2010年06月27日

『11月のギムナジウム』目次

 だいぶ前に……というか、もう10年以上も前に遊んだV:tMのレポートで、途中で止まったきりなのですが、置いていたサイトがなんだか消滅しそうなので、こちらに引っ越してきました。

 当時はまだ少女趣味を隠さない人間だったので(今は隠す以前にだいぶ擦り切れてしまってるとかなんとか)一部痛々しい部分もありますが、そのあたりはどうぞ寛大にスルーしてやってくださいませ。

 遊んだのは当時の大学のSF研のメンツで、STはこうりゅさん、PLはでんこうじさん、はふりさん、すみおかさん、福島諒弥さん、神無月まことさん、たきのはらの6名でした。

『11月のギムナジウム』

前口上

キャスト紹介:
顧問官あるいはゴッドファーザー
革命家
赤狼
移動遊園地の少女
歌姫〜インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア
署名なき画家
NPCおよび氏族概説

The First Night〜ギムナジウム〜:
その1
その2
その3
その4

The Second Night〜黄昏の客人〜:
その1
その2
その3
その4
その5
その6
その7
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The Second Night〜黄昏の客人〜:その7

 話が決まってしまえば、あとは次の夜を待つだけ。
 ならば、本来の目的に戻ろう。公演前にレパートリーをさらって、場合によっては編曲も考えなくては。
 少し遅いけれど窓を締めきっておけば声を出しても大丈夫よね、と、音楽室に向かおうとしたレダの袖を、アルラがこっそりと引いた。
 「……ごめんなさい、でも……どうしよう。血が、足りないみたいなの。さっきから……」
 小さな口元から、ちらりと牙が覗いて、引っ込んだ。
 闇を生きるようになってから、ヴァンパイアはひたすらに血を求めるだけの獣を一頭、体の中に住まわせることになる。血が足りなくなれば、飢えた獣はざわざわと蠢きだし、ついには理性の手綱を振りきって、狂う。
 「昨日も……ろくに……それに怪我もしたし……あたし……」
 「……わかったわ。狩りに、行きましょう」
 蠢き出した獣ゆえの恐怖にか、うっすらと涙まで浮かべているアルラに、レダはきっぱりと云った。
 「髪を染めるの。黒じゃなくて、赤でも黄色でもいいわ。それからお化粧をして。服はこれを着て」
 黒革のミニドレスを渡す。
 「……似合わないわ」
 「化粧で、似合わせるの」
 云いながら、自分も普段のドレス姿からはおよそ想像もつかない胸元のあいたパンツスーツに着替え、派手な付け毛を混ぜて髪を結い上げ、カラーコンタクトを入れる。
 「……着替えたら、出かけるわ」
 「どこへ?」
 答えなかった。
アルラを抱えるようにして車に乗り込み、アクセルを踏んだ。

 着いたのは場末のクラブ。昨晩とはおよそ客層も違う。
 「手を伸ばしてくる奴の、顔は見ずに牙を使いなさい。何も考えちゃ駄目。引き上げるときにはわたくしが全部とりはからうから」
 アルラの耳にささやき、それから澄ました笑顔を作る。昨夜と同じように、戯言の応酬。調律の悪いピアノにたどりつき、弾き始める。昨夜と同じ曲。でも、キィは3つばかり低い。昨日と同じ曲。昨日と違う声。掠れた……ささやくような声。
 誰かが後ろから腕を絡めてくる。目でちらりと店内の様子を確認する。絡み付くような視線とぶつかる……もう、大丈夫。何人から血を吸ったとしても、酒と音楽がすべてを紛らせてしまう。

 帰りの車の中では、二人とも無言だった。
 「……少なくとも、いくらお腹がすいたっていっても……遊園地の団員さんからは血を吸わずにすんだんだし……」
 「それでいいのよ。気分悪かったら、窓にもたれて風にあたってなさいな。安酒混じりの血だったから……悪酔いするかも」
 あなたは悪くないわ。怖い思いさせて、ごめんなさいね。そうささやいて、微笑む。アルラが眠り込むまで、低く子守唄を口ずさむ。それから……黙り込む。
 アルラがものかげに引きずり込まれそうになったのを潮に、あんたたちやることが全然クールじゃないわと喚きたて、しつこく絡み付いてきた男の横面をひとつひっぱたいて車に飛び乗ったのだ。当然、気分は、よくない。
 「……でも、そうするしか、生きていけないんだもの」
 いいわけのように呟いて、それからレダは唇を噛んだ。
 自分の心臓がもう打ってはいないことを思い出すのは、決まってこんなときなのだった。

 人殺しをせず、証拠を残さず、そして狩りをしようとすると娘達はどうしてもこういう手段をとることになりますが……それはそれとして、以後、レダの通常の食餌ではない流し(?)の狩としてこの方法をとる場合は「覚悟するように(マスター談)」と通告されてしまいました。次やったら「人間性」に響くかも、だそうです。まぁ、わりと当然かも。ちなみにこのシーンの処理は、より人間性の値の高いアルラが当然感じるべき罪悪感をレダのなぐさめでごまかし、人間性の値の低いレダのほうがチェックをロールする、という形に。


「……ふむ」
 その夜、ミュンヘンの公子たるハンスリック・ハルトマンは甚だ不機嫌だった。
 執行官リリスからの連絡。
 ローテンフライト校の騒ぎ。
 その現地からの報告の内容。
 レオポルト協会という名前。
 どれも、心にひっかかることばかりだ。
 ――非力を自覚している人間どもの罠にしては、つくりが粗雑に過ぎる。しかも場所がギムナジウムだと? なぜわざわざそんな場所で騒ぎを起こす?

 加えて言えば、レオポルト協会絡みであることが判明したというのに、配下どもの対応があまりに暢気すぎることも気になった。
 ――連中がどうやって我らの存在を嗅ぎ出し狩り出すと思っているのだ? 容疑者と見たら徹底的に追跡調査、それしか無かろう。ヴァンパイア騒ぎの渦中の学校に唐突に訪れた訪問者たち、この状況でどうして疑われないと思える? 奴らのやり口について、ヴァラーシュタインあたりにもう少し教え込んでおくべきだったか

 人間社会で暮らすヴァンパイアたるもの、叩けば埃はいくらでも出る。集中的に経歴や生活習慣を調べられれば、秘密を完璧に隠しおおす方が難しい。
 ――いずれにしても、司祭級が来ているとなれば面倒だな。配下をどこかに伏せていれば遠からず動きを見せるだろうし、もし仮に本当に単身であるのなら
 それは真に恐るべき敵の出現を意味する。力において遙かに劣るはずだった人間に不死の命を脅かされたことは、長い長い年月の中で一度や二度ではないのだ。

 ――あるいは近い将来、久方ぶりの出陣となるやも知れぬな
 公子は革張りのソファにどっかと腰を下ろした。さらにしばらく考え込み――やがて、口の端だけが、ほんのわずかに笑いの形に曲がった。
 ――それはそれで、面白くなりそうだ

to be continued
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The Second Night〜黄昏の客人〜:その6

 12時になると同時に、ぴったりと閉じていた礼拝堂の扉が微かにきしみながら開いた。
 まずボロシノヴィッチが踏み込み、そしてヴァラーシュタインの車椅子を押したレダとその隣にアルラ。その後ろをルネが守る。赤狼はどこかから見張っているはずだ。
 「約束通り、お訪ねしましたわ」
 レダの声に答えるように、説教壇の脇に立っていた小柄な影が揺れた。
 「僕の聖地へようこそ」
 入口脇の燭台の微かな明かりの中に下りて来たのは、ローテンフライト校の制服姿の、小柄な金髪の少年だった。
 「この学校の最上級生として皆さんを歓迎します」
 型通りに言葉を述べつつ、その少年の視線ははゆっくり皆の上を見回し、アルラとレダのところでわずかに鋭くなって止まった。
 「……やはり同族ね、あなた。お名前を聞かせてもらえるかしら?」
 「エーリヒ・シュタイナー」
 短い答の後に、
 「この学校の一期生として入学して、それ以来、ここにいる」
 「……だから、上級生なの?……手紙をくれたのは、あなたね?」
 「そう、クルト君に頼んで、届けてもらった」
 「クルト君……彼、貴方のこと、知っているの?」
 「知っているよ。でも、知らない」
 そう云って、エーリッヒは薄く笑った。
 「彼は、伝令役だから」
 「……どういう、ことなの?」

 僕は、ずっとずっと昔からこの学校にいる。
 僕が死んだのは、この学校ができる少し前。死んだまま生きるのは……寂しかった。でもこの学校を創ったケーベルさんは年をとらない子供の僕にとても優しくしてくれて、生きている皆と一緒にこの学校に入学させてくれた。
 決して卒業することのない生徒として。
 古い古い先輩として。
 だから僕は、それからずっとこの学校を見守っている。ここの学校がうまく発展し、生徒たちが皆笑顔で卒業していくように。一時の過ちで道を踏み外して、悲しむ者がいなくなるように。
 ……でも、誰にも気付かれないのは寂しいから、僕はたまに生徒たちの視界の隅を横切る。そして、僕のことは噂になる。学校の精霊とか、でなければ幽霊とかね。噂をした生徒達は、やがてここを出ていく。でも僕はここからどこにも行けない。ただ、ここにいるだけだ。……そして、待っているんだ。
 黄昏時、かつて幼い頃をすごした場所と、そこにまつわる空気を思い出して、誰かが訪ねてきてくれるのを。
 だから、黄昏時、この学校の門は誰に対しても開かれている。
 それが僕の意思だから。
 ……ね、だから君たちも迎え入れた。僕と同じ、黄昏に住む君たちも。

 「この学校が……あなたの世界なのね」
 レダが云った。
 「そう。歴代の校長は、代替わりの度に僕の秘密を受け継ぐ。そして、生徒たちの中に僕を隠してくれる」
 確かに、第一回の入学生だと言うのに、今彼が着ている制服は現在のデザインのものである。これなら生徒にまぎれていても気付かれることはないだろう。
 「僕は何もしない。ただずっと、ここにいるだけだから。だから放っておいて欲しい」
 「でも、ここがあなたの世界だとしても、あなたはやりすぎたわ。生徒の首筋に歯型をつけて転がしておくなんて」
 「……何だって?」
 エーリッヒは不審そうな顔になった。レダが示した記事を読み、
 「これは、僕じゃない。……それに、この学校には僕以外に、ああ、今は僕と君たち以外に、だけど、ヴァンパイアはいないよ。とすると、これは……校長先生に聞いてみたほうがいいのかな」
 「校長。だが、校長は不在だそうだが……」
 ボロシノヴィッチの呟きに、今度こそエーリッヒは眉を顰めた。
 「そんな。何かあったらいつだって知らせてくれるのに」
 「……校長室に、行ってみたほうがいいのではないですかな」
 ヴァラーシュタインが低く云った。

 校長室は鍵がかかっていた。エーリッヒは当然のようにポケットから鍵束を取り出し、扉を開けた。通路、制服、鍵束。確かに彼はこの学校の中で自由に振舞うことを保証されているようだった。
 机の上には書類が広げられ、つい今しがたまで作業をしていたものが大慌てで立ち去ったような気配だった。
 「……嫌なものを思い出した。国では、こんな風にいなくなる奴が多かった」
 ボロシノヴィッチがぼそりと云った。
 「その……いなくなった奴は、どこに行くの?上?下?右?左?」
 「あちこちに行く。戻ってくる奴は、稀だ」
 娘達が小さな悲鳴を上げた。
 「黙っていていただけませんか。今……ペンの記憶を」
 ルネの声が、わずかにうわずっている。そのうち、小さく舌打ちをしてペンを置き、今度は電話の受話器に指を滑らせた。
 「何か……ありましたかな?」
 車椅子を寄せながら、ヴァラーシュタインが訊ねた。
 「ええ。……校長は……おそらく校長でしょうが……何か書き物をしているうちに、一本の電話を受けました。それを聞いているうちに、顔色を変え、ペンも受話器も放り出して行ったようです。そこで、受話器を通った声の記憶を聞きました。すると……」
 少し言いよどみ、
 「はっきりとは聞き取れなかったのですが……調査、とか、キリスト教徒なら、とかいう相当にとがった声が。校長は答えさせてももらえなかった。電話は一方的に切れ、そこで記憶は途切れています」 
 「魔狩人気取りが!」
 ルネの言葉が切れるや否や、吐き捨てるようにヴァラーシュタインがうめいた。
 「気取りならまだいいけれど……その声の主は、ひょっとしたら新しい司教さんかもしれないわ。今日、ひどく鋭い目で睨まれて……そこにいるだけで恐ろしく居心地が悪くて。パウル・クレンペラーとかいう名前だったけれど……」
 「パウル・クレンペラー……ひょっとしてあのパウル君が!?」
 掠れ声で叫んだのはエーリッヒだった。
 「知っているの?」
 「もしそれが僕の知っているパウル君だとすれば。
 ……彼は……伝令役、だったんだ……」

 僕は、昼は出歩けない。だから、僕に昼間の出来事を教えてくれる誰かがほしいと思った。自分では知らないうちに、僕を助けてくれる誰かが。幸い、毎年入ってくる生徒の中には、ちょうどいい具合に好奇心旺盛で、そしてたいした悪さはしない、というような子がいるもので、そういう子が僕の伝令役になった。彼らは、小柄な上級生から何か頼まれごとをしたり、好奇心に任せてあちこち首をつっこんでまわっているうちに、何か不思議なものを見たりする。……でも、みんな彼のことを変わり者だと思っているから、不思議は不思議のまま、特に騒ぎにもならない。それに、ほら、ちょうど今みたいに、外から来た客人が何かを調べようとするなら、一人だけ変わった子が居るなんて聞いたらちょっと様子を見てみようって思うかも知れない。そういう意味でも、伝令役というのは必要だったんだ。
 ……上手にごまかしてきたつもりなのに。ああ、でも、パウル君は昔から勉強も熱心だったし、真面目に信仰もしていた。伝令役としては、「変わって」いたんだ。でも。まさかこうなるとは……

 「こうなってしまったものは仕方がないだろう。……待て、少し彼の素性を探ってみるか」
 ボロシノヴィッチはいいながら、ポケットから携帯電話を取りだし、彼の上司である執行官を呼び出した。話すこと数分。ボロシノヴィッチの応答は段々に陰にこもってきて……
 「パウル・クレンペラーの素性がわかった。ミュンヘン出身、神学校を主席で卒業、ヴァチカンで位階を受けたが成績の割には大した位階ではないというのが不思議。それもそのはず、実はヴァチカンの実行部隊、レオポルト協会の先鋭だそうだ。今まではイタリアのラソンブラたちをずいぶん締め上げていたようだが」
 「とすると、非常にただならぬ推論が導かれますが」
 ヴァラーシュタインの顔は最大限に歪んでいた。
 「つまり、この(ここまで云って彼は唾を吐いた)真の信仰(そしてもう一度唾を吐いた)を持つ男は、自分の学生時代をろくでもない方法で思い出し、たいそう無粋なことに、この『学校の精霊』君を滅ぼすべきだと考えたのですな。そして……この学校にエーリッヒ君以外に血族がいないとすると、つまりあのヴァンパイアの歯型は人間の仕業であり、そこまでしてこの学校でヴァンパイア退治を演じたいと」
 「演じさせてやりませんこと、なら」
 レダが、凍りつくような笑みを浮かべていた。
 「演じさせればよろしいのよ。わたくしたちにいいように騙されて、竈の灰でも握って帰るがいいわ。……無粋な人間は、わたくし、嫌い」
 「いや、騙して帰すのがそれは一番の上策ですが、それはどうやって」
 「ヴァンパイアを名乗る娘の舞台に、本物のヴァンパイアが現れるの。そして炎の中で偽りのヴァンパイアを襲う。『ヴァンパイア娘』は司教様に助けを求めるわ。これは演技じゃないの、お願い舞台を止めて、あたしを助けて、と。司教が舞台に駆け上がろうとしても詰めかけた生徒たちで身動きが取れない。彼はどうするかしら。銃はまさか使わないわよね。銀の十字架、白木の杭……それが本物のヴァンパイアに当って、それは崩れ落ちる。残るのは灰が一掴み。何かがおかしい、と生徒たちが浮き足立ったとき、炎は消え、舞台の上は一面の白。そして、救われたヴァンパイア娘は神に召され、結局演出が派手になったのだということになって、おしまい。でも、ここにヴァンパイアがいることを知っている司教様は、満足してお帰りになるの。……どう?」
 「その、本物のヴァンパイアは?」
 「……幻よ。すぐに炎に紛れる。でも、声は聞こえる。あたしが『飛ばし』た、もうひとつの声が喋るの」
 「……危険だ……が」
 「わたくしは、やりますわ。協力さえいただければ」
 ヴァラーシュタインは一瞬考えこんだが、仕方なさそうにうなずいた。
 「わかりました。ひとつめの作戦はそれでいきましょう。それが駄目だったら、うちの子会社のそのまた子会社の末端あたりから、その司教様に献金をさせ、うまくいいつくろってミュンヘンからおひきとり願う。それが駄目なら、最後の手を使う」
 「最後の……?」
 「醜聞、ですよ。何、身辺整理のできておらぬ司祭は多いものでしてな。たとえそれが誤解であったにしろ、司祭というのは人に信用されなくなっては立ち行かぬ。神の教えを説く振りをして若い男女を誑し込んでいると噂が立てばミュンヘンには居られますまい」
 そこまで云うと、ヴァラーシュタインは言葉を切り、そしてそろそろ公子様に連絡するころあいではありませぬかな、と云った。
 「レオポルト協会が出てきたとあっては、こちらだけで事を進めるわけにもいかなくなりました。それに、エーリッヒ君のことも……」
 「嫌だ」
 エーリッヒが叫んだ。
 「僕は、この学校しか居場所がない。ここより他の場所なんて知らないし、行きたくもない。それに……カマリリャだろうがサバトだろうが、僕とは無関係だ」
 「そういうわけにはいかないわ」
 アルラが慰めるように云った。
 「あたしたち、もう、誰かがこの学校にいるらしいって、公子さまに申し上げてしまった。だから……遅かれ早かれ、あなたのことは云わなきゃいけないわ。それに、こんな騒ぎが起きたら、誰だってこの学校に何かがあるって思う……」
 「……それじゃあ、せめて」
 泣きそうな声だった。
 「パウル君が僕に手を触れることなく行ってしまったなら。そしたら、僕は……公子さまに挨拶に行く。パウル君が僕を滅ぼしたら……そしたら、それは運命だ」
 それじゃ、と云ってエーリッヒは文字通り影の中に消えた。
 「……まずいことをしたかな」
 ボロシノヴィッチが呟いた。
 「パウル・クレンペラーは……我々にとっては敵だが、彼にとっては……」
 「永遠を生きるとは、そういうものですよ」
 ヴァラーシュタインが誰にともなく云った。
 心なしか、苦い声だった。

 というわけで、いきなりあからさまに悪意のある敵が登場。しかしPC達は全員「異常な存在を気付かれてはならない」ものなので、物理的にぶっちらばるわけにもいかず、したがってこういう搦め手で行くことになる。自分達が力を持っていようといまいととりあえずヒーローではないことに気付く一瞬、て奴。ちなみにレオポルト協会とは公式設定にあるヴァンパイア殲滅組織・現代の魔女狩り部隊である。公式設定ではヴァチカンとの連携はないことになっているが、今回のキャンペーンではヴァチカンはとっくにヴァンパイアの実在に気付いており、しかしそれを公にするわけにもいかないので裏でレオポルト協会を支援していることになっている。まぁ、裏だろうが表だろうが支援していれば、ヴァンパイア側から云えば「レオポルト協会=ヴァチカンの実行部隊」に違いあるまい。
 ちなみにパウル・クレンペラー氏がこれまでカマリリャから注意を払われていなかったのは、彼のこれまでの目標がもっぱらカマリリャの敵対組織であるサバトの重鎮・ラソンブラ氏族であったかららしい。今回もミュンヘンにあるヴァンパイア組織を潰しに来たわけではなく、「自分が卒業した学校に悪しき存在が確かにいたらしいのでそれを退治しに来た」といったところであり、ミュンヘンのカマリリャは実は彼の知識には入っていないだろうというのが今回のPCの意見の一致したところ。
 しかし、公子への報告は、(エーリッヒ君の所在を知らせずに行ったため)、レオポルト協会がミュンヘンの「掃討」を行うためにギムナジウムでヴァンパイア騒ぎを自ら起こし、陽動作戦をしかけてきたものらしい、というものに微妙に曲げられている。……本来ならばクレンペラー氏の目的はエーリッヒ君であり、PCが危険にさらされるとすればそれはヘタを売った結果行きがけの駄賃にやられるというようなものであるはず、なのだが。

posted by たきのはら at 20:35| Comment(0) | TrackBack(0) | VAMPIRE:The Masquerade | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

The Second Night〜黄昏の客人〜:その5

 小洒落たクラブの戸を開けた瞬間、レダの顔からさっきまでの不機嫌は嘘のようにかききえた。
 「おや、いつもと取り巻きが違うね」
 「そ、今度のライヴのスタッフ。たまには違う面子で遊ぶのもいいかなと思って。……あ、この子、あたしの妹分。あたしと一緒でヴァンパイアだから噛みついちゃだめよ」
 「ヴァンパイアだから噛みついちゃだめって……そりゃ逆だろ」
 軽い調子で言葉と挨拶代わりのキスと笑顔を交わしながら奥へ進む。馴染みのピアニストが弾いている曲に合わせて、少し歌う。次、替わろうか?と誰かが尋ねる。あ、それじゃ久々に騒ごうかな、意味ありげな流し目で、笑う。
 ――並みの騒ぎじゃ、駄目よね。わたくしだけが血を吸えればいいわけじゃないし。
 鍵盤に指を滑らせる。唇から……毒を含んだ、蜜の声。
 
 誰かが袖を引いたので、そっと曲を終わらせた。振り向くと、餌食候補者ではなくアルラが青ざめた顔で立ち尽くしていた。
 「レダ……あの……」
 店内を見まわし、レダは選曲が不適切――少なくとも百数十年を13歳の少女として生きてきたアルラにとっては全く不適切であったことを一瞬で悟った。
 「ごめんなさい。……出ましょう。車の中で他の人達を待てばいいわ」
 店を出るときに、曲に酔ったらしいマスターと挨拶にしては念の入ったキスを交わし、少しばかり血を吸った。マスターまで酔わせるとは、確かにやりすぎたようだった。車に戻ると、ルネがとがめるような目で一瞬レダを見、そして視線を逸らせた。

 だから、レダの運転は行きも帰りも不機嫌に任せた乱暴なものとなった。

 ここでも『恋歌』を使用。いかにもゴシックメタル、といった背徳的な歌を歌うと宣言。6成功。……店内あっさりと背徳の宴状態。というわけで赤狼・ボロシノヴィッチのお二方はどさくさに紛れて食餌をし、しかし女性二人のほうはブラッドポイント決定の為に振ったダイスの目が腐りきっててこんなことに……。ルネ氏はこのような手段での吸血はプライドが許さなかったようでここでは食餌せず。確かに彼の信条には著しく反していそうです。そうはいってもレダとしても食餌の方法はこれが一番確実で安全かつ彼女の倫理規範(一応あるらしい)には触れないわけで。今後の二人の反目はどうなることやら。

でも、あとでよくよく考えてみたら、何もあんなとんでもないものを歌わなくてもイタリアオペラのベタな歌詞だって充分適用できたはず……セッションを下品に落とさないためにはプレイヤーの音楽知識がまだまだ足りないみたいです。ふぅ。
 しかしゴシックメタルって楽曲自体はよくても訳詞だけ見るとなんであんなにアレかね。



 夜が明け、そして次の夕暮れ。
 目を覚ましたレダは、ドアの隙間に何やら白い封筒が押し込んであるのに気がついた。拾い上げると、中には紙切れがいちまい。
 ――今夜12時、礼拝堂にてお会いしたし。上級生E.S
 それだけである。
 眠りの深いアルラを起こすのは気が引けたので、隣室のボロシノヴィッチに声をかけて封筒を預け、外に出た。今日は聖マルティン祭のミサを執り行う司教様がその準備に来るので、挨拶をしておくようにとマネージャーにきつく云われていたのである。
 ミュンヘン市内の大聖堂に今度赴任してきたという司教は、声をかけたレダをひどく鋭い目つきでじろりと睨んだ。まぁ、たとえ本物でなかったとしても、ヴァンパイアに司教が甘い顔をしていては話になるまい。
 「……あ、あの。御ミサのあとで公演を打たせていただくRED AS BLOODの……バンドのヴォーカルをやっておりますの。たぶん……その、御ミサのあとすぐに公演と云うことになりますので……」
 「生徒さんたちが外に駆け出していくのを大目に見てほしいとか、ミサが長引かないようにしてほしいとか、そういうことですかな」
 「あ……いえ、でも、御ミサの終わる大体の時刻を教えていただければ」
 「四時前には終わらせますよ」
 「感謝いたしますわ。……それと」
 レダは次の言葉を口から押し出すのに、何故か躊躇した。
 「わたくし、ヴァンパイアということでバンドをやっておりますの。それで……公演も、ひょっとしたら司教様にはあまり愉快でないものになるかもしれませんわ。でも、最後にはきちんと……主の御許に許しを乞いに参りますので……」
 司教の視線の前では、なんだか言葉が曲がっていってしまう。
 「あ、あの、ですから……」
 「舞台の進行を止めてくれるなと、そういうことですな?」
 「はい」
 司教は微かに笑ったようだった。
 「わかりました。……しかし、わざわざヴァンパイアを名乗るという酔狂は感心しません。……あれは、悪いものです」
 一礼して、ほうほうの態で、逃げ出した。
 あとからマネージャーに訊くと、彼はパウル・クレンペラーといって、もともとはこのあたりの出身であったのがイタリアの神学校に学び、ヴァチカンで位階を受けて最近ここへ赴任してきた、大変に信仰篤い司祭様だということだった。 
 「来てすぐ君がここの礼拝堂で讃美歌を歌ってたのがよかったんだ。ここの助祭先生が君の歌を大変誉めててねえ。普段どんな歌を歌っていようと、いったん主の御前に出たときのあの娘さんの信仰の深さは疑うべくもない、私はあのように純粋なアヴェ・マリアがいかなるクワイアによっても歌われたをの聞いたことがない、だから大目に見てあげてください、とまぁ、随分後押ししてくれたよ。でなきゃあの堅物司教が公演そのものを潰してたかもしれん。最初に『ヴァンパイア・バンド』って聞いた時の奴さんの顔の顰めようったらなかったから」
 レダとしては苦笑いするしかなかった。

この「堅物司教」、実際は堅物どころの話ではありません。レダが散々居心地の悪い気分になったのもちゃんとわけがあって……


 部屋に戻ると、赤狼が顔を顰めて待っていた。
 「礼拝堂というのは、鍵のかかる場所だったか?」
 入っていくなり、そう訊いてきた。
 「いいえ。いつなんどきでも何人に対しても開かれているのが普通のはずよ」
 「さっき行ったら鍵がかかってやがる……気に食わんな、まったく気に食わん。ろくでもないことになりそうな気がする。気をつけろよ」
 「気をつけろ、って?」
 「気に食わんものは見張りに行く。それが俺の流儀だ。だから夜中まで、自分の面倒は自分で見ててくれってことだ」
 言葉と同時に赤狼の姿は消え、小さなねずみがちょろりとドアの隙間から駆け出していった。

 ヴァラーシュタインは憂鬱極まりない顔で学校に到着した。昨夜、コンツェルンを預かる重責などというものを毛ほども理解しない娘からヒステリックに怒鳴られて以来、文字通り寝る間も惜しんで彼は身辺整理に忙殺されていたのだった。これで彼が今晩を限りに帰らなかったとしても、ヴァラーシュタイン・コンツェルンはしばらくは安泰だろう。だが、その先は?誰か代理を立てることも考えたが、200年を越す経験の代理はそうたやすくは見つからないのだった。
 そして、着いてみればさらに厄介なことに、触手の化け物だけでなく謎の招待者まで現れたことを知らされたのだった。
 「どちらを先にするね?」
 「……上級生さんのほうでしょうね」
 レダが答えた。
 「触手はこちらが呼び出さねば出てこないでしょうし、上級生さんのほうはこちらを呼び出しておいでですもの」
 「……ふむ。道理だ。ついでにこの上級生氏が温厚篤実な人間であることを祈りたいね」

posted by たきのはら at 20:33| Comment(0) | TrackBack(0) | VAMPIRE:The Masquerade | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

The Second Night〜黄昏の客人〜:その4

 何もないのなら、何か起きる前に。
 そう云って、娘達ふたりは屋上に向かった。夜毎の血の提供者であった遊び仲間や遊園地の客から離れているのでは、ここの生徒たちから血をわけていただくよりしょうがないもの、と笑う。大丈夫よ、昨夜はとてもうまく行ったの。
 生徒たちはすっかり寝静まった頃。だから、寄宿舎の隅々まで届くように、歌う、恋歌。あなたには一夜の甘い夢を。だからわたしには……
 アルラが引き裂くような悲鳴を上げ、レダの腕を引いた。
 屋上の隅に開いた排水溝から、黒い触手が伸びてきていた。
 「逃げ……!!」
 走る。足が、もつれる。アルラの手に触手が絡みつく。
 「アルラ!」
 ナイフを抜く。切りつける。もう一本、触手が伸びてくる。よけながらだから狙いが定まらない。アルラが引きずられ、悲鳴を上げた。
 横合いから何かが飛びこんできた。
 瞬間、視界がくるりとまわった。
 触手がざっくりと切れ、勢いあまってつんのめったのだ。ようやく振り向くと、長い鉤爪を生やした赤狼が、触手に巻きつかれ、屋上の外に放り出されるところだった。反射的にナイフを構えるレダの視界の端で、赤狼の姿が消え、ふわりと蝙蝠が宙に浮いた。触手は一瞬戸惑ったように揺れ、そしてみるみるうちに排水溝の中に消えていった。
 「ローテン、ヴォルフさん……」
 「おい、この学校は化け物屋敷か?」
 人間の姿に戻った赤狼は呆れたように云った。
 「夜回りの途中だったが、悲鳴が聞こえたので飛びこんでみりゃ、蛸足野郎とお嬢さんがたがとっくみあいときてる。その上、俺がここに来る途中、なにやらとんでもない勢いですっ飛んできやがるものもあったしな。……とっさに投げ飛ばしてきたが」
 「それは、私ですよ」
 赤狼の後ろで面目なさそうな声がした。ルネだった。
 「何だよ、あんたは」
 「仲間。
 ヴァラーシュタインさんが云っていた、『勘のいい芸術家』さん」
 顔をしかめて立ちあがりながらアルラが云った。
 「申し訳ありません。ちょうどお二人とも走り出されたところだったので、逃げ口をふさいではいけないととっさに階段を駆け下りてしまったのです。私は腕っ節のほうはからっきしですし……」
 赤狼はうさんくさそうにルネを見やると、小さく鼻を鳴らした。
 「まぁ、仕方あるまいな……自己紹介は部屋でするとしようか」

というわけで今回初の戦闘シーン。今回はどうも相手も「脅し」だったらしいのでことなく済みましたが、このシステム、消耗戦に縺れ込むと血の総量が少ない側のほうが負けるっぽいです。とりあえず逃げ足重要。ルネは腕っ節がからっきしの替わりに銃の腕前はあるという設定だけれど、まさかここで銃声を響かせるわけにもいかず……


 赤狼の云うには、この学校はまったくの化け物屋敷だということだった。赤狼はクルト少年の後をつけ、校舎を一回りし、体育館、礼拝堂と見てまわったらしい。体育館には不審なところは何もなかったが、礼拝堂まで来ると少年の様子は明らかにおかしくなった。なにやら心神喪失の状態になり、そしてふらふらと出ていった、という。
 さらに少年をつけるか、礼拝堂を調べるか迷ったが、結局礼拝堂を調べることにした。どうも、礼拝堂の壁のそこここに奇妙な空間が隠されているらしいことはわかったが、出入り口らしきものは見当たらなかった。そこで、そのあたりに住んでいるねずみどもに声をかけてみると、この礼拝堂周辺の抜け穴はひどく入り組んで入りにくくなっており、それでも無理やり入っていった仲間の何匹かはそのまま帰って来なかった、との答えだった……。
 「その上でさっきの蛸足野郎だ。まったく、なんでこんなところで学校がやっていけるのか、そっちのほうがわからんよ」
 「その『蛸足野郎』ですが」
 ルネが言葉を継いだ。
 「どうも生徒たちを守っている様子なのです」
 「なんだと?」
 「お二方に襲い掛かりながら、あれははっきりこう思っていました。『生徒たちに手を出すな』と」
 一瞬、場を沈黙が支配した。
 「ふ、むぅ。……では、そろそろご老体の出番ではないかな。どうやら今回の厄介ごと、我々は手足、ご老体が頭を割り振られているようだから」
 ややあって、ボロシノヴィッチが口をひらいた。
 「そうね、そうしましょう。……声を送りましょうか?それともみんなで話したほうがいいかしら」
 答えるようにレダが云った。
 「全員が聞けて、話せたほうがよかろう。話しているうちに誰かが何か重要なことを思い出すかもしれん」

 どうも、今回『蛸足野郎』が出てきたのは、レダが『恋歌』を使用する際に「学校中に届くように歌う」などと宣言してしまったためらしい。『恋歌』を聞きつけた上でその魔力に囚われなかったか何とか影響を振り払ったかした触手の主は闖入者を黙らせるべく出てきたもよう。(←こうりゅ注:『恋歌』は『支配』ほどの影響力はありません。念のため)


 「……ほう、ついに物理的攻撃をうけましたか」
 ヴァラーシュタインがうかつにもこう云ったものだから、レダが癇癪を起こした。
 「ついに?わかっていて仰ってるの?アルラは酷い怪我をしたんですのに!!」
 「いや、私はですな、とうとう相手が姿をあらわしたかと……」
 「だったらそう仰いませ。とにかく、今度という今度は、報告ではなく、その目で見ていただきますわ。……よろしくて!?」
 声が跳ね上がるのを押さえて、ボロシノヴィッチがレダの手から受話器をむしりとった。
 「とにかく、です。我々は奴を引きずり出さねばならない。だから、明日もレダ嬢に屋上で歌ってもらい、奴が出てきたところを全員で取り押さえる」
 「……そう。そして屋上で押さえきれなかったら、昨晩、件の「闇の塊」が姿を消した視聴覚室、そこでも手がかりが得られなかったら、ローテンヴォルフ氏が調べたところによれば怪奇の中心点であるらしき礼拝堂、そこでも何も得られなければ、公子様のご意向がどうであろうと命には変えられぬ、尻尾を巻いて公演だけ打って帰る、と」
 「ですからそこにはヴァラーシュタインさん、貴方も立ち会っていただきますわ。今回は!」
 受話器の後ろでレダが苛々と声を上げる。
 「いや、それは吝かではないのだが。……それはそうと、今夜はもう何もしないのかな。その屋上の排水溝とやらの探索は」
 「せずばなるまいな。……とはいえ……」
 赤狼が少し言葉を濁した。
 「今夜の狩りは不調で。……あからさまに危険な場所に潜るには……」
 「血が足りぬか。よろしい、こちらから送ろう、いや……」
 答えたヴァラーシュタインの言葉尻が急速にしぼんだ。
 「……困った。血を送るとはいっても、手段が……」
 「いいかげんになさいませね!」
 レダがボロシノヴィッチの手から受話器をひったくった。
 「血ぐらい、わたくしが都合します。全員乗れる車を回していただければ結構よ!!」

 レダ嬢、いちおう十九世紀のいいお家の生まれなのでキレるとお嬢様言葉で喚く、らしい。だからといって行動もおとなしやかかというと全然そうじゃないわけで、自分の『餌場』を他人に開放するという荒業も平然とやってのける。しかも歌の魔力とのコンボで狩りを簡便化してしまうので、マスター側としては頭の痛いところ。
 ちなみに赤狼氏の今日の『現地調達』の成果は猫一匹であったため、かなり血が足りなくなっていたもよう。


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The Second Night〜黄昏の客人〜:その3

 「あらマネージャー、おはようございます」
 そらとぼけた声で挨拶するレダを、マネージャー氏は苦虫を2ダースばかり噛み潰したような目つきで睨み、それから
 「お早いお目覚めで」
 と呟いた。マネージャーとしては、レダがヴァンパイアと名乗っていようがいまいが昼間仕事をしてくれても差し支えはあるまいと思っているようだった。……まぁ、このわがまま娘をメンバーに入れてからの売上の伸びを考えると、ある程度のことは目をつぶらないといけないはず、なのだが。
 「ああ、ご紹介しよう。こちらはルネ・ド・ブルーローズ氏。今回の公演に関してはバンド側の美術担当のチーフをお願いしてあります。それと、今回、ライヴレコードまで企画に入りましてな、そちらのアートワークも担当していただくことに」
 ヴァラーシュタインの言葉に、レダが歓声をあげる。
 「あら、そこまで?嬉しいわ。あ、せっかくだからジャケットにはアルラも一緒に描きこんでいただけるかしら?それで……」
 「フロイライン・シュトルム、話を勝手に進めないでいただきたいものですな。その話は先ほどこちらとマネージャーとで決めてあります。相談に加わりたいのならもう少し早く起きておいでなさい。ヴァンパイアといえども昼間仕事をしてはいけないという法はありませんからな。……さて」
 ヴァラーシュタインはぬけぬけとそんなことを云い、それからソファーに腰を下ろした。
 「話が大きくなった以上、この公演は決して赤が出てはならんのです。
 ……で、印象的な演出というやつが必要になってくるわけですが……」

 そもそも、この公演の口実となった聖マルティン祭というのは、もとローマの兵士であり、その篤実さと主の教えを広めるのに熱心だったことをもって、殉教せずして聖者に列せられた聖マルティンを称えるものである。彼の姿は馬に乗った兵士としてあらわされる。それがこの地において特に奉られるようになった経緯として、キリスト教以前にこの地に存在したヴォータン(オーディン)信仰からの移行ということがいわれている。つまり、六本足の神馬を御する嵐の神にしてヴァルハラの主神ヴォータンが、馬に乗った兵士にして主キリストの先駈けたる守護聖人にとってかわられたわけである。また、聖マルティン祭は、冬への備えを確かめる祭でもある。秋の終わりに、この一年の罪過を燃やし尽くし、長い冬を越すための、力強い、新しい火を炊く。そして、聖別された火をランタンにともし、教会へと向かうのである。


 「コンサートが終わったら、それと同時に学校からのランタン行列が出発だそうだ。まぁ、教会に向かう行列を俺らが先導するってのもナンだから、こっちは送り出す側でいこうってところまではさっき決めた。ほんとはこっちでも火を炊くと派手でよかったんだけどな、安全上の都合がどうとかで本火は使えないんだと」
 バンドリーダーのマックスが云った。
 「でも、炎のエフェクトならこちらのお嬢さんにその技術がある……そうだよね?」
 「ええ、いくらでも」
 アルラが答える。
 「炎……聖なる炎……神の恵み……神の先駈け……」
 ルネがゆっくりと呟きながら視線を宙にさまよわせている。
 「神の先駈け、か。しかし困ったな。俺らの曲を聴いた司祭様がいい顔するとはあんまり思えないぜ」
 大して困ってもいなさそうにマックスが苦笑いした瞬間、ルネが立ちあがった。
 「それですよ!背徳的であればあるほどいい。いいですか、およそ神とは相容れないようなステージを展開した後、聖なる炎が舞台に落ち、全てを燃やし尽くす。炎の収まったあとには白亜の天国の門、そして炎で全ての罪業を焼き尽くされ、罪の女であるヴァンパイアから無垢なものとして再生したレダ嬢が純白の衣装で迫り上がり、騎馬の聖マルティンに導かれて天国へ昇って行く。主を賛美する歌声が遠のくと共に明かりが次第に引き、何もなくなった舞台に残る無数のランタン、そしてそのままランタン行列に……」
 素敵、という声がひとつ。無茶だ、という声が複数。
 「素晴らしいアイデアだ。だが、それだけのセットを組むには金がかかります」
 ヴァラーシュタインが冷然と云った。どうにかならない、と目で問うレダに、アルラは小さく首を振る。白亜の門と聖マルティンの両方をほんとらしく見せるなんて無茶だわ。だいたいその前に舞台中に炎を落とさなきゃなんないでしょ。
 「書割なら山ほど描きますよ。こう見えても私は仕事の早さでは定評があるのです」
 言葉を継ぐルネに、もういちどきっぱりとヴァラーシュタインは首を振った。
 「書割もセットですぞ、ブルーローズさん」
 「……しかし」
 マックスが割って入った。
 「今の案、捨てがたいな。それなら思う存分暴れてもあとで辻褄が合うし……」
 「白亜の門をどうにかすればいんでしょ。べつにいいじゃない、そんなのなくたって。舞台を覆うだけの白い布があればいいのよ。楽器も何も全部隠してしまって、ただ真っ白の、清浄な世界、ってことで。最後はアカペラで歌うわ。アメリカ人じゃあるまいし、讃美歌にバスドラムでもないでしょ」
 「布代も馬鹿に……」
 「借りれば?撮影スタジオかどっかに伝手、ないのかしら?」
 ヴァラーシュタインはため息でもつくように一同を見まわし、それからうつむいて費用対効果を迅速かつ厳格に計算し、そして云った。
 「私の想像以上に金のかかる公演になりそうですな。想像に5倍する儲けの出る公演であってほしいと心から願いますよ」
 それから付け加えるように云った。
 「公演の題名は……『蕩児の帰還』、いや、『放蕩娘の帰還』ではどうでしょうな。うむ、娘だ。娘でなければならん。なにしろ放蕩娘という言葉は放蕩息子という言葉に比して3倍ほどの資産価値がありますからな」
 題名はともかく演出はどうやらその線でまとまり、一同は解散となった。後には衣装を何回取り替えるか、そのタイミングはどうしようかと嬉しげに相談を続ける娘達だけが残った。

 ルネ・ド・ブルーローズ、このあたりで「芸術家」としての面目躍如。やはりトレアドールの情熱はこうでないと。ちなみに、「仕事の早さに関する定評」は、もちろん彼の「瞬速」によるもの。


 寄宿舎の少年達と夕食を共にした後、レダとアルラ、ボロシノヴィッチ、そしてルネの四人は夜の校舎をひっそりと歩いていた。名目上はライヴレコードのジャケット用のラフスケッチのため、ということになっている。
 せっかくですから、夜の学校を描きたいのです。ええ、舞台がローテンフライト校だとあからさまにわかるような描き方はしません。そちらに迷惑もかかりましょうし……何より、彼らの作品の性格上、彼らは『どこにもない場所』を背景に描かれるべきですから。……他のメンバーさんたちも描きこんでもいいと思うのですけれどねえ、なにしろレコード会社の意向が、男性陣はまぁ、写真だけでよかろうということなので。女性二人と、一応警備員も連れ歩きます。
 ルネがそう云うとあっさり許可が下りた。たぶん、彼が本気でそう云っていたからだろう。
 少年のあとを追っていった赤狼はまだ帰ってこない。
 「何かあったらすぐ戻る、何もなければそのまま『狩り』に出るといっていたから……」
 そうボロシノヴィッチが云ったので、待たずに構内を歩くことにした。
 
 そういえば、妙なことがあります。
 歩きながらルネが切り出した。
 「この学校に来てから、どなたか校長に会われましたか?」
 どうも、校長は不在らしいのです。私がヴァラーシュタイン老と共に教頭に会いに行ったとき、なんの気なしに校長先生にもご挨拶したいのですが、と申し上げたら、所用があって外出している、と。それも、何かを隠すというよりは困惑しきった雰囲気でしたね。
 「……まったく、妙なところだらけの学校だな。さて、あれが懲罰室とやらか」
 夕食時のおしゃべりついでにアルラが場所を聞き出してきた『懲罰室』――実際にはただ『指導室』とだけドアに記されている――が、一行のとりあえずの目的地だった。
 ボロシノヴィッチが注意深くドアを開けた。
 どうということのない部屋だった。
 ベッドがひとつ。机がひとつ。椅子がふたつ。窓には申し訳のように格子がはまっている。
 「抜け穴は?」
 声を殺してアルラが云った。壁や床を調べていたボロシノヴィッチが顔を上げ、首を振る。
 「ここには、ない」
 その背後で、ルネが小さく、見つけた、といった。
 使い古しの鉛筆を手にしている。
 「何を?」
 「何かを記憶していそうな『物』を」
 鉛筆に指を滑らせながら、ルネは静かに云った。
 「君は……」
 「絵描きに鋭敏な感覚は必須ですから。……この鉛筆の記憶を読んでみます」
 指先で鉛筆の表面をゆっくりとなぞる。軽く目を閉じる。何かに耳を澄ますように。
……沈黙。
 ややあって、ルネはポケットから小さなスケッチブックを取り出し、猛烈な勢いでペンを走らせ始めた。
 「最後にこの鉛筆が触れられたのは2年前。触れたのは、この少年です」
 描かれていたのは目にどことなく険のある少年だった。
 「なにやら反省文でも書かされていたようですね。ドアに背を向けて座り、そしてひどく苛立っていました。そのとき、何か背後から近寄ってきたものに気付き、驚いて立ちあがろうとして……」
 「立ちあがろうとして、どうなった?」
 「それっきり、です。彼は驚いた弾みに鉛筆を放りだし、そのあとこれに触れることはなかったようです」
 ボロシノヴィッチは忌々しげに顔を顰めた。
 「……気に食わんな」
 あとはもう、記憶の糸も、秘密への抜け穴も何もこの部屋にはないのだった。

 ルネの「先覚」は現在「魂跡探査」つまりサイコメトリが可能なレベルに達しています。これはある物体が何か強い感情をもったものに触れられたときに、その感情が映りこんでしまったものを察知するというもの。机や椅子など、多くの人が触れ、しかも強い感情も弱い感情もごっちゃになっているようなものではノイズが強すぎてどうにもなりませんが、小さいものだと「感情の残影」のキャパシティがもともと小さいので、その「記憶を読む」ことにより過去にその物体に接触した「情景」とその感情を知ることが可能になります。で、人に質問するよりもモノの記憶を読み出すほうが確かに(情報としては遠回りではあるものの)安全で、となると誰もがあとで足のつく恐れのある「支配」を使うよりは……ということになってしまったのでした。


posted by たきのはら at 20:29| Comment(0) | TrackBack(0) | VAMPIRE:The Masquerade | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

The Second Night〜黄昏の客人〜:その2

 ヴァラーシュタインが部屋に入ると、公子は小さくうなずいて云った。
 「この男だ。一通りのことは話してある。あとは、適宜説明して行動してほしい」
 影のようにほっそりした長身の青年が公子の隣から一礼して寄越した。
 「ルネ・ド・ブルーローズです。画家を生業としておりますが、物事を見る目は確かですし、記憶力も良いほうです。……そのあたりでもお役に立てるかと思います」
 ぴったりと身に合った三つ揃いを着こなしているが、気取った感じはしない。一見して物静かで品のいい青年である。それどころか……闇の生を生きるものにしては、その視線は生真面目で、優しすぎるようにさえ思えた。
 「ああ、お初にお目にかかります。ローテローゼ・レコード……のことはもう公子さまから説明があったことと思いますが、そこの理事をしているヴァラーシュタインです。なにぶん今回は厄介な調べ物があれこれとありそうでしてな。お力には期待しております」
 「……ご期待に沿えれば嬉しく思います」
 控えめな口調である。ヴァラーシュタインは小さく肩を竦めた。これでやってこれたということは……それなりに凄腕なのだろうよ。
 「さて、早速本題に入りますかな。当初の目的通り公演さえ打てればいいのであれば何もお手を煩わすこともなかったわけですが、厄介ごとにまきこまれたらしいのですよ。事件が起きているのは由緒あるギムナジウムの中でしてな。で、これをどうにかするためには貴方にもギムナジウムの中に常駐していただかなければならんのですが……はて、どうしましょうかな。たしか画家でいらっしゃる……なら、新任の美術講師とでもいうことにして押し込みますかな」
 「……それは、無理でしょう」
 ルネはひっそりとした笑みを浮かべた。
 「美術室というのは極めて日当たりがよくできているのが普通です。かといって由緒あるギムナジウムに夜学の教師がいるわけにも行きますまい」
 「ふム、もっともだ。では……」
 「画家として雇って頂けませんか」
 おや、とヴァラーシュタインはルネの顔を見返した。この男、こんな声でも話すのか。
 「画家、と仰ると」
 「舞台美術。それとも……RED AS BLOODは新しいアルバムの製作途中ということでしたが、そちらのジャケットのアートワーク担当ではどうでしょう」
 「アートワーク……確か今回は制作費削減の為にジャケットにはレダ嬢の写真を使うことになっていたはずだが、ハテ、」
 ヴァラーシュタインは首を傾げると、お作は普段いかほどで売れていますかな、と云った。
 「大した値はつきません。仮面舞踏会の掟を守るために、私は作品に署名を入れませんので……いつまでたっても無名扱いです」
 「無名扱い。大した値はつかない。しかし、買い手はつくのですな。いや結構。むしろ素晴らしい。雇いましょう。舞台関係者というだけでは後から押し込み、常駐させておくには、実際、辛い。経費の分はなんとかしましょう。我々はツィミーシィではないのでこういった際は如何しようもないですからな」
 「……なんと仰いました」
 「背に腹は変えられぬと申したのですよ。悪鬼どもは簡単に背と腹を取りかえるようですが」
 ルネはくすくすと笑い、立ちあがった。
 「描かせていただけるのであれば充分です。舞台美術のほうもお手伝いしましょう。先ほども公子さまから伺ったのですが……最終的な目的は公演を無事かつ最大限に成功させることのようですから」
 ヴァラーシュタインはちらりと公子を見やった。どちらかというと公演の成功や厄介ごとの処理よりは、(公演とは無関係なはずのアルバムの)アートワーク担当に新たな画家を雇うことに関する経費の上乗せ分はどうしてくれるのかと云いたげだった。公子は視線が投げられたことすら意に介さない風だった。
 一瞬置いて、ヴァラーシュタインは口を切った。
 「公演が成功しましたら、ライヴレコードでも出しますかな」
 公子の唇の端がわずかに持ち上がったのを確認してから、ルネを伴って部屋を辞した。

 今回、ヴァラーシュタイン氏の守銭奴、もとい事業家パワーが炸裂してます。ええと、今後のことを考えるとですね、彼、本性とは云わないまでも外面を変更すべきではないでしょうか。新刊の「ガイド・トゥ・サバト」には確か「資本主義」なる性質が……


 「いきなり対価を要求したのには驚いたけれど、それなりに愛らしい子だったわね?」
 さらり、とドレスの裾を直しながらレダが云った。
 「ああ、人間、邪気がないのが一番だ。まぁ、無邪気に人殺しをするような奴がいても困るがな」
 ボロシノヴィッチの相槌に、アルラが首をかしげた。
 「……そうかな?あたしは、なんだかひっかかったよ。ローテンヴォルフさんもそうじゃないかな」
 「ひっかかった、というと?」
 「ジプシーの勘だけど。あの子、何か隠してる。それに、普通、『何でこの学校に来たの?』なんて訊くかしら。……まぁ、レダの答え方もすごかったけれど」
 レダときたら、首を竦めて「レコード会社の役員に訊いてちょうだい」と言い放ったものである。ヴァラーシュタインが聞いたら、そのような答え方は売上に響くと(笑っていない眼で)にこやかに諭したかもしれない。
 幸い、ヴァラーシュタインがルネと、それに不機嫌きわまりない顔をしたRED AS BLOODのマネージャー、それにバンドのメンバーを伴って部屋に入ってきたのは、アルラの言葉にレダが苦笑いをしてからたっぷり5分は経ってからのことだった。

 クルト少年の態度に関しての「知覚」チェック、アルラと赤狼の二人だけが成功したのです。アルラのは「ジプシーの勘」、赤狼のは「野生の勘」らしい。ボロシノヴィッチが成功していたら「共産党員として培った勘」ということになるんだろうなぁ。……そういや、今回は失敗してたけど、彼、この手の判定に関しては一人で達成目標値が低いのである。おそるべしWoD共産党。

posted by たきのはら at 20:27| Comment(0) | TrackBack(0) | VAMPIRE:The Masquerade | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

The Second Night〜黄昏の客人〜:その1

 それでは、客人を待ちましょうかな。
 そうヴァラーシュタインが呟いたとき、彼のポケットの中で電話が鋭い音で鳴り出した。
 「やれやれ、公子様からだ」
 しばらく低声で話していたが、やがて老人は顔を上げた。
 「公子様は事態を重く見られたようだ。勘のよい「芸術家」をこちらに寄越されるということです。客人にお会いできないのは残念だが、私は援軍を迎えに行かねばなりませんので、ここで失礼させていただくとしましょう」
 その上、寄宿舎の客用寝室をもうひとつ使わせていただくだけの口実もこしらえねばなりませんしな。なんとも厄介なことだ。
 ひとりごとのように付け加えながら、もう一度電話を取り上げる。しばらくすると運転手が戸口に現れ、一同に無言で一礼するとヴァラーシュタインの車椅子を押して出て行った。グールであるとしてもよく躾の行き届いた態度であった。英国人の血でも引いているのかな、とボロシノヴィッチが冗談めかして云った。

 それから待つこと半時間ほど。娘達は待つのに飽きたのか、それとも客人を迎える支度のつもりか、夕刻のお茶の準備に余念がない。食っても何の足しにもならんものを、とボロシノヴィッチがぶつくさ云うと、人間の振りをするには人間の習慣に従いつづけることが重要なのですものとレダが鼻の頭に皺を寄せて言い返した。
 そのやりとりに肩をすくめたところで赤狼は、なにやら窓の下に妙な気配を感じた。見下ろすと、小柄な少年がせっせと壁をよじ登っているところである。せっかくなので窓の鍵だけあけてやり、あとはそ知らぬ振りをすることにした。それが粋というものだろう。
 少年は最後の最後で手を滑らせたようで、派手な音と一緒に部屋の中に転がり込んで来た。
 「あら、珍しい。やっと窓からのお客様だわ」
 アルラが嬉しそうに云った。それから、駆け寄って少年の手を取り、助け起こす。
 「ようこそ」
 「なんだ、ちっとも驚かないんだな」
 少年は不満らしく云い、それから部屋の中を見回して、もっと不満そうな顔になった。どうも二人の「野郎」が部屋の中にいるのは著しい無粋であると判断したようだった。
 「なんだよ、おじさんたち。僕は姉ちゃんたちのところにお客に来たんだぜ。野郎なんかと話したかないね」
 「そりゃ好きにするんだな。君は我々に話す必要はない」
 「わかってないな、出てけ、って云ってるんだぜ、僕」
 「さて、ここは誰の部屋のつもりかな。俺達はここにいる。あとはあんたの勝手だよ」
 ボロシノヴィッチと赤狼が二人揃って凶悪な笑みを浮かべる前に、レダがすいと立ち上がって少年をテーブルの前の椅子に押し込んだ。怯えさせても仕方がない。
 「クルト・ホフマン君ね。ようこそ。伝統的な方法でのお訪ね、歓迎いたしますわ。お茶をいかが?焼き菓子はお好きかしら?」
 甘い声の後ろ側で、この化け猫娘が、と赤狼が呟き、どうやらアルラに足を蹴飛ばされたらしい。
 クルトは遠慮なく皿に手を伸ばしながら、レダとアルラの顔を交互に見た。
 「で、用って何?」
 こまっしゃくれた口調だが、愛らしくて憎めない。ドアと窓の前にそれぞれ頑張っている二人の「野郎ども」の意見はともかく、娘達にはそのように思われた。
 「あなた、この学校では幽霊探しばっかりしてるって、ずいぶん有名だそうね。それで、よかったらその話を聞かせていただきたいと思って」
 特上の笑みを浮かべてレダが云う。
 「ほら、今度の聖マルティン祭があるでしょう、そのときの公演の演出をどうしようかと思って。せっかくならこの学校の言い伝えとか、そういうものを題材にさせていただきたいの」
 「ふうん、それじゃ相応のもの、貰わないとなぁ」
 少年はおよそセリフには不似合いな邪気のない笑みを浮かべて、そしてセリフの意味を裏付けるように片手を突き出した。
 「僕、通学生でさ、アルバイトもできないし仕送りも余裕があるわけじゃないし、何かと小遣い、困ってるんだよねえ。だからさ」
 レダはため息をついた。
 「……ここで装身具のひとつも外して渡したら絵的には綺麗なんでしょうけどね」
 そしてドレスの襞の間から20マルク札を一枚引っ張り出すと、突き出された手のひらに載せた。
 「しかたないわね。まぁ、坊やがそのつもりならそれで構わないわ。ビジネスライクに行きましょ。いいわね?」
 声のトーンが半オクターブばかり下がり、楚々とした令嬢があっという間に芸能界にいいかげんすれた娘に早変わりする。レダはドレスの裾をぐいとたくし上げると、長椅子に身体を預け、足を組んだ。
 「まあでも、訊きたいことと訊きたい理由ってのは変わらないわよ。この学校、いったい何がいるの?何かはいるのよね。頻発する謎の貧血事件に生徒の首筋の傷跡。あたしとおんなじにヴァンパイアってとこかしら。別にそうじゃなくてもいいけど。で、坊やが探してるのはなんなのよ?」
 「幽霊、だね。それがいるのは確かだよ」
 「見たの?」
 アルラが目を輝かせてクルトの隣に座り込む。
 「いや、見ないよ。見えないから幽霊だろ。でも確かに居るんだ。例えばさ、体育館の大鏡。部活動も全部済んじゃって誰も居ない体育館に行った時さ、何の気なしに鏡を覗くと誰かが僕に触る。でも……」
 「鏡の中には誰もいなかった?」
 「そうだよ、何でわかるんだよ」
 「幽霊ってそういうものでしょ。それ、有名なの?」
 さあね、とクルトは首をかしげると焼き菓子をもうひとつ手にとって続けた。
 「どっちにしろこの学校はなんかあるね。そこらへん中に抜け穴だらけだしさ」
 ふむ、と男二人が仔細らしく頷きあった。
 「それ、なあに?秘密の廊下?」
 「廊下じゃないな。僕がやっと通れるくらいだもの。新校舎のはもっと小さい。最下級生の一番ほそっこい子でもないと立って通るのは無理って感じだ」
 「入ったこと、あるの?」
 「そうだよ、もちろん」
 アルラに得意げな顔を向けたクルトの後ろから、レダが人の悪い笑いを含んだ声で云った。
 「授業に間に合いそうもないときには便利だったとか、そういうんじゃないの?」
 黙りこんだところを見るとどうも図星らしかった。
 「だけどまぁ、それだけあっちこっちに首を突っ込んで回って、よく叱られないものね。窓からご入来なんて坊やだけだったわよ」
 「そりゃ、僕はうまくやってるからね。実害のあることを仕出かしたら懲罰室送りだけど、この程度のことなら大目に見てもらえるってわけ」
 あらまぁ、とでもいいたげにレダはボロシノヴィッチの方に視線を投げた。穏やかじゃないこと、懲罰室ですって。
 クルトの云うには、殴り合いだの盗みだのをやらかした生徒は一晩「懲罰室」とやらに閉じ込められ、教師の説教を食らうらしかった。そのうえ、札付きの悪童でも5回も懲罰室送りになれば、すっかり毒気を抜かれてしまうのだとか……
 「ついでにさっき姉ちゃんが云ってた『貧血を起こしてぶっ倒れる連中』だけどさ」
 クルトは続けた。
 「懲罰室ったって鍵がかかるわけじゃないし、教師だって一晩はりついてるわけじゃない。逃げようと思えば逃げられるんだ。だけど、そうやって部屋から逃げてった連中が、貧血起こして外で延びてたりするのが朝になってみつかるっての、よくあるんだよね」
 「……よくあるの?」
 「うん。食事抜きでうろついているせいじゃないかな〜って思うんだけどさ。あれ?そういうのって普通じゃないの?」
 普通であるわけがなかった。
「ふうん。じゃあそれも幽霊話じみてるのかもしれないな。……ま、僕が教えられるのはそれくらいかなぁ」
 結局クルトはそれ以上のことは本当に知らないか……それとも(赤狼に言わせれば)話す気がないらしかった。少年は焼き菓子の包みをと一緒に廊下に送り出され、家まで送っていくと云ったボロシノヴィッチの申し出をとことん迷惑そうに断って寄宿舎を後にした。急ぎ足で立ち去る少年は、扉を開けてくれた男の一人がいつのまにか姿を消し、そして自分の後ろをちょろちょろとネズミがついてきているのにはとんと気付いた様子はなかった。

 「懲罰室」の一語で、ボロシノヴィッチ氏はずいぶんいやなものを想像した模様。だいたい「ものわかりが良くなっていく生徒」などという構図自体、彼のトラウマをつっつくには充分だったらしい。曰く、「懲罰室での教育!いや懐かしい。全く以って懐かしい。なに、ものわかりがいいというのはいいことだ。ものわかりが良くなれるというのも素晴らしいことだ。大体においてものわかりの悪い奴というのは、運が良ければ西で、運が悪ければ東で、もっと運が悪ければ上で文句の続きを云うことになったからなぁ……」。西はヨーロッパへの亡命、東はシベリア送り、上というのはどうも天国らしい。しかし共産党は宗教を認めていないので、正確には単に「下」かもしれず、そしてヴァラーシュタイン氏(のプレイヤー)によれば、文句を言った結果行く場所としては「当人はいずこともなく消え失せ、名前だけが壁の表に」というのもあって、それは大変名誉なことなのだそうな……

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The First Night〜ギムナジウム〜:その4


  それからレダはもう一度ヴァラーシュタインの元に声を飛ばし、顛末を告げた。ヴァラーシュタインは小さくため息をつき、ローテンフライト校のことについて調べておこう、はっきりしたことが分かるまで、あなた方は休んでおられるとよい、と答えた。それから従僕にあてて、昼のうちにローテンフライト校創立当時の事情について調べておくようにと書付を残し、眠りについた。

そのほかに、ヴァラーシュタインはローテンフライト校の公式ホームページにアクセスし、いろいろと情報を引き出しています。ゴシックロマンといえども舞台が現代である以上、インターネットのひとつもつかえないではまずいということに(この程度の検索はコンピューターの技能をひとつも持っていなくても可能ということになりました。技能が必要なのはソフトをインストールすること、あと何かまずい事が起きたときに的確な相手に対して呪いの言葉を呟くことから、です。きっと)。


 休め、と云われても。
 レダは小さく呟いた。
 今夜はあちこちに声を飛ばして、ずいぶん疲れてしまった。まだ、大丈夫だとは思う。まだ、血に飢えてはいない。けれど。……不死者の身体は普通の食物をうけつけない。飲み込んだ食物はその夜のうちに吐き出さねばならない。一度飲み下したものを吐き出すごとに、自分が人ではないこと、人の食物では生きていけないこと、血をすすらなければ生きていけないことを、どうしようもなく思い出す。一晩に、一度。どうしようもなく。
 そして、周囲に眠る、甘い血の気配。……抑えきれなくなってしまうかもしれない。これ以上疲れたら。だから。一口だけでも、今のうちに。自分が抑えきれるうちに。
 「アルラ、お腹空かない?」
 「でも、誰も来ないわ」
 髪を梳かしながら、物憂げに少女が答える。ジプシーにしては色の淡い髪を気にして、木の実の汁で夜毎染め直すのだ。なぜだか不死者の身体は外からの差し色を撥ね付けてしまう。
 前に知り合ったブルハーの伊達男が嘆いてた、刺青を入れても入れても色素が抜けてしまうんだって。そう呟きながら、アルラは瞳の色と同じ緑色のリボンでお下げを結いなおしている。
 「だから、呼ぶのよ。身支度が済んだら……屋上に行きましょう」
 歌姫の声は眠りの底にも届く。やわらかな恋歌を聞きつけたのは二人。眠りながら少年達は屋上へ続くドアを開ける。
 月の下で見る夢は闇の娘のくちづけの夢。吸血の呪いの代わりに娘達に与えられているのは甘い唇と快楽の牙。うっとりと反らされた意識のない喉に牙が突き立てられて、吸われた血の分、ふわりと傾く、少年たちの体。
 「おやすみ、良い夢を」
 恋歌はいつのまにか子守唄に変わって、促されるままに少年達は夢の中を寝床に戻る。
 やわらかな唇が傷口を拭ったから、牙の痕は消えてしまった。だからこれは夢。ひと夜の美しい夢。
 「これだから、ご婦人達は、って。またあのご老体はのたまうのかしら」
 「いいの。あたしたちには命のひとしずくでも、あの子達にとってはただひとすすり分の血にすぎないもの。それに、代わりにいい夢を見せてあげたのよ、極上の」
 ひっそりと唇を舐め、二人の闇の娘も寝床に向かう。
 月が、もう落ちかかっている。

非常に艶消しな解説。性懲りもなく「恋歌」使用。たぶん小夜曲などを歌い、声のもとへ行きたいという思いを喚起。1成功。寄宿生の2割が反応。うち、眠りながら屋上まで行こうという根性(……どういう?)の入ったのは2人だった、ということに。来たのは「二人とも華奢な1年生だった」ので、明朝に貧血を起こさせないために1点だけ吸血。吸血鬼騒ぎを解決しに来たのに自分で引き起こしていては話にもならない。ちなみにこれがフットボール部の筋骨隆々たる学生なら2点、相撲部(そんなもんがドイツのギムナジウムにいるのかこら)なら3点まで吸ってもOKだったらしいが、そんな高脂血症でまずそうなシロモノ願い下げである。その後、もう一度「恋歌」を使用。今回のネタは子守唄。5成功。二人とも無事帰ってくれる。一回目と二回目が逆だったら大変なことになっていた、とか。
 それにしても、今回わかったのだけれど、不協和音の娘を効果的に演じられるかどうかはプレイヤー知識にも依存する。「恋歌」は、「曲に歌われている感情を聴衆に吹き込む」ものなので、プレイヤーに音楽知識がなければ使いようがない。PCは潜伏期間を外しても100年以上現役歌手をやっているのでレパートリーに問題はないはずなのだけれど……


 木曜日の夕刻、一同はレダとアルラの部屋に顔を揃えた。
 「いろいろと、分かりましたぞ。あれこれと嫌な事が」
 ヴァラーシュタインは紙ばさみを開きながら口を切った。
 ローテンフライト校の設立は1820年代。遅れ馳せながらの産業革命に乗り遅れてはならないと、オットー・ケーベルなる人物が工業化ドイツを背負って立つべき子弟の教育の為に興した私塾が元であったという。その私塾は順調に成長して学校となり、それを見届けたケーベル氏は学校成立の3年後に世を去った。
「私はこのケーベルなる人物に直接会ったことはないのですが……ところで、ここでひとつ奇妙な話があります。この旧校舎と寄宿舎は、学校成立時に建設されたものですが、寄宿舎のほうはケーベル氏の死の同年に、礼拝堂と共に改築されています。気にしなければそれまでですが」
 「気にしたほうがよろしいかと思います」
 レダが静かな声で言った。
 「わたくし、今朝方眠る前に早朝礼拝に参りましたの。そして……気付きました。この礼拝堂には反射光は入りますけれど、直射日光は一切入りません。お祈り用のヴェール一枚で、火傷ひとつ負いませんでしたわ」
 「なんとまあ」
 ヴァラーシュタインが呟いた。
 「それでは……この学校は創立当時から、ヴァンパイアの手が回っており、ひょっとしたら公子様は今までそれをご存知なかった、ということも考えられるのですな。とすると、ますます嫌な話になってきます。というのも、数日前にレダ嬢がこちらの寄宿舎に泊まりたいとわがままを仰られたとき、私はとても通るまいと思ったのですよ。何しろ200年の歴史を誇るギムナジウムというものは、そのような申し出にはまずは断ってよこすものですから。結果はどうか。何と云うこともなく通りました。公子様が裏から手を回しているのでなければ、何者かが張った罠にわざわざ飛び込んだのかもしれませんな、私たちは」
 「そう、申し上げますか?公子さまに」
 「……いや」
 ヴァラーシュタインは首を傾げた。
 「危険というのは、チャンスでもあるのですよ。ここを公子に頼らず、われわれの手でことを終えたなら、我々の株はずいぶんと上がるはず」
 「株なんてわたくし、どうでもよろしいの。無駄に危ない真似はごめんだわ」
 「あたしも。あたしがこんなことに関わるのは、ほんの序でだというのに」
 娘たちが口々に云うのを抑えて、ボロシノヴィッチが云った。株は、大事だ。頼りにならぬ手駒は、いつか切られる。
 「では、どうしますかな。状況は2対2。ローテンヴォルフさん次第だが」
 ヴァラーシュタインの口調は事務的だった。
 「ふむ、株。そりゃあ、何だ?」
 「ああ、それは、金のようなものです」
 「金。俺には用のないものだが、貰えるものは貰っておいたほうがよかろうな」
 「しかし、それを得るには危険が伴うのです。それで……」
 ヴァラーシュタインのせりふは、赤狼の唸り声で消された。
 「危険か。危険の前で怯む俺と思うか」
 
 ややあって、レダがため息をついた。
 「わかりましたわ。そういうことにいたします。でも……人にしろ、わたくしたちの誰かにしろ、命や存在に危険が及ぶようになったら公子さまに助けを求めることを許していただけるかしら?」
 「それなら、異存はない」
 「そうですか。……それなら」
 一息置いてレダは告げた。
 「ひょっとしたら、もうじき、お客があるはずですわ。この学校でただひとり、まともに子供らしいという坊やが」

というわけで、最後の最後でローテンヴォルフの「危険好き」が炸裂。「本性に従った行動により物語の流れを決定した」ことで彼の意志力(まぁ、ヒーローポイントです)が回復。次回、公子からの補給人員を加えて一同はさらなる謎に挑むことに……


to the next night...
posted by たきのはら at 20:22| Comment(0) | TrackBack(0) | VAMPIRE:The Masquerade | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

The First Night〜ギムナジウム〜:その3

 礼拝が済むと、一同はそれぞれの部屋に引き上げ、寄宿舎に部屋を借りなかったものはギムナジウムを後にした。――これからがヴァンパイアの時間なのだ。
 赤狼は小さな蝙蝠に姿を変え、校舎の上空を見張っていた。見張りながら、彼は耐えがたいほどの邪悪の気が学校中を包んでいるのをふと感じた。それは彼の知らぬもの、知り得ぬもの、恐ろしいほどの危険だった。ぞくり、と全身の毛を逆立て、そして彼は蝙蝠の顔のままにやりと笑っていた。危険は好ましいもの。己の力を示すためのもの。そう赤狼は信じていた。ろくでもない冒険が待っているに違いなかった。力が必要だった。そこで赤狼はいったん学校を離れて、街中を見まわった。人に飼われて野生を失った犬が2頭、家の外につながれていたのでそれを引き攫い、血を吸い尽くした。死骸は森に埋めた。人の血を吸い殺すと厄介ごとが起きるが、犬ならば大した騒ぎにもならない。それに野生を失った犬になどかけてやる情けは、赤狼は持ち合わさなかった。

本当はこの「すさまじい危険」、感知に「大失敗」した結果なんですけど、ねえ。


 ボロシノヴィッチは夜回りに出かけていた。しんと静まり返った寄宿舎。創立の頃から建っているらしい石造りの大校舎と、その脇に建てられた新しくこぎれいな小校舎。レダが練習を続けているのか、小校舎の窓のひとつに明かりが灯り、ピアノの伴奏と歌声が流れ出してくる。
 ……と、ふいに彼は奇妙なことに気がついた。部屋の大きさに引き比べて、建物そのものの大きさがつりあわない。学校の校舎と言うには、壁が、厚すぎる。
 「……ふム、つまりあれか。だが、共産党本部の隠し部屋や隠し廊下のほうがずいぶんと洗練されていたな。こんな建て方では丸見えだ」
 呟きながらボロシノヴィッチは軽く壁を叩いてみた。さすがに外壁の響きから虚ろがわかるような建て方まではしていないようだった。

今回、ボロシノヴィッチのほぼ必殺技だった「共産党知識」発動。……「WoDの共産党」はきっとすごく怖いところに違いない。ということで。実際の団体から文句が来たら困る。


 アルラは地下室に一通りねずみ取りを仕掛け終えて、音楽室に向かっていた。ねずみ取りは赤狼に頼まれたのだった。
 「あんた、地下室だの下水道だのに詳しいと言うのなら、すまんがねずみ取りをしかけておいてもらえないか。ねずみどもにこの学校のことを聞いてみたい」
 そう云うのだった。地下王国への道を探すのがアルラのもうひとつの生きる目標だったから、そこへつながるはずの道の歩き方はずいぶん詳しくなっていた。地下室と下水道は彼女の庭のようなものなのだ。
 けれど。
 ねずみ取りを仕掛けて回りながら、アルラは何か、別のものに見張られているような気分をぬぐえなかった。そういえば、さっき礼拝堂でも、何かが居たような……。しかし気配は気配のまま、つかもうとするとふいと消えてしまうのだった。

アルラは学校に行ったことがなく、そのうえ教科書がジュール・ヴェルヌだったのでこんなことに。副次技能「下水道知識」取得済み。


  アルラが戸を叩いたので、レダは歌うのをやめた。
 ――何か妙なものを見なかったかって?いいえ何も。歌っているときのわたくしはひどくぼんやりしているもの。あらいやだ、窓のところに止まってる蝙蝠、ローテンヴォルフさんじゃないかしら。
 からりと窓をあけると、飛び込んできた蝙蝠は床の上で人間の姿になり、喚いた。
 「危険だ。お嬢さんがたはすぐ部屋に戻るんだ!」
 「危険……?あなたはどうするの」
 「俺はもうちょっと探ってみる。今度は地上から」
 いいざま赤狼はねずみの姿に変わる。しかたないわね、と呟きながらアルラがドアを開けたとき、ふいと何かの影が廊下を過った。
 「誰なの!?」
 レダの声が、廊下の反対側で叫んだ。こちらへ逃げてくるかと思った影は、慌てたように別の角を曲がる。足をもつれさせたレダを置いて、アルラと赤狼が走り出した。

ローテンヴォルフ氏、行動はかっこいいんだけど姿がミニ蝙蝠やねずみなのでどうにも迫力に欠ける。きっとたきのはらの頭の中にあるねずみが愛らしくて無害すぎるせいなんでしょう。

レダはこちらでも「訓え」を使用。視線の通る場所に声を飛ばせる「さまよう声」。勢子をやるにはけっこう便利かも。


 ギムナジウム近くに留めた車の中で、ヴァラーシュタインはレダの声を聞いた。耳元にはっきりと。声を飛ばす――不協和音の娘の声の訓えだ。
 「今、新校舎におりますの。怪しい影がいて。それに、わたくしたち、何度も妙な気配を感じましたわ」
 「分かった。私は歩けない。犬をやります。貴方を守らせましょう。何かあったらまた知らせてください」
 しなやかな影のように、ドーベルマンが後部座席から飛び出していく。
 同じ頃、ボロシノヴィッチもレダの声を聞いた。何かあったら携帯電話に連絡すると言っていたのに直接声を飛ばしてくるとは、よほどのことに違いなかった。全力で彼は走り出した。

これも不協和音の娘の訓え、「幻影の話し手」。相手の時間が夜(時差を考慮して)であれば、距離を無視して術者が望む相手との間に会話が成立する。お互いが了解さえしていれば時間帯制限つき内蔵携帯電話としても使える。当然料金(?)として、血を消費します。


 ようやく立ち上がったレダは、手探りで教室の電灯をつけ……そして立ちすくんだ。前の扉にアルラ。後ろの扉に赤狼。そして、教室の隅に、どろりとした闇がわだかまっていた。
 「……霧に姿を……?」
 違う、というように足元で赤狼のねずみが鋭く鳴いた。幻でもない、とアルラが呟いた。
 レダは小さくため息をつき――古い子守唄を歌い始めた。少しでも影が落ち着いてくれれば、と思ったのだった。
 闇は、わだかまったまま、震えている。そっと手を出した。闇に触れる。その中に手を差し込む。闇は生暖かく、わずかに粘ついた。あわてて手を引き出した。それでも、闇は動かない。
 犬と、ボロシノヴィッチが飛び込んできた。
 「ドアを閉めろ!!」
 元共産党員が大声で叫ぶ。アルラが慌ててドアに手をかけた。その瞬間、闇が、消えた。
 「……え!?」
 「うろたえるな、この建物は穴だらけなんだ!」
 ボロシノヴィッチは手早く床を叩く。闇のわだかまっていたあたりの床が、ひと一人がやっと通れるくらいにぽかりと口を開けた。赤狼のねずみが鋭く叫び、飛び込んでゆく。

ここでも「影」の逃げ込んだ穴を探すのに共産党知識が活躍。おそるべしロシア共産党。
「影」のまとっていた「闇」は、ローテンヴォルフとアルラの証言・およびレダが無謀にも手を突っ込んでみたことにより、実体・温度・粘性をもつことが判明、消去法でいくとどうやらラソンブラ氏族の訓え「影術」のものであるらしい。が、このことはPCの知識外。


 穴の底は明らかに通路になっていた。先を行く影の足は速かった。赤狼は懸命に追う。ねずみの足では限界があった。心の中で舌打ちをした瞬間、影がふりむく気配がした。とっさに身を翻して駈け戻った。背後で叩きつけるような音がした。間一髪だった。後を振り返って確かめる前に、勢いあまって赤狼のねずみは穴から飛び出していた。もうひとつ、とんでもないものが降ってきて尻尾を叩きつけた。ヴァラーシュタインの犬の前足だった。
 つまりは厄日に違いないのだった。

ローテンヴォルフの「危険好き」の面目躍如。本当は犬にも協力して欲しかったのだけれど、グールは主人の命令以外きかないし(なにしろ元々が「主人に忠実で他人の言うことをきかない犬」だもんなぁ)一度ヴァラーシュタインが適用した「支配」の内容はもう一度ヴァラーシュタイン自身が犬と目を合わせて命令しなおさない限り変更できないのだった。


 影は逃げ去り、手詰まりになってしまったので、一同は今度こそ部屋に引き上げた。赤狼は、アルラがかき集めたねずみから話を聞き出し、この建物が本当に穴だらけであること、それに新校舎よりも旧校舎により緻密に通路が張り巡らされていることを告げた。ボロシノヴィッチの見たところ、旧校舎の通路は大人がやっと立って通れる程度、新校舎の通路は子供でなければ通れないような代物だった。しかも、彼の見立てによれば、それは多分に建築技術の違いだろう……つまり、旧校舎の通路が大きいのは、それ以上細い隠し通路を作ることができなかったからだろう、というのだった。
 創立以来学校ぐるみで謎に包まれているのかもしれなかった。
 そういい始めれば、生徒達がやたらと礼儀正しいというのも薄気味悪いのだった。
 
 とりあえず、公子さまにお知らせしましょう。
 そう云ってレダは公子の元に声を飛ばした。礼儀正しくなってゆくという生徒、頻発する貧血事件、絶えず感じる気配、赤狼の感じた邪悪、隠し通路、そして粘つく闇を纏う影。
 公子はしばし沈黙すると、「危険か?」と尋ねた。
 「いいえ、今のところは。でも、わたくしたちだけでは手に余るかも知れません」
 「わかった。必要なら増援を送る。本当に危険なら、手を引いてもよい。
  ……我が版図にて勝手な真似はさせぬ。思い知れ」
 呟いた公子の声は、氷の刃といってもまだ云い足りぬ、とレダは思った。

というわけで、ローテンヴォルフの「大失敗」の結果までが公式情報として公子のもとに行ってしまいました。これがどういう結果になることやら。


posted by たきのはら at 20:20| Comment(0) | TrackBack(0) | VAMPIRE:The Masquerade | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

The First Night〜ギムナジウム〜:その2

 公演を打つだけならまだしも、ヴァンパイア騒ぎの謎を解くとなると、ギムナジウムの中に入りこんでおく必要がある。
 そうヴァラーシュタインが切り出すと、アルラが嬉しそうに申し出たものである。
 「だったらあたし、編入させてもらう。男装して、学生に化けて。学校なんて行ったことないんだもの、一度くらい入ってみたいの」
「それは無理でしょうな」
 ヴァラーシュタインは苦笑交じりに答えた。
 「ローテンフライト校は200年の歴史を持つギムナジウムです。身元の知れぬ学生をそうやすやすと受け入れてくれるはずもない」
 「だったら、お客として入れていただきますわ。そちらで公演を打つのですもの、先に顔見世をさせていただいてもよろしいでしょう?寄宿舎には客用寝室もあるはずですし」
 レダの提案は、ヴァラーシュタインだけでなく、ボロシノヴィッチの苦笑まで誘った。
 「いや、私、ギムナジウムはともかく、はるか昔には大学生でありました。そのころは……まぁ、決闘の合間に学問を修めていたような次第ですが、そのころの経験から言いますと、寄宿舎の客用寝室に泊まったご婦人方はずいぶん沢山な訪問を受けることになると思いますが」
 「ああ。俺も全く同感だ。俺が大学生だった頃と言えば、学園の祭りとはつまり、とどろく怒号、舞い散るビラ、押し入る軍隊に石畳を引き剥がして投げつける学生と、まぁそんなもので、楽団を呼んで騒ぐなど思いもよらなかったが……その頃にしてからが、寄宿舎なんてところにご婦人が泊まろうものなら、三階までの窓は地上にくっついた扉とさして変わらないものであると、そんなところだったよ」
 レダとアルラはしばらく顔を見合わせていたが、やがてくすりと笑った。
 「学生さん達は、キスされるのはお嫌いかしら?」
 これはレダ。
 「嫌いどころか」
 ヴァラーシュタインが言いかけると、アルラが小さく笑い声をあげた。
 「なら、何の問題もないでしょ。あたし達は大歓迎」
 それが何を意味しているのかを悟って、紳士一同はしばし眉を顰めた。
 「まったく、ご婦人方というのは油断がなりませんな」
 「生きていてさえ性質が悪いというのに、吸血鬼なんぞになったらなおさらだ」

追記。ただしレダに言わせればよっぽど性質の悪いのは、マネージャーとかスポンサーとかいう人種のほう。ヴァラーシュタインが、ともあれ私達は『血の如く紅き』には、たくさん、たくさん、たくさんの金を産んで欲しいと願っております、そのためとあれば、忍び込んできた学生さんの首筋に歯型をつけたまま帰して差し上げるのも宣伝効果としては非常に有効なのではありますまいかといけしゃあしゃあと付け加えたからに違いない。



 結局水曜日の夕刻、『血の如く紅き』はバンドのメンバー全員と臨時雇いの警備員二人、競演する『夢の園』の団長とパフォーマー代表、スポンサーたるヴァラーシュタイン老にバンドのマネージャーという顔触れで、ローテンフライトギムナジウムにやってきたのだった。寄宿舎に泊まるのはレダとアルラ、ドラムス担当のハインリヒにマネージャーのオラフ、「警備員の」ボロシノヴィッチ、それに『夢の園』の団長の6人となった。あとのメンバーは、男子校の宿舎と聞いたとたんに怖気をふるって断ってきたのだ。男声ヴォーカル兼ギター担当のマックスに至っては、「部屋の中で取りまわせる長さの棒と催涙スプレーは必携」などと言い出して、ボロシノヴィッチを唸らせた。
 つめかける学生を、ボロシノヴィッチは恐るべき手際で捌き、一行を教頭室に案内した
ロシア革命に関わりぬいた元共産党員の手腕を馬鹿にしてはならない。

 実はボロシノヴィッチは短所「霜の手」を取っており、彼の近くに行くとなにやらぞっとする冷気を感じてしまう。幸いゲーム内現在は11月だったのでよかったが、春は行く先で片っ端から花壇が枯れるので大変困ったことになるに違いない。しかし共産党員ヴァンパイアだったころは、不気味な気配を持つ党員ということで非常に有効だったはずなのだけれど。



 かくして一通り顔合わせが済み、一行は寄宿生主催の歓迎会に招かれた。ヨハン・シューラーという少年が、レダに花束を差し出した。ヨハンはこの寄宿舎の寮長らしかった。
 少年達に取り囲まれながら、レダはそれとなくヴァンパイア騒ぎのことを尋ねてみた。どうしてそんなこと気にするんですか、という問いには、満面の笑みでこう答えればいいのだから、何も気兼ねは要らなかった。――だってわたくしもヴァンパイアですもの。
 しかしヨハンに云わせれば、それは多分手の込んだいたずらだろうというのだった。
 「だって、今までもよく、貧血で倒れる奴はいたんです。でも、首筋に牙の跡なんてあの時だけでしたね」
 「あら、それは芝居ッ気の多いことね。他にもそんな話はないのかしら」
 「さあ、僕は知りません。クルト・ホフマンなら知ってるんじゃないかな。珍しくきかん気な1年生で、幽霊探しばっかりやってますよ。寄宿生じゃないので今日は会えませんが」
 「珍しく、って?わたくし、ここに泊まりたいと言ったとき、男子校の寄宿舎なんてジュリエットを訪なうロメオの予備軍ばかりで、窓と扉の区別のつけようもないのだから気をつけるように、などと云われてきたのだけれど」
 「ああ、それは安心してくださってかまいませんよ。みんなここではこうして騒いでいるけれど、そこまで失礼なことをする奴なんか僕には思いつかない」
 聞いた話と実際は大いに違うようだった。舎監の教官にもそれとなく夜の治安について尋ねてみたのだが、得意満面で「我が校の教育方針とその浸透度について」の演説を15分ばかり述べ立てられたに留まった。入ってくるときは明らかに小さな野蛮人である彼らは、入学後いくらもしないうちに校風に馴染み、若き紳士となっていくということなのだった。レダは居眠りもあくびもできない不死者の体を、このときばかりは呪わしく思った。

レダとアルラは長所「食事可能」を取っており(二人とも人前に出るのが職業なので、あからさまにヴァンパイアらしいといろいろと困るのだ)、おかげで「自称ヴァンパイアという冗談」が通用する身になっているのです。あとはご老人と警備員なので、特に問題はなし、ということに



 夕食の後は礼拝だった。ヴァンパイアでも礼拝はするんですか?と、いかにも無邪気そうな1年生が尋ねてきたので、参りますよ、とレダは答えた。背後でボロシノヴィッチが小さくうめいた。『血の如く紅き』が礼拝にも参加するというので、いつもはサボる少年達までが礼拝堂にやってきた。彼らの興味はもっぱら『ヴァンパイアであるところのレダは讃美歌を歌えるか否か』であるようだった。
 「失礼ね、なんだか賭けまでしてる」
 そうアルラが云ったので、レダは微かに笑った。
 「それじゃ、答えを出してあげないとね」
 礼拝の最後に、レダは信者席から立ちあがり、アヴェ・マリアを歌った。ざわめいていた少年達は言葉をなくした。歌は全ての列席者の心を揺さぶり、無神論者のボロシノヴィッチや聖書よりは決算書のほうが気になる性質のマネージャーまでが、聖母マリアが本当にいたら大変だと思ってしまったほどだった。
 「いつも罰当たりなことばかりしていますもの、たまにはこんなことも」
 恥ずかしそうに微笑むレダは、ゴシックメタルバンドなどというものがギムナジウムにやってくるのを快く思っていなかった学校付きの司祭様の信用まで、しっかり勝ち得てしまったようだった。

ここでレダは「とりあえず『訓え』がどの程度の効果があるか見たいから」なんぞという理由で「恋歌」を使用。長所「魅惑的な声」で難易度を下げ……5成功で完全成功となるところを6成功してしまう。というわけで聖母マリアへの信仰をその場にいた全員の心に吹き込むことに成功。ついでに司祭の深い感動まで惹起。ひでえ。

そらそうと、普段の芸風どころか存在そのものが罰当たりなヴァンパイアがしおらしくしてても、なぁ。

posted by たきのはら at 20:17| Comment(0) | TrackBack(0) | VAMPIRE:The Masquerade | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

The First Night〜ギムナジウム〜:その1

 ミュンヘン公子、ハンスリック・ハルトマンは不機嫌だった。
 公子の仕事は忙しい。ましてや客の多い祭りの頃は。
 10月祭が終わって一段落したと思えば、今度は聖マルティン祭だ。その上、部下に面倒を見させている地元のレコード会社が、新進気鋭のゴシックメタルバンドとやらの新曲の録音を是非ミュンヘンでさせようと言ってよこす。せめて年を越してからにはできないのかねと云ってやると、部下は笑ってこう云ったものである。――定命のものどもの好むものに注意を払うのも悪くありますまい。この一座の歌姫、大変珍しい血を引いております。それで、その娘の顔を見る気になった。
 まだ若いその娘は若いなりに礼儀を心得ており、到着するや否や早速挨拶にやってきた。きけば旧大陸には殆ど棲んでいないはずの不協和音の娘の一族だと言う。白金の髪に氷碧の瞳。飛び抜けて美しいというわけではないが、愛らしい顔立ちで見てくれも悪くはない。試みに歌わせてみたら、こちらは噂以上だった。そこで、望む限りの待遇と引き換えに館に留め置くことにした。そう告げると薄気味悪そうにしていたが、血の契りを結ぶまでもない、音楽室に案内させたらあっさりと留まることを承知したという。たしかに珍しい。
 珍しいことは重なるもので、次の週に挨拶にやってきたのは無礼と放浪と悪党で悪名高いはずのラヴノスの一族を名乗る娘だった。移動遊園地で幻術師をしているらしい。妖精だの本物の魔術師だのを混ぜ込んだ札付きの遊園地のようだったが、悪いうわさも特にないようなので黙認することにした。
 そのアルラというラヴノスの娘を見るや、館に留めてあった不協和音の娘が駆け出してきて、嬌声をあげて彼女の首っ玉にしがみついたものである。ナチスが大きな顔をしだす前は、二人は同じ移動遊園地の舞台に立っていたらしい。娘というのは死んでいようといなかろうと理解しがたい存在で、二人揃えば往来だろうと謁見の間だろうと、どこでも女学校の寄宿舎の寝室やら食堂やらに変えてしまうのである。
 だから、執行官の使いだというロシア人が訪ねてきて二人を部屋から出すようにと申し出たときは、公子は少なからずほっとした。娘どもというのは存在自体、対処に困る。
 「リリス様がおっしゃるには」
 と、その男、ボロシノヴィッチは云った。
 リリス・クルースニク(十字架を負うリリス)などというに聞くからにふざけた名の執行官は、今度の大会合をミュンヘンで行う「ことにしてほしい」、と云ってよこしたのだった。近頃は暴徒の暗躍が著しく、真の大会合開催の地はぎりぎりまで明らかにできないらしい。
 「リリス様は所用があって遅れておられますが、じきに到着するとのことです」
 ……厄介ごとが増えた。リリスはその名にふさわしく、常に最大級の厄介ごとと一緒にやってくる。そしてこちらに、その名のとおり負ってきた十字架を押し付けるのだ。
あの女の到着前に動いておかねばならぬな。公子は呟くとベルを鳴らし、使用人を呼んだ。腹心のヴァラーシュタインには、執行官の要求を伝えておこう。あとは……今のうちに少し地元を賑やかしておくか。幸い歌姫も手に入ったところだ。

 公子にお目通りを済ませるや否や、「娘たち」は寄り添ってこんな会話を始めたのでした。
「……アルラ!?よかった。無事だったのね。あの大戦で遊園地もなくなってしまって……心配していたのよ」
「眠っていたの。ずっと。だから、何が起きたのか見ずに済んだけれど……起きたら、みんないなくなってた。あたしの同族のひとたちはみんなナチスに殺されて……」
「見ずに済んでよかったのよ。アルラの見ていいものじゃなかったから。でも少しだけ、仇を討ったわよ。……わたくしも殺したの。奴らを。SSの寝室に招かれるように仕向けて、ベッドであいつらの血を吸い尽くした。あいつらのやり方は気に入らなかったから」
「そうなの?……嬉しいわ」
で、くすくすとお互いに笑ったりして。


 赤狼は時ならぬエンジン音に首をかしげた。こんな時間にこんな森の奥までやってくる人間がいるものだろうか。
 果たしてそれは人間ではなく、街の公子の使いだった。
 「赤狼、ローテンヴォルフ、公子様のお呼び出しだ。すまんがちょいと人間の振りをして一緒に来てくれ」
 「冗談じゃない、なんで俺が街まで出向かなけりゃならんのだ」
 「俺の知ったことか。公子様のご命令だ。早くしてくれないと俺が大目玉を食って、そのうえ次はお前さんだぞ。公子様を怒らせたら、大目玉じゃ済むまいなぁ」
 ミュンヘン公子の噂は聞いたことがあるような気がしたし、それはどうもずいぶん恐ろしげなものであった気がしたので、赤狼はしぶしぶ人間の姿になってBMWの後部座席に収まった。背中までの髪を束ねた狼じみた若者の姿になったので、もうすこし上品な格好にはならんのかとかなんとか使者はまたぶつくさ言ったのだが、こればかりはどうしようもないのだった。

 まぁ、本当は「公子の命令」でギャンレルを動かすのはいろいろと面倒らしいのですが、この場合、ローテンヴォルフが「喪失した記憶の中身になんとなく不安をいだいている」ことをつっついて動かした……というような処理がなされた、はず。



 連れて行かれたのは市の中心部から少し外れた屋敷だった。表札にはヴァラーシュタインとあった。公子の館ではないようだと赤狼は思った。着くと書斎に通され、そこには血族ばかりが5人いた。1人はたいそうな年寄りで片眼鏡をかけて車椅子に座っており、その傍らにはドーベルマンが一頭寝そべっていた。目の光り具合からするとその犬もグールであるようだった。
 「来たか、ローテンヴォルフ」
 金髪碧眼の美丈夫がちらりと視線を投げてよこした。これが公子だなと赤狼は思った。見覚えがあるような気がしたが、やはりはっきりとは思い出せなかった。最後に会ったのは百年以上昔なのだろう。
 「詳しいことはヴァラーシュタインに伝えた。……良い結果を、期待している」
 そう云って公子はふいと出ていった。最後の一言は全員に告げたものらしかった。

 老人が一人、若者が二人。そしてまだ幼い顔立ちの娘が二人。顔触れだけ見れば、何の為に集められたのかさっぱり予想のつかない一団だった。
 車椅子の老人はこの屋敷の主で、ドクトル・ヴァラーシュタインと名乗った。
 「ヴァラーシュタインの一族は……ああ、ローテンヴォルフさんはご存知ないかもしれないが、あれこれと商売ごとをやっておりましてね。で、そのひとつにレコード会社があるのです。ローテローゼ・レコードというのですが。それで、今度の聖マルティン祭に、その会社に所属する『血の如く紅き』というバンドがミュンヘン市内の由緒あるギムナジウムで公演を打つことになったのですよ」
 「それが俺に何の関係がある」
 赤狼が唸るように云った。
 「関係はないかもしれませんな。しかし、ご協力をお願いしたいのです。実は……」
 そう云ってヴァラーシュタイン老は一通のタブロイド誌を赤狼に差し出した。品のない紙に品のない見出し、品のない文章で「歴史あるギムナジウムにヴァンパイア暗躍!?」という記事がでかでかと踊っていた。ミュンヘン市内のとあるギムナジウムで、生徒が貧血状態で倒れているのが発見され、その首筋にはくっきりと二つの牙の跡が残っていた、というのだった。
 「で、これが俺に何の関係がある」
 赤狼はもう一度唸った。
 「『血の如く紅き』は、一週間後の日曜日に、このギムナジウム――ローテンフライト校で公演を打ちます。それには今ちょうどミュンヘンに来ている移動遊園地『夢の園』も協力します。で、こちらが『血の如く紅き』の歌姫、レダ・アンナマリア嬢。そしてこちらが『夢の園』きっての幻使い、アルラ嬢」
 娘二人のうち、やや年上にみえるほうが言葉を継いだ。
 「つまり……公子さまが仰った仕事というのは、とりあえずはそこでの公演なのですけれど……その他に、わたくし達に、そこで歌うついでにヴァンパイア騒ぎの真相を明らかにして欲しいと、たぶんそうお考えなのですわ。『血の如く紅き』で公子さまにお目見えがかなうのはわたくしだけですし、アルラはわたくしのお友達ですけれど、この二人だけではどうにもならないことは公子さまもご存知なのだと思います。ですから」
 「ふむ。……ここに来てしまった以上は、そんな厄介ごとはごめんだと言って森に帰るわけにもいくまいな。公子の不興を買うのは面白くはあるまい。で、あんたは」
 「ボロシノヴィッチ。ロシアの学生だった。今は公子様のところでご厄介になっている」
 最後まで黙っていた男がぼそりと云った。
 「役に立つかどうかはわからん。昔は爆弾投擲なら得意だったが」

ヴァラーシュタイン老はヴァラーシュタイン・コンツェルン(?)の顧問をやっており、一族の問題を解決する一方でミュンヘン公子にも使えているという設定。……とすると、ひょっとして彼は現公子と血縁続きとか?

 ヴァラーシュタインは記憶を無くす前のローテンヴォルフを知っているが、ローテンヴォルフのほうは当然覚えていないということに。ここで、彼らの意外な確執が明らかになる。歩行不能であるところのヴァラーシュタインはある日、どうしても自力で移動せねばならぬ羽目におちいり、あらん限りの血を消費して腕力を増強、「腕だけで飛ぶように走ってくる爺い」という都市伝説のごとき見苦しい姿で街を疾走していたところをローテンヴォルフに目撃されてしまった!それを深く恥じたヴァラーシュタインは理不尽にもローテンヴォルフを逆恨みして彼の記憶を抹消、それが効き過ぎて以来ローテンヴォルフは記憶喪失に……
 あまりにも見苦しいので多分冗談だと思います。ええ、多分。

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11月のギムナジウム:NPCと氏族概説

ミュンヘン公子

 ハンスリック・ハルトマン:ミュンヘンとその近郊一帯を治める公子。金髪碧眼長身の白皙の貴公子。

 氏族は「ヴェントルーであるといわれている」のだがそれ以外の氏族にはあまり見えない。いい意味でも悪い意味でも誇り高いアーリア人種。ただしナチスの活動は全く認めていないらしい。虐殺は人的資源を浪費するからだそうだ。そのうえ「次はイタリアの馬鹿どもとは組まぬ」等と公言している。

 とんでもなく昔からヴァンパイアをやっているようだが(ぽっと出の若い公子なんてのはいるまい)、現在は騎士甲冑からブランド物のスーツまでを平然と着こなし、「愚民どもにあわせて」コンピューターも自ら駆使する(機種は――これも愚民どもにあわせて――Windowsを使用)という「進歩的な」人物。性格は良くわからないが実は怖い、らしい。怖い面を見てしまったら永遠に滅んでいるので誰も知らないのだ。

 当然NPC。


氏族概説


 このゲームに登場するヴァンパイアはそれぞれさまざまな「氏族」に属しています。
 様々な伝承や小説に登場するヴァンパイアのそれぞれに異なったイメージをひとつのゲーム内に組み込むために取り入れられたシステム、ということだったように記憶しています。

PCたちの氏族の特徴を簡単にまとめると、こんなふうになります。

ヴェントルー:(ドクトル・ヴァラーシュタイン・ひょっとしたら公子も)
 ヴァンパイアの中の貴族です。だいたいにおいて資産家で、紳士淑女の様相を崩すことはありません。たぶん。
 人間社会と関わりを持ち、人間社会を操ることを好む傾向があります。

ブルハー:(ボロシノヴィッチ)
 革命家であり、思索するものであり、理想を追うものです。
 まかりまちがうとテロリストになります。かっとなりやすい性格で、暴力に頼りやすい一面もあるとか。

ギャンレル:(赤狼)
 蝙蝠になったり狼に変身したり、という「変身能力を持つヴァンパイア」の伝承を再現した氏族。
 野性的で人に支配されることを好みません。

ラヴノス:(アルラ)
 ジプシーの一族です。幻術を得意とします。他のヴァンパイアからは油断のならない一族と考えられているようです。
 ジプシーの人間とは行動をともにしているとされていることもあります。

不協和音の娘:(レダ)
 音楽に関わる(特に歌うたいが多い)ものだけで構成された氏族です。
 歌うこと以外に興味を示さない一族です。非常にめずらしい一族なのだそうです。

トレアドール:(ルネ)
 こちらは唯美主義者の一族です。何か自分が美しいと認めたものに、その闇の生を捧げます。
 ただし「芸術以外に興味を示さない」というわけではありません。
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11月のギムナジウム:署名なき画家

 あの肖像画には、私の名を入れたのです。

 あの肖像画が、私の……最後の作品になったのです。

 画の題は「黒い聖女」。描かれているのはこの世ならぬ気品と美しさ、気高いまでの残酷さをまとった黒衣の婦人。

そのひとは……こう私に告げたのです。

 今まで貴方の絵をずっと見てきました。とても、気に入りました。だから、貴方を試させて下さい。妾の肖像画を描いて下さい。それを妾が気に入ったら、貴方には心ゆくまで描かせてさしあげたいと思っておりますの。

 そのひとが訪れるのはいつも薄暮がその闇の気配を増し始める頃。薄雲のような黒衣をまとって、そのひとは私の前に座ったのです。蝋燭の明かりと月光だけがそのひとの肌に濃い陰影を落とす中で、私は絵筆を走らせました。一度でいい、陽の光の中でモデルの姿を見たいと告げると、そのひとは冷たく笑ってこういったのです。

 この明かりの中では妾を描けないというのであれば、貴方は妾の出した課題には応えられなかったことになりますわ。

 私はようやく画家として名が売れ始めた頃でした。
 その私の絵を幾枚か、法外とも思える値段で買い取ったあと、そのひとは私に告げたのです。

 妾の出した課題に応えられれば貴方はこの先、何不自由なく思いのままに絵を描くことができる、その絵が画壇に喜ばれるかどうかなどの瑣末事に囚われることなく描き続けることができるのです、と。

 得がたいパトロン、そう思いました。
 私を気に入って、この先保護してくれるというのなら、たった一度か二度の気まぐれな「課題」に応え損なうのは愚かなこと。例えこのひとの次の気まぐれが、私を保護下から放り出すことだったにしても、その頃には私は庇護なしにもやっていけるだけの力を得ていようから。

 私は一ヶ月かけて、絵を完成させました。
 させたと思ったのです。
 完成させたはずの絵を見て、私は思わず手に持った絵筆を取り落としました。

 絵の中のそのひとの笑みは美しかったが残忍だった。そのひとのまなざしは美しかったが邪悪だった。祈りのかたちに組み合わせた指は美しかったが……何かこの世ならぬものを思わせた。失敗でした。失敗どころの話ではない。私は、私の絵筆はいったい何を描いたのだ。そんなものをそのひとに見せるわけにはいかない。この絵は焼き捨てよう。そう思ったのです。

 けれど。

 あのとき、どうしてそのひとが私の隣に立ち、私の手を押しとどめることができたのか、今の私ならば理解します。けれどあのときは、取り乱す私の傍に、悪夢のように黒衣の依頼者は現れ、笑いを含んだ声で告げたのです。

 気に入りました。思った以上に気に入りました。そう、これが妾です。よくぞ……描きました。約束どおり、貴方を迎えましょう。妾たちの……仮面舞踏会の中に。

 以来、私は神の祝福を失いし者として200年の歳月をこの世に在るのです。

 描き続けること。これが私の魂をこの世につなぎとめているのです。人の血を唯一の糧とするようになってから、ものを見、感じ、感覚を研ぎ澄ます能力は年ごとに強くなりました。私の絵は進歩したでしょう。いっそうの真実を画布の上にとどめるようになったのでしょう。しかし、画布の上にしたためた私の魂はいずれ抜け落ちていくような気がしてならないのです。

 なぜなら私の作品には署名が入らないのだから。

 私の魂を画布に止めつけるための最後の鍵を、私は回していないのだから。

 ルネ・ド・ブルーローズは200年の昔に姿をくらまし、以来作品を発表することはなかった、ことに、なっています。例えそうでなかったとしても、署名を入れれば作者の不自然な存在が世に知れ、そして私は化け物として滅ぼされてしまうでしょう。偽名を使う仲間もいますが、私はそれを是とはしません。私はルネ・ド・ブルーローズで、それ以外のものではありえないからです。そして闇を生きるものの中だけで作品を発表するなら署名もできましょうが、それはくだらないことです。彼らは永久の時間を永久の無駄口で潰しているだけですから。彼らの魂は凍りつき、冷え切った評論を繰り返すに過ぎないのですから。私は……私にはわかるのです。私の魂はまだ冷え切ってはいない。絵への情熱が導いた闇の生なら、この闇を生きるための一条の光も等しく絵への情熱に違いない。魂が冷え切れば、私も滅ぶでしょう。

 私は、永遠の時を生きる。
 私は、血をすすって命をつなぐ。
 けれど、この絵筆によって、私は人間なのです。
 だからこそ、署名ができないのです。
 人間は人間の常識によって裁かれる。裁かれないためには証拠を残しては……ならない。
 「まだ、こんな絵には署名はできない。僕はほんの若造だしね、恥ずかしいよ」
 笑いながら繰り返す、画商への言葉。
 そのたびに、もう打ってはいない心臓が、ずきりと疼くのです。

 だが、私は人間だ。人間でないとしても、少なくとも画家には違いない。だとすれば、私は幸福です。永遠に描くことを許されたのだから。だから私はこの幸福を享受します。地の表を放浪し、描きつづけます。

 描き、続ける。

 でなければ、私は魂ごと滅ぶのです。

 署名のできない不幸、永遠の幸福。……考えるのはとうの昔にやめました。

 描き続ける。

 私にできるのは、それだけなのですから。

ルネ・ド・ブルーローズ 第12世代トレアドール

現時点のプレイからするに、数値よりもかなり人間性(と、プライドも)が高そうな「永遠の放浪画家」。画題を求め、年中キャンピングカーで移動している。本拠地はパリらしいが、あまりひとところに長居をすると年を取らないのがバレるので、最近ミュンヘン近郊に移ってきた。高レベルの「先覚」持ちで、ヴァンパイア社会では探偵業のような仕事を頼まれることも多い。が、本人の意識としてはあくまで本業は画家なのである。その一方で、狩猟団体に所属し、ライフルを所持するという一面も。ただ、彼のライフルが火を噴くようになる事態って……ポーの一族路線からは外れてそうだよなぁ。

プレイヤー:神無月まこと

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11月のギムナジウム:歌姫――インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア

 ……わたくし?

 ええ、生まれは1820年。カールスルーエの商家に生まれましたの。名前は大伯母からいただいたわ。敬虔なクリスチャンで、たいそう幸せに天寿をまっとうしたものだから、それにあやかって、レダ・アンナマリアと。小さい頃から歌うのが好きだった。将来は大歌手になるだろうって言われたわ。父は進歩的なひとで、良家の娘はせいぜいサロンより外には出ないものだ、なんて言いぐさには真っ向から反対意見の持ち主でしたから、わたくしの音楽の才をとても喜んで、家庭教師を付けて私に教育を受けさせてくれましたの。ザルツブルグの音楽学校にもやってくれました。……そのときには、わたくしは死んでしまっていたのですけれど、ね。

 事故でしたの。馬車の。音楽学校の先生が迎えに来てくださって……ザルツブルグに向かう途中でしたわ。ひどい事故で、一瞬でした。首の骨が折れて。

 そのときね、先生がおっしゃいましたの。

 せっかくの美しい声、磨かずに消してしまうのはあまりにも惜しい。歌い続けなさい。もう休むことは出来なくなるけれど、って。

 音楽学校に向かう途中だったのは幸運でしたわ。家族には間一髪で命だけは助かり、そのまま馬車を乗り換えてザルツブルグに向かったと知らせてやりましたし、何の問題もありませんでした。馬車を乗り換えたわたくしは……もう、ただの動く死体、ヴァンパイアでしたけれど。

 それから?ええ、いろいろありましたわねえ。

 音楽学校を出て、リート歌手になって。オペラの舞台にも立ちましたわ。顔も変わらないし死なないので、ひとところには留まれません。フランスにもイギリスにも参りましたわ。16歳で時が止まって、15年もすればさすがにごまかしが効かなくなりますもの。カールスルーエに戻れない理由が要ります。ですから、外国に。それでも誤魔化せなくなると、表舞台からしばらく退いて、小さな音楽学校の教師になったり、家庭教師をしたり。家庭教師の勤め口を探す新聞公告の文面なんて、今でも覚えています。「当方、教育に経験のある若い女性、14歳以下の子女の家庭に勤めたし。フランス語・絵画・音楽の教授資格を有する。ロウトン局留め、J.E」って。J.E?ああ、そのときは偽名を使っていましたの。偽名といえば……別の名前で酒場のお座興に出たときに、お年寄りが感激してこうおっしゃったこともあったわねえ。あんたはこんなところで歌っていていい人じゃない、正規の音楽教育を受けたまえ。あんたは知らないだろうが、私の若い頃、レダ・アンナマリア・シュトルムという素晴らしい歌い手がいたのだよ、あんたに声も、顔もそっくりな……ああ、顔なんか若い頃の彼女に生き写しじゃないか、って。後で部屋に戻って、ずいぶん泣きましたわ。

 それから?ええ、いろいろですわ。いろいろ。

 わたくしをこんな体にした先生は、わたくしが学校を卒業した頃にはアメリカに渡ってしまいましたし、わたくし、ひとりで何とかしてこなければなりませんでしたもの。

 2年前にマックスと会わなかったら、まだあのクラブで臨時雇いの歌い手をしていたんじゃないかしら。RED AS BLOODがツインヴォーカルをフィーチュアするようになってからのことはマックスがもう話してるのよね。じゃ、私がいちいち云うことないか。

 え?ヴァンパイアだったら血が要るだろうって?

 ええ。ですから。ファンの方の唇と一緒に頂戴しておりますわ。それでよろしいんじゃなくて?書いておいて下さる?唇に噛みつかれたくなかったらライヴの後に危険なヴァンパイア娘に絡みつかないほうが身のためだろうって。よろしくて?

 ええ、それだけ。

 なあに?6度目の整形手術も成功するといいですねって……失礼な。わたくしヴァンパイアだから16歳より年をとらないのだって、何度もうしあげたらよろしいんですの?だいたいこれまでの5回って何よ。今度マネージャーにきつく言っておかないとね……って、ああ、こちらの話。ええ、それじゃ、記事のほうよろしくお願いしますね。ニューアルバムのレコーディングはミュンヘンのスタジオでいたしますので、たぶんそちらのクラブでライヴありますから。そのへんのこともお願いします。

 それじゃ。ありがとうございました。

 やれやれ。「ジェーン・エア」の引用以外は全部本当のことなんだけれど。

レダ・アンナマリア・シュトルム 第13世代不協和音の娘

「デーモン小暮がデーモンであるのと同じくらいにヴァンパイアであると信じられている自称ヴァンパイア」芸能人。これで存在に違和感がないんだから芸能界というのはきわめて人外魔境に違いない、とかなんとか。長所「魅惑的な声」取得済み。

プレイヤー:たきのはら

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11月のギムナジウム:移動遊園地の少女

 遊園地。夢の園。

 移動遊園地は光と闇の隙間からやってきて、思い出の中に消えてゆく。

 メリー・ゴー・ラウンド、大観覧車、鏡の迷路。手品師、道化師、そして迷子。

 ……迷子になったきり戻らない子供は、ひょっとしたら永遠に子供のまま、遊園地と一緒に国中を回りつづけているかもしれない。

 アルラは13歳で、それきり年をとらない。もともと国中を流れ歩くジプシーの娘だったから、通いつめた移動遊園地の片隅で血を吸い尽くされたって、それと引き換えに永遠の命を貰ったって、そして『夢の園』と一緒にドイツ中を回ることになったのだって、大して生活に変わりがあるわけではなかった。

 大好きな遊園地と一緒に旅ができるのだから、普通に年をとっていくよりずっと幸せだった。産みの母親の顔なんかもともと知らなかったというのに、遊園地と一緒に旅するようになってからは「母さん」と呼ぶ相手だってできた。母さんはやさしかったし、幻の紡ぎ方も教えてくれた。日が落ちてから始まるショーは素敵だった。幻の炎や幻の竜、鎧をまとい槍をきらめかせ駈けてゆく騎士達の影、そんなものが彼女の指先から紡ぎ出され、お客は感嘆の声をあげた。だからアルラはとても嬉しかった。

 普通に年を取っていくなら占い札の読み方くらいは習えたろうが、文字の読み書きなんか知らずじまいだったに違いない。けれど、こうして新しい旅の仲間に加わってからは、団長さんが丁寧に読み書きを教えてくれた。始めて読み通したのはジュール・ヴェルヌの本で、地下に広がる世界のことが書いてあった。それ以来、アルラは永遠の命を生きるのに二つの目標を持つことになった。ひとつは移動遊園地と一緒に世界中をまわること。もうひとつは地底王国への入口を見つけること(なにしろそこなら、彼女の体を焼き尽くして灰にしてしまう太陽はないわけだし、また明るい場所で駈けまわれるにちがいないもの)。そう云うと、団長さんはとても嬉しそうだった。それで不思議な興行が続く間、アルラは幸せだった。

 そう、考えてみればずいぶん不思議な遊園地だった。

 仲良しの小人は変装した子供でも、体の大きくなり損ねた病人でもなかったし、火食い男は実際に胃の腑に炎を収めていた。鏡の迷路で本当に迷ってしまうと命はともかく魂に関わったし、閉園の後にメリー・ゴー・ラウンドがいつのまにか逆向きに回っていることがあって、そんなときは入ってきたときには初老だったはずの男がえらく若々しい足取りで門を出ていったりもしたのだった。

 戦争が始まって興行が立ち行かなくなると、団長さんはアルラを呼んで云った。このままだと死んでしまう。安全な場所に案内してあげよう。そこでしばらくお休み。平和になったら必ず起こしてあげる。そしたら一緒にまた、国中を回ろう。うまくいったら世界中だって。私が死んでしまっても私の息子が、息子が年老いても戦争が終わらなかったらそのまた息子が、かならずアルラを起こしにゆくから。

 結局アルラを起こしたのは、団長の一番小さかった息子だった。

 遊園地は再開できるけれど、ずいぶん仲間が減ってしまったよ、そう新しい団長は云った。メリー・ゴー・ラウンドは部品が大方なくなってしまったし、アルラの母さんもまだ行方知れずだ。だけど、よかったら、また一緒に回らないか。

 そこでアルラはまた、遊園地と一緒に旅をはじめた。日が落ちてからのショーで幻を紡ぎ、ときおりは幻に紛れて夢見心地のお客から少しばかり血を吸い、そんなふうにして。

 こうしてずっと流れ歩いてゆくのだと、アルラは思っている。

 永遠の命。永遠の移動遊園地。あたしは、幸せ。そんなふうに。

アルラ 第13世代ラヴノス

ブラッドベリ的な遊園地の中で暮らしてきた一見極めてブラッドベリ的な娘さん。その実態までがブラッドベリ的にまとまるかどうかはセッションの推移にかかっているような気がする。この面子の中で切った張ったとは一番縁がない、はず。雰囲気を「ポーの一族」につなぎとめる最後の命綱になるのかも。

プレイヤー:福島諒弥
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11月のギムナジウム:赤狼

 彼は百年より昔の記憶を持たない。いつどうしてこんな身の上になったのかも知らない。

 知る限りの昔から、森に暮らしていた。己は血を吸って生きるものであることは承知していたので、森に住む人間と取引をしておいた。

 お前らの安全は守ってやろう。替わりに少しばかり血を分けてもらおう。死ぬほどは取らぬ。この森に暮らすための税と思え。

 彼は人間の姿を好まなかった。二本足の卑小な生き物よりは、夜の闇の毛並み・炎の瞳の狼の姿を好んだ。人間たちはその姿を恐れ敬い、そしてその瞳の色にちなんで彼を赤狼(ローテンヴォルフ)と呼んだ。

 彼は夜歩き、血と引き換えの取引通り森の平穏を守り、そして昼間は森の懐深く洞窟の奥に眠った

 彼は知らない。どうして彼がこんな身の上なのか。
 どうして夜歩く生き物なのか。老いることも死ぬこともないのか。
 どうして人・狼・蝙蝠・鼠と思いのままにいくつもの姿をとれるのか。

 ……どうでもいい。我はこの森の主、赤狼。それで充分ではないか。

 どの道百年より昔の彼の記憶は、薄靄の彼方なのである。

赤狼(ローテンヴォルフ) 第8世代ギャンレル

ミュンヘン近郊の森は幸い人狼の暗躍するところではなかったので、代わりに棲み付いている。短所「記憶喪失」をとっており、百年より昔の記憶がない。よって名前もなく、人間への思い入れもない。そのうえ「本性:危険好き」の効果が過剰に漢らしいヴァンパイアを生成する結果に……

プレイヤー:すみおか

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11月のギムナジウム:革命家

 ボルシェヴィキに血を吸い尽くされた。

 ……これが比喩表現で済むのであれば、たとえ財産どころか命を失ったのだってまだシアワセだ。
 永遠の革命家・永遠の学徒・そして永遠そのものの犠牲者たるボロシノヴィッチは時折そんなことを思う。そしてそんなことを考えても無駄なことを再認識する。

 その時、彼は26歳だった。モスクワ大学の学徒の俊英、もっとも過激でもっとも高潔な理想家で工作員だった。

 より良い世界を見るはずだった。でなければ仲間がより良い世界を見るために己が命を投げ出すはずだった。実際のところ、世界は悪くなる一方で、投げ出す命はとっくになくなっており、そして血と・親から真っ当に貰った命と一緒に安らかな死の眠りまで、あのボルシェヴィキの皮をかぶった吸血鬼に吸い尽くされたのだった。

 そしてその吸血鬼、同志であり、血の親であった男は革命さなかのどさくさで灰になった。
 だから、不幸なボロシノヴィッチは不満を持っていく場所もなくなってしまった。

 ロシアの大地を離れたのはもうずいぶん昔になる。いや、非常識な命を持つ身となってみれば、ついこの間といったほうが適当か。

 彼はまだ革命をあきらめていない。
 永遠の命を呪いながら、いつまでも良くならない世界を呪いながら、ボロシノヴィッチは西へ向かったのだった。

 欺瞞だ。そう知っている。けれど彼は不満が胸の中で首をもたげるたびに呟く。

 俺は革命に選ばれたのだ。革命を完成させるために、俺は永遠にこの世にあるのだ、と。

 ――ロシアを遠く離れ、南ドイツの森影を彷徨うことになった今でも。

ボロシノヴィッチ 第8世代ブルハー

出自からいっても思考回路からいってもあらゆる意味でブルハーらしいブルハー。一方で普段の食餌をどうしているのか本人もまだ決めかねている。やっぱり道で誰かを殴り倒したり(以下略)。しかし、V:tMにおいてテロリスト知識だの共産党知識だのというものがこんなに役に立つとは……

プレイヤー:はふり

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11月のギムナジウム:顧問官あるいはゴッドファーザー

 ミュンヘンの旧家にして豪商・ヴァラーシュタイン家には、一族だけの秘密がある。
 彼らには不死なる顧問がついているのだ。

 ヨハン・ヴァラーシュタインは几帳面な上に縁起をかつぐ性質だった。だから、身を立てようとやってきたミュンヘンでは、頼みになりそうなありとあらゆるものに、助力やら加護やらを願って頭を下げてまわった。土地の貴族や顔役、教会はもちろん、何とも知れぬ与太話じみた『この地の精霊』とやらにも。それは確かに効を奏したらしい。小さな祠に詣でたその晩、彼は奇妙な夢を見、その夢の中で何やら声を聞いた。『お前の願いをかなえよう。お前の一族はこの地で長く栄えるだろう。そのかわり、お前の最初の子供を私のところへ取ってしまうよ』

 ヨハンとその長男はずいぶん親切な妖精に見こまれたらしかった。

 ヴァラーシュタイン家に長男が生まれる頃には家はひとかどの貿易商になっており、生まれた長男は何不自由することなくすくすくと育った。そしてよほどの運が味方して、ゲッチンゲンの教授にえらく気に入られ、法律と経営学をみっちり仕込んでもらえたのだ。彼はヴァラーシュタイン家の法律顧問になり、その辣腕によって家は栄えた。彼は長く生き、足腰が立たなくなり、目も霞むようになった。死の床にあって、彼は嘆いた。彼の弟やその息子達は彼ほどは運にも才能にも恵まれず、彼がこの世を去れば彼が支えた父の家はたちまち傾くように思えたからである。

 そして、その嘆きは無用であったことを彼は知る。
 彼の家に運と栄えをもたらした妖精は、忌まわしい吸血鬼であったことを。
 彼が死の床にあって嘆くとき、その吸血鬼はやってきて、彼を不死に「取ってしまう」つもりでいたことを。

 永遠の命と引き換えに、吸血鬼が彼に命じたのは、「ヴァラーシュタイン家を栄えさせつづけること」だった。――我々の顔の効く一族が人間の中で栄えていてくれると、何かと便利なのでねえ。

 こうしてヴァラーシュタイン一族は不死の顧問に守られることになった。一族の繁栄は文字通り一族の血で購われた――不死なる顧問は一族の人間の血をすすることでのみ、その自然に反した命をつなぐことができるのであった。ほんの一口か二口ずつ……人間がその程度で死ぬはずもない。不死という病が伝染することもない。繁栄のためには安いものではないか。

 ヴァラーシュタインのものには、必ず見てそれとわかる痣がある。その痣を持つものは、一族の繁栄のために、旧い旧い伯父にその血を提供することになっている。……血で購われた一族の繁栄は絶対である。その秘密は外にもらされることなく、そして繁栄は守られる。幾多の戦争と・市場の混乱と・情勢の変転を超えて。

 今はただドクトルとだけ呼ばれるヨハン・ヴァラーシュタインの長男は、こうして不死にとらわれたまま、一族の繁栄を守り続けているのである。

ドクトル・ヴァラーシュタイン 第8世代ヴェントルー

ゴッドファーザーにインスパイアされて生まれた人物。であるからして、プレイヤーの趣味によりモノクルをかけ、グールであるところの執事兼運転手に車椅子を押させ、同じくグールであるところのドーベルマンをボディーガードに連れ歩いている。雰囲気に走りすぎていまひとつPC向きにはならなくなっていたことにプレイ開始後気付いたが(RPGにおいて自力行動不能というのはかなり痛い)、おかげで切った張ったからセッションそのものが1歩遠ざかったことも事実。

プレイヤー:でんこうじ
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11月のギムナジウム:前口上

 これは完結しない……というか、キャンペーン途中でプレイグループが解散してしまったので続きが書けないレポートです。

 が、もともとこのテキストを置いていたサイトが消失しそうなので、こちらに引っ越してきました。
 それこそ前世紀の遺物なものなのですが、私自身は気に入っていたりします。

 文章が多少痛々しかったりしますが、そのあたりは仕様ということで。


このゲームの中で私たちが演じるのは 英雄たちではありません

ヴァンパイア

血のみを糧とする 闇のいきもの
いいえ、もう生きてはいない
その心臓はすでに打つことはなく その血潮は巡ることはない

ただ、血を啜りながら永遠の時間を この世に在り続ける
そんな存在

ひとのよの陰で 己の呪いを全うするために 物語を織りなしつづけるのです

――呪いの子らに 願わくば 安らかなる眠りあれ――
posted by たきのはら at 20:00| Comment(0) | TrackBack(0) | VAMPIRE:The Masquerade | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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