2009年01月28日

第2回『石の心臓』目次

 というわけで第2回、『石の心臓』です。
 ようやく動き方について考える余裕が出てきたかな……? 早くいろんなことができるようにちょっとは書き手もアタマを使おうということで、今回の裏側では、ゲーム運用的なあれこれについてもなるべくコメントするようにしてみました。

 まぁ、勘違いもいろいろあるかもしれませんが……何かお気づきの点等あれば、コメントいただけると幸いです。ご感想もいただけるととても嬉しいです。

 あとは……経験点の内訳詳細とか収得品とかについての情報が増えたら、このエントリの裏側にひっそりと書いておくかも。

第2回『石の心臓』

前口上

その1:黄昏の軍学者
その2:壊れたオベリスク
その3:星の遺跡
その4:沼地の村へ
その5:人喰い蜥蜴
その6:蘇る兵士
その7:迫る怪光
その8:巨人の心臓


業務連絡
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『石の心臓』その8:巨人の心臓

 ビールにワイン、そしてラム酒――男たちがそれぞれの好みの酒をあおってしまうと、村の用心棒たちはいっせいに村の入り口、川向こうから続く橋を落とした門の前へと駆けつけた。
 川向こうからやってくるのは、足を引きずりながら歩く巨大な木偶人形、竜首人4体、黒い蜥蜴人、そして木偶人形の頭上の祈祷師。

 「思ったよりは少ない……な。まあ、あの木偶巨人だけで充分ともいえるが」

 ビエントがひとりごちた。その後ろでエミアスが顔をしかめている。ビエントちゃんや、ひょっとしたらわしらが今見てるのは、あの集落丸々ひとつ分の蜥蜴人なのかもしれん。あの集落の蜥蜴人はみんなあの木偶人形の中に押し込められたんじゃなかろうか。自分で立ち歩く木偶人形を作るには、中に魂を込めなきゃならんのじゃ……空耳ならいいんじゃが、あの巨人の心臓が脈打つたびに、ちっぽけな蜥蜴の子供がきぃきぃと泣き喚く声が聞こえるような気がするんじゃがのう。
 
 「あの巨人は確かに木偶ですよ。頭にのった祈祷師が命令を下してからようやっと動いている。祈祷師をあの世に送るのが早道かもしれない」

 村から借りたクロスボウを構えて狙いを定めながら、スズランが言った。その脇でロウィーナが小さく歯軋りをするのは、祈祷師を呪ってやろうとして投げた視線を、走り出してきたちっぽけな竜首人に邪魔をされたからか。

 「まだだ、まだだ、まだだ……よし射て!!」

 ファイアスパーの号令が飛び、門の右側からいっせいに5本の投槍が飛んだ。竜首人を掠めたものもあれば届かず川に落ちたものもある。一散に村人たちが退避していくのを確認すると、ファイアスパーはひらりと飛び上がり――長い腕をゆっくりと後ろに振って剣を構えた巨人の頭上、祈祷師のいる柵の中に姿を現わした。仰天した祈祷師が後ずさった瞬間、今度はその隣をどうと風が吹き過ぎたかと思うと、ビエントもそこに立っていた。それを避ける間もなく祈祷師は顔色を変えて飛び上がり、そのまま足を滑らせた。スズランの手にしたクロスボウから飛んだ弾が過たず巨人の心臓の真上を撃ち、その瞬間、巨人は身をこわばらせて大きく揺れたのだ。

 祈祷師に折り重なるように、ビエント、そしてファイアスパーまでが柵の中で倒れてしまったので、左翼の投槍隊への号令はスズランが下した。こちらも村人たちの退避を確認すると、スズランは大声で叫んだ。

 「巨人は心臓が弱点です! 祈祷師が偉く慌てていました、ひょっとしたら奴が心臓を操っているのかもしれません!!」
 「その巨人は自分じゃたぶん何にもできないわ、あたしの呪いの的にもならないぐらいタマシイが希薄なの! ホントに半分人形みたいなもんよ。あと、さっさとその祈祷師を立たせてちょうだい、見えなきゃ呪えないわ!!」

 ロウィーナも叫ぶ。

 からくりは、おそらくこういうことなのだろう。蜥蜴人の卵ありったけ、そして集落の蜥蜴人のほとんどの命を“魂の芯”にし、“星の兵士の心臓”の拍動を歯車の代わりにして作られた巨大な操り兵士。操っているのは祈祷師。そしてその周囲にいる数名の竜首人たちは、人口のほとんどを“星の兵士”を立たせるためにつぎ込んだ集落のわずかな生き残り。“星の兵士”はおそらく成長途中の人造で、身動きのままならぬ今ならまだ倒せないものでもないだろう。
 これが正しいのなら、倒せるやもしれぬ。如何に巨大な兵士とて。

 上下に二分された戦場で、それぞれに戦端が切られた。

 巨人の頭上ではビエントとファイアスパーが祈祷師と一進一退の戦いを繰り広げていた。が、次第に分が悪くなると見て逃げ出そうとした祈祷師をファイアスパーが引きずり戻したあたりで流れは決した。ビエントに祈祷師の始末をまかせ、ファイアスパーは柵から乗り出し、槍の先で心臓をこじりだそうとしたが上手くいかぬ。ええい、もどかしい、とひとことつぶやくと、ファイアスパーは剣を手に柵を乗り越え、暴れる巨人の身体を伝ってその胸元へと移動し始めた。

 竜首人たちはアーニャが一手に引き受けていた。魔法の眠りと氷が地面を覆って竜首人の足を鈍らせ、そこに炸裂する炎が襲い掛かった。
 川を渡って村に押し入ろうとした黒い蜥蜴人は、一度はエミアスが何ごとかつぶやいた瞬間、わけのわからない恐怖に駆り立てられ、一散に駆け戻らされる羽目になった。はっと気付いてまた川を押し渡ろうとすると、今度はスズランの剣に阻まれた。力ずくでそれを押しのけると、今度は妖しい女の放つ妖しい火に焼かれた挙句、目がくらんで得物を振り下ろす手が鈍った。村に三歩ばかり入ったところで、結局黒蜥蜴人は引きずり戻された。そしてその時には祈祷師はビエントに切り伏せられ、制御を失った巨人が、味方のはずの竜首人を片っ端から殴りとばしていたのだった。

 「座れ……座れ!! ちくしょう、どうやってこれを鎮めたらいいんだ、竜語でないと効かないのか!?」

 祈祷師を切り伏せたはいいものの、肝心の巨人を止める術がわからない。このままではファイアスパーが心臓を掘り出すこともできないだろう。柵にしがみつきながらビエントは叫んだ。それを聞きつけたアーニャがお座りなさいと竜語で叫ぶ。

 「オスワリナサイ!!」

 渾身の力を込め、片言の竜語でビエントは念じた。
 と、ぴたりと巨人は動きを止め、座り込んだ。
 奇跡のような数瞬を、ファイアスパーは無駄にはしなかった。崩れかけの泥土を剣で掘り崩し、胸の中から心臓を押し出す。
 心臓の2つの半球が地面に転がった瞬間、巨人は崩れて泥と流木の小山に変わった。

 それを目にした瞬間、黒蜥蜴人はものすごい勢いで逃げ出した。待て、生かしてはおかんとスズランが叫び、水面に浮いていた投槍を拾って投げつけたが、届くものではない。

 ひとまずは――村の危機は去った。
 が、逃げた黒蜥蜴人は後々の遺恨ともなりかねない。
 そして、彼らが古代からのとんでもない遺産――星の兵士――の謎を抱えてしまったのも確かなのだった。




 このシーンの裏側。
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『石の心臓』その7:迫る怪光

 もと来た道をひたすら駆け続け、ドンゴ村に着いたころにはもう暗くなっている。そして村はというと大騒ぎになっていた。

 「や、やっと帰ってきてくれたか!」

 村長ムーンストラックが息せき切ってすっ飛んでくる。

 「夕方、南の魔神の沼地のあたりで怪しい光の柱が立ち上がったんだ。何ごとかと思って見ていたが消えもせず、それどころかこちらにやってくる……」
 「村長、落ち着いてください」

 スズランがにこりと笑みをこぼした。

 「知っています。私たちはそれを迎え撃つためにこうやって急いで戻ってきたのです。詳しい話をしましょう。村の顔役、そしてケナフを呼んできて下さい」

 呼ばれてやってきた一同を前に、スズランは今日の出来事をかいつまんで話した。

 「蜥蜴人どもはこの村を目指しています。彼らの集落で戦うのはあまりにも不利でした。村に危険を近づけるのは本意ではありませんでしたが……」
 「それは仕方がない。誰だって足場のある土地のほうが有利に働けるんだ。……村は、守りきれるんだろうな?」
 「守ります。が、保障はできません。それが戦の常ですから」

 スズランはかすかに口元を曲げた。

 「ですから、女性や子供たちは避難させてください。戦える人は何人いますか?」
 「10人かそこら……」
 「充分だ」
 
 すばやくファイアスパーが言った。

 「彼らは私が指揮しよう。村の柵越しに投槍を投げつけ、一瞬奴等に隙を作らせる。それで充分だ。後は我らがかたをつける。迎え撃つのは村の門の前。川があるのが幸い。私が見た怪物はなりはおそろしいがいかにも鈍重だった。流れを押し渡るのは奴には一苦労だろう。橋を落としておけ。
 ……では、私は休む。戦えるものは明日明け方、投槍を持って門前に集まるように」
 「橋は……落とさなきゃならないのか?」
 「村を圧し拉がれたくなければ」

 きっぱりと言うと、ファイアスパーはその場を後にした。
 やれやれ、と苦笑いのようなため息をつくと、スズランは村長に向き直った。

 「すみませんが、戦えない人たちを呼び集めてください。なるべく蜥蜴人たちを村の中には入れないようにしますが、万が一ということもあります。持てるものは持って、ひとまず安全なところに退避するよう、私が説明します。明け方すぐに村を出てもらうことになりますが……」
 「俺が先導する。安心しろ」

 ケナフの声にスズランは微笑んでうなずいた。

 「ならば心強い。街道沿いに少し行ったところに、キャラバンが休憩するのによく使う水場があるのを知っているでしょう。あそこなら安全です」

 南の沼地から近づいてくる怪しい光に怯え騒いでいた村人達も、スズランの穏やかな笑みを見るとようやく落ち着き、そうして今度はあわただしく避難の準備を始めた。神の恩寵とも言うべき微笑の力だった。それを見届けるとスズランもケナフに後を託して床に着いた。


 そして翌朝。
 一同が集会所に集まって準備をしていると、転がるような勢いで村長が飛び込んできた。

 「あ、あれを、あれを……!!」

 開け放った窓から村長の指し示すほうを見た瞬間、ビエントとファイアスパーの顔色が変わった。

 「しまった。沼で見たものより頑丈になっている、奴は成長している……!!」
 「沼地で討っておくべきだったかッ」

 雲つくような巨大な木偶人形が、周囲に数名の竜首人や蜥蜴人を従えて、川の向こうにやってきていた。
 ずん、と伸びた背中の上に短い首。不恰好ながらも蜥蜴人のものとすぐわかる顔。右手には剣を模した石柱をむんずと掴み、頭上には王冠のごとく、柵つきの台座をいただいている。台座の上に1体の祈祷師風の衣をまとった蜥蜴人が得意満面で仁王立ちになっているのは、つまりあの蜥蜴人こそが夢に星の兵士の作り方を見たという、あの集落の爬虫王なのだろう。
 そして巨大な木偶人形の胸の中央には、塗りこめた泥を透かして青と緑の禍々しい光に脈打つものが――巨大な心臓が埋まっているのが、遠くからでもはっきりとわかるのだった。

 「門の左右に5名ずつ投槍を持って並べ。私が“射て”といったら槍を投げつけた後、逃げろ」

 その姿にもう足がすくみかけている村の男たちに、ファイアスパーの声が飛んだ。

 「勝機は見えている。私を疑うな。そしてビールを要求する!」


このシーンの裏側。
posted by たきのはら at 00:44| Comment(5) | TrackBack(0) | 猛き大陸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年01月27日

『石の心臓』その6:蘇る兵士

 ただじゃ口は割らないわよね、脅すんなら任せて。でも話すのはあなたがやってね。あたし竜語なんて喋れないから。

 アーニャの言葉を聞いた途端、ロウィーナはこともなげに言うと、返事も待たずに眠りこけている竜首人を蹴飛ばした。そして竜首人が目を開けるや否や、尻尾をその首に巻きつけて吊り上げる。何が起こったかわからずに手足をばたつかせている竜首人に、アーニャが畳み掛けるように言った。

 「あなたの仲間はみな死にましたわ。あなたも死にたくなければ私の質問に答えなさい。それとも彼女に言って、あなたを地獄の炎で炙らせましょうか?」

 首に巻きついた尾がかすかに緩む。悪口雑言で答えかけた竜首人の首を再びロウィーナの尻尾が締め上げた、ぐい、と捻じ曲げられた顔の前に、熾火のように燃える真っ黒な瞳。ぎゃあ、という悲鳴を上げて、手もなく竜首人は降参した。

 最初は、殺すなら殺せ、ここで生き延びたところで長にもっと惨い死を与えられるだけだ、などと勇ましいことを言っていたのだが、ロウィーナが尻尾をもうひとつ引き寄せると竜首人はとたんにべらべらと喋り始めた。

 いわく。

 そうだ、我らが長の夢枕に神が立ち、“星の兵士”の作り方をお示しくださったのだ。そこで我らは準備に準備を重ね、そしてついに先ごろあの遺跡から兵士の心臓を持ち帰ったのだ。愚かな鱗なしどもめ、もう手遅れだ。“星の兵士”は既に心臓を得た。今日はそのための祭り日なのだ。集落の者たちはみなその儀式のために村の奥の祭儀場に行っており、俺たちは留守居をしていたのだ。もう生贄も捧げ、儀式も終わる頃。俺たちを倒したからといって得意になるのはまだ早い、“星の兵士”を手に入れた長と我らが軍勢は、もうじきお前らなどひと揉みに揉み潰してしまうぞ。さあ、聞かれるだけのことは話したぞ、とっとと離せ。

 「あなたはさっき聞いたことに答えただけです。まだ質問は終わっていません。後は――そうね、あなたは蜥蜴人でなく竜首人だけれど、この村の長は竜首人なのですか?」

 そう問われた瞬間、竜首人はひきつけを起こしたように笑い出し、またロウィーナの尾に締め上げられて酷く咳き込んだ。

 「まさか。我らが長は正真の蜥蜴人、沼地の偉大なる祈祷師だ。そしてこの村にいるのは正真の蜥蜴人の卵から生まれたものばかり。“星の兵士”と共に戦う戦士を作るため、長は孵卵場に手を加え、殻の中で眠る子蜥蜴が偉大なる“獣”の力を身に受けられるようにしたのだ。そうして生まれたのが我等、竜首の蜥蜴人というわけだ!」

 「へえ、ねえ、あたし、こいつを絞め殺していいかしら」

 アーニャの通訳を聞きおわるとロウィーナはぼそりと言った。

 「星がどうのこうの、とか本気で言ってる奴にろくなのはいないわよ。こいつがその同類だったら最悪。地獄の悪魔と取引した連中のほうがまだ付き合ってて気持ちのいい相手だわ。よく知ってるあたしが言うんだから間違いないわよ」

 まぁ待ちなさい、とたしなめるスズランの声は、村の奥から響いてきたものすごい悲鳴にかき消された。起こるはずのないことに驚き怯えたような、そして酷く恨みがましいそれは紛れもない断末魔だった。悲鳴は次々と上がり、沼地に長々と尾を引き、そして消えた。

 一瞬の沈黙の後、村の奥に、いかにも禍々しい濁った青と緑の光の柱が立ちあがった。今のはなんだ、生贄の悲鳴じゃないのか、それとも生贄が足りなくて、そのあたりにいた身内もたたっ斬ったとか――と口々に言い交わすのに、ちょっと待て、様子を見てくるといってビエントとファイアスパーが村の奥に走りこんだ。その間にスズランとエミアスが村の入り口付近の様子を探る。
 確かに村は無人。そして、もうひとつ、スズランがおかしなことに気付いた。
 ――孵卵場に卵がひとつもない。

 これはどういうことだ、と言っているうちに泥の中からビエントが、そして木陰からファイアスパーがそれぞれ姿を現した。二人が口々に言うには、

 ――とんでもないものが出来上がっている。雲つくような巨大な木偶人形、その身体は泥や流木の寄せ集めだが、何やら蜥蜴人に似ていないこともない。確かに二本の足で立ち、全身から禍々しい光を発しながら歩いてくる。なりは大きいが動きは鈍く、足取りもおぼつかない。戦って戦えないこともないだろう、が、皆、どうだ、まだ戦えるか。

 「すまんが……1日1度の大技はもう使ってしまったんじゃよ。あんたがたがやるというならわしも頑張るが」

 エミアスが力なく言った。

 「いや、無理は良くない。俺も今日一日の大技は種切れだ。……“星の兵士”とやらを手に入れた奴らが目指しそうな場所と言って、心当たりはあるか?」
 「この集落に一番近いのはドンゴ村じゃの」
 「では、退いて、体勢を整えるべきでしょう。こんな足場の悪い場所でわざわざ戦うことはない。村に危険を近寄らせるのは心配ではあるが、ここで私たちが倒れてしまっては、却って連中の前に守り手のいない村を晒すことになる」
 「尤もだ、私もそう思う」

 そういいかわすうちに、村の奥からゆっくりと、だが確実に地響きが近づいてくる。

 「時間がない。行くぞ!」

 ファイアスパーがひと声叫ぶと、ロウィーナの尻尾から竜首人を引き剥がして一刀のもとに斬り捨てた。それを合図のように一行6人はドンゴ村目指して夕暮れの沼地を走り出した。
このシーンの裏側。
posted by たきのはら at 22:20| Comment(2) | TrackBack(0) | 猛き大陸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『石の心臓』その5:人喰い蜥蜴

 ――ああ、お騒がせして申し訳ありません、私たちはあるものを探していまして。
 咄嗟にアーニャ――結局竜語を話せるのは彼女だけだったのだ――が話しかけた。

 「怪しいものではありませんわ」
 「……ふむ。だがお前らの中には、見たところ、二度生まれる者はいないようだな。気色の悪い鱗なしどもが」

 蜥蜴人がうなるような竜語で応えてよこした。そういえば卵生の彼らは私たちが母の胎から直接生まれることを、とても薄気味悪いもののように思っているのだったわ。ドラゴンボーンが1人いれば違ったのでしょうけれど――そう思いながらアーニャは必死に言葉を継いだ。

 が。
 言葉が通じなくても気配は伝わるものだ。
 緑色の竜首人を目にしたうえ、向こうがなにやら気色ばんで距離をつめてくるのを見た一行、こんな沼地では戦いたくない、どうやってここを切り抜けようか、いやこのまま不意を打つべきかと話し合っている。そして、最初はまだいぶかしげだった蜥蜴人と竜首人の目に、やがてありありと浮かぶ色は――

 「こちらが“怪しいもの”なのはとっくに見破られています。それにあのものたちは、私たちを宴会のご馳走にする気ですわ」
 「ああ、見ればわかるねえ」
 「やるしかない、ですか」

 それぞれがそっと得物に手を伸ばしかけたとき、竜首人が口を開いた。

 「これはこれは遠方から、よくいらっしゃいました。ちょうど今日は祭りの日なのです。なのでどうぞ村にいらしてください。みんな歓迎いたします」
 「……ですって。」

 小声で通訳し終わると、アーニャは小さく肩をすくめた。

 「ぼんやりしすぎましたわ。不意打ちは出来なさそうですね」

 あまり分のよくない戦いになりそうだった。
 ところどころに堅い足場がなくはないものの、探り探りゆかねばすぐに足を取られる。さっさと片付けねば、援軍などに飛び出してこられたらことである。が、

 「白鴉流軍学を舐めてもらっちゃあ困る」

 ファイアスパーがものすごい笑みを浮かべたかと思うと、喉も裂けよとばかりに雄たけびを上げた。右からかかれ、左の奴を追え、我に続け、奴らの脳天を打ち砕け!
 その声に導かれるようにスズランとビエントが泥だらけになりながら沼地を駆け回る一方、エミアスは癒しの言葉を唱え、陽光を集めた光の槍を竜首人に飛ばした。すると光は敵を撃ちながら、さらに剣士たちの切っ先をも敵の鎧の隙間へと導くのだ。
 アーニャの呪文は今度こそ竜首人を魔法の眠りに押し込み、一方で巨大鰐の足元に氷を張る。

 「あの鰐、ホント邪魔だわ」

 苛立ったようにロウィーナが言った。ちょっと悪夢を見せてあげようと思ったのに、鈍すぎて夢なんか見やしない。火でもつけてやったら燃えるかしら。

 結局、蜥蜴人と竜首人の1体は切り伏せられ、鰐は妖火で黒焦げになって沼の中に半ば沈み動かなくなった。
 残っているのは、戦いの途中で眠り込んだために結局命拾いした竜首人が1体。叩き斬る、とファイアスパーが言うのを、アーニャが止めた。私は彼らの言葉が話せます。このものから情報を引き出しましょう。

このシーンの裏側。
posted by たきのはら at 20:56| Comment(4) | TrackBack(0) | 猛き大陸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『石の心臓』その4:沼地の村へ

 ともあれ、ここにはつい先ごろまで“星の兵士”とやらの心臓があり、何者かに持ち去られたということだけは確実だ。どこまで追えるかわからないが、とにかく足取りを追えるところまで追ってみよう。

 そういうことになり、全員で鼻を地面にすりつけんばかりにして朧な足取りを追った。ケナフがいればと誰かが言うたびに、いないもののことを言わず足跡を探せとファイアスパーが応じた。その甲斐があったかなかったかはともかくとして、一行はどうやら“星の兵士の心臓”を乗せたのであろう大きな木ぞりらしきものの後を見つけ出し、それが街道へと続いていくのを追った。おやこれは村に向かったかと思ううちに、そりの跡は街道を外れ、それでも追っていくうちに広大な湿地帯へとたどり着いてしまった。

 ずぶずぶと柔らかすぎる地面に、そりの跡はもうない。

 「さて、困ったのう」

 エミアスが言った。なんでもこの先から南は魔神の沼と呼ばれて悪名高く、夜になれば怪火が燃え、霧の出たときに通りかかれば何者とも知れぬ巨大な人影を見ることも多いのだという。

 「まぁ、街から来た連中は、沼からは燃える気体が出ることもある、それに人影は、霧の表に自分らの影がうつって揺らめくにすぎない、これだから田舎ものはと馬鹿にして言うんじゃがの」

 やれやれ、と一行はため息をついた。魔神の沼はともかくとして、ただ葦が揺れるばかりの沼地に、この先何を当てにして進めばいいのやら。と、そのとき、スズランがぽん、と手を叩いた。

 「エミアスのじいさま、確かこのあたりに蜥蜴人の村があったはず。特に交流もないが特に悪い関係でもない。彼らの村を訪ね、巨大なそりを押し引きした見慣れぬものを見なかったか聞いてみましょう。何、蜥蜴人とてこの地に暮らす同士、私がことを分けて話せばわかってくれるでしょう」

 そうしてにっこりと笑う。確かにこの笑顔を見て心を開かぬものもそうはいまい。

 というわけで、一行は、エミアスとスズランのおぼろな記憶を頼りに、果ては「こちらのほうが葦の生え方が密だから、蜥蜴人たちが村を作るならあの向こうに隠れ住むに違いない」などと言い合って、道があるわけでもない湿地帯を進んでいったのだった。

 そんな道行きの割には沼地の中で途方にくれることもなく、日が西に傾き始めた頃、葦原の彼方に何やら集落らしきものがぼんやりと見えてきた。ありがたい、あれが目指す蜥蜴人の集落に違いない。ではまずスズランを先頭に村に入っていって、村長に話をしてみよう、彼らが何か見ていたとして、ただは教えてもくれなかろうから、この間の盗賊退治で手に入れた匂い袋なり怒り牙なり、それとも使い手のいない魔法のスリングを手土産に手渡すか。ちょっと惜しいがさっき手に入れた翡翠の宝玉を差し出してもいい――

 そこまで相談をしたとき、ファイアスパーが急にはっとした顔をした。

 「このあたりには、ほかに蜥蜴人だの何だの集落はあるのか?」
 「いや、なかったと思うねえ」
 「……諸君らが退治たその盗賊は、どれもこれも蜥蜴の係累だったのだろう? まさかとは思うが、その連中の根城がこの村だったりは……」

 いやまさか、そんな間抜けなことは、と誰かが言いかけたとき、それはあり得る、とビエントが言った。

 「蜥蜴人は群を作り、その群を率いるものを爬虫王と呼ぶ。この爬虫王は蜥蜴人とは限らず、強力な竜種――つまり蜥蜴人の係累がその座に収まっていることもある。さらに、蜥蜴人の本性は悪とは限らない。が、彼らの中には人を喰う習慣のあるものもいる。この村の連中がどうだかは知らぬが……」
 「ビエント、とりあえずあんたの着てるその外套、裏ッ返しにするかなんかしたほうがいいかもね」

 最後まで言い終わらないうちにロウィーナがさえぎった。確かにビエントが今まとっている魔法の外套は、オベリスクの遺跡にいた盗賊の頭領、ひときわ身体の大きい竜首人が身につけていたものだったのだ。

 しまった、俺たちはのこのこと敵の本拠地に来てしまったのかもしれん、万が一そうだった場合、どうやってしらを切りとおすか――

 が、相談している暇はなかった。
 村の前から動こうとしない見知らぬ連中を不審に思ったのか、集落の中から蜥蜴人たちが姿を現した。
 危惧したとおりの間抜な状況である可能性は、どうやら随分と高そうだった。

 村の門から出てきたのは、蜥蜴人の兵士にどうやら番犬代わりらしい万力顎の大鰐、そして見忘れようもない、緑色の小型の竜首人。

このシーンの裏側。
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『石の心臓』その3:星の遺跡

 数瞬、躊躇った後、スズランがまず部屋の中に足を踏み入れた。

 「こちらを先に検分するとしよう。炎よりは剣と楯のほうがまだ安全そうですから」
 「では私はこちらを」

 スズランが楯を掲げ剣を構えた蛇人間の像――それは人の身体に太い蛇の尾、そしてコブラのような頭を持った、まさに蛇人間と呼ぶのが相応しい像だった――に歩み寄るのをちらりと見ると、今度はファイアスパーが炎の玉を今にも投げつけんばかりに構えた像のほうにつかつかと歩み寄った。
 誰もが危惧していた通り、応えるように像が動き出した。楯と剣の像が1体、炎の玉の像が1体。他の6体が相変わらず固まったままで、ぞろぞろと剣を抜き連れるようなことはなかったのがまだしも重畳といえば重畳だった。ちょっと待て、これはどういう怪物なのだとビエントが叫びながら部屋に飛び込み、ファイアスパーの隣に走り寄る。後ろでアーニャが呪文をつむぎ始める。

 「アーニャ、待つんだ!」

 蛇人間の尾がうなったかと思うとビエントは足をすくわれ、地面にはいつくばっていた。倒れながらビエントは叫んだ。

 「今確かに見た、こいつらは生き物じゃない、もとはただの彫像で、それに魔法の掛かったものだ! 彫像は魅了されず、眠らず、毒も効かない、呪文を使うなら使うものを選べ、無駄弾を撃つな!!」

 叫びながら叩きつけられる尾を危ないところでかわす。

 「ビエントちゃんわかった、落ち着くんじゃ、今おてんとさまの明かりでそいつの居所がはっきりわかるようにしてやるからの!」

 エミアスの伸ばした手から光条が飛んで石像を撃つ。と同時にエミアスは呆れ声を上げた。

 「ロウィーナちゃん、あんたどこ行くんじゃ!?」
 「彫像に呪いが効かないと困るから、直接尻尾をひっぱってやったほうがいいかと思って」

 部屋の入り口を固めるアーニャとエミアスの間を抜けて、ロウィーナがつかつかと部屋の中に入っていく。立ち並ぶ石像の影に隠れるようにしてぐねぐねと暴れまわる尾に近づいていくところを見ると、どうやら本気らしい。

 ――が、結局ロウィーナの手が蛇人間の尾を捉えることもなく(そいつは結局スズランに切り伏せられた。彼の面差しに宿る神の怒りは、魅了されぬはずの石像さえも打ち砕いたのだった)、石像は片付いた。もう一方の、炎の玉を掲げた像もビエントとファイアスパーの手で粉々にされた。砕かれた像の額には、それぞれ見事な翡翠の宝玉が嵌っていた。おそらくはこれが魔法をこの像に媒介し、像を動かしていたものだろう、とアーニャは言った。他の6体の像には宝玉の嵌っているふうはなかったから、おそらくはこの部屋はもう安全なのだった。

 「やはり戦いの術は実践して覚えるものだな。ようやく俺もこの身体で剣を振るうやり方がわかってきた」

 ビエントは周囲を見回しながら言った。
 彼は数度にわたって蛇人間の尾に打ち倒されたが、どうやらこの戦いで魔法とともに剣を操るやり方を覚えたらしかった。いわく、近い敵に剣を振るうときは力場を作り出さねばならぬ、遠い敵であれば剣先から稲妻を打ち出して刺し貫けばよい。が、近い敵を稲妻で打とうとしていては狙いを定める間に隙が出来てしまう……

 「それよりも気になるものがありますわ」

 剣の扱いについて語っているビエントをさえぎるように、アーニャが言った。

 「像の後ろに、文様に隠すようにして文字が刻まれていますの。ざっと読んだところ、この部屋には“星の兵士の心臓”があったようですわ。“心臓”を、左右半分ずつに分け、二つの部屋の魔方陣でそれぞれを守っていた、と」
 「じゃあ、この遺跡から持ち去られた“何やら大きなもの”ってのがたぶんその心臓だね」

 ロウィーナが言った。

 「魔方陣の中を良く見て、一抱え分ぐらいの床が妙に白っぽい。あそこに何かがおいてあったから、塵や埃が積もっていないんじゃないのかしら」
 「それじゃあ、その星の心臓とやらを持ち出した後、あっちの部屋には毒の罠をしかけたんじゃな」
 「おそらくそうだろう。単純な罠だが、少なくとも仕掛けを調べると、まだ新しいことは確実だ」

 エミアスとファイアスパーが口々に言った。毒霧の収まった場所に踏み込んでスズランが拾ってきたその“仕掛け”は、素焼きの壷に毒を詰めて栓をし、誰かが栓につながった蔓草に足を引っ掛けると壷から毒が噴出すという、ここ数日のうちに仕掛けられたのでなければ意味をなさないようなシロモノだったのだ。

 ともあれもうひとつの魔方陣も放っておくわけには行くまい、と、一行は、罠の仕掛けられていた部屋に(今度はずいぶんと注意して)乗り込み、そして息を呑んだ。

 空っぽの魔方陣が残るその部屋の壁には、一面に壁画が描かれていた。
 蛇人間たちの戦絵である。
 無数の蛇人間を従え、戦場の中心を占めるのは、その頭が雲に達さんばかりの巨大な蛇人間。これがおそらく“星の兵士”だろう。対する怪物――オベリスクの碑文に拠るならば、これがおそらくは“世の破滅”――は、彼らの知るどんな存在にも似てはいなかった。

 「絵画の技法があまりにも拙いせいかもしれないが」

 ビエントが小さくつぶやいた。が、その分を補っても、彼の知識を持ってしても“それ”が何であるのかは想像もつかなかった。

 それは甲羅を持ち、口いっぱいに尖った牙を生やし、恐るべき尾で並み居る蛇人間たちをなぎ倒しているのだった。

 「未開の部族の絵にいちいち考え込んでも仕方あるまい。彼らは心の目に映ったものをそのまま絵画に残すのだ。まあ、少なくとも、“星の兵士”殿の大きさはこんなものではなかろうよ」

 しばらくの沈黙の後、ファイアスパーがぽつりと言った。

このシーンの裏側。
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2009年01月25日

『石の心臓』その2:壊れたオベリスク

 集会所の隅で酒を飲み始めた――りんごの代わりに、と差し出されたパインアップルを「まぁ、これはこれで」と食べているものもいたが――男たちを、アーニャはやや遠巻きに見守っていたが……ゴブレットが空になるころを見計らって歩み寄った。

 「あの、おくつろぎのところすみませんけれど、少しご相談したいことがありまして」
 「おお、なんだねアーニャちゃん」

 エミアスがにこにこと答える。

 「あの、先日の野竜狩りのときに行った遺跡の、オベリスクのことですの……」
 「なに遺跡」

 ファイアスパーの反応のほうが早かった。

 「謎の遺跡、そしてオベリスク。うむ捨て置けぬ。遺跡であれば我が求めるところのもの、調査に行くというのなら私も行く」

 そうして、突っ伏していた机の上から面倒くさそうに上半身だけ自分たちのほうを振り返っているロウィーナまで含めて一行をぐるりと見渡し、言った。

 「私の指揮下に入った以上、諸君達も一緒に来い」

     *****☆*****

 ファイアスパーが部下と呼んでいいのは村の民兵だけであり、自分らは対等な用心棒である旨をロウィーナが悪口雑言の限りを尽くしてファイアスパーに説明しているうちに、遺跡についた。

 「残念、エラドリン様式のものではない」

 ひと目見て、ファイアスパーはそういったが、とはいえそれで興味を失うというふうではなかった。
 その前に、アーニャが鋭い悲鳴をあげたからである。
 遠くからでもはっきりとわかる。遺跡の中央に聳え立っていたはずのオベリスクはなくなっていた。いや、近づいてみればわかる。根元から折れ、三つに割れて地上に転がっていた。

 「ああ、なんてこと、なんてこと……こんなことなら翌日にでも来るんだったわ。ああ、儀式の準備にあんなに手間取らなければ……」

 それでも、と折れたオベリスクを調べてみると、ありがたいことに文字の彫り付けられた面は傷ついてはいない。アーニャは右手に水晶の結晶を、左手に羊皮紙を持つと、折れて転がった石の塊を押したり転がしたりさせながら彫りこまれた文字を水晶でなぞった。と、なぞられた線がそのまま彼女の左手の羊皮紙の上に浮き上がってくる……。

 「へえ、便利なもんね。あたしもそういうの、勉強しようかしら」

 遺跡の周囲を警戒しながら歩き回っていたロウィーナは、それをちらりと見るとつぶやいた。

 一方、残りの四人は壊れたオベリスクの周りを調べて回った。どうやらオベリスクの下に続く階段を通って、何かずいぶん大きなものを持ち出したらしい。石壁や遺跡の石の床には、ところどころ欠けや引っかき傷ができていた。よくよく見ると、オベリスクもわざわざ打ち倒されたというものではなく、階段から何かを運び出すときにひっかかって倒れ、地面に打ち付けられて割れたというものらしい。

 ケナフがいれば、それだけでなくもっと多くのものも――いつ、どういうものたちが、何体ほどで、何を持ってどこに向かったのかもわかるだろうと思ったが、村を空にしておくわけにもいかないといって残ったものが、同時にここにいるわけもない。

 そうこうするうちに、オベリスクの文字を書き写した羊皮紙に、さらになにやら儀式を施していたアーニャが顔を挙げ、「読めました」と言った。

 「この秘文を書いた人たちは、自分たちのことを“ススウルク”と呼んでいます。このひとたちの一族の名前なのか、それとも“人間”や“エルフ”といった種族名なのかはわかりませんが、おそらくは後者でしょう。そして、たぶんこのまえ、ここの石棺に納められていた蛇人間、これが“ススウルク”だと思います。
 秘文はこう告げています。
 “われらは西の王の力を借り、“世の破滅”に抗うための研究を行い、そしてついに我らの意のままになる“星の兵士”を作り上げた。が、“世の破滅”との直接対決は行なわずにすんだため、“星の兵士”をこの地に保存した”と。
 “世の破滅”も“星の兵士”も、どのようなものかはここからはわかりませんでした。が、西の王とはおそらく、四方王の一柱、西の“秘識”でしょう。魔導の王、禁じられた知識を体現するもの……」

 “秘識”の名を聞き、かすかに青ざめたアーニャの顔を見た瞬間、ビエントは顔をしかめた。とんでもないものに触れてしまった、という顔だった。

 ともあれ、こうしていても埒が明かない。そもそも前回我々はこの遺跡の奥まで調べたわけではなく、洞窟の曲がり角の向こうからなにやら剣呑な叫び声が聞こえてきたのでとっととひきあげたのだ、ということに思い至ったので、全員で階段の下に向かうことにした。

 階段の下は、ずいぶんとすっきりしてしまっていた。この間来たときは通路を塞ぐように石棺がいくつも置いてあったのだが、今日はアルコーヴを塞ぐように置かれていたものがひとつ残るだけである。

 「ああ、つまり何かを運び出そうとして、邪魔なものをどかしたんじゃねえ」

 エミアスが周囲を見回しながら言った。陽光棒の明かりに照らし出された周囲の壁には、階段ほどではなかったが、やはりところどころに新しい傷がついている。

 石壁が自然洞窟につながり、鍵の手になった曲がり角を曲がったところで、一行の前にだだっぴろい空間が口をあけた。ここに、奴らがいたのか、とビエントが言った。けれど今は何の気配もしないですね、とスズランが答えた。
 広い空間の奥には鉄扉がひとつ。その脇にも、少し奥まった部屋があり、どうやらそこも石で床が敷かれているらしい。

 まずは、ということでスズランが(罠があっても私にはわかりようもありません、とひとこと言って)静かに鉄扉に手をかけ、押し開けた。
 明かりに照らし出された石の床には、魔方陣が描かれている。そして周囲の壁に立ち並ぶ、動かぬ人影――おそらくは、石像か。

 「魔法のもの、だったようですね」

 アーニャが言った。

 「今はこの魔方陣には魔法の力は感じられません」
 「そうか。だが、俺が学んだ大学の某教授によると、魔法の力は匂いのごとく空気中に残るもの、鼻を聞かせば魔法の残滓なりとも嗅ぎ取れるはずと……」

 ビエントが言って部屋の中に首を突っ込んだが、すぐに身体を引き戻した。

 「そういやぁ、あの先生は異端ということで首をくくられたんだっけ」
 「そういうことならそうなんでしょう。たしかあちらの部屋にもちらりと魔方陣が見えたような……ちょっと見てきます」

 あ、ひとりじゃ危ないよといいかけたエミアスの目の前で、アーニャが悲鳴を上げて飛び退った。
 脇の小部屋に入るところに、なにやら罠が仕掛けられていたらしい。そのあたり一帯に緑色の、いかにも身体に悪そうな霧が瞬時に立ち込めた。

 毒だよ、近寄っちゃいけない。でもしばらくほうっておくと消えてなくなるから大丈夫。

 そうエミアスが言うので、とりあえず石像の立ち並ぶ鉄扉の奥のほうを先に調べざるを得ないことになった。
 陽光棒を突き入れて中を照らし出すと。壁際に立ち並ぶ石像の姿があらわになった。

 剣と盾を持ったもの、燃え盛る炎を手にしたもの。
 いずれも屈強な蛇人間の石像が、部屋の右側に4体、左側に4体、つごう8体、部屋の中をねめつけていた。


このシーンの裏側。
posted by たきのはら at 12:16| Comment(2) | TrackBack(0) | 猛き大陸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『石の心臓』その1:黄昏の軍学者

 「――そのようなわけだから、ファイアスパー殿。ここからさらに南下した大陸で、入植者たちの民兵組織の指揮指導をお願いしたいのだ」

 竜都の港から南下して数日、かつては“帳”の中に封じられていた海域に浮かぶ小島、ガランティア島でのこと。海を望む小高い丘の上に建つ、海神“潮風の”ガニラウの神殿で、司祭アーチバルトは傍らに佇むエラドリンの士官にそう告げた。

 「それは願ってもないこと。暗黒大陸と呼ばれるあの大陸には、かつて我々の一族が住みなし、相当の隆盛を誇っていたと伝えられている。南の“獣”の支配下に入るまでは……
 が、それが再び我らの目の前に姿を現わしたのだ。我が父祖の残した足跡を辿り、失われた知識に再び命を与えることこそが我が一族の望み、そして私の望みでもある。そのための足がかりを得られることになるのであれば――」
 「ありがたい。ではさっそく、村長へ紹介状を書こう。ここから船に乗れば、ハラ=ジュゴルという港町に着く。行っていただきたいのは、そこから馬車で1日行った場所のドンゴという村だ。町と村をつなぐキャラバンは定期的に出ているから、彼らと一緒に行くと良い」
 「お心遣い、いたみいる。本国にて習い覚えた我が白鴉の軍学、必ずや役に立つことと――」

 かくして、一見もの思わしげな風貌のエラドリンの士官は船で南を目指した。


 そして一方、ドンゴ村では。
 街道の安全を確保するための野竜掃討のはずが、ひょんなことから謎の遺跡発見、そして竜首の盗賊団と殴りあう羽目になってしまった一行、何をしているかというと――なんとなく村の集会所にたむろしていた。
 冗談じゃねえこんな田舎に収まっていられるか、と最初は呆れたりいきまいたりしていたものの、住む場所と食べるものとできることがあって、それなりに頼られるともなれば居心地がいいわけである。最初に「報酬として家を用意した」と言われたときには真っ先に抗議の声を上げたはずのケナフにいたっては、実は一番熱心に村の周囲の警戒に当たっていたりした。どうやらまんまと村長の思う壺にはまったのかもしれないが――。

 そこへ、にわかに表が騒がしくなった。といっても嫌な騒ぎではない。食料はあるか、だの、板金は持ってきてくれたんだろうな、だの、手紙は届いてますか、だのの声からすると、町からの定期便の到着だろう。

 「おや、今回は護衛がひとりだけだ。今日来たのはよっぽど凄腕なんだな」

 スズランがちらりと窓の外を見てつぶやいた。
 そうしばらくもしないうちに、その“凄腕”氏は、村長と一緒に集会所に入ってきた。うへぇ、とスズランはらしからぬ声を上げかけた。入ってきたのはひと目でわかる、エラドリンの士官だった。士官なら一人で充分だな。荷主や馬番だってあの手の士官がひとりいれば半人前ぐらいには戦える。しかし――エラドリンか――。

 「いや、先生、よくいらして下さいました。おかげでうちの村も随分と安心してやっていけます。この村で民兵として戦えるのは今のところ10人ほど。これに週に1度ほど、武器の扱いや戦う際の動き方などを教えていただきたく……」
 「承知した。週に1度といわず、武器の扱いを知りたいものはいつでも私のところに来てくれれば教えよう。あれは習うよりまずは慣れるものでもある」
 「ありがたい、助かります。先生の家はもう用意してあります。身の回りの世話をするものも二人ほどつけましょう」
 「うむわかった。それで、私の指揮下に入るのは彼らか?」

 エラドリン士官――ファイアスパーはそう言って集会所の奥にいる人影を顎でしゃくった。その先にいるのはもちろんスズランやビエント、アーニャたちである。

 「いや、あの人たちは民兵なんてものじゃなく、村の用心棒です。でも改めてご紹介しましょう。というわけで……」
 「うむわかった。ではビールを要求する!」

 ファイアスパーはきっぱりと言い切った。いぶかしげな顔をする村長の前で、再度繰り返しさえした。

 「ビールを要求する!」
 「ワインを要求する!」
 「ラム酒を要求する!」

 どうやらわざわざ“紹介する”必要はなさそうだった。ファイアスパーの声に答えるようにスズランが、そしてビエントが歩み寄ってきた。つまりは同種の人間――いや、人間は一人もいないのだが――ということらしい。

 そして。

 「りんごを要求する!」

 止めのようにエミアスがにっこり笑って言った。じいさま、りんご酒で勘弁してください、ここじゃあ北の果物は貴重品ですよう、と村長はなさけない声を出した。エルフだの精霊だのの流儀というのは――時として、随分やっかいなシロモノにもなるのだった。

このシーンの裏側。
posted by たきのはら at 10:20| Comment(2) | TrackBack(0) | 猛き大陸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

第2回『石の心臓』前口上

 『猛き大陸』キャンペーン、第2回です。

 前回残されたオベリスクの謎を解いたはいいものの、謎が謎を呼び、ついにはドンゴ村に前代未聞の怪物が襲い掛かるという仕儀に……!
 何度か息継ぎをしながら、どうやら今日のシナリオの終了時にはぎりぎりで2レベルにレベルアップしました。

 今回はフロータースタイルということになっていますが、経験点はパーティー単位でもらえることになりました。休んだ回があっても、次に参加するときは、他の人たちと同じ経験点を持った状態で参加。
 以前Aquillaで遊んだときは「参加しなかった回は経験点半分」とか、「キャラクター単位で、参加した回のみ経験点が入る」とかいろいろやったのですが、プレイヤーも社会人になってきて、遊べる時間をすり合わせるのも結構大変……となると、遊べる人と遊べない人との間にレベル差が開いちゃうのもなんか面倒だよね、ということで。
 追記:これ(経験点は卓単位)はハウスルールではなく、DMGに記載されている指針だったそうです。まぁ、この指針、上記のような理由でありがたいかなぁ、と。

     *****☆*****

 今回のメンツはこんな感じ。

スズラン:フルプレートにヘヴィ・シールド、ロングソードという由緒正しい騎士装束に身を包んだ男性のハーフエルフのパラディン。ただし人間力で敵の心を挫く戦法を専らとするため本人の筋力は8。近接基礎攻撃が低いのがネック。

エミアス:福々しい童子のような雰囲気、おっとりした口調を崩すことなく戦場に希望の灯火を点し仲間の命を的確につないでいくおじいちゃまクレリック。前回はペイロアの司祭と書きましたが、そういえば今遊んでるのはD16氏のオリジナルワールドなので、太陽と収穫の神、日天使サルナの司祭にスライド。

ファイアスパー:エラドリンの男性でウォーロード。フェイワイルドの黄昏の中で、エラドリン戦法こと白鴉流軍学を修めた軍学者。ちなみにこの白鴉流、具体的に言うと統率者が軍の先頭に立って絶叫しながら突っ込む流派だそうです。

……という、エルフ系3人組(きれいに揃いました^^)

そして

ビエント:男性のウィンドソウル・ジェナシ、ソードメイジ。剣の先から力場を発して敵を叩き切ったり稲妻を放ったり氷の力を放ったりと、ぬけぬけと酷いことをする。ついこの間、自分が精霊の血を引いていることに目覚めたのだが、目覚めるまでで引っ張りすぎたので、自己の存在について悩むシーンはカットされました。

アーニャ:氷の力をあやつることを得意とする女性の人間のウィザード。魔法学院育ちのお嬢さんで、おっとりとした品のいい口調で話すが、話す内容は結構容赦ない。今回の事件の発端は、彼女の学徒としての好奇心に発するものだったのだが……

ロウィーナ:常にだるそうな雰囲気を漂わせているティーフリングのウォーロック。いつも一歩離れたところからなんだか酷いことをする。なんつーか、口の悪いビッチ^^;;;。今回は戦闘が続いたためにやや血圧が上がったのか、あんまりだるそうじゃない仕上がりになってしまった。

 前回のケナフが抜けて、代わりにファイアスパーが入った感じ。ケナフは村の周囲のパトロールをしていたり、民兵を率いていたりした、という扱いに。

 前回は「おいおいなんか俺たち気がつくとここに住むことになってるよ!?」とか言ってたのですが、えーと、気がつくとすっかり村の用心棒として腰を下ろしかけているような……

業務連絡。
posted by たきのはら at 00:38| Comment(4) | TrackBack(0) | 猛き大陸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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