2008年12月25日

第1回『始まりの村』目次

さて。
というわけで、D&D4版キャンペーン、『猛き大陸』、開始となりました。
どういう遊び方ができるのか探りつつ、楽しみつつ、ついでにレポートの書き方も試行錯誤しつつ、これから遊んでいく冒険を記録していきたいと思います。

多少悪乗りが過ぎる部分に関しては……まぁ、これもアリなんだ、ってあたりで^^;;;

ご感想やご意見等、いただけましたら幸いです。

第1回『始まりの村』目次

前口上

その1:ありふれた仕事
その2:村の腕利き
その3:盗賊竜
その4:新たな仕事
その5:蛇人間の墓所にて
その6:ドレイク狩り

posted by たきのはら at 19:01| Comment(0) | TrackBack(0) | レポート目次(猛き大陸) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『始まりの村』その6:ドレイク狩り

 ともかくいったん体勢を立て直そう。
 誰かの声に、全員、弾かれるように階段を駆け上った。オベリスクの出入り口はどうせ開くものだからそのままあけておけばいい。ただし敵がちょうど顔を出すだろうところには石棺を引きずってきて壁を立てておく。これだけでも地上に踏み出すのに手間取るだろう。

 そうしておいて階段の両脇にビエントとスズラン、石棺の後ろ、つまり階段の真正面にケナフが陣取る。司祭と娘2人はそれを少し遠巻きに身構えている。

 階段を駆け上がってくる軽い足音、そして石棺の向こうから野竜の小さい頭がふたつ飛び出した。すかさず男たちが殴りかかる。あんたの爪なんか全部抜けちゃえばいいのよ、と呪いの声からさすがにけだるさが消える。
 が、小さな野竜がどうやら壁を飛び越えた後、ずるずるという重いものを引きずるような音がして、とんでもないものが顔を出した。

 血の赤の鱗の大型ドレイク。俗にレイジ・ドレイクと呼ばれる、野竜の中でも凶悪な亜種である。そしてその背には竜の形の頭を肩の上に乗せた人間ほどの大きさの茶色い人型生物がまたがっている。これがさっきの竜語の罵り声の主だろう。押し出しからいっても盗賊の首領に間違いはあるまい。そしてその背からは人の背丈を越える堂々たる尾が伸びていた。馬を引き裂いた鉤爪の謎はその尾を見れば解ける。その尾の先端には鋭い刃物のような巨大な棘がついていたのである。

 「どいて、スズラン、そこをどいて下さい!」
 アーニャの鋭い声が飛ぶ。おお、とスズランが2、3歩後ずさると、階段の出口付近が急につるりとした光沢を帯びた。
 「気をつけて。そこに氷を張りました」

 先手はまず冒険者たちが取った。巨大赤トカゲに乗って殴りかかってくるつもりだったらしい竜首人は、足を滑らせたドレイクの背から見事に放り出されたのである。起き上がったドレイクは、今度はエミアスの手から放たれた光に包まれてまた少しばかり腰を落とす。が、調子のいいのはそこまでだった。放り出された竜首人の姿が急に砂のように崩れたかと思うと――そいつは乱戦からだいぶ距離を置いていたはずのロウィーナの目の前に仁王立ちになっていた。

 「あんたの尻尾なんか腐って落ちちゃえばいいんだ!」
 呪ったのか罵っただけなのか判然としない。が、背後にアーニャをかばう形になってしまったロウィーナは一歩も動けない。

 「大丈夫だロウィーナ、あなたも我が愛する神の信徒、死なせはしない!」
 励ますようにスズランが微笑んだ。と見るや竜首人の背中を銀の光が激しく撃ち、同時にロウィーナの周囲にうっすらと光の壁ができる。

 石畳の端で竜首人とティーフリングがにらみ合っている間に、オベリスク周囲は混乱を極めていた。気をつけるんじゃ、今、治してやるからの、ああ、スズランちゃんの次はケナフ坊だから……とエミアスが声をかけ、ケナフを取り囲んでしつこく牙を剥く野竜との間にビエントが何とか身体を割り込ませようとし……

 と、そのとき。
 野竜が思い切り振り回した首に弾かれるように、ケナフの身体が宙を舞った。断末魔の声を上げて、ケナフが倒れ伏し……

 ケナフの悲鳴と重なるように、もうひとつの悲鳴をビエントは聞いていた。あれは、そう――
 石畳も野竜も倒れたハーフリングの姿も、ビエントの目には映っていなかった。その代わりに彼の目が見ているのは切り立った崖、その中腹に生える白い花。そう、あれは……彼がまだ学徒だった頃、薬草取りに出掛けて、崖から落ち、そうして……あそこから落ちてどうやって俺は生き延びたのだ? そうだ、俺は、俺は……

 あのときの悲鳴をもう一度ビエントは聞いた。悲鳴は風に引きちぎられ、風音と混ざり、彼はいつしか高らかに風の声で叫んでいた。上空からひらひらと紙切れが舞い落ちてきた。手を伸べて受け止めると、それは引きちぎった魔道書のページだった。そうだ、俺はこれを知っている、俺は、俺は……

 気付くと、ビエントは再び石畳の上に立っていた。が、その姿は既に先ほどのものではない。肌には青く輝く線が複雑な模様を描いて浮かび上がり、髪のあった場所にはうすあおく透き通った結晶がまるで風になびくかのように絶えず揺れ動いていた。

 「そうだ、思い出した。俺は風の精霊を血を引くもの、そして俺の剣には魔法が宿るッ」

 竜の爪がビエントを薙いだ。がその瞬間、その身体の周囲から湧き上がった氷の結晶が竜の鱗をこそげ落としていた。ビエントは剣先で自分の周囲に軽く円を描いた。衝撃波が走り、それは仲間達を避けて野竜の足だけを激しく撃った。

 形勢はもう一度逆転し、そしてそのまま戦いは終わった。一度命を失いかけたケナフも癒しの魔法の力がどうにかこの世に繋ぎとめた。

 というわけで、一行は戦利品になりそうなものを集め、村に引き上げることにしたのだった。

 日暮れかけた道を辿るとき、アーニャがなにやら心を残した風に遺跡を振り返った。
 「……何かあったのかね、アーニャちゃん」
 「さっきのオベリスクです。そういえば不思議な文字……のようなものが、ぎっしりと刻まれていたのですけれど、読み解く暇がありませんでしたの」
 
 見たことのない文字でした。絵とも字ともつかない文字。
 口を大きく開けて吼える竜を様式化したような文字が何度もでてきていて……そのままにはしておけない気がいたしますわ。

 ではもう一度来なければならないねえ、今度はきちんと準備をしてね。
 そうエミアスは答えた。
 
 何、急ぐことはない。長年生きてきたからわかっているよ。今日生き延びたのだから、明日やることがあるのは楽しいことだよ。

このシーンの裏側。
posted by たきのはら at 18:49| Comment(4) | TrackBack(0) | 猛き大陸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『始まりの村』その5:蛇人間の墓所にて

 ともあれ一夜が明け、まだ涼しいうちに一行6人は村から伸びる街道を辿った。
 馬が引き裂かれていた場所を過ぎ、昨日の戦闘の跡までやってくると、後はケナフがめぼしをつけておいた足跡を辿る。好みは町住まい、とはいうものの、ケナフの真価が発揮されるのは野外らしい。
 草の踏み倒された後を目ざとく辿るケナフとともに一行はまばらな森に入っていく。歩くこと2時間ばかり、途中明らかに知的生物の手になる落とし穴が口をあけたりもした。ますますもって油断のならない雰囲気。やがて森の中に突然草地が開けた。その真ん中に屋根の落ちたあずまやのような建物――の跡――があって、足跡はそこへと続いている。
 壁は崩れたのかもとからなかったのか、草地の中に現れた石畳の上には、むき出しの石棺がいくつか並んでいた。そして中央には高く聳えるオベリスク。

 「……“遺跡”だな、アタリだ。上手くいきゃあ財宝も眠ってる。それともここはもう地図に載った場所か?」
 「いいえ、こんな場所があるなんて初めて知りました。村の人たちは誰も知らないと思いますわ」
 「うん、わしも知らんかった。村の狩場はこっち側じゃあないしのう」
 「よし、それじゃ探索だ」

 ケナフが周囲を警戒しながらもずんずん歩いて行く。

 「……うん、間違いない、野竜を飼ってた連中はここに巣食ってるな。が、野竜と昨日の緑色の竜首人だけってわけじゃないらしい。ずいぶんいろんな足跡が入り乱れてる。……注意しとけ」

 昨日の野竜や竜首人の足跡のほかにも、小型のサンダルを履いた足跡だの、明らかに二足歩行している中型の爬虫類の足跡だの、随分とにぎやかしい。
 ……が、見える限りにあるのは、平たい石畳の上の石棺が6つ、そしてその中央のオベリスク。仲間のほかに動く影はない。

 「こうしていても仕方ありません、中を調べましょう」
 スズランが言って、一行は石畳の中に足を踏み入れた。
 手前の3つの石棺は、蓋が割れていた。中には舞い込んだ落ち葉だの土ぼこりだのにまみれて、蛇のような頭蓋骨を持つ人型生物の骸骨が横たわっていた。古びて朽ちかけた衣服はさらにむしられ、首の骨や指の骨が折り取られているところを見ると、とっくに盗掘済みということだろう。

 奥の3つには、槍が飛び出してくる罠が仕掛けられていた。
 2度ほど槍をまともに喰らったスズランは、3度目には外した石棺の蓋を2枚目の盾代わりに使って避け、2回目からこうすればよかったとつぶやいた。石棺の中は何もなく、どうやら罠をしかけるためだけにわざわざ掃除したもののようだった。

 がらんとした石畳の上を見回していると、オベリスクの根元になにやら仕掛けがあった。どうやらこのオベリスクはそのまま横にずれるらしい。ぐいと押してみると高々と聳える柱はするするとずれて、足元に階段が口を開けた。

 灯をつけてから用心深く階段を下りていくと、地下は小さな部屋になっていた。油の臭いがつんと鼻を突く。通路を囲むように石棺が二つ……そしてその後ろに小さな影。コボルドだ。

 「さっさと片付けるぜ!」

 ケナフが走り出し、石棺のひとつに飛び乗った。途端、石棺の後ろに隠れていたもう1人、緑色の竜首人と目が合った。そいつは石棺の蓋にバールのようなものをひっかけて、ちょうど蓋をひっくり返そうとしていたところ。

 「させるものですか!」

 アーニャの声が鋭く響いたかと思うと、竜首人の背後で閃光が炸裂する。が、その瞬間、もうひとつの石棺の蓋がひっくり返った。油が床に溢れ、ケナフと仲間達の間に炎の壁が立つ。

 「くそぉ、回り込め、回り込むんだ!」
 「落ち着くんじゃ、怪我はないか、今治してやるからの!!」

 口々に叫びながら炎を迂回し、走り出す。ひらめく剣、炸裂する閃光、大剣が空を切り、呪文が紡がれ、神の怒りを宿した眼光に射すくめられてコボルドや竜首人は次々と倒れる。1体だけが命からがら、部屋から続く廊下の奥へと逃げ込んだ。

 その姿を炎越しにちらりと一瞥すると、ロウィーナはけだるげにつぶやいた。
 「あいつが死にますように」
 彼女が手を下したわけではなかったが、やがてそいつは悲鳴をひとつ残して死んだ。

 問題は、その悲鳴に答えて、廊下の奥に伸びる自然洞窟のほうから、金切り声めいた咆哮と、竜語の罵り声が聞こえてきたことだった。


 このシーンの裏側。
posted by たきのはら at 11:58| Comment(4) | TrackBack(0) | 猛き大陸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『始まりの村』その4:新たな仕事

 下手に全員で馬車を押したりして、またさっきのようなのに襲われたらことだ、というので、いったん村まで使いを出し、替えの馬を連れてこさせてドンゴ村へ向かった。が、その先は何もなく、一行は無事、開拓村に到着したのだった。

 「何、野竜の群が出た、それもただの野良野竜じゃない……それじゃ確かにただごとじゃない被害が出るはずだ」

 話を聞いた若い村長は、深くうなずいて言った。

 「が、おかげで随分と助かった。ここは関わりついでに、街道の掃討を頼めないだろうか」
 「冗談じゃねえ、野竜を飼いならして襲ってくる盗賊が出るって話からして聞いてないぜ。その上、馬をざっくり切り殺した得体の知れない爪野郎のことだってある。だいたい今げんざいだって普通の護衛の給金じゃ割りにあわなすぎるんだ、とっとと町にひきあげさせてもらうぜ」
 
 ケナフが鼻先で笑うと、村長はもうひとつうなずいた。

 「道理だ。実は今日、新しい家に屋根がかかってな」
 「……はぁ?」
 「そこを好きに使ってもらっていい」
 「……何だって?」
 「いや、だからただとは言わん、新しい家を提供すると言っているのだ」

 そりゃ助かりますねえ、何しろ私は今まで厩だの集会所の机の下だので寝ていたから、とスズランが答えたところで、町からやってきた3人はようやく村長の言葉の意味を理解した。

 「ああ村長、いやその、言いたいことはわかったしお気持ちの程も理解したが、つまりそのだな、我々は町からやってきただけであってこの村に骨をうずめる気はないのだ」
 「そうだ、つまり金だよ金、まともな報酬はいくらになるんだ」

 村長は言葉の通じない相手を眺めるような目でビエントとケナフを見ると、こんなにいい所なのに、と、ぼそりとつぶやいた。町に行ったきり帰ってこないような、ものわかりの悪い若いもんたちと同じことを言うんだなぁ。

 「金なんかよりもずっといいものがこの村にはあるんだが……」

 アーニャかエミアスあたりが通訳を買って出なければ埒が明くまいと思ったあたりで、思わぬところから助け舟が到着した。さっきの馬車の荷主のひとりが包みを持って入ってきたのである。

 「ああ、取り込み中済まないが、先にあんたらの取り分を届けておくよ」

 包みの中には野竜の匂い袋が4つ。

 「……何だ、知らないのか? 野竜の内臓だ。匂い袋だよ。魔法使いが珍重しててな、売ればひとつ金貨15枚にはなる。結構な値打ちものだぞ」

 ケナフとビエントの表情がさっと変わった。

 「うん、そんなら話は別だ。……村長、野竜を狩り倒したら、そこで手に入ったものは俺たちがそっくり貰っていいか?」
 「ああ、それはまったく構わない。野竜はもともといてもらっちゃ困るシロモノだからな。だが、なんであんたたちはそう、金のことばかり言うんだ。ここじゃ確かに金はないが、要りようなものはだいたいなんでも手に入るし、暮らしていくには充分……」
 「いやその、つまり我々は町で生きており、この先もまたどこかの町に旅するのであり、それにはたとえばより良い鎧とか剣とかが必要なことがあってだな」
 「だからここで暮らせばいいと言っているのに……まあいい、それが好みじゃないというんだから。だがあんたらもいつまでも若くないぞ、そろそろ足元を固めたほうが……」

 通じない話をなんとか摺り合わせ、ともあれどうやら一行は村の近くに巣食う野竜の巣穴を掃討する仕事を引き受けることになった。
 報酬はこの村にいる限りは自由に使える家、ついでに下働きを2人。それから今回の仕事の準備金として一人につき金貨10枚――相当の必要な品(何しろ村にはそうたくさんの金貨はなかったのだ)。そして野竜を倒して取った匂い袋や、それからもし巣穴で何か値打ちのあるものが見つかったら、それはすっかり仕事の駄賃としてもらっていい。

 やれやれ、これだから話の通じない奴は、と“家”に入りながらケナフは肩をすくめたが、道の向こう側ではムーンストラック村長が、これだから最近の若い者は、と、自分の歳にまるで似合わぬ台詞を吐いてまったく同様に肩をすくめていた。ビエントも苦笑いをしていたが、ともあれ既に匂い袋4つと準備金を含めて一人につき金貨20枚分の給金は約束されたことを考えれば、まあ順当な仕事なのだった。エミアスとアーニャは住んでいたり世話になっていたりする村の話だからと特に否やはなかった。スズランだけがとても幸せそうだった。兄さんが一番町暮らしが似合いそうなのに、変わってるわねと呆れたようにロウィーナが言うと、スズランは口元に微かに笑みを浮かべてこう言った。

 「いえ、私はもう町はこりごりなのです。確かに町は賑やかだが、あそこは人も、人の噂も多すぎる。私はセイハニーン様の教えに従い、新たな地平と新たな経験を求め続けることにしたのです」

 人の噂も多すぎる、というあたりで、ロウィーナはくすりと笑った。あんたも苦労したんだね、まあ、そうだろうね、わかるよ。

 が、美貌の聖騎士が口にしなかった言葉が実はこう続いているとは、ロウィーナには思いもよらなかった。

 ――なにしろ町にいるとすぐに権力者の奥方と悪いうわさが立つもので、いちいち命が危ないのです。まったく迷惑千万、私は小間使いのほうが好みだというのに。ここなら安心です、なにしろここの娘さんたちの半分は猫の血が混じったひげの生えたお嬢さんで、私なんかお呼びじゃありませんからね……

このシーンの裏側。
posted by たきのはら at 07:48| Comment(5) | TrackBack(0) | 猛き大陸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『始まりの村』その3:盗賊竜

 エミアス、アーニャ、スズランの3人が岩を回りこむと、恐るべき光景が目の前に展開していた。
 馬を失った馬車を取り囲む野竜の群、馬車を守って戦っているのはわずか2、3人。遅かったか間に合ったか。スズランはそのまま剣を抜いて走り出す。エミアスは立ち止まると長弓に矢を番え、放った。一方アーニャは声の限りに叫ぶ。

 「馬車の左側の3体は何とかなるかもしれません!」
 
 そう言って彼方の野竜の群を指差し、何事か叫ぶ――が、何も起きない。ああ、もう届かないわとつぶやくとアーニャは再び走り始める。

 一方、馬車のほうは大騒ぎになっていた。
 「うむあれはガード・ドレイク、野竜の一種だが群をなす性質があって性質が悪い。具体的に言うと、近くに仲間がいるとかさにかかって噛み付いてくる!」
 「坊や、解説はいい、構えろ、叩き斬れ!!」
 「わかってる、それは心配するな、とにかく続きがある! つまり戦い方にコツがある! かたまらせるな、奴らを引き離せ、生かしたままかたまらせるな、1体ずつ確実に倒せ!!」
 「指南感謝だ、後は黙って殴れ!!」
 叫びながらケナフは馬車から飛び降りる。片手に剣、片手に曲刀がいつの間にか握られている。
 「――俺に喧嘩を売って逃げられると思うなよ、獣が」
 両手に構えた二刀が狂ったように舞い踊ると同時に切りたてられた野竜が後ずさる。
 
 叫ぶ男たちを尻目に、ロウィーナは面倒くさそうに立ち上がった。
 「……足が腐っちゃえばいい」
 そして野竜の一匹を睨みつける。娘の黒いだけの眼球が一瞬ぎらりと光り、言葉通りに野竜の細い足の表面がどろりと爛れた。が、野竜は怯む様子もない。

 戦況を最初に変えたのは、飛び込んできたスズランだった。
 「お前の敵は私だ!」
 野竜の1体に鋭く叫ぶ。声に反応して思わず声の主の顔を見てしまったのが運の尽き。もとから傷ついていたそいつは、スズランの面差しに神の怒りを見てしまった。自分が感じたのが恐怖だと気付く前に、わけもわからず野竜は死んだ。

 分が悪い。
 そう見て野竜を率いていたらしき竜首人は姿をくらました。何しろ村から助っ人はやってくるし、魔法は使ってくるし、そのうえわけのわからない力を使うものもいる。
 が、やはり真に恐ろしいのは冷たい鉄なのだと竜首人は悟って死んだ。隠れて逃げたはずなのに叫びながらハーフリングが追って来た。上下二段に構えた刃がすれ違った瞬間、竜首人の喉笛は見事に掻き切られていた。

 あとは時間の問題だった。太陽の照りつける大地が急に凍りつき、足を滑らせた野竜は、馬車の御者台に仁王立ちした青年の大剣に叩き斬られた。やれ手足が腐るといいだの爪が抜けるといいだのというつぶやきと一緒に襲い掛かってくる捻れた黒い光に焼かれた者もいた。
 最後の1体は酷く哀れっぽい死に方をした。怪しい光に身を捩り、攻撃してきた相手を探したが見つからない。泡を食って手近のものに噛み付いたら、その瞬間理不尽なことにさらに鋭い光に身を刻まれた。かなわないと見て逃げ出したところを追いすがられて切り倒された。
 「セイハニーン様のウィンク――月の光で目を灼くがいい。お前の敵は私だ、が、お前に私は見えない」
 スズランがひんやりと笑ってつぶやいた。

 というわけで野竜はすっかり倒してしまったが、どうも釈然としないものが残る。つまり――このオオトカゲどもは、どう見ても野生のものではない。どうやら訓練されている節もあるような統制の取れ方だったし、“飼い主”の竜首人も現にそこに倒れている。

 森へ続く足跡を追ってみようかという話も一瞬持ち上がったが、まずは荷馬車を村に届けるのが先だろうということにまとまった。それには逃げていった馬を連れてこないと……なに、きっと一渡り逃げた後はそのあたりで草でも食っていよう。

 そう言って少し道を進んだ荷主の一人が、悲鳴を上げて逃げ帰ってきた。
 慌ててかけつけると、道の真ん中で馬が倒れて死んでいた。死因は尻のやけどでも野竜の噛み傷でもない。
 倒れた馬の首根っこに、巨大な――それこそだんびらほどにも巨大な鉤爪で切り裂いたかのような傷が、深々とうがたれていたのだった。

このシーンの裏側。
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2008年12月24日

『始まりの村』その2:村の腕利き

 荷馬車が野竜の群に囲まれる、その半日ばかり前のこと。開拓村ドンゴでは、村長のムーンストラックが村の長老、エミアスのところにやや深刻めいた表情で顔を出していた。

 村長、といっても、まだ二十歳をいくつも超えない若者である。要は開拓者の頭といったほうが正しいのだ。狼の特徴を身体に見え隠れさせるシフターの青年が小屋の扉を叩くと、扉を開けて出てきたのはエルフの老人である。老人といってもエルフのことであるから、老いたものに特徴的な髪の色、そして何か世俗を超越したような表情からその経てきた歳月が伺われる程度のもので、活力は一向に失われている様子はない。そしてその福々しい童子のようなエルフは――そう、彼はドワーフ程度の背丈にぽっちゃりした体つき、そして老境を通り越して子供に戻ったかのような邪気のない表情をしていたのだ――村長を見上げるとにっこりと笑い、「どうしたね、ムーンちゃん」と言った。

 「ムーンちゃんは止して下さいよエミアスのじいさま。村のものの手前もあるから……。
 いや、実はちょっと相談ごとがありましてね」
 深刻めいた表情を苦笑いに変えて、村長が話したのはざっとこんなことだった。

 今日、ハラ=ジュゴルから資材の定期便が届くはずなのだが、街道が最近物騒で仕方がなくて心配だ。村に程近いあたりにドレイクが巣を作ってしまったようで、罠をかけたり毒餌を撒いたりしてはいるのだが、どうも効果も上がっていないらしい。定期便にも護衛はついているだろうが、ドレイクが住み着いたのはつい最近の話だから、間に合うだけの護衛がついているかどうか……

 「ああ、それじゃあ迎えにいかなきゃなるまいね。腕の立つのを2、3人連れてね」

 村長がひととおり話し終わると、エミアス老はうなずいて外に出た。

 「おお、アーニャちゃんじゃないか。ちょうどいい。資材の定期便を迎えに行くんだよ、一緒に来ておくれ」

 声をかけられて立ち止まったのは、すらりとした、品のいい若い娘である。本を小脇に、そして草木の標本を両手いっぱいにあれこれと抱えている。南方の開拓村にはあまりそぐわない風をしているがそれもそのはずで、この若いウィザードの女性は都会のほうから休暇を利用して研究旅行にやってきたところ。“南方における魔法構成要素としての天然物の相同と差異”について研究をまとめるべく、標本採集にいそしんでいるというわけである。

 「ええと、これで足りないのはあと……あら、どうかなさいましたの?」
 「ああ、アーニャ先生なら安心だ。よろしくお願いしますよ」

 先生、という村長の呼びかけにはちょっと困ったような顔をしてみせたが、エミアスがざっと説明すると、ええ、私で役に立つのでしたらまいりますわと頷いた。

 「でも二人では心もとないねえ……ああそうだ」

 と、エミアスが行ったのは村の集会所。

 「スズランちゃん、いるかい? 頼みたいことがあるんだよ」

 答えて出てきたのは、こんな辺鄙な村にはおよそ似つかわしくないほど見目麗しい青年だった。エルフの血が混じっているのがすぐわかる顔かたちもさることながら、明け方の空に消え残る細い月のようなたたずまいといい、言葉を紡ぐ声といい、うっかりするとここが人の世であることを忘れ、フェイワイルドの黄昏の中に佇んでいる気にさえなるような人間離れのした空気をまとっている。
 エミアスの依頼を聞くと、青年――スズランは微かに笑って頷いた。

 「私でお役に立てるかどうかわかりませんが、お供しましょう。我が愛する神セイハニーンは、新たな地平と新たな経験を探し求めよ、高いところには上れ、穴があったら潜れと教えておいでですから――お待ちください、支度をしてまいります」

 スズランの“支度”は、その神秘的な雰囲気には似つかわしくないほど直裁なものだった。板金鎧を着込み、片手に重い鋼鉄の盾を持ち、長剣を佩く。訳あってこんな果ての土地にいるが、この見目麗しい青年は、月神セイハニーンの聖騎士なのだ。

 「うん、アーニャちゃんとスズランちゃんがいて、お天道さまもついててくれるから大丈夫だね。では、行って来るよ」
 そう言って若者二人を連れてエミアスは村を出発した。彼は彼で村の長老にしてペイロアの司祭なのだった。

 草いきれの中を道はうねうねと続く。
 天頂から太陽が照りつけ、「ああ、こんな重装備をしてくるんじゃなかった」とスズランが苦笑混じりの呟きを5回目に漏らした時。
 
 前方で悲鳴、そして何かが激しくぶつかり合う音がした。
 かと思うと、岩陰の向こうから暴れ馬が泡を噛んで飛び出してくる。

 「しまった、急げ!」
 馬を避けながら3人はいっせいに走り出した。

このシーンの裏側。
posted by たきのはら at 23:31| Comment(5) | TrackBack(0) | 猛き大陸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『始まりの村』その1:ありふれた仕事

 港町ハラ=ジュゴルの商人詰所でビエントに回ってきた仕事は、いつもとそう代わり映えのしないものだった。
 仕事の内容は荷馬車の護衛、行き先は少し奥地の開拓村ドンゴで積荷は板金やらなにやらの資材。その日のうちに着く距離で、道もとりわけて危険なわけではないが、もちろん街を一歩出れば安全なわけはないので護衛が必要。――自分のほかに、あと2人もいればいいか。

 というわけで、人足寄せ場に声をかけてやると、2人ばかり人が――いや、ハーフリングとティーフリングが1人ずつやってきた。ハーフリングは身の丈の小さいなりに刃物を2本携えた、なかなか荒事に慣れた風の男だった。名は、と問うとケナフと名乗った。ティーフリングはというと、熔けた銅のような色の長い巻き毛を角に絡めるように結い上げた、どちらかというとあまり品の良くない酒場のほうが似合いそうな黒い目の娘で、ビエントの顔を見るなり、ちょうど良かったわほとぼりも冷まさなきゃだし小遣い稼ぎもしなきゃだし、と言った。呆れて訳を問うと、なんでも昨日まで占い師をしていたのだが下手を打って小屋をたたむ羽目になったのだという。

 「……へえ、つまり偽占い師のイカサマがばれたと?」
 「偽とは何よ。お客の聞きたいご託宣を言ってあげるのが占い師の仕事なんだって悟ったときから占い師を名乗ったのよ、あたしは」

 まぁ、それでも紹介所からよこした人材だから……間違いはあるまい。たぶん。一応身支度もそれなりに整ってはいる。派手に結い上げた髪の毛と、およそ神経質な小娘がよくやるように、尻尾の先で苛々と床をはたき続けていることを除けば。

 ともあれ、表から荷駄が整ったという声がして、一行は荷主たちと一緒にぞろぞろと馬車に乗り込んだ。
 御者台に座るのはビエント。そのすぐ脇にケナフが陣取る。ロウィーナ――ティーフリングの娘――は、荷の間にけだるげに腰を降ろしている。

 天頂近くから太陽が照りつける。
 うだるような暑さの中、草いきれのする道をごとごとと馬車は進んでゆく。

 「ねえ、兄さんたちはどこの人なの?」
 時おり潅木の茂みがある他にはただ緑の草が陽光を照り返すばかりの景色に飽きたのか、ロウィーナが口を開いた。
 「聞くだけ野暮だよ」
 ぼそりとケナフが答える。傭兵稼業に首を突っ込む前のあれこれなど、わざわざ語りたい奴などいるものか。
 「うん、学院で学んでいた」
 答えたのはビエントのほうである。
 「古い落ち着いた港町の、由緒ある学院だったんだがな。そこで歴史だの魔法学だのを研究していた」
 「へえ、いいとこのぼんぼんだったんじゃねえか。その坊やがなんでこんなところに」
 ケナフが面白そうに御者台を見上げる。
 「研究内容がまずかった。異端だと非難され、追っ手が寄越された」
 「あら、学者センセは大変ね。そしたらあたしなんか火あぶりにされちゃうわ」
 ロウィーナの尻尾がぱたんとそのあたりをはたく。
 「でも、ここまで来れてよかったじゃない。異端ごときを追っかけて暗黒大陸まで来るほど暇な追っ手もいないでしょ」
 「それに、決闘もしたのだ」
 真面目腐った顔でビエントが答え、おいおいとケナフが笑い混じりの声で言った。
 「まさか決闘で役人を殺したとか、そういうんじゃないだろうな」
 「そのまさかだ。だが奴は悪人だった。だから死ぬのは理の当然というもので……」
 「お役人、お金持ち、有名人に人気者、異端より怖いものはいっぱいいるわねえ」

 ロウィーナが鼻歌のように言った瞬間、馬車が跳ね上がるように揺れた。馬が悲鳴を上げて棹立ちになっていた。道理、誰が何をしたものやら、馬の尻に大きな火傷のようなものが出来ている。
 「う、うわああッ」
 ビエントが必死に手綱を引くが、目の前に飛び出してきたものに怯えきった馬は、ひと声いななくと馬車を引きずったまま突進を始めた。
 「ああああれは間違いない、野外生物誌の怪物部門Dの部に出ていた野竜ドレイク……」
 「やかましい、解説はいいから馬を放せ、馬車ごと転倒するぞ!!」

 ケナフに怒鳴りつけられて我に返ったビエントはあたふたと剣を抜くと引き綱を切り飛ばした。馬は泡を吹きながら走ってゆき、馬車は勢いで少しばかり進んでどうやら止まる。

 が、状況はますますありがたくない。
 道の両脇から、野竜が4体、それになにやら首から上が竜の形をした人型生物が出てきて、馬車はそのまま取り囲まれてしまったのだった。

このシーンの裏側。
posted by たきのはら at 20:24| Comment(4) | TrackBack(0) | 猛き大陸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

第1回『始まりの村』前口上

 というわけで、D&D4版、ようやく初プレイしてきました。
 や、今回ご一緒した中で本当に初プレイは私だけだったのですが、ちょっと先達な方々に教えていただきつつどうにかこうにか……。

 世間で言われているほど変わったかしら? というのは、実は3版系を遊んでいるときも初プレイの4版も、私自身のぎこちなさはあんまり変わらなかったとかそういう理由なんじゃないかと思うので(万年初心者状態だったしなぁ……)何の参考にもならないのですが、うん、まぁ、わかったようなこと言っても仕方ないや。

 やっぱりD&Dでしたよ。
 楽しかったです、はい。

 というわけで、ここんとこの息切れを整えなおして、新シリーズ『猛き大陸』をレポしていく予定。

 ちなみに今回の舞台とメンツはこんな感じ。

*****☆*****

 かつてこの世界は四方王と称される四つの邪悪と戦い、それを東西南北の果てに押し返して生き延びた。そのひとつ、南の“獣”に抗するべく置かれた鎮護の礎は、その名を竜帝城市と称し、南の暗黒の帳の向こうから人の世を狙う“獣”の眷属に睨みを利かせていた。

 あるとき、竜帝城市の物見は奇妙なものを目にした。
 いったい何事が起こったか、魔法の遠見の中で、南の海上を閉ざす暗黒の帳がじりじりと薄れ、後退していく。その後には茫々たる大海原が広がっていく。

 “獣”の次元界とこの世とを隔てる帳が消えたのか、それとも魔法の遠見も届かぬ場所に後退してそこからこの世を狙うようになったのか、そもそもいかなる原因によってかかる現象が生じたのか、それを読み解いたものは未だにいない。が、ともかくかつて帳に覆われていた場所には広大な海と、そして海を隔てて未知の大陸が存在し、そこは再び――そう、“再び”だったのだ――人の子の手の届く場所となったのである。

 新たな大陸――暗黒の帳の中から出てきた得体の知れぬ場所ということで、自然とその地は“暗黒大陸”と呼ばれるようになった――に最初にわたった命知らずは、目もくらむほどの財宝を持って竜帝城市に凱旋してきた。暗黒大陸にはいつのものとも知れぬ見事な遺跡があり、その中には手付かずの財宝が眠っている。相応の身の危険と引き換えではあるが、一攫千金が見込めるのだ……

 船が仕立てられ、多くの人々が暗黒大陸に渡った。
 開拓者、冒険者、事業家、探検家、食い詰め者に犯罪者……流刑囚として送られたものもいれば、捕吏の手を逃れて大陸に渡る船に潜り込んだ者もいた。
 そうした人々は、古い遺跡の上に即席の集落を作り、そこを拠点として暮らし始めた。もちろん安楽な暮らしとは程遠い。見たこともない怪物と戦いつつも遺跡を探検し、財宝や珍しい文物を集めては竜都に送り、大陸に元から住まう人々――“獣”の影響の濃かった地ゆえか、その殆どは獣の形質を体内に持つ人々、つまりシフターだった――とも交流しつつ、2年が経ち、3年が経ち、5年もするともうそこは繁華で猥雑な港町になっていた。そこからさらに奥地へと入植する人々もいた。

 そうして物語の一端はハラ=ジュゴルという港町から、もう一端は入植者たちの村ドンゴから始まる……

*****☆*****

 という、ぶっちゃけるとアフリカとオーストラリアとインカ帝国がパッチワークになったような場所で展開する物語。そしてメンツはというと……

今回の登場人物:

ケナフ:食い詰め……もとい、青雲の志を抱いて大陸に渡り、傭兵暮らしをしている青年。漢気溢れるハーフリングの二刀流レンジャー。やるときはやる。でも時々色んなものに手が届かない。

アーニャ:真面目でおっとりしたお嬢さんウィザード。人間。魔法学院の休暇でちょっとリゾートに行きたくて南まで来たんだけどなんだか想像してたのと違った……とか。

ビエント:竜都から少し離れたけっこうな大都市の大学生で歴史や魔法学を学んでいたが、色々あってこんなところまで流れてきた人間の青年。腕っ節が強く、護衛のような仕事をしながら糊口を凌いでいる。

スズラン:見るものの心を惑わさずには置かない魅力的な顔かたちが災いし、女難に遭い続けて南の果てまでやってきたハーフエルフの青年。セイハニーンを奉ずるパラディン。

ロウィーナ:路地裏ずれしたティーフリングの娘。母親に連れられて新大陸に来たもののすぐに孤児になり、占い師のマネゴトをしたり荒事に手を出したりしながら生き延びてきたウォーロック。

エミアス:のんびりぽっちゃりしたエルフのおじいちゃんクレリック。仙人もかくやというような福々しさを振りまきながら、やや奥地の開拓村でおっとりと日々を送っている。


前口上の裏側。
posted by たきのはら at 00:04| Comment(6) | TrackBack(0) | 猛き大陸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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