2006年10月24日

『あらし』その6

 ネタバレ注意!!
 以下のレポートはDungeon誌136号の『The Coming Storm』を遊んだものです。当該シナリオをまだ遊んでいない方、今後遊ぶ可能性のある方はお読みにならないで下さい。









 次に開けた扉の向こうにはまた扉があり、イェールミンが耳をすますと、大地に降りしきる雨の音が聞こえた。外に続いているのかと扉を開けると、また扉に続く廊下があるばかり。だが、雨の音は一層激しくなる。聡いエルフの耳は、扉を二枚隔てた雨音をも聞いてしまったということらしい。

 そこにも罠も鍵もなかったので、二枚目の扉を開けると、そこは広々とした庭になっていた。ここにもいくつも泉があり、木が雨にぬれて重々しく枝を垂れていた。庭の向こうにはやはり壁があったので、ここは神殿の前庭といったところなのであろう。
 
 しんと静まり返って、誰も庭にはいる様子がない。とりあえず、とばかりに神殿の壁際まで歩み寄った一行の背後で、枝を垂れていた木がぬっと立ち上がった。腕のように伸ばした枝から、ぞろりと蔦が垂れ下がる。
 「『殺人蔦』!!」
 エルンストが悲鳴を上げた。
 「まかせておけ」
 ヴァシュマルが拳を構えて近寄るが、あっという間に絡め取られ、ぎりぎりと締め上げられてしまう。
 エルンストの魔法がヴァシュマルの身体を脂の膜で覆う。が、蔦の力のほうが強い。イェールミンが切りかかるがどこを斬っても突いても相手は蔦である以上、急所というものもなく、挙句の果てには炎の呪文を紡ぐために一歩下がったベルナデッタに、背後の扉から四本腕のケダモノが三匹とびかかって、キィキィとわめきながら細い喉をがっちりと締め上げる。ヴァシュマルはいっかな蔦の腕から抜け出せず、そうこうするうちにベルナデッタは喉首をケダモノにつかまれたまま、つる草の罠に足をとられて空中高く吊り上げられ、これはいよいよ進退窮まったかと思われた。

 絡みつかれた二人は容赦なく締め上げられてゆく。ヴァシュマルはともかく、ベルナデッタの手は弱々しく空を掴むばかり。もう数秒もすれば命も危ないと見えた。ええ、これではいたしかたない、あれを使うかとエルンストが呟く。とみるや天空から駆け下りてくる4頭のヒポグリフ。あっというまにちっぽけなケダモノどもを噛み殺してしまう。その背後ではどうやら蔦の腕を逃れたヴァシュマルが、不覚を取った後はそうはいかぬといいざま逆に蔦の絡みついた木の幹ごとへし折り引きちぎり、その後はどうやら4人、欠けるものもなく庭の怪を片付けおおせたのだった。

 ほかに怪しいものはないかと調べてみたが、あとはただ深い緑を雨が洗い続けるばかり。そこで出てきたのとは別の扉をくぐって建物の中に戻った。

 建物の中を進んでゆくと、小さな四角い部屋に行き当たった。
 その部屋の中央には屋根に据えられたものと同じ、細身の翼ある竜の像がいかにも厳かな風に据えられていた。像の台座にはなにやら碑文が刻まれているようであったが、文字にしても奇妙な文字であり、誰も読めぬ。

 「さて、未知の文字か。だが俺はまったく問題がないのだ」
 そう言ってエルンストが進み出、にんまりと笑いを抑えきれない風で碑文に触れ、高々と読み上げた。
 「この像はシェンシー、蛇の王
 総ての雨と水をつかさどるもの
 その足元には限りない宝が眠る

 ……ふむ、まず神の姿と名と権能がひとつ。それに、宝か」
 「貴方さまが何をお探しなのかは存じ上げません」
 ベルナデッタの声にさすがに険しいものが混じった。
 「この神殿が貴方さまの探しておられたものであるというのなら、きっとご興味もおありでしょう。ですから神殿の中で見ることどもに貴方さまが興味を引かれるのも無理からぬことです。
 けれど、宝は。
 私たちは子ども達を取り返しに来たのですよ」

 エルンストはさすがに苦笑いして、それでも蛇の王の絵姿と碑文とその訳語を羊皮紙にすっかり書き取ってしまい、それから部屋を通り抜けて次の扉を開けたのだった。



このシーンの裏側。
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『あらし』その5

 ネタバレ注意!!
 以下のレポートはDungeon誌136号の『The Coming Storm』を遊んだものです。当該シナリオをまだ遊んでいない方、今後遊ぶ可能性のある方はお読みにならないで下さい。 










 しかし、300年前からこの大地に根を生やしたと思しき中庭にはよきものも悪しき物もなかったので、一行はさらに中庭からまっすぐに続く扉を開けて先を急いだ。

 扉を開けた先は小さな部屋になっていた。
 扉の正面の壁には、16本の腕を生やした太鼓腹の男が16の腕に楽器を持ち、楽しげに笑いつつ踊っている像が浮き彫りになっていた。そのぐるりをさらに小さな四本腕の人物像が踊りつつ取り囲んでいた。像の顔はいずれも柔和で、これが何かの神を現しているのであればそれはおそらく技芸か何かの神であろうとエルンストは思った。が、これは何の神であるのかは想像も付かなかったので――出かける前に例の友人の記した『三千神のおわす土地』なる本を熟読してくれば少しは違ったかもしれないが、エルンストは裏づけの取れない文字で自分の脳裏に先入観を刷り込むことのほうを恐れたのである――ベルナデッタに尋ねたが、彼女もこれは今現在自分の知る限りではどこでも信仰されてはいないということを知っているのみであった。

 そういえばこの建物はありとあらゆる壁に浮き彫りが施されているのだな、と、懐から取り出した羊皮紙に忙しくペンを走らせながらエルンストは言った。おそらくはここが友人の言っていた「ムルの神殿」なのであろうとエルンストは思っていた。
 「最初の大広間にあったのは、きっとこの神殿を建てた人々の暮らしと信仰の図であろう。そしてこの16本腕の男は神の一人であろう」
 最初の大広間では、高い崖にうがたれたいくつもの穴に人々が暮らし、そして4本腕の神像に祈りをささげている図がぐるりと描かれていたのだった。その4本腕の神々は手に手にその権能を現すのであろうさまざまな品物を掲げていた。あるものは武器を持っていたし、あるものは楽器を捧げていた。またあるものは農具を手にしていたし、あるものは花を抱き、そしてあるものは手に何も持たずにその指先で優雅な印を結んでいるのだった。猿の逃げ込んだ扉をイェールミンが釘付けにする間に広間の壁をよくよく眺めていたエルンストは気がついたことであったが、神の像は本本腕の人間らしきもののほかに、なにやら翼ある細身の竜のようなもの、触手を生やした六本足の豹のようなもの、それに四本腕の猿のようなものまでが観察されたのであった。

 しまった、と、エルンストはこっそりひとりごちた。
 こんなことと知れていればあの男の書いたものをもう少し読んでくるんだったな。聞き書きと憶測で編まれた本に用はないなどと言ってしまったが、たしか奴の書いたことによれば、ムルの民は岸壁に穴居生活をし、三千とも数える神を信仰して生きていたのではなかったか。
 そして、目の前の16本腕の男の像について、どこかに但し書きでもないかと周囲を見回したのだが、とうとう発見できず、うむ神の似姿を書き写しただけでは研究の助けにならぬものかとぼやきながら先を急ぐ羽目になったのだった。

 先ほどの広間の様子については、ヴァシュマルはまた別のことを言った。
 曰く、あの広間には無数の刀傷の跡があった、と。あれは修行僧の修行の跡ではない。俺が老師より預かった秘伝書に記されている場所はまさしくこの神殿であるから、あの広間が本来は修行僧の修行の場であったろうことは疑いがないが、ただ一度、あの広間は戦場になっている。多くの刀が大きく振りかぶられ、目標を外れたものが壁や床を薙いだ跡が無数に残っているのだと。

 ともあれ、この神殿のどこかに子どもらがとらわれているのであろうと思っている以上、そうそうのんびりしているわけにもゆかぬ。
 イェールミンが扉の先の様子を伺って「何もいないよ」というと、ヴァシュマルが扉を開ける。そんなふうにして一行は神殿の中を改めて回った。

 次に開けた扉の先には、ぐるりの壁中がひな壇になった部屋があり、そこには小さな四本腕の人形――というよりは神像――がぎっしりと並んでいた。いくつかは床に転げ落ちていたが、それは長い年月、何かの弾みに転がり落ちたものであろうと思われた。ただ、床に落ちているもののうち二つみつ、入念に破壊されたと思しきものもあった。先に部屋に踏み込んだヴァシュマルが拾い上げてよくよく見ると、うちひとつはどうやらこの神殿の屋根に据えられていた竜をかたどったものであろうと思われたし、また、砕かれた神像の中には、なにやら豹のようなけものをかたどったものもあったが、それは背中から触手を生やし、そして残骸から数えられる足の数はどう数えても6本あるように思われるのだった。

 神像の部屋は行き止まりであったので、反対側を探ることにした。
 いや、エルンスト一人は、なんともその部屋に未練が残るふうであったのだが。



このシーンの裏側。
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『あらし』その4

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 神殿の屋根の上に寝そべった石の竜の口から吐き出される滝の裏側はテラスになっており、その中央には大扉。どうやら神殿に出入りする通路はそこひとつである。が、扉の脇の壁面には大きな窪みが刳られており、そこには青光りする大きな生物がとぐろを巻いて唸っていたのだった。
 「ありゃあ……うん、なんてこった、ああなんてこった」
 エルンストは一人で悲鳴のような呻きを上げた。
 「何がどうしたっていうのよ、あれはなんなの?」
 「ありゃビーヒアだ。竜の仲間だがムカデ並みに手が多くて、無数の手でかきむしってくるわ、電撃は吐くわ、呪文で姿を隠したところで無駄だわと、まあ素敵なイキモノだな」
 「……けれど、あの生物は鎖で繋がれていますよ。扉までは手が届きますまい」
 「かきむしられなくったって、電撃を吐かれちゃお仕舞いだ。……が、子ども達はこの中にいるんだろうし、それに……」
 「それに?」

 問われたのには答えず、エルンストは不意に言った。
 「うん、次元の扉を開こう。何もあんな剣呑なイキモノと殴りあうことはない」
 というわけで、全員がエルンストの周りに集まり、その呪文がつむいだ次元の穴を一気に超えた。一瞬後、一同は壁の後ろにビーヒアの唸りを微かに聞きながら、四隅の松明で薄ぼんやりと照らされた大広間の中に立っていたのだった。

 正面扉の向かいにはやはり大扉があって、その両脇にも二つずつ扉があった。そして、左端の扉の前には、四本腕の大白猿が立ちふさがっていたのだった。はっと思う間もない、猿はキィと叫びを上げると、彼には狭すぎる扉を必死の勢いで潜り抜けた。エルンストが慌てて後を追う。敵襲だとでも叫ばれてはかなわぬ。が、その扉から続く階段をどたどたと駆け上がる後姿が一瞬見えたきり、もうどこにいったとも知れぬ。
 「追うな、危険だ」
 ヴァシュマルがエルンストに呼びかけた。
 「危険だ。それに、奴は見たところ単に巨大で腕が四本あるだけの猿だ。ここにいるのがいつぞやのように猿ばかりということでないかぎり、奴が山賊どもに敵襲を知らせることはできまい。飼いならされた番猿だというならともかくだが」

 それももっともであったので、まずは広間と、広間から続く5つの扉をそれぞれ調べることにした。猿が逃げていった扉については、戻ってきて殴りかかってこられてはたまらないので、念入りに楔を打ち込んで動かないようにしてしまった。

 五つの扉の向こうには、神殿の天井の一段高くなった部分を巡る回廊へと続く階段と、それから奥へと伸びる三本の廊下があった。建築学の心得があるものがざっと見る限りでは、これは神殿としてはここフラネスで知られているいかなる神にささげられるものとも異なった様式をとっており、そして大地に張り付くような広々とした平屋建ての建物なのだった。もし階層があるとしたら地下に伸びるものであろうとエルンストは言った。
 建築物の構造論議ばかりしていても始まらないので、先に進むこととした。まずは中央突破だとヴァシュマルが言うので、正面玄関の向かい、両開きの中央大扉の向こうに延びる一番広い廊下を進んだ。廊下のとっつきはまた扉になっていた。イェールミンが扉の向こうの物音に耳を澄ますと、ざあざあと降る雨の音が聞こえた。

 扉を開けると、果たしてそこは天井のない中庭になっていた。
 木が生い茂り、中庭の中央にすえられた水盤からはさらさらと清らかな水があふれていた。ヴァシュマルはその水を無造作に口に含み、毒ではないな、確かに水だとひとりごちた。
 エルンストは中庭の木がこの地に普通に生い茂るものであるといい、それからなぜか壁の下部をよくよく調べた。
 「うむ、この壁は土を掘って土台を置き、その上に建てられたものだ。昨日今日どこやらから飛んできた上置きではなさそうな」
 エルンストはエルンストで、ここは本当は見晴らしの良い大地のはずという村人の言葉を気にしていたらしい。この神殿は本当は幻ではないか、それとも現れたり消えたりするたぐいのものではないか、とでも思ったのか。
 「うん、間違いない。この神殿はこの地に建てられて、ざっと300年と言ったところ」
 「何300年」
 エルンストの背後からヴァシュマルが声を上げた。
 「それは奇遇。俺の譲り受けた秘伝書も、ちょうど300年ほど前に記されたものなのだ」


 このシーンの裏側。
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『あらし』その3

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 「おお、ヴァシュマルではないか」
 見上げたエルンストも答えた。
 「知り人ですか?」
 性急な調子でベルナデッタが問うた。
 「そうだ、俺の古い知り人だ。鋼の肉体を持つ修行僧でな。で、なんでお前がここに」
 「お前こそこのような雨の中をなぜ。まさか肉体を鍛えることの有用性に突如として目覚めたわけではあるまいに」

 懐かしげなやり取りに、ベルナデッタが割って入った。
 「無粋を申しあげるのも心苦しいのですが、もしエルンストさまの知り人と仰るのならば、私に手助けをしてはくださいませんか。
 嵐を突いて現れた山賊に村の子ども達が攫われて、私どもは今その後を追っているのです」
 おお、それは容易ならぬこと、と、すぐにヴァシュマルは言った。そういうことであれば同道いたそう。

 というわけで、ヴァシュマルがここに来たわけは、エルンストと並んで壁をよじ登りながら語られることとなった。

 なんでもヴァシュマルは修行の目的でこの山にやってきたというのだった。
 彼は泉の乙女ゲシュタイの司祭にして修行僧である。そして修行僧の常として、各地の老師のもとを経巡って修行にいそしんでいるのであった。
 徒手空拳の戦いの技は所詮わが身ひとつを守るだけのもの、馬に乗り槍を掻い込んだ騎士を前にしてはいかにも弱々しい。が、長い腕を持つ木偶を相手どってその胴に必殺の拳を叩き込むこと日に七百度、その業を七日七夜続けたときに始めて体得するという身のこなし、これさえあれば……
 そのように、とある老師は言ったのだった。

 我が身は既に老い、七日七夜の業には耐えられぬ。が、ぬしならそれを成し遂げ得よう。
 そういって老師が下された一巻を紐解くと、そこにあったのは木人拳の秘伝ではなく、山の地図であった。これはいかなることと問うと、それはすなわちこの地図に示された場所に行き修行をせよ、この地に生きて辿り着けないようでは木人を相手取ったとて奥義は身につくまいとの心であろうと老師は答えたのであった。

 そこでヴァシュマルは身支度を整え、旅立った。
 しばらくゆくと、もとからその老師のもとで修行をしていたものたちが、われらとて触れることも許されなかった秘伝書をなんで新参のお前がと襲い掛かってきたのでこれを返り討ちにしてのけ、先を急いだ。が、追手がどれほど秘伝書に執心するものかは思いの及ぶところではない。厄介な旅になったのに違いなかった。ともあれ彼は生きてこの山に辿り着いた。そして嵐の中、エルンスト一行にたまたまめぐり合ったというわけだった。

……というわけで、今回のメンバー全員そろい踏み。

ヴァシュマル(クレリック4/モンク6)人間・男性
泉の乙女ゲシュタイの司祭にして修行僧。第1回からずっと引き継いでいる唯一のキャラクター。30代前半。PL:T_N

エルンスト(ウィザード10)人間・男性
前回からの引継ぎ。鼻の柱が高いのは変わらない。どうやら前回の事件(『ひとを織り成すもの』)以来深く前向きに反省し、人間隙があってはならないと上級使い魔のアースエレメンタルを連れ歩き、そして性格のほうは一層アレなほうに磨きがかかる。慇懃無礼にはならなかったあたりは人徳か限界か。おそらく20代前半。PL:D16

イェールミン(ローグ10)エルフ・女性
前回のローグ/バーバリアンのエルディが「めでたしめでたし」な感じで話の幕を引いたので、今回は作り直して参戦。森住まいだけれど貨幣経済に慣れ親しんでおり、街でなんやかやと頼まれごとをしては生活費を稼いでいるとのこと。今回は大層性格がアレな雇い主を引き当ててしまい、前半かなり「かわいそうな状況のヒト」でした(ちなみに雇い主氏は「かわいそうなヒト」)。128歳、エルフとしてはまだまだ若い娘さん。PL:なおなみ

ベルナデッタ(クレリック10)人間・女性
ある日神の声を聞いて癒しの力を得た村娘。村にちいさな聖女がいるらしいという噂を聞きつけた教会から迎えが来て、教会で正規の教育を受けるうちに高位の司祭となったが、自分の信仰の源はあの村の上の泉にあると言い張って帰ってきてしまった「村の聖女様」、という設定。19歳。PL:たきのはら

……というわけで……

 話しながら行くうち、じきに一行は壁を登りきった。
 そして、壁の上に立ったところで、呆然として言葉を失った。

 村人が言っていたような、どこまでも続く広い高台などはなく、そこは崖の中腹にうがたれた窪みであった。そして、その窪みいっぱいに、堂々たる神殿がそびえていたのだった。神殿の屋根には奇妙な形の竜の像が寝そべっていた。雨を集めてできたと思われていた小川は、その竜の口から溢れ出す水が形作っていたのだった。
 そして、馬のひづめのあとは確かにその神殿へと続いていた。

 「これはいったい……」
 「だが、目の前にあるのはこの神殿だ」
 ベルナデッタの言葉をエルンストが遮った。
 「うん、俺の知る限りではこれまでに知られているいかなる神殿の様式とも似ていない。それにしても随分辛気臭い建物だな。窓のひとつもない。そして入り口には……ありゃなんだ!!」


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『あらし』その2

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 イェールミンとエルンストが釈明――あるいは本人がそう主張するところのもの――をするのを聞くと、『聖女様』は静かに頷いて口を開いた。
 「手荒いお出迎えとなってしまい、さぞかし驚かれたことでしょう。大変申し訳なくは思いますが、これには訳があるのです。
 実は先ほど、この村を山賊が通り過ぎていったのです。そのもの達は村の家々に押し入り、食糧やなけなしの金品を奪い、さらには子ども達を攫っていったのです。そのため、私たちは外からやってくるものに大変に警戒しておりました」
 「それでは致し方ないが……」
 言いかけるエルンストを推し留め、娘はこう言ったのだった。

 「山賊たちはこの嵐でできた即席の流れを遡り、山の上のほうへ逃げ去っていったということでした。先ほど馬の足跡を確かめ、もし子ども達を取り返せるなら取り返そう、そうでなくともそのものたちの野営地の場所だけでも確かめよう、そのように思って出かけるところでした。
 けれど、私が見たところ、あなた方は村人達よりもこのような出来事には慣れておいでのご様子。どのような御用でこの山にいらしたかは存じませぬが、どうかお力を貸してはいただけないでしょうか。とりあえずは山賊たちの行方さえ確かめられればよいのです。危険と思えばすぐに引き返します。私たちが彼らの手にかかってしまっては子ども達を助けることはできませんから」
 「では、その後には宿をお願いできるだろうか」
 「どうぞ。私はこの村の上の泉のほとりに庵を結んでおります。そちらへお留まりください」

 というわけで一行三人となり、エルンストとイェールミンは雨宿りどころか、止む気配も見せぬ雨の中、滑りやすい山道をまた進み始めることとなったのだった。

 「馬は七頭だよ」
 山賊が逃げ登って行ったという小川のほとりにやってきて、乱れた足跡をひととおり調べると、イェールミンはこともなげに言った。
 「歩いている人間はいないね。七騎でやってきて、七騎で帰っている。でも、二人乗りしていた馬があるね。ずいぶんひずめが沈み込んでいるよ」
 「四騎は子どもを連れていたためでしょう。あとの三騎は……山賊たちが二人ずつ乗っていたのか、それとも奪った荷のために重かったのか」

 娘――名をベルナデッタといい、村人達が呼んでいる名からすると、どうやら「泉の聖女」として崇められているようだった――は頷いてそう答えた。聖女様の口から問いが発せられたとあってはいかなる恐慌状態においても心を鎮めて答えるべしとまで思われているのかどうか、ともあれ、自分も山賊どもを見たわけではない、村人の知らせを聞いて駆けつけたのだというベルナデッタは多くのことを知っていた。

 曰く。
 山賊どもは見たこともない意匠の真っ赤な鎧を身につけ、馬に乗ってやってきた。秋の嵐のこととて戸を締め切り、一家が暖炉の周りに集まっているところに戸を打ちたたき、不審に思った家のものが戸を開けたところで一気に押し入り、食べ物や飲み物を奪い、なけなしの金品を奪い、そして十歳から十二歳ほどの男の子ばかりを攫っていったのだという。この村にはちょうどその年頃の男の子は四人おり、それがすっかり攫われたのだと。また、山賊どもは大層腹を減らしているようで、右の手で荷物をかき集めながら左の手では忙しく口に食物を押し込んでいたという。手向かいしたものはいくたりかあったがことごとく突き飛ばされ、力自慢のハンスだけはよほど酷く手向かったためか、ばっさりと斬られてしまった。
 村を襲った山賊の数は――おそらく七人。
 慌てふためく村人達に正確な数が数えられよう訳もなく、しかしそれぞれの話を継ぎ合わせたところ、三人よりは多く十人よりは少なかったようだから、それにイェールミンが数えた七騎というのを考え合わせれば、おそらくその数は七名であろう。

 「村人達の言うことによると」
 川が滝のように流れ落ちる急な岩壁の前に来かかったときに、ベルナデッタは二人に告げた。
 「この壁の上は開けた平地になっているようです。そこまで追っていけば、時と場合によっては山賊たちに見つかってしまうやも知れません。どうします。三名で七人の山賊を相手にできますか」
 「行って見なければわかるまいよ」
 どういう風の吹き回しか、エルンストがそう答えた。それで一行はさらに先を急ぐことにした。
 しばらく壁を登っていくうちに、不意に頭上に人の気配がした。

 すわ、山賊の待ち伏せかと誰もが身をこわばらせたとき、頭上から声が降ってきた。奇妙に懐かしそうな声であった。
 「おお、エルンスト」


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2006年10月23日

『あらし』その1(プロローグ)

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 山道を、一組の男女が歩いていた。
 「エルンストさん、嵐になるよ」
 娘のほうが言った。見るに、一組の男女というわけではなく、山の娘がいかにも学者風の街の男を案内しているものらしかった。さらによく見ると、娘は人間ではなく、妖精族――エルフの娘であった。
 「雨宿りの場所を探してもいいけれど、酷い大嵐になるよ。この先に村があるから、ちょっとぬれるのを覚悟で、大急ぎでその村を目指したほうが賢いかもしれない」
 娘は早口でいい、男を見やった。男はうなずき、二人は足を速めた。

 男の名はエルンスト。グレイホークシティに一応の居を定める魔術師である。が、魔術師にしては活発なことに、彼は塔に閉じこもらず、珍しいものとあれば実地に調査することを旨としているものだった。

 そう、今彼がここにいるのも調査のためだった。
 旧友の塔に呼びつけられて行ってみれば、なんでも最近彼が出した本――『三千神のおわす土地――あるいはムルの地理と歴史について』が、とある頑迷固陋な腐れ学者から公開所見にて酷評され、数度のやり取りの挙句先方に一方的に勝利宣言を出されてしまったのだという。
 ちなみにムルの地はグレイホークシティで手に入る一般的な地図の外のはるか西に位置し、頭脳労働者であるところの魔術師が実際に行くような場所ではないとのこと。友人もその論敵も、ムルとの貿易で財を成したザイフの商人からの聞き書きをもとに論陣を張っている以上、ここでひとつ実地調査の結果が手に入りさえすれば勝利は再び自分の手元に落ち着くのであると書物の山に埋もれすぎたせいで歳よりも随分と老けて見える友人は熱弁したのであった。

 ではお前は俺に、ムルまで行けというのかというと、友人、首を振って、そうでない、実は平和を好むムルの民が西方からの遊牧民に押し出され、このフラネスの地までやってきて、山深くに僧院を作り、そこでひっそりと住んでいるという話がある。であるからお前にはその僧院を訪ねてほしいのだと答えた。
 勿論タダとは言わぬ、僧院までの地図と僧院の見取り図を書いてくれたら2000gp支払おう。さらに、三千柱の神のうち、ひと柱の神の姿と名と権能の裏づけを得るごとに500gpを支払おう。
 この申し出に、エルンスト、俄然乗り気になった。ムルの地まで行けというのなら知らず、このフラネスにそのような異人の住みなす地があるというなら、これは頼まれなくとも行ってみたい。さらに三千の神すべてについて詳細を調べ上げたならば(そういってエルンストは人の悪い笑みを浮かべたのだった)お前、お前の資産を塔ごとすっかり俺にくれてしまわねばならぬぞ。

 さらに、自分の調べたことをもとに論文を発表するときは二番目に自分の名を記して共著というかたちにすることまで約束させた上、エルンストは勢い込んでこの地に乗り込んできたのだった。

 で、現地案内人として紹介されたのがイェールミン。森に住む娘だが、鍵開けだの罠はずしだの、なにやら胡散臭げな技を得意としているという。これがどうしてなかなか厄介ごとを解決するのには役に立っていて、時々頼まれて街に出てきては便利屋のような仕事をしているのだといった。

 「それは願ってもない」
 エルンストは大真面目な顔でそういった。
 「何しろ俺が行くのは古い神殿だ、間違いなく罠が満載だろうから君の技は大いに役に立つ。その上穏やかに迎え入れて帰してくれればよいが、そうでなければ我々は無理にも神殿に押し入って調査をし、帰ってこなければならないのだからな」
 イェールミンは随分呆れたのだが、普段世話になっているパン屋のおじさんが大層困った顔をしていたし、そういえば山の中にそんな僧院があるような話を聴いたことがあるとうっかり呟いてしまったかかりあいもあって、しかたなくこの妙に鼻息の荒い学者先生の道案内を引き受けたのだった。

 で、山に入って二日目、空模様が急に怪しくなり、そうこうするうちにしのつく雨が降り出した。
 年に一度あるかないかという大嵐になる。そう判断したイェールミンは濡れ鼠になりながらも山の中腹の村を目指した。
 ようやく村が見え、やれ助かったと思った瞬間、胸元に槍の穂先がつきつけられた。
 村の入り口では体格のいい村人が二人、武器を持ってこちらをにらみつけている。
 「また来やがったな、山賊め!!」
 「お前ここで頑張っていろ、俺は聖女様をお呼びしてくる!!」
 どうやら恐ろしく間の悪いときに来合わせたらしい。山賊とは失礼なといいかけるエルンストを必死で押さえ(この魔法使いの学者先生が口を利いたらまずろくなことにならないのは、この1日でイェールミンは骨身にこたえて理解していた)、イェールミンは叫んだ。
 「待ってください、あたしはこの下の村のものですよ!! この学者先生が山の中に調べ物にいらっしゃるっていうから案内してきて嵐にあって、雨宿りさせてもらえやしないかと思ってきただけですよぅ!!」
 
 その声に、走り出しかけていた男が振り返った。
 雨の中、武装しているとはいえ形ばかりの二人連れ。確かに言うことはもっともだ。
 「……うん、ちょっと待っていろ。そうかもしれないが、とりあえず聖女様をお呼びしてくる」

 胸元から穂先は外れたものの、雨宿りはさせてくれる様子もない。そのまま立ち尽くしていると、数名の村人を引き連れて、一人の娘がやってくるのが見えた。
 はっとするほど様子のいい、確かに神々しくも見える娘である。
 ――きっとこれが聖女様に違いない。
 そうイェールミンは思い、果たしてそれは正しかった。




 


 
 このシーンの裏側。
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2006年10月17日

『祝福された冒険者と死霊の山の話』その4:二人の司祭

ネタバレ注意!!
本レポートは月刊ゲームぎゃざ 2005年5月号収録の「銀輪山の覇者」をプレイしたものです。
ので、今後上記のシナリオを遊ぶ可能性のある方はお読みにならないで下さい。










 その頃、アルベルティーネとイーリアはヒルガ大聖堂に戻り、聖堂司祭の二番手にしてハイローニアス司祭のイライジャ・フェルミ師の前に立っていた。
 このモンゴーレの話ですが、教会の上司にはお話したほうがよいのではないですかとイーリアが問い、アルベルティーネもそれには同意したのだった。とはいえ、聖カスバートの司祭を束ねるカートマン司祭は聖堂きっての「武闘派」であり、このような話の相談相手としてはふさわしくなさそうに思えた。
 「では、イライジャ司祭はどうでしょう。聖堂付の修行者を束ねている方でもありますから、私から面会を求めても問題はないはずですし」
 「そうですね、それにイライジャ師はラーザ大司教様のすぐ下で補佐をされている方でもありますから」
 
というわけで、イーリアはイライジャ師に面会を求めて許され、二人は司祭の部屋の前までやってきたのだった。
ところが、不思議なことに、とりあえず相談があってまかり越した旨の口上を述べると、イーリアはすぐに
「詳しくは、アルベルティーネ司祭より申し上げます」
と告げて引き下がってしまったのだった。一方、イライジャ師もそれが当然のように頷いてアルベルティーネのほうを向くと、後はイーリアにはもう見向きもしない。なんとなく落ち着かない空気を感じつつ、アルベルティーネは言葉をつむいだ。
――かつて解決した『橋の下からゾンビが湧き出した事件』や『西街連続誘拐事件および東街殺人事件』につながるとある筋から、これらの事件の黒幕はヴォル=チャックなる、おそらくは死霊術師で、そして死にぞこないの大群を引き連れ、オークの部族と手を結んでトーチ・ポートを今にも攻め落とさんとしていることが知れた……
「……やはり、そういうことか」
アルベルティーネの話を聞き終わると、意外にも、イライジャ師は深く頷いた。
「実は、つい2日前、アバ・オーズの東の縁を抜ける街道を通行中の隊商が、オークの大群に襲われたのだ。生き残りの護衛の話を聞いてみれば、なんでも奴らは隊商を全滅させたあと、お決まりの積荷や馬を奪うだけでなく、倒れた死体をも運び去っていったという。薄気味の悪い話とは思っていたが、今の話で平仄が合った」
そして、これは捨て置けぬということで、ジェン=メッツァー騎士長を先頭に、ヒルガ大聖堂の聖堂騎士団が街道を守りつつオークどもを殲滅すべく街を出ているとも告げた。
「聖堂騎士団はすっかり出払ってしまっている。残っているのは見習い騎士だけだ。今度のオークどもの強さはただ事ではなかった。おそらくはそのヴォル=チャックなる男が後ろでなにやら糸を引いているものだろうと思うがな。ともあれ、そこへまだ半人前の騎士見習いを出してやるわけにも行かぬ。それはただの自殺行為になってしまうからな」
「……理解しております」
「しかも、騎士たちはまだヴォル=チャックの存在を知らぬ。いずれは戦場で知るのやもしれぬが、今は彼らの目に敵として映っているのはオークどもだけだろう」
だから、アルベルティーネ、お前がそのビルナスの研究所に赴き、ヴォル=チャックを滅ぼしてきてはくれぬだろうか。
イライジャ師はそう言うと、微かに苦笑のようなものを浮かべて唇を曲げた。
「無茶は承知で申しておる。だが……お前には心強い仲間達もいるようだし、それに」
そう言ってイライジャ師がなにやら合図をすると、部屋の奥の扉が開き、二人のペイロア司祭が入ってきた。
――ああ、そういえばこの二人は、イライジャ師のご子息・ご息女なのだったわ。

入ってきたのは、エンリコ・フェルミとノキ・フェルミ。アルベルティーネは彼らとは信仰を異にするため、親しく言葉を交わしたことはないが、神殿内で顔は見知っている。ハイローニアス司祭を父としながら、何故か兄妹してペイロア信仰に身をささげているという。が、こうやってここにいるということは、それは父イライジャ師も承知の上の行為だったのだろう。
そして、もうひとつ、アルベルティーネが思い出したのは、彼らがここ一週間か十日の間に次々と難事件を解決しているということだった。まず、ボカブを信仰するとある書生が邪神タリズダンの一派に攫われていたのを救出したのを皮切りに、東街の高級住宅の立ち並ぶスワン通りでの凄惨な連続殺人事件の犯人を挙げ、そしてつい2−3日前にはトーチ・ポートの北方の『蚊沼(ナット・マーシュ)』で邪悪な力が活性化し始めたというので調査に赴き、その元凶であったと考えられるアンデッド・ドラゴンに真の死を与えたという。

 「この二人を援護につけよう。エンリコとノキ、ペイロア神の司祭だ。きっと助けになろう。また、見事事件を解決した暁には、神殿から金貨2000枚の報奨金も与える。……大変な仕事であるとは理解しているが、頼むぞ」
 そこまで言うと、イライジャ師は新たに入ってきた二人のほうに向き直った。
 「エンリコ、ノキ、というわけで、こちらは聖カスバートの司祭アルベルティーネ。彼女を助けて働いてほしい」
 「おお、これは初めまして」
 エンリコがものやわらかな笑みを浮かべた。
 「ところで……お名前はなんと?」
 「アルベルティーネと申します。このたびはご協力いただけるとのこと、感謝いたします」
 「いえいえ、感謝には及びません。それで……どういう話だったかな、ノキ?」
 「アバ・オーズの荒野に残るビルナスの研究所の廃墟に赴き、そこに住まう死霊術師を倒してこなければならないとのこと」
 「おお、そうだったね。アバ・オーズですね。では、参りましょう」
 「……?」
 アルベルティーネは自分の目と耳を疑った。目の前のエンリコ司祭は既に足元に置かれている荷物を手にし、今にも荒野に駆け出していってしまいそうな様子なのだった。
 「あ、いいえ、その、まずは同行者にもご紹介しないとなりませんし……」
 「おお、そうでしたか。で、その方々の名前はなんとおっしゃいましたか、たしか……ノキ、なんというお名前だったね?」
 「……ええと。まだ申し上げておりませんが……」
 「おお、そうでしたか。で……」
 「ええいエンリコ、しばらく黙れ。まったく不肖の息子が……」
 思わずアルベルティーネが後ずさりかけたところで、イライジャ師は呆れたように声を挙げた。たちまちエンリコがきっとした顔になる。
 「何を仰います父上、心外です。私が一度でも父上の期待を裏切ったことがありましたか。少なくとも私の記憶にはありません」
 「……それは、そうだろう」
 イライジャ師は呟き「何しろ何も覚えちゃいないのだから」とぼそぼそと口の中で付け足した。
 「ああその、アルベルティーネ。少なくともまぁ、いないよりは役に立とう。いやエンリコ、口答えはよい。行け」
 
 イライジャ師が席を立ちかけたところで、アルベルティーネは不意に師がエンリコとノキにイーリアを紹介するそぶりすら見せていないことに気がついた。
 「イライジャ様、お心遣い感謝いたします、ところで……」
 話の行き掛かり上紹介のきっかけを失ったのだろうと、アルベルティーネがイーリアのほうを指し示そうとすると、イーリアは微かに首を振ってそれを押し留めた――退出してからにいたしましょう。
 「師は、まだ私のような未熟者は数に数えていらっしゃらないのです」
 退出してから、少し悲しげな調子でイーリアはそう言った。
 「仕方ないことです、けれど。私が未熟なのは事実ですから」
 「ああそれは親父が悪いのです、まったくもって差別主義者で。許してやってください。ところでお名前は……ノキ、こちらはなんというお名前だっただろう?」
 おっとりとした調子でしゃべり出したエンリコを、苦笑交じりでイーリアはさえぎった。
 「いえ、お気遣いなく。ところで私はイーリアと申します。まだ名乗っておりませんでしたので……」
 「おお、そうでしたか、で……」

 さすがにいたたまれなくなったアルベルティーネは、それ以上エンリコにしゃべらせずに、『勇敢な船乗り』亭への道をたどり始めたのだった。




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2006年10月05日

『祝福された冒険者と死霊の山の話』その3:ビルナスの遺産

ネタバレ注意!!
本レポートは月刊ゲームぎゃざ 2005年5月号収録の「銀輪山の覇者」をプレイしたものです。
ので、今後上記のシナリオを遊ぶ可能性のある方はお読みにならないで下さい。






 「確かに……トーチ・ポートにもしものことがあれば大変だ。ヴォル=チャックを捨て置くわけにはいかんな」
 ジムが言った。
 「それに、弟さんのことも」
 イーリアが言葉を続ける。
 「頼まれてくれるか。……君達は?」
 そう言ってモンゴーレはまだ答えていない面々の顔を見る。
 「別に、助けに行くのはかまわないけど」
 レクサスが無邪気な調子で言う。
 「どうやって弟さんに、僕らが君に言われて助けに来たんだって知らせるのさ?」
 「それは……これを」
 そう言ってモンゴーレは、首からロケットを外した。
 「これが俺のだということはあいつも知っている。俺が進んで君らに渡したとわかるように書付を入れておくから」
 そうしてモンゴーレは、ロケットを、レクサスではなくなぜかアルベルティーネに渡した。その目はもう一度何か意味ありげな色を帯びていたのだが……それに気付かなかったか、気付かぬ振りをしたのか、聖カスバートの娘司祭はただ静かにそれを受け取っただけだった。
 「……頼りにしていいんだな」
 ややあって、苦笑いのわずかに残った声で、重ねてモンゴーレは言った。
 「……まぁ、トーチ・ポートの危機となれば、知った以上はただぼうっとしているわけにもいかないがな。西の荒地からゾンビとスケルトンとオークの大群……本当ならおおごとだ」
 ジムが答える。そう、弟のことは気の毒だし助けてやるのもやぶさかではないが、まずはトーチ・ポートだ。
 「西、って言ったら、前につかまえた『盗賊のおじさん』も西から来たんだったね」
 唐突にマークスが言った。
 「あの、アイウーズ帝国と緋色団の間でにらみ合ってるとか言う……」
 レクサスが言いかけ、そして一同、ぞっとして顔を見合わせた。
 「ちょっと待て、そのヴォル=チャックはアイウーズだとか緋色団だとかのどっちかとかかわりがあるのか!?」
 もしそうなればただごとではないどころの話ではない。
 噛み付きそうに叫んだフレアに、モンゴーレは軽く首を振って見せた。話題が弟のことを外れたからか、モンゴーレの端正な顔にはまたあまり人のよくない笑みが戻ってきている。
 「いや、奴は……何やら死そのものの力をどうこうするとかいう教団の一員だったか何かだ。もちろんアイウーズや緋色団だって死とは親しくないわけじゃないだろうから、そのどちらとかかわりがあってもおかしくはないわけだが、少なくとも奴がアイウーズの魔物や緋色団の修行者どもと親しく語っているのを見た覚えはない。
 それと……奴が居着いているビルナスの研究所だが、これはもともとドワーフの手になる建物だ。この研究所を建てたビルナスってのは貴族の三男坊か何かで、責任はなく暇と金だけあって、魔道の研究に好きなだけ力を注げたらしい。で、そういう連中にお決まりの行く末って奴で人嫌いの偏屈に成り果て、それでも偏屈同士で何故かドワーフとは気が合ったようで、ドワーフの一族の助けを得て、あのアバ・オーズに立派な研究所を建てたのだとか……
 俺は入り口までしか入ったことがないから、詳しいことは教えてやれないが、あの建物の1階部分は持ち主の気質を移したような、たちの悪い冗談に満ちた根性曲がりの酷い罠が満載でろくでもなく危険らしい。2階の入り口には罠はないが、護衛がいる。……俺が知っていること、調べきれたことはここまでだ」
 「……調べられた、か。調べてくれる人間がいるんだな」
 フレアが微かに苦笑いを浮かべて言った。
 「禁固の身とはいえ、ずいぶん便利に暮らしてるじゃないか」
 「馬鹿言え、不自由の身でなければ弟を助けに行っているところだ……が、まあ、そうだな。役人の扱い方は心得ていないでもないからな」
 「で、このこぎれいな室内も、か」
 「まあそういったところだ。もとからの設えでは辛気臭くて一週間も居られそうもなかったからな」
 「役人の扱いを心得ているのなら」
 急にイーリアが口を挟んだ。
 「貴方が今私たちに告げたことをそのまま役人に告げて、情報と引き換えに許しを乞えばよいではないですか。仮にも町の一大事……」
 「一大事だから、駄目なんだよ」
 モンゴーレの唇が微かに歪んだ。
 「小さなことなら役人は動く。便宜も図ってくれる。が、本当におおごとに対しては、奴ら、頭が固すぎてぴくりとも動きゃしねえ。……まあいい、俺は刑も決まっていることだ、ここであんた達からのよい知らせを待っている。代わりに何もしてやれないのが心苦しいが……俺がここを出られたら、何でもあんた達の力になることを約束してやるよ」
 「じゃあ、今すぐ調べてほしいことがあるんだ」
 これまた唐突にレクサスが言った。モンゴーレもほかの一行も怪訝な顔をしているのをまったく意に介さずに言葉を継ぐ。
 「サンダスターがね、居なくなっちゃってるんだ。ほら、あの派手な吟遊詩人。どこにいるか知らない?」
 モンゴーレはさすがに苦笑した。
 「なんだ、知らないのか。奴は期日までにミシェールを差し出せなかったっていうんで、娼館――ビッグサンダーマウンテンの追っ手を差し向けられて逃げ出したって話だぜ。なんでも北の公爵領にうまいこと逃げ延びたらしいが」
 「あれ、そうなんだ。ならいいや。僕のところにもいかにも娼館の門衛ってふうの柄の悪い兄さんが来て、サンダスターの行方を聞いていったよ。知りたいのはこちらだって言ったら帰っちゃったけど」

 モンゴーレとの面会を終えた翌朝、一行は早速行動を開始した。街に死人とオークの大群が本当に攻め寄せてくるのであればまったくもってただ事ではない。
それに、レクサスに関して言えば、彼は死人やオークよりもビルナスの研究所のほうが大いに気になるらしかった。早速図書館に駆け込み、手当たり次第に本を引っ張り出しては関係のありそうなところを読み漁る。数時間本漬けになっただけのことはあり、意気揚々と図書館から出てきたレクサスは、ビルナスの研究所と、それからヴォル=チャックが属しているであろう組織のことまで調べ上げてきていた。

 曰く。

 ビルナスの研究所を立てたのはヴィルグレット・ビルナス。変成術を極めようとした魔道の輩であったという。誰にも邪魔されずに魔道を極めることを望んだビルナスは、アバ・オーズの丘陵地帯に魔力が集中していることを見出し、ドワーフの一族の力を借りてそこに研究所を作り上げた。そこで彼は望みどおり自分の道を究め、ついには自分の身を「変成」させてどこかへ立ち去ったという。
 廃墟として残されたビルナスの研究所はトーチ・ポートから約三日の距離。ビルナスの研究の成果であるところの物品もまだまだ残っているはずだという。
 一方、ヴォル=チャックであるが、これは「ダンス・オヴ・デス」なる死霊術師の一団に加わっているものであろうと考えられた。これは、死霊術の魔道教団であるところの「レルム・オヴ・デス」から過激な死霊術原理主義者たちが分離独立したもので、死こそが総てを超越する力であると信じ、その力を我が物とするためにはいかなるものの命であろうとも奪うのに一瞬もためらわないという大層やっかいな存在であるという。彼らの教義はともかく、死を恐れかつ畏れる世間一般にしてみれば、「ダンス・オヴ・デス」とはつまり、死の力を悪用する恐ろしく邪悪な組織ということになるのだった。

 まったく酷い話だよ。
 そういうレクサスの瞳の奥には――酷く危険なことに――確かに好奇心の色が輝いていたのだが、それにはっきりと気付いたものはいなかったのは、幸であったか不幸であったか。


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posted by たきのはら at 14:59| Comment(6) | TrackBack(0) | 不揃いな冒険者たち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『祝福された冒険者と死霊の山の話』その2:暗殺者の願い

ネタバレ注意!!
本レポートは月刊ゲームぎゃざ 2005年5月号収録の「銀輪山の覇者」をプレイしたものです。
ので、今後上記のシナリオを遊ぶ可能性のある方はお読みにならないで下さい。





 『勇敢な船乗り亭』は、客が押しかけ始める少し前、奇跡的に暇な時間。
二人が店の扉を開けると、その顔をちらりと見たバークが「お前に客だぞ、お嬢さんたちだ」とカウンターの奥に叫んだ。すると、レクサスがさもかいがいしげにグラスを磨きながら出てくる。
「ああ、ちょっと待って、いま忙しいから」
「なぁにが『忙しい』だよ、このエルフの小僧っ子め、いらんときだけ出てきやがって、本当に忙しいときは屋根裏に篭りっきりで出てきやしねえ。いいかげんにしねえと『虹の贈り物』に叩っ込んじまうぞ」
傍でバークがぶつくさ言うが、もちろんレクサスは気に止める風もない。ちなみに『虹の贈り物』は、最近西町の繁華街にできた――一応高級バーなのだが、余りおだやかならぬ評判が早速まとわりつき始めているしろものである。
「……何かあったのか?」
店の隅から声がして、どうやらそこで一休みしていたらしいフレアが立ち上がる。
「話は、アルベルティーネから聞いてください。ジムは?」
答えるように店の裏から長剣で薪割りをするジムの気合声が聞こえてくる。

 というわけで、『オークの木陰亭』で大きなオオカミにまたがって遊んでいた(本人の言に拠れば騎乗戦闘の稽古をしていた)マークスも呼んできて、最近さっぱり姿をみかけなくなったサンダスター以外の顔が揃った。アルベルティーネは本日十数回目の溜息をつくと、話を始めようとし、口ごもり、もうひとつ溜息をつき、そうして心底うんざりしたような顔色のまま、例の手紙をいきなりテーブルの上に広げた。
 「こんなものが届いていたのです」

 手紙に曰く。

 「聡明なる冒険者諸君へ
 私はヴォル=チャックについて幾つか知っていることがあり、それはまだ誰にも話していない。ヤツは町の近くに拠点を構えており、今もトーチ・ポートに攻め入るすきを伺っている。
 そうだ、諸君、これは町の危機なのだ。危機となれば君達“勇者様ご一行”の出番ではないかね?
 蛇足ながら勇者には富と名誉がつきものだということを付け加えておく。
 もうひとつ―――――非常に個人的な問題ではあるが、―――――私の頼みごともある。
 私の格子入りの仮住まいを尋ね、面会してくれないか?
 血沸き肉踊る冒険が三度の食事より大好きな君達にとっては朗報だと思うのだが。
 君の決断を待つ。

 心の友 モンゴーレ」

 「……『心の友』、なのか?」
 フレアが呟いてアルベルティーネのほうを向きかけ、氷のような表情にぶつかって慌てて視線をそらした。
 「マークス、きっと貴方宛でしょう。モンゴーレとは一番理解しあっていたようだから」
 「モンゴーレって、誰だ?」
 アルベルティーネから差し出された――というよりは突き出された手紙を受け取りもせずに、真顔でマークスが言う。
 「例の墓守だ、覚えてないのか?」
 「墓守? 誰だそれ」
 「あなたが正体を見破った人です、マークス。先月の誘拐事件の犯人で、女性に化けたり墓守に化けたりしていた人で、あなたが『お前が犯人だ!!』と指差した人」
 「……ああ」
 マークス、わかったような判らないような顔をしている。
 「とにかく、だ」
 ジムが言った。
 「ヴォル=チャックといえばここ数ヶ月のゾンビがらみの事件で何だかだと名前だけ聞いていた奴だろう。少なくとも放っておいていい話じゃないんじゃないかな。ここであれこれ言っていても仕方ない。面会に来いと言っているのだから行かなければ何もわからないだろう」
 「……出向いて、大丈夫なのでしょうか。この手紙、随分と奇妙な届き方をしていたという話なのですけれど……」
 「だったらイーリアが気をつけておけばいいじゃないか。早く行ったほうがいいよ」
 レクサスはというと、さっさとエプロンを外して出かける支度をしている。もちろんバークが凄い目つきで睨みつけているのだが、一向に気にしたふうもないのは――おそらく本当に気にもとめていないのだろう。

 モンゴーレの牢は東街市庁舎の敷地内にあった。
 連続誘拐に殺人と、本来なら重罪のところだが、弟を人質に取られていたということもあり、情状酌量の余地ありとして、しばらくの禁固ということに刑は確定したとのことだった。
 一行がモンゴーレへの面会を求めると、なんなく許され、牢まで通された。で、当のモンゴーレは牢内ですっかりくつろいでいた。
 詰め物をした寝台に、白い清潔な敷布。その上にゆったりと寝そべった細身の男の手の中には、香り高い紅茶のカップ。
 「……やあ、冒険者諸君」
 格子の前に立った一行の顔を認めると、そう言ってモンゴーレはにっと笑った。
 「手紙は読んでいただけたかな」
 「拝見はしましたが」
 すぐさまイーリアが答える。
 「いったいどのようにして牢の中の貴方のもとから、いきなりアルベルティーネの私室の机にあの手紙が出現したのですか」
 「ああ、それはまぁ、言うだけ野暮という奴だ」
 答えながらモンゴーレの視線はちらちらとアルベルティーネのほうに向いているのだが、どうやら秋波を送られた当の本人はまったく気付く気配もなく。一方でイーリアが何か言い出しそうなのをフレアがさえぎり、
 「まぁ、だったら野暮は言うまい。で、ヴォル=チャックについて知っているということは何だ。それから、頼みごとは」
 「……弟を助けてほしい」
 頼みごと、の語を聞いた瞬間、モンゴーレの顔から笑いがすっと消えた。
 「事が成ろうとしている。ヴォル=チャックは用済みになった弟を消すかもしれない。その前に弟を助けてほしい。以前、俺を官憲に引き渡す前に、あんた達は弟を助けてくれると言ったが、あの時は、俺は断った。……が、今更になるが、もう一度頼ませてくれ。弟を助けてほしい」
 「……なぜ、今更。それに……」
 「待ってくれ。今きちんと説明する。
 ヴォル=チャックはゾンビやスケルトンの大軍団を作り、それでもってトーチ・ポートを陥とそうとしている。奴の計画は完成に近づいている。
 この街の西側に広がる荒地を知っているだろう。その東側――トーチ・ポートに程近い部分がアバ=オーズの丘陵地帯だ。そこに奴は巣食っている。オークの大部族、大斧族と手を結んで、トーチ・ポートを狙っている。奴の住居は丘陵地帯の中ほどにあるビルナスの研究所、昔の錬金術師の住処が廃墟化した場所だ。そこで奴は古代の物品の解析をしながら事を構えようとしていた。弟は――生まれながらにして魔法を使う能力を持っていたから、奴の助手を務めさせられていた。あいつほどの腕があれば、俺が捕らえられた程度ではヴォル=チャックに消されることはないだろう、いかにヴォル=チャックといえども、使える助手を殺して新しい助手を探すのは面倒だろうから――そう思ったから、あの時俺は君らの申し出を断った。が、事が成ろうとしているのであれば……弟は、用済みだ」
 「だから……助けてほしいと」
 「そうだ」
 微塵の冗談もない顔で、モンゴーレは頷いた。



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posted by たきのはら at 12:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 不揃いな冒険者たち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年10月02日

『祝福された冒険者と死霊の山の話』その1:発端或いは不幸の始まり

ネタバレ注意!!
本レポートは月刊ゲームぎゃざ 2005年5月号収録の「銀輪山の覇者」をプレイしたものです。
ので、今後上記のシナリオを遊ぶ可能性のある方はお読みにならないで下さい。




 春、四月。
 海の町の春の盛り、潮風に色とりどりの花と一層にぎやかになった人々の声が揺れる季節。

 が、聖カスバートの神官の日々に変化はない。暗いうちに起き、祈りを捧げ、日々の鍛錬をこなし、また祈りを捧げる繰り返しのうちに信仰を積み上げる日々。
 今にも折れそうな華奢な身体で、決して楽ではないはずの鍛錬を黙々とこなし、アルベルティーネはその日も部屋に戻ってきた。いつもの夕べの祈りを唱えるために跪こうとし……ふと、彼女の目は机の上に置かれた白い――封筒。そう、それは一通の手紙だった――の上に落ちた。

 私室に、手紙?
 家族から? それとも?

 首をかしげながら手紙を開き、目を通し、それからアルベルティーネは小さく首を振り、言葉もないまま深い深いため息をついた。
 軽く唇を曲げると手紙を困ったように眺め、一瞬くずかごに目をやり、それからもうひとつ首を振ると手紙をそっと机の上に戻し、跪き、いつもの倍の時間をかけて夕べの祈りを唱えた。
 それからもう一度手紙を手にとって開いた。

 祈りの力は、すくなくともこの件に関しては彼女に平安をもたらしはしなかったようである。アルベルティーネはほとんど天を仰ぐようにしてため息をつくと、急ぎ足で部屋を出、ヒルガ大聖堂の敷地のはずれのほうにある、修行僧たちの房に向かった。

 「イーリア、少し、お話が」
 なんでしょう、と問うようにイーリアはアルベルティーネの顔を見た。
 「困ったことになりました。……皆に相談しなければならないのでしょうね」
 もって回った言い方は、彼女が面倒ごとを喜んでいない、そして『仲間たち』との行動よりは穏やかとは言いがたいけれども無茶なことの起こりはしない信仰の日々を望んでいることの証拠だろう。
 イーリアは小さく頷いた。
 「この時間なら、『勇敢な船乗り』亭にみんな揃っているでしょう。
 ……ところで、何があったのですか? 差し支えなければ……」
 アルベルティーネは困ったような顔をして少し考えるふうだったが、さきほどの手紙を取り出すと端を開いてイーリアに差し出した。

 『心の友 モンゴーレ』

 一行だけ見えた――署名だろうか――それは、そのように記されていた。イーリアはなんともいえない顔で手紙とアルベルティーネを等分に見ると、それでも肩をすくめるような失礼な真似はせず、ただ尋ねた。
 「それは、いつ、どのように受け取られたのですか? アルベルティーネ」
 「わかりません。部屋に戻ったら、机の上に届いていました」
 かすかにイーリアの顔が厳しくなった。
 「わかりました、アルベルティーネ。すぐに『勇敢な船乗り』亭に参りましょう」
 手紙がいつの間にかヒルガ大聖堂の聖職者の私室に届いていたということに何か容易ならぬものを感じたものか、『勇敢な船乗り』亭につくまでの間、イーリアはアルベルティーネの身辺に何か怪しいものが寄って来はしないかと、ずっと気を張り続けていたのだった。


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『祝福された冒険者と死霊の山の話』前口上

 てなわけで。
 最近「前口上」ばっかり並んでて、そろそろ自分の怠慢具合が自分で恐ろしくなってきてるんですが、「まったりキャンペーンA第5回」にして「不揃いな冒険者たち」第4回、遊んできました。

 いや、こっちにはきちんとレポートアップしてないんで、いきなり時間がスキップした感じになっちゃいますけど、ダイジェスト版は既にあるので、第2回・第3回もおいおいアップしてゆきます。

 というわけでここ数ヶ月でめきめきと力を現してきたアルベルティーネ一行(苦笑<なんでここで笑うのかはいずれわかるかと)、前回関わった相手から恐るべき情報を得て、トーチ・ポートの危機に立ち向かうことに。あまりにもその脅威が大きいというので、今回はヒルガ聖堂からペイロア司祭兄妹の助っ人も来てくれて、向かった先に展開されるのは……

 その一方で、今回は「まったりキャンペーンA」としては第一部終了ということになりまして、反省会で全員、これまでのプレイを通して見えたことを述べ合う、なんて場面もありました。で、まぁ、いろんなプレイスタイルを混在させた卓って、自分のプレイを振り返ってみるにはいい環境かも、と改めて思わされたり。
 ……ええ、自分のできてなさ加減にいろいろと思い当たる節が。
 でも凹んだって意味ないので、わかったことを糧に、もっと面白いセッションを目指しますよ☆

 あと、今まではずっとコア3冊でやってきたのですが、今回から次回までの間に、大全系も導入して組み換えOKということになりました。とりあえず10Lvまでは遊ぶらしいので……そのあたりも考えてどうするか考えていきたいなと。……うん、まだまだ先にいける。楽しみは尽きないわ♪
posted by たきのはら at 01:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 不揃いな冒険者たち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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