聞系なのは、当時私は海の向こうに島流しになっててキャンペーン掲示板を覗き見るか電話のついでに様子を聞くしか情報がなかったためです)のPCたちの出身地。アーチバルトは当時のPCで、海神ガニラウのクレリックでした。
 なんでも、神様の好む武器はトライデントなのに、キャンペーン中に“神の武器”として出てきたものが+7ファルシオンだったので、教義的矛盾に今でも悩みつつ日々を送っているらしい。

 とりあえずここで重要なのは、いずれレベルが上がったときにガランティア島に行けば、+7ファルシオンがある、ってことなんですが……そらそうと、4版現状では魔法のアイテムのプラスの値の上限は、現在+6なんですが……(←版上げによって出てきた世界の矛盾その1、って感じで^^;;;)

 ファイアスパーPLはつい最近『折れた魔剣』を読み返したそうで、というわけでファイアスパーは“トールキン的にもたぶん由緒正しい、絶叫する北欧エルフ”だそうです。エラドリン的立場から言うと「われらはただ剣を掲げ叫びつつ切り込むのみ、策などを弄するようになってしまって堕落した森の民とは違うのだ」らしい。

 というわけで、うちの卓にはトールキンのハイエルフ的エラドリン(たぶん間違ってない)とシェイクスピアの“妖精”的エルフ(たぶん間違ってない。たぶん)、そして麗しきハーフエルフがひととおり揃っているようです。そしてエラドリン氏はハーフエルフを“何かかわいそうなものでも見る目で”見てるとか……

 「ビールを要求する!」のくだりは、ええと、エルフやエラドリンや精霊というものはそういう存在らしいです。


posted by たきのはら at 10:20| Comment(2) | TrackBack(0) | 猛き大陸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 えーと、当時の資料をみたところ、島の名前はガランティア島でした。多分あちこちでなまって伝わってたんでしょう。+7ファルシオンって言うのは3.5当時のアーティファクトだったからですね。4版でもアーティファクトはあるんですが、もうちょっと扱いやすいアイテムになってるようなので再デザインします。いざとなったらそうした宝があると言うことで。
 現時点で地図情報が少なすぎるから、みんなドンゴ村にたむろってますね。他の集落とかあったらそちらに行ったりもするのだろうけど。早くデザインしよう。
Posted by D16 at 2009年01月29日 11:57
>D16氏

すみません、どうもSeeSaaは反応が鈍くて、コメントの反映が遅れることがありまして……
とりあえず重複したものは削除しておきました。

そして+7ファルシオンについては、いずれガランティア島にそうした宝を取りに行くことがあったら「おかしい、史書の記述と違う」「古語の解釈はいろいろあるからな」ということになるんだろーなー、と。いや、そのへんも割と楽しみなんですが。

そしてたしかに今のとこ、ハラ=ジュゴルとドンゴ村しか拠点になるところがない点と線状況ですよね^^;;; うっかり出歩くと周囲は緑の地獄かもだし。というわけで地図情報はもらえるとありがたいですー。昔の神様情報とかの整理はこちらでやってお伺い立てるようにするんで、新しい大地の提示はどうぞよろしくですm(_ _)m
Posted by たきのはら at 2009年01月29日 13:30
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