2008年09月28日

椿説『ロミオとジュリエット』その1

注意!! 以下の文章は、シェイクスピア作『ロミオとジュリエット』をd20にて遊んだものです。シェイクスピアの著作の先行きとは別に投入されたPCたちがいろいろと動きますので、原作とは全く違った方向に話が流れておりますが、そのあたりはご了解下さい。


 花の都のヴェローナに、いずれ劣らぬ二つの名家……
 その名もモンタギュー家とキャピュレット家。が、名高いのは名家であるからというだけではない、どちらかというと今では悪名のほうが高いので。

 というのもこの両家、年来どころか世代を超えて仲が悪い。それも反目しあうだけならまだしも、血の気の多い家人たちがつまらぬ言葉の行き掛かりから剣を抜きあわせ、何のかかわりもない人々も巻き込んでの刃傷沙汰に及ぶこと数度。太守様からも街を騒がせること以後まかりならぬと何度お沙汰がきても収まらぬ。

 そして今日も今日とて、モンタギューの剣術指南バジルが中庭をそぞろ歩いていると、屋敷のすぐ外で騒ぎが起こったのだった。これは捨て置けぬと門の際まで行くが、そのすぐ外は血相を変えて殴りあう連中が槍だ剣だと穏やかならぬことをわめきたて、おっとり刀で飛び出そうものなら騒ぎを一回り大きくするだけということは明白。
 えい仕方のないことだとそのまま門の傍で様子を伺っていると、奥からモンタギュー老があたふたと飛び出してきた。

 「えい、何が起きたのだ、ああ、言わずともおおかたのことは知れておろうが」
 「その大方のほうでございましょうな。事が起こる前に気がつけば止めもできたでしょうが、飛んできたときには何しろこの有様で」

 バジルの言葉も終わらぬうちに、当家の息子ロミオの学友、ベンヴォーリオが血刀を引っさげ、意気揚々と戻ってくる。顔の笑っている割に言うことは酷いもので

 「いやいや大変なことになり申した。我らが打ち合っていると太守様がお越しあそばされ、いかいお怒り。以後ふたたび街を騒がせ、人をあやめるようなことがあればモンタギュー家とキャピュレット家とを問わず、その騒がせたものの命を申し受けるぞとのお達し」
 「ベンヴォーリオ、よくそのような口を笑いながら叩けたものだ。それはつまり謹慎せねば罪に問うとのお達しではないか。さて、ところでロミオ坊ちゃまのお姿が見えぬようだが、まさかそなたたちと騒ぎの渦に飛び込んでお怪我などされたわけではあるまいな」

 バジルが噛み付くように言うと、ベンヴォーリオ、おお、そのこと、と頷き……

 ……むぅ、どうも底本がないではやりにくい、ということがわかったので、後ほどロミジュリの台本を持ってきてから続きを書くとします><
posted by たきのはら at 00:44| Comment(0) | TrackBack(0) | その他D&D | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年09月16日

シリーズ第13回『森に住む日々』目次

 というわけで――おお、今回は48時間以内に仕上がってるぞ!――第13回渡竜レポート目次でございます☆

 時間が空いてた割には、遊び始めるとノリはあっという間に「昨日も遊んでたかも!?」ぐらいのイキオイで回復してたなぁ。ゲーム運用はいろいろと忘れてて大変でしたが。

 クラス変更やらなにやらの影響(それだけじゃないが)でいろいろと不安定だったアルテアの性格も、今回の“NaturalBorn酷い人な森の子”で落ち着きそうです。まぁ、ワイルドエルフだし、ちょうどいい感じだよなぁ、たぶん。
 (でもいきなりクマになるのは不評らしい……?)

前口上
その1:森の日々
その2:召集
その3:不自然な狼
その4:森の理屈
その5:暴走と弁明
その6:旅路ふたたび
その7:歪みへの道
その8:キメラの寝床

 
posted by たきのはら at 16:02| Comment(2) | TrackBack(0) | レポート目次(渡竜) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

シリーズ第13回『森に住む日々』その8:キメラの寝床

 キメラは普通の剣で斬れるかどうかということをまず確認した後、今度はキースが城跡を探りに行った。

 扉の落ちた門を抜けると、奥のほうから寝息の二重唱が聞こえる。足音を忍ばせてさらに進むと、寝息は突き当たりの壁の向こうから聞こえてくる。壁の向こうが見通せそうな場所まで回りこんでも姿は見えないが……うん、だいたいは見当がついた。

 というところで城門まで戻り、ウィチカとアルテアに“静かに来い”と合図を送る。
 まず城の中に入って、壁の向こうに錬金術師の火なり足止め袋なりを投げ込む。動けなくなってくれればもうけもの、滅多打ちにして片付けよう、というのはあらかじめ話し合ってある。

 キースとアルテアが城の壁に近寄り、ウィチカが呪文を唱え始めたところで寝息が止まった。

 「寝てればいいものを!」キースが錬金術師の火を壁越しに投げ込むと、ぎゃっという悲鳴の三重唱が聞こえた。すかさず声のしたほうにアルテアが足止め袋を投げ込む。
 が、それは外れたようで、数瞬後、壁の向こうに三つ首を生やした巨体が迫り上がってきた。その巨大な喉首めがけてマジック・ミサイルが飛ぶ。返礼のように黒い酸の雨。

 壁を回り込むように走り出したキースを横目に見ながらアルテアは2個目の足止め袋を投げつけた。袋が翼に絡んだキメラはたまらず壁の後ろに姿を消す。キースが――今回は呪いのかかっていない曲刀を構えて走りこんで行くのにバーチを援護に向かわせて、アルテアはアルテアで雷を呼ぶ。青天井から気持ちよく雷がキメラめがけて落ちてゆく。ウィチカも壁の影に隠れるようにしながらマジック・ミサイルを撃つ。

 というわけで(一度はキースが死に掛けたものの)、廃墟に巣食っていたキメラをどうにか退治してのけた。
 「これはちょっと皮をはがしてなめすのは難しいわねえ……」とアルテアが首を傾げる傍で、キースが呆れたようにキメラの寝床をひっくり返す。

 竜モドキのいる場所なんだからもうちょっとわかりやすい活用方法があると思うぜ?

 その言葉通り、銀貨ばかりが6000枚、そして巻物に霊薬瓶が転がりだしてくる。巻物はなにやら闇市場に売り払うよりしようのないような代物だったが(どう頑張っても人道にもとらない使い道のできそうもない死霊術の呪文がべったり記されていたのだ)、霊薬のほうは肌を堅くするもので、ずいぶんと役に立つ。

 そしてキメラの寝床の下には地下へと通じる階段もあった。
 どうやら“次元の裂け目”とやらへの手がかりはこの下にありそうだった。

このシーンの裏側
posted by たきのはら at 15:50| Comment(2) | TrackBack(0) | 渡る世間は竜ばかり〜細腕繁盛記〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

シリーズ第13回『森に住む日々』その7:歪みへの道

 調べ物もあったし買い物もあったので、近くの街に寄った。
 小さいとはいえきちんとした図書館もあり、「ちゃんと知識が紙に書いてあるよー!!」とウィチカはうきうきと図書館に入っていった。
 世の理を文字とやらに書き付けてわかった気になっている不遜な奴ら、とかあのノールに言われたのがよっぽど癪にさわってたのかなぁ、と、アルテアは独り言のように言った。

 ともあれ、紙に書いた知識の力は絶大で、財布から出した金貨五枚および相応の時間と引き換えに、ウィチカはこれから向かう場所で遭遇するであろう脅威の色々についてすっかり調べ上げてきたのだった。

 あの黒い禍々しいものはフィーンド種で、この世界にいる生き物が悪の力に染まったものであり、呪文が効きにくかったり魔法の武器でないと傷つかなかったりすること。
 また、悪の次元界といってもいろいろあって、例えば秩序にして悪の存在はデヴィル、混沌にして悪の存在はデーモンといい、それぞれ特定の元素に対して耐性や抵抗性を持っていること、そして連中を切り払うには“善なる武器”が必要であること。そういえば中立にして悪の存在はユーゴロスあるいはダイモーンと呼ばれ、これはこれで他の二つとはちょっと違うのだけれど……ええと、確か魔物学講義でユーゴロスの回の時は黒き氷を取りに出掛けてて、公休扱いになってたはいいものの補講取り逃しちゃったのかも……

 ともかく、その悪の次元界とやらから出てくるものをどうにかするには、武器を善属性にしなきゃならない、と。が、そんな金はないし自前でそんな魔法も持ってない。……手持ちの金で人を雇えるか?
 キースが言い、全員で手持ちを持ち寄った。
 金貨1000枚を越すか越さないか。
 これから何が起きるかわからないことを考えると、これではとても、それなりの魔法を使える人間は動かせるわけがない。
 困り果てたが、魔法屋にいけば何とかなるものである。刃に塗れば武器に善の力を付与する油があるというので、それを買えるだけ買い込んで、城跡に向かった。

 途中、ウィチカがちょっとばかり毒キノコに中ったり、アルテアが道を踏み外して崖から滑り落ちたりということもあったが、ほどなく城跡に着いた。

 城は丘の上にぽつりと立っていた。
 屋根は落ち、壁は崩れ、見るからに廃墟である。そして、どうやら何かの動物がそこを巣にしているらしい。

 「壁の外に糞が落ちてる。わりときれい好きな動物だね。あと、出入り口の辺りに身体をこすり付けた跡がある……遠目じゃわからないから、ちょっと小鳥にでもなって様子を見てくるよ」

 アルテアはそういうと、見る見るうちに……人ほどの大きさの大蛇になった。

 「ちょっとアルテア、あんた小鳥になるんじゃなかったの!!」

 ウィチカが飛び退いて叫ぶ。が、小鳥だとたちの悪いのが棲んでたときに丸呑みされちゃいそうだし、と身振りで言い残すと、蛇のアルテアはするすると草地を這っていった。

 丘の上の廃墟に棲んでいる――あるいは棲んで“いた”かもしれない。足跡の古さはアルテアにはわからなかった――のは1体。にしても奇妙な動物で、確かに四足なのだが、前足には肉球があり巨大な猫のよう、後足には蹄、そして黒いうろこが落ちている。身体をこすり付けた跡を良く見ると、砂色の短い毛(かつて一緒にいた“猫さん”こと豹のベラのものと良く似ていた)と黒いもつれた毛(これは山羊の毛のように見えた)も落ちている。抜け毛をよくよく観察した跡、落ちていた黒いうろこを一枚くわえて、アルテアはまたするすると丘の下に這い戻った。途中長い胴体で、落ちていた枯れ枝を1本うっかり折ってしまってひやりとしたが、まぁ特に何かに気付かれた様子はない。

 丘の下に戻って(そして「気色悪いし蛇のままで攻め込むとかありえないから人型に戻れ」と言われて元の姿に戻って)見てきたものを説明すると、ウィチカがなんとも言えない顔をした。

 ああそれキメラだわ。獅子の身体に山羊の後足、蛇の尻尾。あと獅子と山羊と竜の首がついてるわ。竜はブラックドラゴンね。酸を吹き付けてくるわよ。

このシーンの裏側
posted by たきのはら at 14:28| Comment(4) | TrackBack(0) | 渡る世間は竜ばかり〜細腕繁盛記〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

シリーズ第13回『森に住む日々』その6:旅路ふたたび

 それから暫く、石舞台の上で過ごした。
 見張りがつくのは仕方ないとして、髑髏齧りが何かのついでを見つけるたびにやってきて、秘術に魂を売った者にはどのような報いがふさわしいかというような演説をぶつのはたいそう心の平安によくなかった。

 とはいえ、謎の黒狼に襲われたりドルイドたちにつるし上げられたりと散々だった一行は、ここでどうやらほっと一息つけたというのも事実。少なからず負った怪我を治してしまうと、今度はウィチカが黒狼の尻尾をいろいろと調べ始める。そうして……

 「……あ、思い出した、こいつ、フィーンド種のイキモノよ」

 フィーンド種というか、悪の次元界の影響を受けてるの。悪にもいろいろあるからどこから来たのかはちょっと特定できないけど、とにかく別次元の力がこちらに漏れ出して、ダイアウルフがその影響を受けたってところだと思うわ。でなければ本来は悪の次元界に生息している生き物が、次元の裂け目を通ってこちらにやってきて、こっちのダイアウルフとつがいになって家族をつくってたとかだけど、それにしては普通のダイアウルフの特徴が強いから、世界の裂け目から漏れ出した別次元の力に影響を受けたというほうが正しいと思う。……で、とすると、今回は学園の先生方は関係ないと思うのよね。少なくとも前のウーズ騒ぎのときに開いた次元間の裂け目とは別。

 「確かにね。下水道にもぐったときも違和感はあったりなかったりしたけど、今回あの狼を見たときみたいな“禍々しい”感じはなかったわ」

 でたらめを言うな、とちょうど居合わせた髑髏齧りが唸ったが、これはさすがに見張りのドルイドに石舞台から追い出された。我々にはこの娘のような秘術の知識はない、一方でこの娘がわれらをたばかるつもりかどうかぐらいはわかる。お前の耳にこころよくないものを全て偽りとみなしていたらかえって真実を見失うだけだ。
 そうね、とウィチカは小さくうなずいて続けた。

 「だいたい、今回のことは教授陣がしでかしたとしたら説明のつかないことがいくつかあるのよ。まず、ここにゲートを開いたところであの人たちにとって何の利益もない。管理するにもわざわざここまで来なきゃいけないしね。あの人たちがやりたいのは結局研究なんだから、ゲートを開けるなら管理も研究もしやすい街の地下に開けるわよ。で、街の地下に開けたら、ここでわけのわからない異次元のイキモノが出没するようなザルなこともしないわ。前の時だって地上では何も知らずに生活できるくらいの――まぁ、下水があふれたことはあったけど――ほとんどの人は何も気付かずに生活できるくらいの管理はできてたもの」

 それに、ゲートってあなたたちが考えているよりも面倒なのよ。ぽこぽこ開けられるものでもないし、だいたい街の地下で開いたゲートがここまで無責任な影響を及ぼすような、そんなずぼらなことをしているようじゃ、あなたたちの手を煩わすまでもなく、あの街は沈むわよ。

 そこへトレントのもとへ使いに出ていたドライアドも戻ってきて、アルテアの言ったことは正しいこと、ウィチカは確かに秘術の徒だがトレントは彼女のことを大変よく言い、またユニコーンを見つけて助け出してくれたのはまさしく例の街の自警団の人たちであったと請合ってくれたこと……を、証言した。
 そこでようやくウィチカの疑いは晴れ、学園都市殲滅作戦も取り消された。

 とはいってもそのまま住処の森に帰っていいとはさすがに言わない。そう、学園の教授陣のしたことかどうかはひとまずさておき、秘術の使用によって無理やり引き裂かれた世界の裂け目を閉じるには秘術の知識は必須。というわけで問題解決に協力してほしい。まずは世界の裂け目について知っていることを教えてほしい。
 それじゃ、知ってることを話すわ、と小さく息をついて、ウィチカは話し始めた。

 「まず、世界の裂け目――ゲートと私たちは呼んでますけど、これはそうそう開けるものじゃありません。伝説に残るほどの魔道師なら一人でゲートを開くだけの魔法を紡ぐこともできますが、学園の教授陣にもそんなのはいません。前に街の地下にゲートをあけたときは、下水道を封鎖し、そこに魔方陣を描いて学科あげての魔法儀式を何日も続けて、それでようやく開いたんです。
 恐ろしく強力な悪い魔道師がうろついているというんじゃ手の施しようがないですが、まぁそんなことはそうそうないと思うので、何らかの理由でゲートを開けようとしている“集団”がいるんでしょう。
 ――そんな連中を森で見かけたことは?」

 いや、それはない。我らが知っているのは世界の裂け目が存在することによって生じる“結果としての事象”だけだ。

 「じゃあ、そんな集団が人知れず魔法儀式を執り行えるような場所はありますか? そこが怪しい場所です」

 そこでドルイドたちは暫く話し合っていたが――さまざまな奇怪な事象の現出した場所のいずれもに遠くない場所で、そのような人知れず勝手が行えるような場所は――やがてウィチカたちにこう告げた。

 確かにお前の言うような場所がある。そこを探索してきてほしい。
 わかりました、とウィチカはうなずいた。

 「父の友であるホーソーン師やここにはいないサイリエンの為なら、私はあなたの力になります。
 森の中で過ごしてきたあなたがたには、私の秘術の力は異なものに映るでしょう。しかし、異なる力に触れるから解決できることもあると思います。私はこの二人と出会ってそれを学びました」
 
 ホーソーン師がかすかな笑みを浮かべて長老を見やる。長老は答えてウィチカにうなずいて見せた。
 よかろう、そなたの言うことは理にかなっている。そなたへの悪意は今は我らにはない。そなたの持てる力を我らに貸してほしい。

 ドルイドたちからの依頼というのはこうだった。
 ――ここから3日ばかりいったところに、崩れた古城跡がある。それは大変古いもので、訪れる人とてないが、そこには地下の階層があることは知られている。次元の歪みの元凶はそこにあるのではないかという話になった。だから、行って何があるのか調べてきてもらいたい。
 古城というのなら何か来歴があるのではないかと詳しいところを尋ねたが、ここにいるもっとも年嵩のものが物心ついたときに、既に屋根の落ちた廃墟となっていたというばかり。

 仕方ないので、ここで整えられる限りの装備を整え、あとは少し回り道をすれば街があるというのでそこで調べ物だの買い物だのをすることにして、出掛けることにした。
 装備を整えるといっても、傷を癒す魔法の力を混めた棒杖と保存食ぐらいしかすぐに手に入れられるものはない。一行は例の下水道掃討のときに有り金をだいぶはたいてしまっていたのだが、それは実は余り問題にならない。ドルイドたちの間では貨幣など意味をなさないのだ。このままでは何も手に入れられない。

 ほら、だからさっきの狼の毛皮と、あと当分は使う予定のない耐臭剤やなんかと交換すればいいんじゃない。物どうしの交換になるから、街にいるときみたいにお金が目減りしたりもしないわよ。
 荷物の中を漁って手放しても問題なさそうなものをかきあつめ、棒杖と、それから3人と1頭が10日間やっていくだけの食糧をどうやら手に入れた後、アルテアは得々として言った。
 が、後の二人は一応頷きながらもたいそう胡散臭げな顔をしていたのだった。

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posted by たきのはら at 11:36| Comment(8) | TrackBack(0) | 渡る世間は竜ばかり〜細腕繁盛記〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

シリーズ第13回『森に住む日々』その5:暴走と弁明

 「うわぁ、危ない、ウィチカこっちに来て! バーチ、ウィチカ連れてこっちに来なさい!!」

 髑髏齧りの手下がキースの手をつかまえ、ウィチカのほうに行ったのは髑髏齧り本人なのを見た瞬間、アルテアが叫んだ。あの血気にはやりすぎたノール、秘術の娘をただここまで引っ張ってくるだけにはとどめてくれない可能性もある。それでも間に合わず、ウィチカは森の際までずるずると引っ張ってこられたのだが、それを見たキースがノールの手下の手を振り払って髑髏齧りに怒鳴りつける。

 「ふん、このわからずやが。“違い牙”のほうがまだしもものがわかっていたな」

 違い牙……かつてこのあたりで“剣の王”ラーザールの住む洞窟を自分らの神の住む社として祀っていた黒斑一族の戦士長である。戦いで捕まり、どうせ死ぬとわかって散々にキースとタムリスを愚弄していたところを、キースに一喝されて思わず情報を洗いざらい吐いたのだったが――あの戦士長の名と死に方を知っていればこの短絡思考のノールも少しはおとなしくなるだろう。

 「は、小僧、いつまでもそれが通じると思うな。“違い牙”は戦士だ、俺は奴とは位階そのものが違う」

 髑髏齧りが鼻で笑う。その隙にバーチはウィチカの服のすそを加えて引っ張り、1人と1頭はドルイドたちの輪の傍、ホーソーン師の隣に小さくなる。

 「ふむ、違うか。つまりお前のほうがひどいわからずやってことか」

 キースがにやりと笑うのに答えて、ノールはフレイルを振り上げた。やめてください、ここで殴り合いしても仕方ないでしょう、と叫ぶアルテアに、子犬は悪さをしたその場所でしつけないとなぁ、と凶悪な笑い声で答えながらノールはフレイルを振り下ろす。
 ちくしょう、ずいぶん手荒な野郎だ、と砕かれた肩を押さえ、キースは苦笑いする。ノールは“躾は終了”とばかりにのしのしと輪に戻ってくる。

 キースには申し訳ないことをしたけれど、何だかんだ言っても彼はレンジャーでもあるのだし、最終的にはそんなに酷い扱いは受けないだろう。それにここにいるのは魔法学院の教授陣よりはよほど思考の回路が短い人ばかりなのだもの、仕方ないわ。
 そう小さくつぶやくと、アルテアはウィチカとキースを輪の中に招きいれ、そして二人――特にウィチカをホーソーン師のすぐ傍に寄せるようにして立つと、自分たちが街を出てくるきっかけになった“あの事件”について語り始めた。

 ――最初は学院の教授たちのごく穏やかな実験だったみたいなのです。だけど力がほしくて暴走した人がいて、街の地下で変なウーズを逃がしたり別次元のイキモノを飼ったりしはじめたのです。
 私たちはちょっと別の用事があってシュノープレーに会いました。そしてそのとき、下水道がおかしなことになっているので何とかしてほしいと頼まれたんです。そこで調べていくうちにさっき言ったようなことがわかりました。
 これはあまりにも危なっかしい、って、私たちは思いました。何が起きるかわからない、と。そこで、下水道で行なわれている最中の実験を――まぁ、実験に必要なものをいろいろ壊したりして――やめさせました。シュノープレーにはそのときに助けてもらいました。
 結局そのことで、私たちは街にいないほうがいいんじゃないかということになりました。学院の先生たちのやり方も気に食わなかったし、それで街を出て、今住んでいる森に来たのです。シュノープレーもこんな感じの悪い下水道には住んでいられないから別のところに行くって言ってました。最後に会った時はシュノープレーは元気でしたし、別のところに行くって言ってたのも確かです。でもその先はわかりません。

 アルテアが口ごもるとウィチカやキースが口添えして話を終える。

 ふむ、と、長老らしきドルイドが言った。この娘たちの様子は特に嘘を言っているようにも見えない。話は額面どおりに受け取って構わなかろう。で、話の内容から考えるに――あの街の連中はやはり許しがたい。ここはひとつ、地図からあの街を消すのがよいのではないか。

 「ちょ、ちょっと待ってください! 確かにあの街はけしからぬことでいっぱいです。前には心術使いがトレントを見世物にしていたりもしましたし」
 「なんと、では、トレントも被害者なのですか!? これはますます……」
 「ええトレントも被害者です、でもそのトレントを助けたのも、あの街の人たちなんですよ!!」

 それは、と、ドライアドの厳しい表情が少し緩んだ。一概に滅ぼしていいとも言えませんね。そのトレントから話を聞いてきましょう。名前はわかりますか。

 「名前はわかりません。でも、西の、デルス・ドル・イーの国境近くでユニコーンの子の親代わりをしているトレントです」
 
 それならわかる、誰か話を聞いて来て、その結果でこの3人の処遇と例の街の扱いを決めよう。

 「だからいちいちと手のかかる、まずはこの秘術の小娘を柳籠に編みこんで……」

 飽きもせずに髑髏齧りが言い出した瞬間、ウィチカがずいと進み出た。

 「よほどそれがお好みらしいけど、私一人柳籠に入れたところで、あなたの胸がすくだけで何にもならないわよ」

 ふざけるな小娘、といううなり声とともに、ウィチカの身体が持ち上がった。襟首でつるし上げた小生意気な娘に一声吼えると、髑髏齧りはそれを思い切り放り投げる。きゃあなんてことを、と叫びながらアルテアが何とか身体でウィチカを受け止め、何か言おうとし、黙った。
 ――3人が3人とも騒いだら、余計まずい。

 まぁ待て、ここで生贄の儀式をしても裂け目が閉じるかどうかなど我らは知らぬのだ。ことを進めるのはトリエントからの言葉を待ってからがよかろう。
 長老がそう言い、答えてドライアドが森の中に姿を消した。
 そして、ウィチカを筆頭に3人と1頭は“いかにもノールが好みそうな、古い血のこびりついた石舞台”に追い上げられ、話が決まるまでそこに留め置かれることになったのだった。

このシーンの裏側
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2008年09月15日

シリーズ第13回『森に住む日々』その4:森の理屈

 狼一家の皮をすっかり剥いでしまうと残った肉は土に埋め、戦いで受けた酷い傷もとりあえず治すと、また先へ進む。
 ドルイドたちの集会所はすぐそこだった。

 「師父、たった今到着いたしました。こちらが仲間の……」

 ウィチカをホーソーンに引き合わせようとアルテアが駆け寄ると、ホーソーンは相好を崩すどころか却って眉をひそめ

 「今回はお前一人だけで来るべきだったのだが」
 「え、でもそんなことはどこにも」
 「確かにそれはこちらが知らせてやるべきだった。とにかく今は秘術の輩が顔を見せるのはまずい。とにかく彼女は森の中に隠しておけ」

 見れば集会所のストーン・サークルに集まっているドルイドたち――人やエルフだけでなく、サテュロスやドライアドもいる――は、誰もが険しい眉根を寄せておそろしく剣呑な空気が漂っている。たしかにまずい。

 ウィチカを森の中の居心地の良さそうな木の下に休ませ、ひとりじゃ怖いと言うのでバーチを守りに残し、アルテアはホーソーンについてストーン・サークルへと向かう。一応レンジャーのキースは強くはとがめられないので、それをいいことに少し遠巻きにして様子を伺う。

 「これで、揃ったか」
 「いや、“髑髏齧り”がまだだ」
 「……最近は剣呑だからな」

 まさか、とアルテアは荷物の中からさっきの黒狼のしっぽを引っ張り出す。

 「確かに、さっきここに来る時にも、なにやら常ならぬ邪悪な空気をまとった狼が」
 「……やはりな、何かがおかしいのだ」
 「何かが狂っているのだ」
 「自然ならぬ何かが悪事を働いているのだ」

 ひそひそ、とささやきが波のように広がる。剣呑な空気がいっそう剣呑になる。と、そのとき、ドルイドたちの輪の一箇所だけ空いた場所に、1頭のノールがのしのしと入ってきた。お付きのものらしきノールやおそらく彼の“相棒”であろう狼もすぐ隣に控える。

 「さて、全員が揃ったな。では、ここ最近この地を騒がす不穏な事象について話し合おうではないか」

 長老が口を開いて話し始めると、それを遮るようにノールが唸った。

 「秘術の連中だ。そしてここにもいるぞ。羊皮紙とインクのにおいがする。やい、神聖な集まりに誰がそんな奴らを連れ込んだ」

 アルテア、思わず口を開きかけたが、さすがに自分がここで騒ぎを起こすのは上手くない。ホーソーンに目配せすると

 「まぁ待て。確かに秘術の人間は、居る。だが、私の知人の娘でもあり、私の弟子の仲間でもある。構うな」
 「構うなったって秘術の人間、最近の“歪み”の元凶は奴らに決まってるじゃないか。仮にも俺たちが世界をゆがめるなんてするはずがない。神とやらを信じる連中なら、神に会いたきゃ自分でそっちに行くだろう。だから悪いのは秘術の連中だ。集会の始まりにそいつの生き血を石舞台に注ぐか、柳籠に編みこんで生きたまま燃やせば、ちったぁ集会の実りも増えようってもんだぜ」
 「ちょ、ちょっと待ってください、そんな乱暴な」

 アルテアが思わず進み出ると、ノールはようやっと言葉とわかるほどな唸り声で生意気な小娘を一喝した。

 「黙れ小娘、お前と俺では位階が違う。お前の師匠は俺と対等だがお前は師匠の弟子に過ぎない。過ぎた口をたたくな。分をわきまえるのはお前が連れている……」

 そこでノールは口ごもった。
 狼のにおいがしたので小娘の相棒はてっきり狼だろうと思ったのだが、肝心のその相棒はどこにも居ない。もうひとつ何か言おうとしたとき、ホーソーンが宥めるように言った。

 「まぁ待て。その娘はついこの間まで猫と一緒に居たのだ」

 猫か、猫じゃしょうがねえ、と髑髏齧りはぶつぶつ言ったが、さすがに猫の悪口を言ってここにいる“猫が相棒”の誰かの機嫌を損ねたら徹頭徹尾まずいという判断はついたのだろう、口をつぐんだ。そうして、とにかくこのままでは埒が明かない、話を進めよう、と誰かが言って、どうやら集会が始まった。

 「では、昨今の奇妙な事件のことについて話し合おう――それぞれ、持ち場で変わったことはないか?」

 ドルイドたちは順繰りに、自分の“持ち場”で起きた事件や怪異について報告する。が、アルテアはというと最近森に戻ってきて“持ち場”についたはいいものの、報告する何事もない、穏やかな日々を送ってきている。

 「つい最近“持ち場”につきました。ここに来る途中で禍々しい狼と戦ったほかは、何もありません」
 「そうか……が、安心はできない。そもそも連絡の取れない連中もいるしな、街の下水道に住むシュノープレーも消息がしれない」

 え、とアルテアは思わず声を上げた。
 シュノープレー、あれ以来何かあったのですか。

 険しい顔のドルイドたちが、いっせいにアルテアのほうを見た。

 「アルテア、輪の中央へ。詳しく話してもらおうか」
 「ほーら来た、やっぱり秘術の連中が仲間にいるだけのことはある、んじゃあ森の中に逃げ隠れしてるのにも出てきてもらおうか。さっきからそこでこそこそしてる小僧にもな」

 髑髏齧りが勝ち誇ったようなうなり声をあげる。そうして駆け寄るアルテアの手を邪険に払いのけると、手下にひとつ顎をしゃくって見せ、のしのしと森へと歩き始めた。


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シリーズ第13回『森に住む日々』その3:不自然な狼

 次の日からはまた旅の生活だった。
 が、ウィチカとキースにとっては奇妙な旅だった。普段なら街に出て食料や装備を買い込むのに、アルテアは「そんなの要らない」という。急ぐ旅でもないし、街に出なければならなくなったらお金はそのときに使えばいいし、森からもらえるものは貰えばいいのよ。そうして1日の半分は旅程を稼ぐのではなく、狩をしたり木の実を拾ったり水を汲んだりに使う。保存食もあることはあるが、これはお腹を空かした動物に会ったときにごたごたせずに通り抜けるために使うのだからなるべく取っておいて、ということらしい。

 だから、旅の10日目、あと少しで目的地につくというところで不穏なうなり声をかすかに耳にしたときにも、まぁ、交渉手段は残っていたのだった。

 声は、三叉路の向こうから聞こえた。向かって右側からは禍々しい重低音、向かって左側からはコーラス。聞きまちがいでなければ狼である。
 
 「森の際に寄ってて。危なくなったら森に入ったほうがまだマシだから」
 ウィチカに言うと、アルテアは燻製肉の塊を抱え、辻へと向かう。キースも一緒に進み出る。

 左側の道の先には、子供を2頭連れたダイア・ウルフ。右側の道の先には、ひときわ黒々としたダイア・ウルフ。……おそらく家族、右側のほうが群の長。それにしても――薄気味の悪い。
 黒々としたダイア・ウルフに何となし禍々しさを感じながらアルテアは肉を辻に置いた。

 ――狩の途中なのはわかるわ。でも、こちらの肉でいいということにしてくれたなら、お互いに痛い目をみずに済むわ

 そう身振り手振りをしながら反応をうかがう、が……ダメだ。話にならない。黒い狼は肉に興味を示した振りをしながら、狼にはありえないぎらぎらと赤い目で「二足歩行するいきのいい肉塊」のほうをねめつけている。狼に見えやすいようにと肉を押し出しているキースの肩越しに左側の道の先をちらりと横目で見ると、こちらはこちらで目の前の肉よりも黒狼の指示を待っている様子。

 「全然ダメ。特にあいつ」

 こそり、と呟く。わかった、まかせろ。アルテアが森に飛び込むと同時にキースが走り出す。狂気の曲刀に手を添えて。一方アルテアは空中に雷の文様を描く。喉の奥で雷の遠鳴りのような音が鳴り終わると、黒狼の背にどこからともなく雷が落ちる。

 酷い戦いだった。黒狼をキースが足止めしている間にも、親子狼がアルテアに飛び掛る。バーチが吠え掛かるが相手にもならない。身動きもままならぬ森の中、あんなものに飛び掛られては話にならないとウィチカは呪文を唱え、するすると木によじ登る。正しい。ここからなら弓だろうとマジック・ミサイルだろうと狙い放題だ。

 ああ、だから話し合おうと言ったのに。
 呟くとアルテアは森の奥に手招きをした。同時にぞろぞろと妙な気配が木から地面から立ち上がる。無数の蔦が親子連れの狼の足を絡め取ろうと伸びてくる。そのあたり一帯を覆いつくしてそよそよと揺れる蔦は、母狼の動きを鈍らせ、子狼を絡めとり、倒れているバーチの鼻先で、ぴたりと止まった。これでよし、後は、と、キースのほうを振り向きかけたアルテアの喉首を、母狼の牙が思いきり薙いだ。

 よろよろと森の中を逃げるアルテアを母狼が追う。その背をウィチカのマジック・ミサイルが追う。それを横目に黒狼の喉首を斬り飛ばしたキースは雄たけびを上げながら、絡みつかれてじたばたしている子狼を切り払う。剣の狂気は「まず近くにいるもの」を切り伏せろと命じるのだ。
 ともかく、母狼が倒れた後に全員が立っていたのだから問題はあるまい。

 問題がない以上、することはひとつだった。
 首の皮一枚で命が繋がった状態のアルテアは、世にも禍々しい黒狼の毛皮に自分のナイフの刃が立たないのがわかると、“颪”を抜剣したまま肩で息をしているキースに言ったものである。

 「その剣しまう前に、そのやたら怖い狼の皮をはいでおいて。狼の肉は食べられないから、せめて皮はきちんと貰わないと」
 「あと、しっぽはちょっと外しておいて。なんだかその狼、変だわ。すごく気持ち悪い。普通の狼じゃない気がする。尻尾があれば後で調べられそうだから……」

 おい、何だよ、だいたい剣は……と言いかけたキースは、ものも言わずに親子狼の皮剥ぎにかかったアルテアを見て、肩をすくめた。

 ……こいつ、普通じゃない。が、森の中でドルイドに逆らうもんじゃないし、な。

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シリーズ第13回『森に住む日々』その2:召集

 イノシシの肉はウィチカやキースにはたぶんにおいがきついから、香りのいい木で燻してハムとベーコンを作るわね、ああ、なんだったら薬草の収穫はキースお願い、と、半ば呆れ気味の二人にはお構いなしにアルテアが忙しくしていると、

 「お、なんか豪勢じゃないか」

 タムリスがやってきた。キースは余計居心地悪げな顔になるが――なにしろ「街でやっていく」と言って昔の仲間のもとを去ったものの、“街にいられなくなって”今ここにいるのだから、普通の感覚でいえば随分みっともないのだ――これまた一向にキースの渋面にはお構いなしに加工しかけのイノシシ肉に手を伸ばす。

 「まだ加工中。意地汚い」

 ぱちん、とその手を払いのけておいてアルテアは顔を上げた。

 「このハムに畑を掘り返されるところだったわ。ここ、普段からこんなのが出たりするの?」
 「ああ、珍しい話じゃないね」
 「そう、ならいいの。今度から気をつけるわ」

 じゃ、すまないけどちょっと薬草の収穫を手伝ってって、夕食はご馳走するから、と言っているところに、ルリカケスが1羽飛び込んできてアルテアの肩に止まる。その小さな足には手紙が結び付けてある。

 「あら、師匠から呼び出し状だ。ドルイド・サークルの集会ですって」

 この森から一週間ほど行ったところで、この地域一帯のドルイドが秋の集会をするらしい。集合の日限は10日後。

 「うん、またでかけるのか?」

 キースの顔がぱっと明るくなる。どこでも、なんでもいい、この森の生活をちょっとでも離れられるのなら……

 「ん、私だけね。ベーコン仕上げたらちょっと行ってくる」
 「行ってくるってアルテア、ひとりで、そんな、危険よ。さっきみたいなのがまた出たら……」
 「大丈夫よ、鳥になって飛んでいくから」

 ああ、とウィチカが納得したような呆れたような顔をする。アルテアはその気になれば、日の出から次の日の出までの間の約半分を動物の姿ですごすこともできるのだ。エルフの姿に戻ったところで黒い肌に毛皮を藤弦で巻きつけている状態で木にでも登っていた日には、これまた森の獣とあまり見分けがつかない。確かにアルテアひとりのほうが危険は少なかろう。

 「いや、せっかくだから三人で挨拶に行ってくればいいじゃないか」

 タムリスが横から口を挟んだ。

 「キースはともかくウィチカは秘術の徒だし、このあたりには血の気が多かったり虫の居所が常に悪かったりする連中だっているし、なんかの弾みでごたつく前に、あんたの連れだってことで面通ししておいたほうがよくないか」

 集会の始めのうちはドルイド以外の連中もわりと出入りしてたはずだしな、と言う。
 ああ、それもそうね、それじゃ明日の朝すぐ3人がかりで立つことにするわ、トトとセセと薬草園をお願い、お礼にイノシシの腿肉まるまる1本ぶんあげるから。

 やった、旅だ、とにんまりするキースに、タムリスは苦笑いしながら言った。

 何勘違いしてるんだ、ずっと森だけ通って行くんだぜ。

このシーンの裏側
posted by たきのはら at 06:32| Comment(6) | TrackBack(0) | 渡る世間は竜ばかり〜細腕繁盛記〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年09月14日

シリーズ第13回『森に住む日々』その1:森の日々

 あれから数週間。
 懐かしい人々に別れを告げ、ウィチカ、キース、アルテアの3人は学園都市の南、レンデの村近くの森の奥に抱かれた「ウィチカの薬草園」のそばに居を移していた。
 「普段からここで寝泊りできるように準備はしておいたからね、不自由はしないわよ」
 というアルテアが他の二人を連れて行ったのは、薬草園から木立をひとつ隔てたところにある大きな洞窟。入り口から上手い具合に折れたり上ったり下ったりをした場所が大きく広がっており、雨風が入ることはない。気持ちよく乾いた洞窟の中に、アルテアは山ほどの干草を運び込んであった。

 「ベッドはいくらでも作れるよ。あ、キースはカーテンの向こう側で寝泊りしてね。シーツは川で洗濯して薬草の上に広げて干したから、いいにおいがするよ。あの川には水浴びにちょうどいい淵もあるから」
 洞窟の入り口のところはトトとセセの厩にしよう、馬車はあのひさしみたいに張り出した岩棚の下に置けばいいね、ウィチカの書き物机が要るからあとで平たい岩を入れておくね、明かりは魔法で何とかなるよね……

 森は確かにアルテアの“故郷”だった。
 てきぱきと棲家を整え、薬草園の整備をする傍ら木の実を集めたり魚を取ったりしては日々の食事を準備し、残りを片っ端から保存食にする。どこかからガッシリとした体つきのハイイロオオカミもつれてきて、新しい相棒よ、白樺(バーチ)のところで出会ったからバーチって呼ぶことにしたわ、と、こともなげに言う。確かに頼もしい。が、川の石をひっくり返して虫を集め、それを撒き餌にしては素手で――熊の姿になって――魚を取るアルテアを見ていると、ウィチカとキースの二人は何か言い知れぬ違和感というか不安を感じるのだった。

 自分たちはこんなところにいていいのだろうか。

 が、まぁ、ほとぼりは冷まさねばならず、それにだいたいどこかの街に行って生活するには手持ちの現金が心もとない。だから、ここで資本の要らない生活をしつつ薬草を育て、それを金に変えてから考えよう……ということになってしまうのだった。

 そんなある日のこと。
 アルテアを先頭に、薬草取りに出かけた3人は恐るべきものを見た。

 小山のようなイノシシが2頭、薬草園の囲いの柵をせっせと掘り返しているのだ。冬に備えて動物たちはとにかく意地汚くなっている。放っておけば薬草はすっかり掘り返されて食い尽くされるか使い物にならなくなってしまう。
 「こらこら、あっちに行きなさい」
 言ったアルテアの顔を、イノシシたちは馬鹿にしたように見て鼻を鳴らした。
 「あっちに行きなさいというのに! ほら、これあげるから」
 アルテアがポケットから取り出して放り投げたのは……鮭の燻製。

 イノシシは曰く言いがたい音で鼻を鳴らし、突っ込んできた。しまった、干しりんごでもやればよかったんだけど、とつぶやいたアルテアはイノシシの体当たりをもろに食らってよろめく。

 ウィチカが目くらましの魔法を叩き込み、1頭は怯えて結局逃げ失せた。残る1頭は、何者にもひるまなかったのが災いして、荒れ狂うキースに叩き斬られた。
 地面にどっと倒れたイノシシを見て、アルテアは言ったものである。

 「あら、これでハムの材料ができたわ。1か月分の食料にはなるわね」

このシーンの裏側
posted by たきのはら at 23:39| Comment(6) | TrackBack(0) | 渡る世間は竜ばかり〜細腕繁盛記〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

シリーズ第13回『森に住む日々』前口上

 実に1年半(いや、もっとだよ。前回は2007年1月だから)ぶりくらいに『渡竜』再開です。
 セッションの支度して家を出ようとカバンを持ち上げたときに、思わず肩が抜けそうになりました。……昔はルールブックが5−6冊入ってても平気で持ち歩いてたのに。今回はPHB、MM、“通販生活”こと『武器・装備ガイド』の3冊しか入ってないのに……ああ、これしきを重く感じるなんて、ゲーム、ほんっとにしてなかったんだなぁ><

 ゲーム内時間は街を出てからしばらく、時は秋の終わりごろ。たぶんウィチカとアルテアが出会ってから1年と少しが経過した感じでしょうか。
 前回は、なんとなくバーバリアン癖の抜けないドルイド5レベルだったアルテアも、森で暮らすうちにドルイドとしての自分を思い出したり、いつの間にか6レベルになっていたり(1回セッションを休んだせいでレベルアップが遅れていたのですが、再開に当たってレベルを他の2人に揃えました)、勢いで妙にロハス(笑)な人になってウィチカとキースに嫌がられてみたり、新しい相棒がいたり。

 つーわけで、今回は都会の常識の通じない場所で新しい生活を始めた3人(と1匹)の新たな冒険の幕開け。
 時間がちょっと空いたために、それぞれ自分を見直す余裕がちょっと出てきたのか、キースが「意識的に」バーサークするようになったり、アルテアがわりと素直に火力型ドルイドになってたり。そしてうちらはやっぱり見敵即斬とかやられるまえにやれとかだったり。

 ……でも、一番困った奴はともかくとして、一番むかついた奴は「ここは私たちのゆっくりプレイスよ!」とか抜かすダイアボアだったなぁ^^;;;

 
posted by たきのはら at 22:59| Comment(4) | TrackBack(0) | 渡る世間は竜ばかり〜細腕繁盛記〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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