2006年03月31日

『幽霊学園』その3:月曜日・朝

ネタバレ注意!!
以下は「FN1 Haunted School」という未訳シナリオを遊んだものであり、多分にネタバレを含みます。今後先述のシナリオを遊ぶ可能性のある方はお読みにならないことをお勧めいたします。



 授業の初日だというのに、あまり眠れていない頭を抱えてクラスに出るのはあまり気分のいいものではなかった。カフェテリアで3杯めのコーヒー――明らかに度が過ぎてる――を飲みながら、わたしはあたりを見回した。
 昨日の悲鳴事件の主人公はまだ来ていないわね。クリスは一応来てる。リッチーは昨夜クリスを締め出したというのに何食わぬ顔で朝食中。ときどきパンをちぎってそのあたりにそっと除けて置いているのは、胸ポケットか袖の陰か、とにかくそのへんに隠してる「兄さん」のためのはず。<委員長>は……<委員長>は来てないわね。どうしたのかしら。
 「クリス、<委員長>はいったい……」
 言いかけたとき、ようやく<委員長>がカフェテリアに入ってきた。なんだか慌てたような表情。何かあったわね。
 「おかしい、マシューがいないんだ」
 開口一番。
 「マシューって……隣のクラス・クラウン?」
 「そう。今朝のうちに一緒に新校長に会いに行くはずだったんだが、いつまでたっても来ない。ゼウス寮まで声をかけに行ったら部屋にいる様子はない。隣室の奴を捕まえて聞いたら、朝早く呼び出しがかかって一人で校長室に行ったみたいだという」
 そこで<委員長>、ひとつ息を継ぎ、
 「で、職員に問い合わせたら、今朝がた転校していったとのたまうんだ」
 「転校!?」
 同じテーブルにいた三人――クリス、リッチー、わたしは同時に声をあげた。
 「そう、転校。校風が合わないといって今朝早く荷物をまとめて出て行った、らしい」
 そうしてもうひとつ、息継ぎ。そして
 「そんなはずがあるか馬鹿馬鹿しい、だいたい昨日『新校長には期待している』といった人間がいきなり校風が合わなくなって転校だと? そもそもあいつはアテナ校が気に入ってた。マッキンタイア女史のやり方は学生を自由にさせすぎだと文句を言っていてさえここが気に入ってた。それが期待の新校長に会いに行った瞬間に転校。むちゃくちゃだ」
 吐き出すように言って椅子に身体を落とした。
 「……むちゃくちゃだ。まったく筋が通らないよ」
 「何が無茶ですって?」
 これまたとんでもなく不機嫌な声。ジェニファー登場。顔を見ると今朝はいつになく化粧が濃い。で、努力のあともむなしく化粧の乗りは最悪。ってか、アイライン濃くしたって目がはれぼったいのはごまかせないと思うんだけど。
 「おかしいんだ。マシュー・ヒギンズがいなくなった」
 「マシュー? ふん、あんな奴関係ないわ。だいたいあいつ、ゲイだし」
 ……は? 初耳だけど。
 「ゲイじゃないわけないでしょ。あたしに興味がないなんて」
 ああ、そうきましたか。
 「違う、ゲイなのはマシューじゃなくて<委員長>じゃないかな」
 それまでインコにパンちぎってやるのに忙しかったリッチーが大変に冷静な調子で割り込んでくる。
 「昨日はクリスをわざわざ部屋に泊めてたし」
 「……おいこらリッチー、君がクリスを締め出したんじゃないか、だから僕は……」
 それきりマシューの話題は沙汰止みになってしまった。教室へと移動しながらわたしはわたしでジェニファーに、大丈夫、ゆうべあのあとちゃんと眠れたの、化粧ののりがよくないみたいだけどと声をかけてみた。
 「冗談じゃないわ、あたしの化粧はね……」
 しまった、これから教師が来るまで化粧品とその効果的な使用法についての結構なお経を聞かされるわけだわと思った瞬間、教室のドアが開いた。

 入ってきたのは国語のドレイク先生ではなく新校長。その後ろに……知らない顔だわ。がっちりした体格の女の人。
 「諸君、残念なお知らせと喜ばしいお知らせがある」
 新校長はおもむろに言った。
 「ケヴィン・ドレイク先生だが……ご家庭の事情で、今朝早く、アテナ校を一時的に離れられた。ご家族にご不幸があったとのことだった。こちらに知らせがあったのは昨夜で、急なことで、諸君らに挨拶ができないことをドレイク先生は大変嘆いていらした」
 きびきびとした口調で告げる新校長。相変わらず病人みたいに青白い。引き結んだ薄い唇。絶対「子供たちは厳しく厳しく育てるべきだ」と思ってる人間だわ、あれ。で、校長先生、一歩下がって後ろにいた女の人を前に押し出す。
 「新学期早々の休講となっては諸君ら……というよりは諸君らのご両親に申し訳がない(といって、校長先生はかすかに笑った。きっとものすごく気の利いた冗談のつもりだったんだろう)。そこで急遽代わりの先生をお呼びした。早速今日から授業を担当していただくことになる。オリンピア・スミス先生だ」
 「ふぅん、ご大層だこと。ギリシャで鍛冶屋でもやってたのかしら」
 わたしのすぐ後ろに座ったジェニファーがいらいらと呟く。
 まぁ、確かに「オリンピア」って雰囲気じゃなかった。がっちりして見えたのは洋服の着こなしでごまかしてるのが半分。授業が始まって10分もすれば残りの半分がごまかしきれなくなる。ええとその、どういうことかっていうと……つまり。講義が一段落してグループ・ディスカッションのパートに入ったとき、同じ班になったメルディス・オパール(可愛いけど、あんまり賢い子じゃない。でも気持ちの素直ないい子よね、というのがアンジェリカが彼女を評して言った台詞。まぁ、あたってると思うな)が「ねえねえ、スミス先生ってどう思う?」と聞いてきたときに、ジェニファーが言った台詞どおり。
 「P. B. F!!」
 「え、何よ?」
 「Pale, but Fat。白豚って言ったのよ。あんただってそう思ったでしょ」
 おおお、女王様ったらご機嫌の悪いこと。でも間違いじゃないわよね。
 実際スミス先生はものすごく色白だった。抜けるように、っていうんじゃない。まぁ、色白の人が太ってるということはつまり、「抜けるような色白」感は消滅して、なんだか水っぽくべったりしてくる、てのはこの世の真理のひとつとして明確なんだけど、スミス先生はそれとも違って……病的なのだ。そうだ、新校長と同じなんだわ。

 それに気づいて、わたしはなんとなく背筋に寒気を感じた。
 何か、嫌なことがおこってるんじゃないかしら。
 「嫌な予感」に、メルディスのおしゃべりが拍車をかけた。メルディスは昨日の夕食時、ドレイク先生に会ったらしい。そしてそのとき、先生は急用とも家庭のご不幸とも何もおっしゃっていなかったというのだ。
 ……おかしい、絶対何か嫌なことが起こってる。

 嫌なこと、といえば昨夜の白い女が誰だったかもまだ思い出せない。確かに見覚えがあったんだから「見たことがある」顔に違いない。それにあれはたぶん「学校関係で見覚えがある」顔だった。カフェテリアや教室に誰かの肖像画がかけてあったりしないかしらと思って今朝から注意して見ていたのだけどそれらしきものはなかったし。ああこういうのってどうにも気持ち悪い。

 その反面、私はスミス先生に対して(とても見苦しく太っていて病的に色が白いことを除いては)特に悪い感情を持ってはいなかった。先生の教え方は……これはリッチーも同意してくれたけれど、とても古風で典雅だった。父さんの学生時代のノートがちょうどこんな感じだわ、と思うぐらい。シェイクスピアはやっぱりこんなふうに教えてほしいわ。そんなに年取った先生でもないのに、おばあちゃま先生につかないとやってもらえないような素敵な授業をなさろうと、どこから思いついたのかしら。
 それに関しては、授業が終わって早速話をしに行った。きっと喜ばれると思ったから。ところが先生は困ったように首をかしげて、
 「それは古いとか新しいとかそういうことではなく、教え方の流派の違いかもしれませんね」
 とおっしゃったのだった。
 ……わたしの言い方が「古いやり方」を責めているように取られたのかしら。心外だわ。




このシーンの裏側。
posted by たきのはら at 08:03| Comment(3) | TrackBack(0) | d20ホラー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月23日

『幽霊学園』その2:窓の影

ネタバレ注意!!
以下は「FN1 Haunted School」という未訳シナリオを遊んだものであり、多分にネタバレを含みます。今後先述のシナリオを遊ぶ可能性のある方はお読みにならないことをお勧めいたします。



 階段を駆け上がっている間も悲鳴は続いていた。よくあんなに声が出せるわねと一瞬思った。さすがチアリーダーだわ。それから心配になった。普通に鬼火が出ただけならいいけれど、何か危険な意志を持った邪悪な霊魂だったら……
 悲鳴がぱたりと止んだ。最悪のことが頭の中をよぎった。
 「ジェニファー、ジェニファー!!」
 ドアをガンガン叩いて声の限りに呼ぶ。と、ドアが内側から開いた。
 「あ、ああああ、まど、まど……あ、アレックス……」

 「何どうしたの、アレックスが窓から来たの? 5階の窓ぐらいだったら貴女のために忍び込むぐらい、やるでしょあの男なら」
 足にしがみついてきたのを助け起こしながら言った。怪我したり血を吐いたり首を絞められたりした様子もないし、見たところ無事ね、だったら大丈夫だわ。とりあえず落ち着いてもらわなきゃ。
 「アレックスちがう……来ない、アレックス窓に石を投げるだけ……ちがうちがう、白い女が……」
 やれやれ。
 また叫びだしたりしないようにしっかり身体を抱えておいて背中をさすってやりながら、指差している窓のほうを見る。

 ……ああ、これか。
 一瞬ぎょっとしたけれど、深呼吸して、耐えた。息を呑んだのがジェニファーにばれなきゃいいけど。

 窓に、いかにも幽霊然とした女の姿が映っていた。乱れた髪、悲しそうなうつろな瞳。そして、全ての色が抜け果てた、真っ白な影。見ているうちに影は薄れ、もうふた呼吸もした頃には拭ったように見えなくなっていた。そして……なんだかこの世のものじゃないみたいな寒さが部屋から薄れていく。ああ、寒かったんだわ。ここ。気が付いてから、今更みたいに背筋が冷えた。
 とにかく、この場をなんとかしないと。ジェニファーはわたしの肩にしがみついたまま、白い女が、とか、アレックスが、とかうわごとみたいに言い続けている。
 「ジェニファー、もう居ないわよ、もう何にもいないわ、安心して」
 まだ細かく震えているジェニファーの目を覗き込んで言う。ええっと、どうやって落ち着かせたらいいかしら……何を見間違えたの、やっぱりアレックスだったわよとか言うのかしら。まさかね。

 答えはわたしの後ろからやってきた。
 悲鳴を聞きつけてやってきたのだろう<委員長>が、開け放した扉の向こうから不機嫌な顔でこちらを睨んでいた。その後ろには……あら、どうしてクリスが? まぁいいわ。
 「しっかりしてよジェニファー。<委員長>がびっくりして様子見に来てるわよ。だいたいそのベビードールみたいな寝巻、どうかと思うわ。一応殿方が……」
 「<委員長>? 別に彼なら関係ないからどうでもいいわよ」
 弱々しい、でも確かに正気が戻ったらしき答が返ってきた。
 「そう、だったらよかったわ。 ……大丈夫? 今晩はわたし、ここで一緒に居ようか?」
 「冗談じゃないわ、結構よ」
 覿面。
 ジェニファーはきっとこちらを睨んで寄越した。ジェニファーときたら、やたらめったらプライドが高いのだ。最上階の個室にいるのだって、「誰かと空間を分け合うなんてとんでもないから」とか「あたしのアタマの上に人が居るなんて耐えられない」とかだって噂も聞いたことあるし。
 ともあれ。
 「この部屋はあたしの部屋よ。 ……出てって」
 「大丈夫そうね、OK。それじゃ、おやすみなさい」
 それだけ言うと、<委員長>と、おどおどと部屋の中を覗き込んでいたクリスをせきたてて廊下に出る。
 「大したことじゃないわ。とりあえずジェニファーはどう理解してるかわからないけれど、大丈夫なことは大丈夫。説明は後でするわ。……廊下で立ち話も見つかったときが厄介だわね。<委員長>、そちらの部屋で話させてもらってもいい?」
 <委員長>も個室住まいだ。親御さんがお金持ちのお医者で、山ほどの寄付金と引き換えに一人部屋を得た、って、専らの噂。

 そして。
 説明はまったくもって説明にはならなかった。
 <委員長>ときたら、霊魂の存在を毛ほども信じていない。クリスが窓においていた植物も急に枯れたといっているし、わたしだって鬼火や「白い女」を見たと言っているのに、まったく信じようとしないのだ。
 「だったらいいわ。わたしは説明しただけよ。おやすみなさい」
 同室のリッチーに部屋を追い出されて<委員長>の部屋に泊まるらしいクリスを置いて、わたしは部屋に戻った。

 ベッドにもぐりこみ、さっきのことを思い出し……そしてわたしは突然気付いた。
 あの「白い女」。
 わたしは彼女の顔を知っていた。あれは確かに見たことのある顔だ。それもとても身近に……
 けれど、それが誰の顔だったのか、どうしても思い出せなかった。頭をかかえても何をしてもどうしても思い出せない。落ち着かなく寝返りをうちながら……それでもいつの間にか眠りに落ちていたらしい。
 その夜の夢は鬼火と白い女が交互に現れた。
 が、彼女――白い女――が誰だったのかはとうとう思い出せなかった。


このシーンの裏側。
posted by たきのはら at 20:01| Comment(2) | TrackBack(0) | d20ホラー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月21日

『災厄と騎士』前口上

 中一日おいて連続セッション。
 ……48時間ペースが守れていたところで、時系列どおりにレポートアップはちょっときついかも(苦笑
 ということで今日も前口上のみ。

 あ、いやその、前口上だけでも書いておくと、絶対に忘れないし続きも書くので、とりあえず遊んだら必ず前口上だけは書こう、と決めている次第。あとは順次書いていく予定です。

 で、麦畑の英雄キャンペーンですが……実はこれ、4回目のセッション。私が中2回ぶん、お休みしてしまったのです(涙

 ので、今回は、ちょっと変則的に、2回分のダイジェスト+途中でセッションの準備の目的で書かれた小話のまとめ+セッションレポ、を、物語形式で書いていこうかしらん、とか思っています。

 ……でも、たぶん仕上がるの来月になってしまいそうな。すみませんー……(汗
posted by たきのはら at 23:14| Comment(2) | TrackBack(0) | 麦畑の英雄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月20日

シリーズ第8回『剣の王・滅びの王』前口上

 とりあえず前口上だけでも。
 書きかけがひとつ、そしてさらにまた明日遊ぶから、今回は完全に順番がガタガタになるのは解ってるんですけど……
 アレだなぁ、遊ぶ機会が増えたのはいいけど、「遊ぶたびにレポート」は続けたいしレポートの質も何とか維持したいので……やっぱり48時間以内にレポートアップ、って重要かも。
 うん、忙しいと解ってる時期に、気分転換的に予定を突っ込むのは無茶かも、というかセッションに申し訳ないかも、とか思ったです。

 まぁそれはそれとして。
 今回は随分戦闘メインのセッションでした。ゲーム内時間1日(つまり呪文回復ナシ)で戦闘が6回。
 まぁその、予告どおり、ノールの本拠地にカチコミかけたわけですが。
 で、ノールのパトロール隊x1を撃破・ノールのキャンプを抜く・抜いたと思ったらとりあえずイニシアチブだけ仕切りなおして回復する間もなくグールのご一行と殴りあう……ここでどうやら回復して歩き出したら、ガストx2と鉢合わせ(というかお食事中のところに踏み込んじゃいました)、それからボス戦。「ラスボス」じゃないのはその後ワイトと殴りあうはめになったからで。
 ……よく生きてたなぁ……
 戦いが終わったとき、ほぼフルチャージで持ち込んだキュアライトのワンドは残り十数チャージになってました。

 まぁ、それはそれとして、いろいろと因縁じみたことがわかったり、強大なアーティファクトの存在が明らかになったり、と物語的にいろいろ転換点があったのですが、個人的に一番ショックだったのは。

 ……さよならフェランフェール。
 ……判断ミスで相棒を死なせてしまいましたよ……

 ルール的には24時間で立ち直って次の相棒を決めてもいいらしいんですが、いくら自然に死は付き物ったって、自分のミスで死なせといてそれはないだろうという気も。
 
 ともあれそんな感じで。
 レポートの更新のほうは、とりあえず手が空いたときを縫い合わせていたしますー。
posted by たきのはら at 17:38| Comment(4) | TrackBack(0) | 渡る世間は竜ばかり〜細腕繁盛記〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月16日

『幽霊学園』その1−2:始業式の夜2

ネタバレ注意!!
以下は「FN1 Haunted School」という未訳シナリオを遊んだものであり、多分にネタバレを含みます。今後先述のシナリオを遊ぶ可能性のある方はお読みにならないことをお勧めいたします。


 始業ディナーから寮への帰り道。
 肩を叩かれて、<委員長>ことヘクター・アンダーソンが振り返ると、隣のクラスの優等生、マシュー・ヒギンズが立っていた。
 「<委員長>、さっきの新しい校長、どう思う?」
 「ああ、きちんとした人、という感じだったね。君はどう思った?」
 「やっぱり<委員長>の見立ても同じか……僕は彼に期待してるよ。この学園はこれまで少しばかり自由が過ぎた。落ち着いて勉強を出来る雰囲気じゃなかったからね。
 実は、明日の朝、校長室に呼ばれているんだ。そのあたりのことについて話し合うことになるんじゃないかな」
 ああ、やれやれ、と、ヘクターはこっそりとため息をついた。こいつは一匹狼ふうだが心底優等生なんだっけ。
 「それはいいね、マシュー」
 それからかすかに笑みを浮かべて答える。
 「学園の今後については僕も大いに興味がある。よかったら、明日、新校長のオフィスに同行させてくれたまえ」

 確かに一人で来いとも言われなかったからな、行くときには声をかけるよと告げてゼウス寮のほうへ立ち去るマシューを見送ると、ヘクターは自室のあるフレイア寮へと向かった。この学園にある四つの寮はすべて5階建てで1階はホールになっており、2・3階が男子寮、4・5階が女子寮になっている。3階と4階をつなぐ階段は学生は通行禁止で、舎監にみつかれば処分の対象になる。……なんだってこんな面倒しいことをしているのだか。

 ヘクターがマシューと話し込んでいるころ、フレイア寮の3階の一室では、「占いができる」というので評判のクリスことクリストファー・クロスがベッドの上に膝を抱えて座り、新しいルームメイトとなんとか仲良くなろうと――部屋替えの度に繰り返し、そのたびに失敗してきた――必死の努力をしていた。
 「……君、絵を描くの?」
 今度のクリスのルームメイト、リッチー・パートリッジは、クリスに目をむけもせずスケッチブックの上に屈みこんでいる。クリスはため息をつきかけて飲み込んだ。
 彼は、あまり幸せな育ち方をしてはこなかった。家族の中で一人だけ、親に似ず整った顔立ちに生まれ付いてしまい、母親の浮気の子に違いないと父からも兄弟からも疎まれて育った。唯一の味方は母親で――彼女は八方手を尽くしてクリスをこの全寮制の学園に入れてくれたのだった。ここでは彼は自由なはずだったが――疎まれ殴られて育ったせいか、すっかりおどおどした性格になってしまったクリスは、ここでも乱暴な生徒たちのからかいの対象だった。とはいえ、クラスメートの半分、すなわち女生徒たちとはうまくやっていけた。クリスは占いができた。……というよりは、女生徒たちの顔色を読みながら、彼女たちが一番聞きたいだろう言葉を紅茶のカップの底に残った茶葉の形にことよせて話してやることができた、というのが真実なのだが。そしてそれは一方でクリスを一層不幸にした。女々しいクリス、女生徒の間にいるのがお似合いのクリス……。
 だから、リッチーにそっぽを向かれても、クリスはこっそりとため息をつくしかできなかった。

 「……ねぇ?」
 もう一度思い切ったように口を開いたクリスをにらんで、リッチーは明確なイギリス式の発音で言った。
 「うるさいよ、兄さんが驚くじゃないか。……大丈夫かい、兄さん?」
 そう言ってリッチーが呼びかけたのは、頭に赤い羽毛を生やした一羽のインコ。リッチーはこのインコをいつだって隠し持って連れ歩いていた。というのも、彼は幼いころに死に別れた兄ジョシュがこのインコに生まれ変わって自分と一緒にいる、と、固く信じていたのである。
 とんでもない変わり者リッチー。だが、リッチーの立場はクリスよりは随分とマシだった。「英国の名家」パートリッジ家における家庭教育がどういうものだったのか、それともよっぽど放任主義の家庭に育ったのか悩ましい問題ではあるのだが、とにかく、彼は文書偽造におそろしく長けていた。たとえば学期末の成績書がとんでもないことになった学生が、「家に持ち帰るための」成績書をリッチーに頼むことがある。……自分の秘密を知っているものを快く思うものなどいるわけがない一方、彼がいなければ最終的に困るのは自分。となれば、方法はひとつ、敬して遠ざけるのみである。
 というわけで、リッチーは「仕事」のあるとき以外は誰からも構われることなく、「兄さん」との学生生活を楽しんでいたというわけである。

 「何か勘違いしているようだから言っておくけれど、この部屋の君の領分はそのベッドの上だけだ。後は僕の部屋だからな」
 「待ってよ、それじゃベッドとドアの間の行き来も出来ないよ」
 「ふん、それぐらいは許してやってもいい。あとその窓のところのヘンな植物は除けろよ」
 クリスは泣きそうな顔になった。
 「そ、それぐらいいいじゃないか。中国の風水の考え方では、窓のところに植物を置くのはいいことなんだよ、だから……」
 うるさい、口答えは許さないぞとリッチーが言いかけたとき、急に窓ががたんと鳴った。窓辺に置いたクリスの小さな鉢植えが落ちる。インコの「兄さん」が怯えたように一声叫ぶと、リッチーの胸元から舞い上がった。天井の隅で狂ったようにバタバタと羽ばたく。違う、逃げようとしているのだ。何かから。
 「……枯れてる……」
 クリスがぽつりと言った。落ちて壊れた鉢の欠片の中で、ついさっきまで鮮やかな緑色だったちいさなテーブル椰子は、縮かんで、黒くしなびていた。
 「煩い、そんな鉢なんかなんだ、それより兄さんが、兄さんが……!!」
 インコを呼び戻そうと必死なリッチーを、ベッドの下からクリスはじっと見上げている。そして、
 「……君、死ぬよ」
 瞬間、息が詰まったような顔でクリスをにらみつけ、それからリッチーは冷ややかに言った。
 「出て行け。君が今いる場所は、僕の領分だと言っただろう。君の分はそのベッドだけだ」
 「待ってよ、それじゃ洋服掛けも置けないじゃないか」
 「そんなのは廊下に置けばいいだろう。置いて来いよ、今すぐ」
 クリスは無言で立ち上がると、洋服掛けを廊下に引きずり出した。クリスの身体が部屋の外に出たとたん、リッチーはドアをバタンと締め、鍵を掛けてしまった。
 
 邪魔者はもういない。急いで兄さんを助けて、それから……
 そう思ったとき、リッチーは急に骨に染み透るような寒気が部屋中に満ち満ちているのに気が付いた。寒気だけじゃない。「何か」が居る。何か邪悪なもの、邪悪な「意思」がここへやってくる。遠くから押し寄せてきて、徐々に濃密な霧のように……
 リッチーはベッドの上から伸び上がって、どうにか「兄さん」を捕まえ、懐に突っ込んだ。そしてそのまま頭から毛布をかぶる。冗談じゃない、冗談じゃない、冗談じゃない……
 そのとき、ものすごい悲鳴が女子階のほうから響いてきた。リッチーはいっそうきつく毛布を身体に巻きつけた。全くもって冗談ではなかった。

 一方、締め出されたクリスはというと、<委員長>の部屋に居た。
 「開けてよ、開けてよ!!」
 力の限りドアを叩いて叫んでも、リッチーが答える様子はない。クリスはじきに膝を抱えて廊下に座り込んでしまった。
 ――こんなのはもう、ずいぶん慣れっこだ
 そのとき廊下の隅の一人部屋のドアが開いて、<委員長>が出てきたのだった。
 「どうしたんだ。舎監に気付かれたら面倒なことになるじゃないか」
 ――この偽善者
 筋肉バカの学生にいいようにからかわれているとき、常に助けてくれるのはこの<委員長>だった。が、彼がどうも「筋肉バカどもの気が済んで、そしてこれ以上やると問題になりかねない」というタイミングを計って助け舟を出しているのではないかとクリスはうすうす気付いていた。もちろん、助けてもらっているのには少なくとも変わりはないのだが。
 「……締め出されたんだ」
 「そうか。……じゃあ、僕の部屋で泊まるといい。リッチーには明日、僕から話をする」
 「……あ、ありがとう」
 
 部屋に入ろうとしたとき、上の階から凄まじい悲鳴が響き渡った。女生徒の声だった。
 「……やれやれ」
 委員長はうんざりしたようにため息をついた。
 「今夜は面倒ごとが多いな、まったく。様子を見に行くとするか」
 そのまますたすたと階段のほうへ行きかける。待って置いていかないでと言いながらクリスも後を追った。「通行止め」の階段を使っていて舎監に見つかるのも怖いが、この廊下に一人で取り残されるのはもっといやだったから。



このシーンの裏側。
posted by たきのはら at 22:22| Comment(2) | TrackBack(0) | d20ホラー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月14日

『駆け出し冒険者と穴倉の話』目次

ネタバレ注意!!
今回のセッションは、ベーシックセットを遊んだもののようです。
ので、これから遊ぶ可能性のある方はお読みにならないで下さい。


てなわけで、「不揃いな冒険者たち」こと初心者まったりキャンペーン第2回(第1回はたきのはら不参加)『駆け出し冒険者と穴倉の話』のレポートです。
や、今回は仕事の追い込みとかち合って、またもや遅れました。
なんかだんだん鮮度が怪しくなってきてますが……(滝汗

ともあれレポート目次。

その1:強盗あるいは……
その2:大樫の木陰にて
その3:恐るべき子供達。
その4:7人の冒険者
その5:影の黒竜
その6:鼠と狼
その7:地底へ通ずる場所
その8:穴の底で
その9:黒竜の間

ご感想等いただけたら、ものすごく嬉しいです。

『駆け出し冒険者と穴倉の話』その9:黒竜の間

ネタバレ注意!!
以下はベーシックセットを遊んだもののようです。ので、これから遊ぶ可能性のある方はお読みにならないで下さい。



 足音を忍ばせながら、一行は準備を整えた。
 一番恐ろしいのは酸を吹きつけられることなので、二人の術者――アルベルティーネとレクサスは壁を回り込んだ位置に立つ。ランタンはサンダスターが替わりに部屋に持ち込み、適当な場所で床に置くことに取り決めた。
 「それじゃイーリア、頼むよ」
 レクサスが「鎧の呪」を紡ぎ、イーリアの腕に触れる。と、淡い光がイーリアの全身を覆った。「並みの鎧を着込むより、役に立つ」
 「私はここにいます。危ないと思ったらすぐにここまで来てください。……いいですね、私が助けに行くことは……」
 「アルは来ちゃだめだ。アルが死んだら誰も助からないから」
 口ごもるアルベルティーネの台詞をマークスが攫う。その手に握られるのは淡い光を帯びた六尺棒。
 「扉が開いたら……歌い始めるからね、僕」
 サンダスターが言って、にっと笑った。
 「マークス、ロボに無茶させるなよ。……開けてくれ、イーリア」

 扉の向こうには、首を翼の下に突っ込んで眠る黒竜。その後ろには何千枚という金貨の山。呼吸をおかず、ジムが走りこむ。剣がひらめく。イーリアも松明を片手に走りこみざま一撃を叩き込む。続いてフレア、マークス、ロボ。いつの間にかサンダスターの歌が部屋中に響いている。が、竜はよほど深く眠っているのか、目覚めない。今のうちに、と刃と矢と牙と拳が浴びせられる。それぞれ四、五回も得物を打ち込んで、もしやこれは眠ったままに倒せるかと思った瞬間、竜が目を見開いた。
 「こっちだ、こっちに来い!!」
 とっさにジムとイーリアが叫ぶ。竜はぐるりと首を巡らすと、ジムに酸の炎を浴びせかけた。が、油薬のために毛筋ほどの傷もジムには与えられない。
 もう一声唸ると、竜は上半身を振り上げ、振り下ろした。二本の爪がイーリアの全身をざっくりと裂く。
 「イーリア、イーリア、戻りなさい!!」
 アルベルティーネの悲鳴。イーリアの肩が一瞬、揺らぐ。が、その向こうからレクサスが走りこんで何か唱えたとたんに竜の足元が油びたしになり、そしてマークスの棒とロボの牙が竜の翼を折り肉を裂いた瞬間、退けた肩がぐいと入った。そのまま踏みとどまり、渾身の力で拳と蹴りを叩き込み続ける。無茶です、何をしているのイーリア、とアルベルティーネの声だけがむなしく響く。
 結局誰一人引き下がらぬまま、そして誰一人として犠牲者を出すこともなく、戦いは終わった。もう何度目かにジムの剣が振り下ろされたとき、黒竜は一声叫ぶと、どっと倒れて動かなくなったのだった。

 「イーリア、何をしているのです!! 修行というのは命を粗末にすることではなく……」
 アルベルティーネが叫ぶように言うのも道理、竜の攻撃をまともに受けたイーリアはどこが傷かわからないほどの血だるまになっており、もう一度どこかで転びでもしたらそのまま息絶えてしまいそうな状態だった。が、
 「粗末になどしていません。あの戦いは勝てる戦いでした、アルベルティーネ。貴女がわたしを呼んだときには、竜の命運は尽きていました。わたしが倒れる前に竜が倒れるだろう、そう思ったからわたしはあそこにいました」
 「だからと言って……」
 「現に、そうだったではありませんか」
 イーリアも一歩もひかない。
 ……では、今後も決して読み違えのないようになさい。そこまで言うのなら。アルベルティーネは冷ややかに告げると次にジムの怪我を調べようと向き直り――小さく悲鳴を上げた。

 視線の先ではマークスがサンダスターから借りた短剣で、倒れた竜を解体し、爪と牙、それに皮を剥ぎ取っているところだった。一心に作業をしながら、皮から外した肉は部屋の片隅にあった深い穴――おそらくは、部屋の扉は到底通らない大きさになっている竜がねぐらへの出入りに使っていたと思われた――に投げ込んでいく。
 「マークス、何を……」
 言いかけたアルベルティーネの声は、だが、かすれきって言葉にならない。
 「ああ、竜の皮はいい鎧になるんだよ。マークスはドルイドの誓いに縛られてるから、金属の鎧は着られないだろ、だから」
 サンダスターが言う。その向こうではレクサスが、肉、捨てちゃうの? もったいないよ、などと言っている。
 「ああでもね、こいつたぶん酷い臭いがするから食べられないよ。動物の肉には餌にしてるものの臭いと味がどうしてもつくから。
 だからね、一番美味しいのは桜の木につく毛虫なんだって」
 「ふぅん、食べられないのか、じゃあ、仕方ないよね」

 仕方ないよねではないでしょう、とそちらへ行きかけるアルベルティーネを引き止めたのは、今度は逆にイーリアだった。
 「アルベルティーネ、あれは、マークスのしていることは、正しいのです」
 「でも死体を」
 「いいえ、私達が生き延びるために、戦って倒した獲物です。命をひとつ、こちらにいただいたのです。ですから……いただいた命の器を無駄にしないことこそが正しいのです」
 アルベルティーネは静かにため息をつき、そうかもしれませんね、と呟いた。私は今までそのように考えたことはありませんでした。でも、あなたの言うことは筋は通っています。……私も、まだ考えねばならないことがあるということですね。

 ともあれ、そういう経緯で、ひとりの犠牲者も出すことなく、7人の冒険者は穴倉から生還したのだった。

 帰り道、鏡の部屋を通ると、当然のようにエプロンドレスの娘が出てきた。しかし、一行が洞窟の奥まで行ったこと、そしてベンザー様に会えなかったことを聞くと、悲しいため息をひとつついて、幻のように消えてしまったのだった。
 「あ、ちょっと待っ……」
 ジムが言いかけても、もう鏡の中にも姿は見えない。それどころか鏡は急速に曇り、一行の目の前で砕け、枠は朽ち果ててしまったのだった。

 なんだか可哀想なことをしたなぁ、もうちょっと話を聞いてくれたら新しいご主人様を紹介してやろうと思っていたのに、とは帰り道、野原を歩きながらのジムの言。なんでもトーチ・ポートの『勇敢な船乗り亭』の常客であるところの一流の冒険者のひとりが「メイドさん」を探しているのだとかいないのだとか……

 その件の冒険者について、サンダスターが長広舌を披露し始めないうちに、『オークの木陰亭』が見えてきた。
 どうやら、初めての冒険は無事にやりとげたということらしかった。


このシーンの裏側
posted by たきのはら at 17:38| Comment(2) | TrackBack(0) | 不揃いな冒険者たち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『駆け出し冒険者と穴倉の話』その8:穴の底で

ネタバレ注意!!
以下はベーシックセットを遊んでいるようです。これから遊ぶ可能性のある方はお読みにならないで下さい。


 ミーポを見送った後、隠し扉の奥を調べると、小さな空間に隠された壷がひとつ。どうやら前の住人が財産の隠し場所にしていたということなのか、壷の中には銀貨がぎっしり詰まっている。罠ではないか、なにか他に隠れているのではないかとおそるおそる調べたが、本当に銀貨の壷があるだけだった。無事帰ってこれたら持って行こう、ということでとりあえず隠し扉を元通り閉め、先へ進む。

 ミーポたちが隠れていた部屋も、やはり廊下を切ったもののようで細長く、そのとっつきには扉が一枚。
 ドラゴンに仰せつかってあそこで番をしていた、ということは、そろそろご本尊が近いということだろう、そう考えて一行は「酸を防ぐ油薬」を使うことにした。とはいえ、頭数は7人と一匹、薬瓶は4本。
 荒事慣れしたのが使うということだな、とジムがいい、まずジムとイーリア、それにマークスが瓶を受け取る。あと一本は身の軽いフレアが受け取り、それぞれに薬を塗った。
 「さて、ここから先は急ぐぞ。薬の効果が切れてしまえば誰も助からなくなる」

 静まり返った扉を開く。
 いわくありげな禍々しい石像の並んだ回廊。
 ジムとイーリアが一気に走りぬける、何事も起こらない。何かが起こる前に残りの全員もそこを走りぬけた。

 次に控える扉を開く。
 冷たく湿ったにおいのする大広間。
 壁の両側には石棺が並び、部屋の前方にはこれまたいかにも禍々しい祭壇。ふと見ると、祭壇の上には一本の短剣。ようやっと届いた淡い光でははっきりとは解らないが、どうやら相当意匠が凝らされているらしい。アルベルティーネが顔を顰めてそちらを見るが、
 「時間がない、生きていれば帰りに調べればいいことだ」
 ジムが言う。
 息を詰めて石棺の間を走り抜けようとしたとき、石棺の影と見えていたものが、ごそりと動いた。
 武器を構えたオークだった。

 戦いはそう長くかからなかった。オークの胴を真っ二つに薙いだジムの剣は、また勢いよく何も居ない空間を薙いだ。
 「竜とコボルトが一緒に暮らしてるならわかるけど……なんでオークがこんなところに。間違ってる」
 マークスがぶつくさ言ったが
 「ベンザー様とやらの悪夢が残ってるんだよ。きっと。ほら、もうジムが行っちゃうよ」
 レクサスにせかされ、納得していない顔で歩き始めた。

 石棺の部屋を抜けると、長い廊下。
 廊下のどこかで、ききなれない声が何やらざわざわと、知らぬ言葉で喋っているのが聴こえた。見回すと、それは一枚の扉の向こうから聞こえてくるらしかった。
 「竜が居る様子は?」
 ジムが訊ねる。
 「いや、人声だけだ。……あけてみるか?」
 フレアが答えると、無言で首を横に振り、先を急ぐ。

 そして。
 廊下の向こうに、黒い扉が一枚。
 「……寝息が」
 フレアが、低く言う。
 「先手が取れる」
 


 このシーンの裏側
posted by たきのはら at 16:29| Comment(2) | TrackBack(0) | 不揃いな冒険者たち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『駆け出し冒険者と穴倉の話』その7:地底へ通ずる場所

ネタバレ注意!!
以下はどうやらベーシックセットを遊んでいた物っぽいですので、これから遊ぶ可能性のある方はお読みにならないで下さい。


 さて。
 三日目がすぎてすっかり元気になったロボを連れ、一行のほとんどは3回目、イーリアは二度目の洞窟の前。
 鏡の部屋を通り過ぎ、エプロンドレスの娘(前回は説明しなかったけど、あれが「メイドさん」だからね、とサンダスターはイーリアに言った)にベンザー様にはまだ会えていないということを告げ、竜の居た部屋へ入る。
 部屋の中をもう一度よく調べると、ネズミ部屋へ続くのとは別の扉がみつかった。扉の向こうに音はなく、鍵も、罠もない。

 フレアが頷いてドアの前から離れると、ジムとイーリアが扉の前に立って構え、そしてイーリアの掌底が扉をそっと押しやる。
 つん、と、かび臭いにおいが鼻をついた。

 松明とランタンの明かりの中に浮かぶのは、奇妙にやわらかくうねった床と壁。眼を凝らすと、やがてその正体がびっしりと生えたキノコであるとわかる。
 「これは……」
 ジムがうめくように言った。
 「よくないね。入ると、死ぬよ。このキノコ、胞子を吹くから」
 さすがのマークスの声もいつもの調子とは言いがたい。
 「……戻って、別の部屋の扉を試すか」
 一度は開いた扉に手を伸ばし、部屋の空気を揺らさないようにそろそろと引き寄せる。扉が閉まると全員、いっせいにため息をついた。

 そそくさと竜の居た部屋を後にする。残るは、扉の前にトカゲ人間の死体を横たえた部屋だけだ。死んでから数日が経過したトカゲ人間の身体は抱えあげるのにはためらわれる状態であったので、しかたなく押しやるようにして扉の前から避けてやる。そうして、フレアが聞き耳を立て――ため息をついた。
 「何か、居る。からからに乾いた何かがぶつかる音がする。足音もする。……気付かれてるな。武器を構える音もする」

 今度も最初に扉を開けたのはイーリアだった。
 扉の向こうに待ち構えていたのは骸骨が二体。曲刀を構えて打ちかかってくる。
 「……迷える魂に、み、御許へ……」
 反射的にアルベルティーネは聖句を口にしたが、非死の存在までいるとは思っていなかったか、とっさに口がまわらない。レクサスやサンダスターの矢も乾いた骨の間を抜けてしまう。結局扉の前で混戦になり、ようやく二体の骸骨は粉々の骨片になった。
 骸骨が手にしていた武器は、換えの武器になるかもしれないから、とジムとマークスが拾い上げた。そうして歩き出しかけ……ふと、イーリアは足を止めた。
 指の骨が一本、転がっていた。
 骨にはまった小さな銀の指輪。手を伸ばしそうになって、小さく息を飲み、身体を起こして目をそらす。逸らした先には、フレアの視線。
 「……」
 フレアはつかつかと歩み寄り、その小さな骨を拾い上げた。薄い唇が、かすかに皮肉ともつかぬ笑みを浮かべる。そのままフレアはイーリアから視線を逸らし、無言で手にした骨をアルベルティーネに渡した。司祭の手の中で乾ききった骨はぽろりと砕け、指輪だけが残った。

 骸骨の居た部屋を調べると、他に巻物が一本置いてあった。ベンザー様の忘れ物かもしれないな、とレクサスが呟き、拾い上げた。中身を見たそうにしていたが、もう次の部屋へ続く扉の前で、フレアが耳をすませている。
 「まただ。また骨の歩く音がする」

 次の小さな部屋にいたのは、やはり動く骨だった。が、人間のものではない。マークスが無言で顔をしかめたところを見ると、もとはオオカミだったものか。ジムが踏み込もうとする前に、アルベルティーネが進み出た。凛とした声が聖句を告げ、魂の往くべき場所を示すと、全員の目の前で骨は音もなく崩れ落ちた。

 その、廊下を切ったような細長い小さな部屋には、両端にそれぞれ扉がひとつずつ。入ってきた扉の向かい側にも隠し扉があるとレクサスが言ったが、ひとまずそれは置いて左側の扉を調べる。
 「今度は……何も居なさそうだ」
 フレアの言葉にイーリアが扉を開けると、扉の奥からは急に、冷たい風がどっと吹き込んできた。明かりを差し入れると、これまでの石造りの壁とは違う、自然洞窟がただ延々と続いているのがうすぼんやりと見えた。
 誰もが急に背筋に寒気を感じた。ロボの毛が逆立っている。フレアが急いで扉を閉めた。

 では、次は隠し扉、と向き直った瞬間、急にもう一方の端の扉が開いた。出てきたのは武器を構えたコボルトが2匹。とっさにサンダスターが矢を射掛け、一方がばったりと倒れる。それを見てもう一方もさっさと武器を落として両手を挙げた。
 「うわあ、勘弁して勘弁して。ミーポ、ドラゴンに言われて入ってくる奴をやっつけようとしてただけ!!」
 そうして舌足らずの共通語できいきいと叫ぶ。
 「わかった、だがドラゴンは悪い奴だからそんな奴の言うこと聞くもんじゃない。替わりにこっちの聞くことを答えれば助けてやる」
 対してジムが言う。
 会話になっているのかいないのかいまひとつ解らないやり取りの結果、わかったのは、この洞窟は少なくとも二箇所でアンダーダーク――地底王国へ繋がっており、さっきうっかり開けてしまった扉はそのひとつだということ、黒竜は確かにこの洞窟の中にいるということ、だった。
 「全部答えた、ミーポ行っていい?」
 「今のことを告げ口せずに、真っ直ぐ外に出る、と約束すれば」
 「するする、ドラゴンのところなんか行かない!!」
 叫ぶと、ミーポと名乗ったコボルトは、すさまじいすばしっこさで地上へと続くはずの通路の向こうへ駆けていってしまった。
 

このシーンの裏側
posted by たきのはら at 15:49| Comment(2) | TrackBack(0) | 不揃いな冒険者たち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『駆け出し冒険者と穴倉の話』その6:鼠と狼

ネタバレ注意!!
以下はどうやらベーシックセットを遊んでいたもののようです。ので、これから遊ぶ予定のある方はお読みにならないで下さい。



 倒れたコボルトの後ろには、さらに奥へと続く扉があった。鍵はなく、フレアの耳にも扉の奥の気配は感じられない。
 「……扉は、先にわたしが開けます」
 隣に立つジムに言うと、イーリアはまた軽く扉を打った。かすかに軋みながら開いた隙間に、サンダスターの操る光球が流れ込む。

 明かりに照らされて見えたのは、酷い有様だった。
 ぼろぼろになった敷物の残骸がそこここでめくれ上がり、床の石も砕かれてそこらじゅうに転がっている。不用意に踏み込むとそこらじゅうで躓いてしまいそうな足場に加え、壁の一部も剥落して荒い土壁が見えている。明かりの届ききらない壁際には何かが積み上げられているようにも見える。

 「アルベルティーネ、レクサス、あんたらは危ないからちょっと待っててくれ。俺が先に様子を見てくる……ああ、でも戸口で明かりを掲げていてもらえると助かるかな」
 いいながら、フレアが部屋の中に踏み込む。
 ……何も起きない。
 「どうにも暗いな。誰か予備の松明を持ってたら、点して、イーリアに持たせてやってくれないか。……あんたなら片手がふさがっていても別に困らないだろう?」
 部屋の中を睨みながらジムが言う。
 「はい。片手と両足が自由ですから、何の差しさわりもありません」
 頷くイーリアに、誰かが火のついた松明を差し出す。視線は部屋の中に投げたままそれを受け取ったイーリアはかすかに体重を後足に移し、一呼吸おいて部屋に踏み込んだ。

 部屋の中ほどに、淡く光る4つの明かり。
 その後ろから燃える松明の明かり。
 そして戸口から投げかけられるランタンの明かり。

 「……天井に何か潜んでるってわけでもなさそうだ……」
 ジムが呟いたとき、マークスが鋭い叫びを上げた。同時にロボが部屋の奥へと飛び掛る。
 「大ネズミ!!」
 ごろごろと転がる剥がれた床石にまぎれて気付かなかったが、確かに部屋の四隅には大きな穴が開いており、そこからそれぞれ一匹ずつ……いや、その育ちすぎた猫ほどもあろうかという大きさからすると一頭と呼びたくなるようなネズミが這い出してきているのだった。
 「ロボ、行け!! あああ、気をつけろッたら!!」
 暗がりになった部屋の隅で、マークスが叫ぶ。後半が悲鳴になったのは、ロボかマークスか、どちらかが噛まれたのか。
 「イーリア、そこじゃない、殴るんならもっと奥でやってくれ!! あっちが真っ暗じゃないか!!」
 レクサスの叫び声、だが、明かりは動かない。目の前に顔を出した大ネズミにてこずっているらしい。ジムがドアを蹴りあけて飛び込んでいく。あっという間に大ネズミの一匹は真っ二つになって転がり、勢い余った剣が宙を薙ぐ。残りのネズミに向かってサンダスターとレクサスが矢を射込む。

 ようやくすべてのネズミが動かなくなると、一行は大急ぎで床の石を剥がしてネズミ穴に蓋をし、ほうほうのていでその部屋を逃げ出した。
 「……どうしようアル、ロボがネズミに噛まれた……」
 ぐったりと大儀そうに前足を折るロボを、半分引きずるようにして歩かせながらマークスがやってくる。
 「これは……」
 「汚わい病、だと思います」
 ぐったりしたロボの様子をざっと調べ、アルベルティーネとイーリアは互いに顔を見合わせた。
 「ロボの体力がネズミの病毒に勝てば……3日も休ませれば治るでしょうけれど」
 「とすると、今日はこの先に進むわけには行きませんね。戻りましょう」
 もしそうでなければ、とイーリアが言葉をつなぎそうになるのを押さえてアルベルティーネが宣言した。

 もちろん否やはなく、一行、ぞろぞろと引き返してまた「オークの木陰亭」に投宿する。誰一人として急ぐものはいないのだから、無理をするには及ばない。
 
 宿の主人、エリコフが薬の鑑定もできるということだったので、コボルトの持っていた油薬を調べてもらうと、なんでもこれを肌に塗っておけば酸から身を守ることができる薬だという。
 「……てことは、あの洞窟の奥、ホントに『居る』んじゃないのか」
 誰もが思っていたことを、ジムがぼそりと言った。何が、というのはさすがに口にしなかった。

 ところでネズミから汚わい病をうつされたロボだったが、結果的に言うとどうやらネズミの病毒には打ち勝った。マークスがロボにつききりでいたいというので、ロボが回復するまでの3日間、一行は「オークの木陰亭」でのんびり過ごした。トーチ・ポートに行って先だってかかりあいになった『魂の宝珠』のニセモノについて何か調べてみようかという話もなくはなかったのだが、やれボーンハートだ緋色兄弟団だと剣呑な話が絡んでいる以上、向こうから追ってこないが幸い、こちらから厄介ごとに首を突っ込むのは愚の骨頂ということに落ち着いた。

 それに、一行とてただに日を送っていたわけではない。
 宿の裏庭にいた、例の大きな狼がサンダスターの他愛ないおしゃべりをどうやら気に入ったようだったので、それをダシにレクサスが例の宝珠に関する情報を狼から聞き出そうとしていたのである。つまり、無邪気なサンダスターがいろいろなおしゃべりをしたがっており、自分はその通訳をしているという触れ込みで、狼の前にやってきたのだ。

 試みは最初、大変上手く行った。
 それによると、あの白い宝珠が「魂を吸い取って封印する魔法」のものであることは間違いがなく、そしてそこにかけられた魔法を解呪することで宝珠に閉じ込められた魂を身体に戻したということらしかった。そして、解呪できるくらいであるから、当然、例の男が託された宝珠は本物の遺物でなどあるはずがない……というのだった。
 「へぇ、解呪したんだぁ」
 サンダスターはあっさり納得したのだが、レクサスは当然引き下がらない。
 「解呪ってあなたがやったの? ……って、サンダスターは知りたがってるよ」
 さすがに二人の顔つきが明らかに違ったのは狼にもわかったらしい。
 「うそつきぼうや、彼はそんなこと聞いていないじゃないか。……もうお前とは口をきかないぞ」
 そういい残すと、狼は立ち上がり、真っ直ぐ山のほうへ駆けていってしまったのだった。
 で、結局、レクサスは「仲良しのすてきな狼を怒らせてしまった」といって、マークスにたいそう文句を言われるはめになったのだった。


このシーンの裏側。
posted by たきのはら at 11:37| Comment(2) | TrackBack(0) | 不揃いな冒険者たち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『駆け出し冒険者と穴倉の話』その5:影の黒竜

ネタバレ注意!!
以下はどうもベーシックセットを遊んでいるらしいですので、今後遊ぶ予定のある方はお読みにならないでください。



 明かりを点したランタンをアルベルティーネが持ち直すのを合図に、一行は洞窟の中に踏み込んだ。ほどなく、朽ち果てた調度の中に、どっしりとした鏡が、これだけは通り過ぎた年月を風格に変えてたたずんでいる部屋に出た。先頭を行くジムの影が鏡に映りこむと、鏡面が揺れ、中からいかにもお仕着せらしいエプロンドレスを身に着けた娘――サンダスターがさっき告げたとおり、確かに愛らしい娘だった――の姿が、滲み出すように現れた。
 「お待ちしておりましたの。ベンザー様は……ベンザー様にはお会いになれまして?」
 「すまんな、俺たちはこの先の扉から奥には進めなかったんで、ベンザー様にはまだお会いしていないんだ」
 ジムが生真面目に答えると、娘は
 「ではお会いになったら私が待っていることをご伝言くださいませ」と言って、今度は空間ににじむようにして掻き消えていった。どうみても尋常の存在ではない。
 「ベンザー様とやらが、この奥においでなのですか?」
 「……まさか。あの娘には可哀想だけれど……ベンザー様ってのはおそらく彼女の主人なんだろうけど、たぶんこの世にはもういないんだ。あの娘、百何十年以上も前の鏡の亡霊なんじゃないかな。そうしてずっと、帰らないベンザー様を待っているんだ」
 イーリアの問いにレクサスが答える。
 「あのこ、まだ待ち続けるのかな……これから百年、二百年、もっと。それともベンザー様はもうこの世にはいらっしゃらないって教えてあげたほうがいいのかな……」
 つぶやくようにレクサスは続けたのだった。

 次の部屋は大広間になっており、中央に石像が立っていた。石像の陰にトカゲ人間の死体がひとつ転がっている。
 「昨日、ここまでは来れたんだが……」
 ジムがつぶやき、イーリアを見やる。
 「黒竜がいるのはこの部屋の右側の扉の向こう。……だが……」
 通路の向かい側にも扉があり、そこから何がやってくるとも知れない。

 「扉を打ち付けておきましょうか。少しなら道具があります」
 「音が出る。敵を呼び込むようなものだ」
 イーリアの申し出に、フレアが冷たく答える。
 「そうですか。……でも、竜を前にして、何がくるとも知れぬ扉が背後にあるというのは……」
 「あれでは役に立たないかな?」
 レクサスが倒れているトカゲ人間の身体を指差す。
 「ああ、そうでした」
 イーリアはうなずき、つかつかとトカゲ人間のそばに歩み寄った。
 「あなたのお体をお借りいたします」
 小さく一礼すると、死後丸一日たったトカゲ人間の身体をぐいと抱え起こす。そうしてそのまま、「竜がいるのとは別方向」の扉の前に運び、横たえた。
 「これで、こちらの扉の向こうに何がいようとも、不意打ちの心配だけはないと思います」
 「たいがいだな、あんた。
 どこでそんな機転を覚えた」
 フレアがあきれた顔で言うと、イーリアは困った顔をして視線を逸らしたのだった。
 
 とにかく後顧の憂いを絶ち、一行、竜の潜む扉の前へ行く。下がっててくれ、とフレアがいい、扉の向こうの気配に耳をすます。……何の音もしない。扉に鍵も仕掛けもないのはこの前調べて解っている。小さく頷いてフレアは一歩下がった。あとは竜の吐いてくるであろう酸の炎に一網打尽にならぬよう、先頭に扉を開けねばならぬジムとイーリアを置き、他の面々は扉から離れて立つ。
 「ジム、君は剣を構えておけばいい。君の前の扉は僕が開けるよ」
 レクサスが低く言った。
 「あんたが?」
 「……呪文で」
 つぶやきのように答えると、もうレクサスは詠唱を始めている。その隣でサンダスターも呪文を紡ぎ始めている。ジムとイーリアはあわてて持ち場に着き、それぞれに構えを取った。

 レクサスの呪文の声が途切れると、ジムの前の扉がゆっくりと開いた。同時にイーリアの掌底が扉を打つと、きしみもせず両開きの扉はゆっくりと奥に開き、それと同時にサンダスターの掌から4つの淡い光が浮かび上がり、扉の向こうへと流れていく。……ほのかな明かりの中には、剣呑な影が黒々とうずくまっていた。

 「先手はもらった、とっととくたばれ!!」
 フレアが開ききらない扉の間をすり抜け、刃を振り上げるが、うすあかりの中、むなしく空を薙いだだけ。続いて飛び込んだロボも、一瞬躊躇したのか空を噛んだ。その間も竜はまだ、動かない。
 遅れること数瞬、ジムが叫びながら飛び込んだ。力の限り振り下ろした剣は過たず竜の脳天を叩き割る。
 と、その瞬間、うずくまっていた黒竜はろうそくの炎を吹き消したかのように掻き消えた。

 「……??」
 呆然とする一行の足元に転がっているのは、ジムの剣に頭蓋を割られたコボルト一匹。

 「……だまされたってわけか」
 あきれたようにフレアが吐き捨てた。
 「そういうこと……でしょうか。でも、大事なくてよかった」
 答えながらイーリアが倒れたコボルトの懐中を改める。中からはどうやら油薬の入った瓶が4本。
 「……イーリア、あんた本当にどういう育ちをしたんだ。追いはぎじゃあるまいし」
 今度こそ完全にあきれ返った口調で、フレア。
 追いはぎ、という言葉を耳にした瞬間、イーリアの顔色が変わった。
 「……そう、思われましたか」
 「違うのか? ……まぁ、あんたの育ったとこじゃどういうか知らないが、俺のところじゃそういうことをするやつをそういうふうに呼ぶ」
 おいいいかげんにしないかとジムが割って入る。

 「……いえ、いいのです。わたしの心得違いでした」
 イーリアが引き下がったあとに転がった4本の薬瓶を、サンダスターが拾い上げ、アルベルティーネに渡す。
 「まぁ、でも、万が一イーリアが追いはぎだとしても薬に罪はないよね」
 いいかげんになさいとつぶやくと、アルベルティーネは薬瓶を受け取ってから青ざめた顔のままのイーリアに向き直り、懺悔なら後でなさい、と言い渡したのだった。


このシーンの裏側
posted by たきのはら at 00:39| Comment(2) | TrackBack(0) | 不揃いな冒険者たち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月09日

『駆け出し冒険者と穴倉の話』その4:7人の冒険者

ネタバレ注意!!
以下はどうやらベーシックセットを遊んでいたものみたいなので、とりあえず今後遊ぶ可能性のある方はお読みにならないでください。



 ボーンハートの密命を受けた腕利きの盗賊……のはずの男を窓からのんびり見送ってしまうと、一同、なんとなし、顔を見合わせた。

 「……とんだことになってしまいましたね」
 アルベルティーネが言った。とはいえ、
 「でも僕たちにはどうしようもないだろ。それより、竜だよ」
 けろりとした顔でマークスが言っていることのほうが、たぶん、正しい。
 「そう、竜だよ、当面の問題は。……イーリア、君、これからどうするつもりなんだ?」
 レクサスが、所在無げに部屋の隅に引っ込んでいたイーリアに声を掛ける。その場にいた6人にいっせいに視線を投げられてイーリアは一瞬どぎまぎしたが、一呼吸おいて、私は修行のためにここまで来たので、明日皆さんとお別れしてトーチ・ポートに行き、よい師匠を探そうと思っています、と生真面目に答えた。
 「ふぅん。一緒に来ない? 竜を倒しに行くんだ。黒い竜」
 「……いえ、それは」
 「どうして?」
 「私は修行をせねばなりませんから」
 「竜を倒すんじゃだめなの?」
 マークスに重ねて言われ、イーリアは困ったように黙り込む。
 「正直、あんたに一緒に来てもらうと助かるんだ。」
 これはフレア。
 「我々の中でまともに荒事がこなせるのは、正直俺だけ、あとはマークスとロボ。イーリアさん、あんたに一緒に来てもらえると助かる」
 ジム・コナーズ。
 「師匠のもとで学ぶのもいいけれど、実戦で修行を積むってのも悪くないんじゃないかな?」
 レクサス。
 イーリアは困り果てた顔で、でも修行が、と、口の中で繰り返した。その言葉をとらえてサンダスターが何か言い出しそうにしたのを抑えてアルベルティーネが口を開いた。イーリアの顔を覗き込むようにして静かに言葉をつむぐ。
 「イーリア、師匠についての修行は確かにあなたのためになるでしょう。けれど、私たちと共に来て黒竜を倒す手助けをして下さるのなら、それは黒竜の害を除くことになり、皆のためになります。それこそが本当の修行ではないのですか?」
 ふ、とイーリアは黙り込み、アルベルティーネの顔をまじまじと見つめると、
 「お恥ずかしい話です、思い至りもしませんでした。
 どれほどの役に立つか知れませんが、どうかご一緒させてください」
 と言ったのだった。

 というわけでイーリアも人数に入り、7人の冒険者たちはそのまま「オークの木陰亭」に宿を取ることになった。二人部屋を三つに7人が別れて休もうとしたが、宿の主人が言うには二人部屋に三人泊まるのは勘弁してくれとのこと。
 「うん、じゃあ僕はアルベルティーネと一緒に寝る。アルはいいにおいがするもの」
 マークスがすぐに言い出したが、それだとイーリアがひとりになってしまうでしょうとたしなめられ、
 「それじゃロボと一緒に外で寝る」
 と言って飛び出していく。翌朝見に行くと裏庭で昼間の大きなオオカミの前足の間で、ロボの首っ玉を抱き枕代わりにして幸せそうにぐっすり眠っていたので、これはこれでよかったらしい。

 ともあれ明けて翌朝。
 一行はまた野原を越えて、イーリアには初めて、他の6人には二回目の洞窟へ向かったのだった。
 「イーリアは知らないだろうから教えておくとね、入ってすぐぐらいの部屋には大きな鏡があるんだ。で、そこの前を通るとご主人様をずっと待ってるメイドさんが出てくるんだよ」
 「メイドさん、とは何ですか?」
 「お屋敷のご主人様に仕えてる可愛い女の子のことだよ。そんなことも知らないんだ?」
 「ずっと山のほうで暮らしていましたから……」
 「そうなんだ、じゃあこれからは覚えておいたほうがいいよ。それでね、その奥の部屋には嫌なにおいのするトカゲ人間がいてね、そいつはなんとか倒したんだけど、その奥の扉を開けたら黒い竜がこっちを覗き込んでたんだ。勝ち目なんかないからすぐに引き上げて、そしてイーリアと出会ったってわけ」
 イーリアはサンダスターのおしゃべりをいかにも興味深そうな顔で聞いていた。
 その表情が揺らぎ始めないうちに、一行はぽっかりと口をあけた洞窟の前に立っていたのだった。


このシーンの裏側
posted by たきのはら at 21:48| Comment(6) | TrackBack(0) | 不揃いな冒険者たち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月06日

『幽霊学園』その1:始業式の夜

ネタバレ注意!!
以下は「FN1 Haunted School」という未訳シナリオを遊んだものであり、多分にネタバレを含みます。今後先述のシナリオを遊ぶ可能性のある方はお読みにならないことをお勧めいたします。



 夏休みもあっという間に終わって、9月最初の日曜日の夜。
 わたしは久しぶりの青いアカデミック・ガウンをきちんと着て、カフェテリアの椅子に座っていた。
 この夏休みは結構有効だったわ、とわたしは思った。父さんの神学校時代の教科書を見つけて頑張ったから、ずっと懸案だったヘブライ語もだいたいマスターしたと思うし、ギリシャ語もたぶん完璧だと思う。ラテン語だったら母語同様に操れると思うし、シーザーが目の前に現れたってたぶん会話できるわ。本当にシーザーの霊を呼び出せたら面白いのに……ああ、この学校の図書館にもうちょっときちんとした教科書があればいいのに。でなければ交霊術の本とか、古い写本とか、そういった類のもの。卒業して、ちゃんとした図書館のある学校に行けるにはあとどれぐらいかかるのかしら。

 そんなことをぼんやり考えていると、急に硬い足音がして、わたしは我に帰った。カフェテリアの前に設えられた演壇に、見知らぬ男性が立っている。ああ、きっと新しい校長先生だわ。今日の昼に寮に戻ってきたとき、校長のポリー・マッキンタイア先生が落馬事故で腰を傷められて、長期療養のために引退なさった、代わりの校長先生がみえられるって貼紙が出てたもの。
 果たしてそのとおりで、そのひとはウェルダン・クリスティアンソンと名乗り、新しく校長に就任したことを告げて挨拶を始めた。型どおりで、次に言う言葉だって先にこちらで言えちゃうような挨拶。つまんない。そのうえ、なんだかとんでもなく厳しそう。ああ、でも、わたしには関係ないわ。わたしは図書館の本さえ読ませてもらえればなんの問題もない生徒だと思うし。それにしても随分色白なひとだこと。ううん、色白なんじゃない、血の気がないんだわ。若そうなのにすっかり色の抜けた髪、艶のない肌。唇だって蒼ざめてるし……まぁ、どうでもいいわ。
 そのとき、カフェテリアの半分ぐらいから、拍手があがった。拍手をしていない残りの半分はというと、どうにもうんざりした顔をしている。隣に座っている同室のアンジェリカにこっそり尋ねると、どうやら新校長先生は、規律正しい学生生活を送れるよう改めて学校の校則を整備した、新校則については明日発表する、と言ったらしい。

 ……そういうことね。
 マッキンタイア先生はわりと放任主義的な先生で、夏休み前の学校はよく言えば自由闊達、悪く言えば、ちょっとばかり「自由すぎ」た。夏休み前に用務員室からチェーンソーを持ち出して振り回して謹慎処分になった生徒の顔が見えないのは「そういうこと」の裏づけだろう。ドイツだかフランスだかの旧家というか騎士の家系に繋がるとかいう名家の出身で、そうそう退学にはならないと思っていたんだけれど。

 とにかく、そういうことで「新学期開始の挨拶」が終わり、あとは新学期前夜のディナー。わたし達もカフェテリアの前に席を占めた先生がたをちらちら見ながら食事を始めたけれど、すぐにおしゃべりに夢中になって新校長先生のことなんか忘れてしまった。

 ところで――そう。
 私の名前はヴェロニカ・モンゴメリ。15歳。父さんは牧師で、私もゆくゆくは神学校か大学の神学部に進む予定にしつつ、ここ、アテナ・アカデミーに来ている。本当は飛び級してすぐに大学にいければきっと面白かったと思うのだけれど、そこまで出来はよくなかったし……それに、山の上の古城を改装した全寮制学校という響きに惹かれて入学した。けれど、まぁ、そのあたりははっきり言って期待はずれ。古城といったって要するにただの広くて古いお屋敷で、別に幽霊が出たり秘密の書庫があったりするわけもない。ああ、やっぱり大学にすぐにいけないんだったらイギリスに留学するって言い張ればよかったかしら。

 そうこうするうちにデザートが出て、ディナーはおしまい。カフェテリアからぞろぞろと寮に戻る最中、うちのクラス委員長のヘクター・アンダーソンを、隣のクラスのマシュー・ヒギンズが呼び止めているのがちらりと見えた。マシューはいわゆる秀才で一匹狼。憧れている女の子も多い。たしかうちのクラス一というか学校一のプレイガール、ジェニファー・ロゴスともつきあってたんじゃなかったっけ。フットボール部か野球部の人間しか相手にしないはずのジェニファーがマシューと3日もつわけないって皆で賭けてたけど、まさか1時間で破綻するとは誰も思わなかったわね、そういえば。でも、わたしには関係のないこと。ジェニファーが青いカラーコンタクトを入れていて、茶色い髪を見事な金髪に染めてるのだって関係ないこと。

 というわけでわたしは自室のあるフレイア寮に引き上げた。ここ、アテナ・アカデミーの寮は4つ。ゼウス寮・オーディン寮・ヘラ寮・フレイア寮。いったい何を考えて命名したのかわからないけど、そうなんだから仕方がない。
 アンジェリカがとっとと寝てしまう脇で、わたしはスタンドの明かりを点け、家から持ち込んだ本を読み始めた。そんなにすぐ寝ちゃったら、何にもできないじゃない、と思うのだけれど。

 さしてしないうちに、ふと、小さな硬い音がどこかで続いているのに気がついた。
 ……カタカタカタカタ……
 窓だ。窓が細かく震えている。風かしらとおもったけれど、窓の外の木は揺れていない。わたしはベッドから滑り降りた。さっき読んだばかりの交霊術の本の一節がゆっくりと頭の中を回り始めた。それはあんまりにも出来すぎだろうと思ったけれど、傍に寄っても窓の音は止まらない。そして、森から青白い光がひとつ、ゆっくりと漂いだしてくる……あの色、あの動き方、間違いない、鬼火だ!!
 「アンジェリカ、アンジェリカ!!」
 窓を開け放ちながらわたしは叫んだ。
 「起きて、鬼火よ!!」
 「……何よ、眠い……寒いじゃないの窓なんか開けないでよ……」
 「だから鬼火だってば!! こっち来なさいって!!」
 ベッドまで起こしに行けば早いけれど、そうしたら鬼火を見失ってしまうかもしれない。窓から身を乗り出して鬼火の行方を目で追いながらアンジェリカを呼ぶ。
 「わかったわよ、わかったから……」
 ようやくアンジェリカが置きだす気配がして……けれど、彼女がようやっと窓辺にたどり着く直前に、ゼウス寮のほうに流れていった鬼火はふっと見えなくなってしまったのだった。
 「……ヴェロニカ、オカルト趣味もいいけど、人巻き込まないでよね……」
 わたしが説明するのも聞かず、アンジェリカはベッドに戻っていってしまった。まったく、聞く気がないのなら最初っから起きてこなきゃいいのに。

 と、その時。
 上の階から凄まじい悲鳴が響き渡った。
 どこ、と考えるまでもない。あの声はジェニファーだ。わたしは部屋を飛び出した。飛び出すときにちらりとアンジェリカのベッドを見たら、彼女はもうぐっすり眠っていた。霊的現象よりも彼女の睡眠欲のほうがよっぽど非常識だわ、と、わたしはちらりと思った。


このシーンの裏側
posted by たきのはら at 18:56| Comment(4) | TrackBack(0) | d20ホラー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『幽霊学園』前口上

 えーと、本来なら『不揃いな冒険者たち』第1話を仕上げてから書くべきものなんですが……連日で遊んじゃったのと、とりあえず書きかけておかないと忘れそう!! ということで。

 3月5日に遊んだd20ホラーキャンペーン(らしい)第1回、『幽霊学園』です。

 えと、今回は割と初めてご一緒する方が多かったので先にちょっと言い訳じみたものを。
 私の「レポート」は正確には「報告書・記録」という意味でのレポートではありません。ゲーム内で起こったこと、ゲームの外でなされていた雑談、それを「ゲームの中で展開していた物語的に書くとどういうものが見えたか」という観点で書いている、だいぶ二次創作めいたものです。
 何か事実と違うことを書いていたら、遠慮なくご指摘下さい。それは間違いなく「たきのはらの覚え間違い」なので、速攻直します。

 そのあたり、ご了解いただいた上でお読みいただければなぁ、と……

 えーと、それで。
 今回はホラーで学園もの。というか正確には学園オカルトミステリ?
 メンバーはざっとこんな感じ……

マスター:DM-SKMさん
PL:
March Hareさん:リッチー・パートリッジ。イギリス出身。超能力者。こっそりペットのインコを飼っている。
でみさん:ヘクター・アンダーソン。通称「委員長」。医者の息子で穏やかなリアリスト。眼鏡。
えでぃさん:ジェニファー・ロゴス。テキサスの大農場の農場主の一人娘。金髪のチアリーダー。幽霊なんか信じていない。
アニマさん:クリストファー・クロス。通称クリス。少女のように整った顔立ちの、引っ込み思案な少年。占い好き。
たきのはら:ヴェロニカ・モンゴメリ。牧師の娘。読書好き。ギリシャ語とラテン語とヘブライ語と古英語に通じるオカルト好き。

これでどういうことになるかというと……
posted by たきのはら at 16:12| Comment(2) | TrackBack(0) | d20ホラー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『駆け出し冒険者と穴倉の話』その3:恐るべき子供達。

 「あのね、僕、サンダスター」
 レクサスに呼ばれてサンダスターが進み出ると同時に喋り始める。
 「おじさんこの辺初めてなんだよね、きっと。だから僕いろいろ教えてあげるよ。ぐるぐる巻きのまんまだけど聞けるよね。あのね、これは昼間仲間にも話してたんだけど、トーチ・ポートのラーザ大司教は……」

 男は最初露骨に胡散臭げな顔をしていた。
 やがて呆れ顔になった。
 やがて心底嫌そうな顔になった。
 そのうち涙目になってきた。

 あいにく、目は閉じられても耳は閉じられないのだ。
 そして
 「そういえばサンダスター、この人、塔の街で魔法使いが雨を降らせようとして替わりに蛙を降らせた話も聞きたいって」
 とレクサスが言った瞬間、
 「わかったわかったもうわかったからこのガキを黙らせてくれ、何でも答えるから!!」
 そう男は絶叫したのだった。

 食堂のほうでそろそろ吟遊詩人の音楽が必要なころあいだよ、とレクサスに言われてにこにこと立ち去ったサンダスターの変わりに男の前に座り込んだのはマークス。
 唐突に、
 「おじさん、何?」
 「し、商人だよ!!」
 「何するひと?」
 「だ、だから商人だって」
 「なんであそこにいたの?」
 「い、いやだからたまたま……」
 「おじさん、何?」
 「だから商人……」
 「何するひと?」
 ……
 ……
 何巡りかになって、
 「おじさん、何?」
 「わかった、と、盗賊だよ!!」
 「何するひと?」
 「だから盗賊だって!!」
 「なんであそこにいたの?」

 ついに男が半泣きで喚きながら語ったことによると、男はレンの民――異なった世界からやってきたといわれる流浪民族――の盗賊で、ある男から雇われて『魂の宝珠』を預かり、トーチ・ポートで自分に接触してくる密偵に渡すようにと言われたのだという。期日は今から二週間後、約束はトーチ・ポート旧港の桟橋。接触すべき人物の顔も名前も知らない。接触すればわかるはずだということらしい。

 「ふぅん……おじさんにそれを預けたのは誰?」
 「しらねぇよ!!」
 「……そうかぁ。サンダスタ……」
 「わかったわかった、言う、きいて後悔するな、俺に『宝珠』を預けたのは恐らくボーンハートの連中だ、そして奪おうとしたのはおそらく緋色兄弟団……」
 一瞬の沈黙が落ちる。
 ボーンハートははるか北のイウズ帝国の邪悪極まりない密偵集団、対して緋色兄弟団というのは暗殺修行者集団で、名前だけは知らないものはない。
 「殺された男の身のこなしは確かに『修行者』ではありました。でも、確かにペイロア様の聖印を胸に……!!」
 言いかけたイーリアが息を呑んだ。
 「この聖印は……まがい物だ」
 
 ふぅ、と一行、小さく息を吐いた。
 「どうやら厄介ごとに巻き込まれちまったな」
 「といって、僕らにどうできるものでもないだろう? だいたいこの人が持っていた『宝珠』だって……ああ、まぁ後から調べるつもりだけれど、本当にホンモノなのかな?」
 『魂の宝珠』といえば、はるか昔に強力な魔法使いが作り出したといわれる伝説の遺物であり、そうおいそれと転がっているはずもなかろうに。
 「だいたいあんた、あの宝珠を随分気楽に使ってたよな」
 「……ああ。あれを使うための呪文は、俺を雇った男が普通に教えてくれた」
 「それじゃ、どう考えたってあれはホンモノじゃない。というより、この人に『宝珠』を預けた連中は、この人が何か厄介ごとに巻き込まれて宝珠を使って、その結果魂が詰まった状態になった宝珠を受け取ろうってのが魂胆だったんじゃないのかな?」
 フレアとレクサスが忙しく言葉を交わす。
 「……が、まぁ、結局宝珠はここにはないわけだし、俺達も生きてるし、この一件、なかったことにできるんじゃないか?」
 ジムが割ってはいる。
 「まぁ、それはそうだが……」

 「そうすると、おじさん、石がなくなったってこと、その密偵さんに言うよね」
 マークスがけろりとした顔で言った。
 「そうすると、僕たちのことも密偵さんに知られちゃうわけだ」
 酷薄な笑いでもその顔に浮かんでいれば却って救いになるだろうというぐらい、無邪気な顔で。簀巻きの男の表情が明らかにひきつる。

 「待ちなさいマークス」
 イーリアが突然割って入った。
 「この人が悪人のままならその恐れもあるだろうけれど、改心したなら問題は何もない。
  ……だから」
 そして床に伸びた男に向き直る。
 「ここで私たちに会ったのが何かの縁です、改心しなさい。あなたの行くべき場所はわたしが教えてあげます。そこではわたしのばばさまが子供達と一緒に暮らしていて、あなたもそこで土を耕して穏やかにこの先を暮らしてゆけばよいのです」
 「いい加減にしてくれ、そんなことできるか!!」
 男の目には本気で涙が浮かびかけていた。
 「たのむ、その三人を除けて俺を逃がしてくれ、でなきゃいっそ殺してくれ、もうここには来ねえ、トーチ・ポートの5マイル以内には近寄らねえ、誓う、誓う、誓うから!!」

 ……とりあえず今はこの男、本気で逃げ失せるつもりらしいぜ。
 そうフレアがぼそりと言い、アルベルティーネも頷いた。
 「……逃がしてあげましょう。
 ところで名前も知らないけれど、あなた。
 できれば改心なさい。そんな生活を続けていると、またこんな目に会いますよ?」
 そう言いながらアルベルティーネが縄を解いてやると、男はむっくりと起き直るやいなや、手足をさする間ももどかしく宿から飛び出した。窓から覗くと、暮れかけた薄闇の中をなにやら妙に薄くなったようにも見える影が、トーチ・ポートとは反対方向に足の限りに逃げていくのが見えた。

このシーンの裏側
posted by たきのはら at 14:48| Comment(4) | TrackBack(0) | 不揃いな冒険者たち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月05日

『駆け出し冒険者と穴倉の話』その2:大樫の木陰にて

 イーリアが見たのは旅芸人の一座……というわけではなかった。
 ちなみに彼女の目に映ったのはこんな一行だったのである。

 「だからさ、これはみんな知らないだろうけど、トーチ・ポートのラーザ大司教はとんでもないメイド萌えで、鋼鉄のパンツを愛用してるってのは通なら絶対知ってなきゃいけないことで……」
 ほんの一瞬たりとも休むことなく話し続けているのはサンダスター。職業は吟遊詩人。である以上白いタイツの着用は欠かせないのだそうで、それが小太りの体躯に似合っているかどうかというのは論のほかの事であるらしい。まぁいい、服なんぞというのは服に過ぎないのであって、そのうち着用主に似合うようになっていくものなのだから。
 「そんなわけないだろう? だいたいそんなの着てたら大変じゃないか、重いし」
 突っ込んでいるんだかいないんだかよくわからない返事をいちいちしているのがレクサス、魔法使いである。ぱっと見、十をやっといくつか出たところといった感じの少年だが、その容貌をよく見ると彼がエルフであるのがわかる。……おそらく100歳にはなっていよう。
 そのすぐ後を歩いている僧衣の娘はアルベルティーネ。聖カスバートの神殿に奉仕する聖職者である。その脇にイーリアの目には「なにやらよくわからない色の毛玉」と見えたドルイドのマークス。髪がまだらっ毛のうえに、よく言えば色彩豊か、見たとおりを云えば意図するところのよくわからない無秩序に様々な色に染め上げられた衣服を着込んでいるので……まぁ遠目にどう見えたとしても仕方ないだろう。
 その後ろにラバの手綱を取ってのんびり歩いているのは戦士のジム、そして列の一番最後から歩いているのがフレアで、これはダンジョンを専門に「仕事」をしているローグの青年だった。
 ――やれやれ、こいつらときたら。
 フレアはこっそりと顔をしかめた。
 ――まったくお気楽なもんだ。穴倉にもぐったと思ったらあっという間に逃げ出さなきゃならなかったってのに、ラーザ大司教の何がどうしたって?

 そのとき、一行の耳にふと不穏な音が届いた。
 不意に藪の折れる音、そして何かが倒れる音。はっと見やった先で、人らしきものがばったりと倒れるのが……マークスとフレアには、見えた。
 「人がーーー!!」
 絶叫しながら走り出すマークス、その後を追って走り出した灰色オオカミのロボは瞬く間にマークスを抜き去って、倒れた男の後ろから現れた見るからに怪しい男に跳びかかる。
 「ええ、何々、何があったの!?」
 これも喚きながら後を追うサンダスター、苦虫を噛み潰した顔で走り出すフレア。
 と、一行の目の前で男の手にした宝石から光がほとばしった。光に貫かれたマークスとサンダスター、それにロボが倒れる。もうひとり倒れた娘は、あれはどうやら男とにらみ合っていたようだったが、敵か味方か。
 「てめぇ何しやがった!?」
 バタバタと倒れた仲間達の間を縫って、フレアが男の前にするりと入り込む。ひらりと手がひらめいたかと思うと、怪しい宝石はフレアの手に。奪い返そうと伸びる手を払いのけて宝石を背後へと投げる。
 「ジム、ジム・コナーズ!! 何をしているのです、はやくこちらへ!!」
 アルベルティーネの声。だってラバをほっとけないじゃないかとかなんとかいう場違いな返事とともに駆けつけたジムは様子を見て取ると剣を引き抜き、思い切り男の脳天をぶん殴った。何度かぶん殴るうちに男はばったりと倒れた。

 さて。
 となると、今度は倒れた仲間をどうにかしないといけない。
 宝石の光に貫かれた仲間は、生気や血の気どころか髪の色まで真っ白になってばったりと倒れている。息もしていないし心臓の打つ気配もない。これはもう確かにまったく死んでいるのだが、
 「でも、ただ死んでいるのとは違うのではないかしら。光に打たれたときに、この人たちの身体から、白い何かが抜けて宝石に吸い込まれていくのを見ましたし」
 とアルベルティーネがいい、そうして宝石を見ると、サンダスターやマークス、ロボ、それにどうやら最初に男とにらみ合っていたらしい娘の顔が見えるような気がする。
 ひょっとしたら何か打つ手があるかもしれない。トーチ・ポートへ戻って教会に助力を請うてみましょう。
 そのアルベルティーネの言葉に頷いた一行、倒れた仲間と縛り上げた男をラバに積んで街に戻ることにした。胸を後ろから刺されて死んだ男については、これはもうどうにも全く死んでいたので埋めてやり、胸に下げていたペイロアの聖印を形見に持って行ってやることにした。あともう一人倒れている見知らぬ娘については、
 「娘さんを置いていくのもなぁ」
 とジムが言い、
 「僕達、ちょうど腕っ節の強いのがもうひとりぐらいいると助かるって言ってたところだったよね。見たところこの子も結構鍛えた身体してるし、格好からすると修行者ってところじゃないかな。ついでに助けてやって仲間に入れたらいいかもしれない」
 とレクサスが言うので、一緒にラバに積んだ。

 そうやって歩いていくと、トーチ・ポートの手前に立つ宿屋、「オークの木陰亭」の前に来かかったところで一行を呼び止めたものがあった。森神オーバド・ハイを信じるドルイドでもあるところの宿屋の主人である。
 「もし、見れば随分なことになっていらっしゃるようですが」
 「……ああ、なんだかエラいことになっちまってな。そこで怪しい宝石を持った怪しい男と出くわして、怪しい男のほうは見てのとおりここで簀巻きにしてあるが、仲間も宝石から出てきた光に打たれて見てのとおりだ」
 フレアが応える。
 「……ふむ。もしかしたら私がお仲間を助けて差し上げられるかもしれませんが」
 主人が言う。よろしかったらお仲間と、その宝石とやらを拝見できますかな?
 「どうする? アルベルティーネ」
 レクサスが問う。アルベルティーネは一瞬考えるふうだったが、
 「私にも、本当にどうしたらよいのかということはわからないのです。けれど、普通のことではないように思いましたので、私の教会を頼ろうと考えておりました。ここでどういうことかわかるというのでしたら、是非、お願いしたく存じます」
 そう答えたのだった。

 「では、こちらでお待ちを。お仲間と宝石はこちらにお預けくださいますか」
 一行を宿の中に案内し、主人はそういった。宝石を受け取ってしばらくためつすがめつすると顔を上げ
 「お仲間は確かにお助けしてさしあげられます。が、宝石はなくなってしまうかもしれません。よろしいですかな?」
 「私は、構いません」
 「助けてもらえるのなら」
 アルベルティーネとジムが同時に答え、フレアが小さく頷く。レクサスだけが一瞬躊躇し、そして
 「かまいませんが、仲間を助けるところを見ていてもいいですか?」
 と尋ねた。
 「申し訳ないのですが、それはできません」
 が主人の返事。仲間の命には代えられないでしょう、とアルベルティーネに諭され、レクサスは少し残念そうに引き下がる。

 「では、しばらくお待ち下さい」
 そういって引っ込んだ主人は、誰もがじりじりし始める頃にまた姿を現し、そして一行を宿の裏庭に案内した。
 そこには普通の狼の4頭分ほどもある大きさの銀灰色の狼がゆったりと寝そべっており、毛色が戻って安らかな寝息を立てているロボをいとおしそうに舐めている。その足元にマークス、サンダスター、そしてさっき拾った娘が、これもまた生気が戻った姿で眠っている。その脇に、どうやらもとはあの宝石であったらしいきらきらひかる石の欠片が散っていた。
 レクサスが慌てて石の欠片を集めている脇で、アルベルティーネとフレア、それにジムが寝ている仲間達を起こす。

 「……寒いよう、暗いよう、怖いよう……」
 起きるやいなや喚きだしたのはサンダスターで、マークスはというとロボの無事を確認したかと思うとくるりとあたりを見回し、そして見知らぬ顔を見つけると真っ直ぐその脇に行く。
 「ねえちゃん、誰?」
 「わ、わたし? ……わたしはイーリアだけど……あなた誰?」
 娘――イーリアが問い返したときにはとっくに彼女には興味を失っているらしく、ロボと銀狼に夢中になっている。

 助けていただいたのですか、すっかり不覚を取り、お恥ずかしいところをお見せいたしました。そう言うイーリアと、互いにまずは自己紹介を済ませ、そして、とにかくさっき殴り倒して簀巻きにしてきた男の口から事情をきかないといけないということになった。
 それには気絶している男の怪我を治療してやらないと話も聞けないのだが、そうするとまた面倒なことになりかねない。よい盗賊ってのはつまり動かない盗賊だとフレアが言うので、全員でよってたかって気絶したままの男を蓑虫同様にくくり上げ、そうしてアルベルティーネが癒しの呪文を男に施してやる。

 やわらかい光に包まれたアルベルティーネの掌が男の額に触れると、男の傷のいくつかは嘘のようにふさがり、そして男はゆっくりと目を開け、一同の目の前でひとしきりもがき、やがて諦めたように動かなくなった。

 それを見届けると、おもむろにレクサスが男に告げた。
 「で、聞かせたいものがあるのだけど……サンダスター?」


このシーンの裏側
posted by たきのはら at 00:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 不揃いな冒険者たち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月04日

『駆け出し冒険者と穴倉の話』その1:強盗あるいは…

 冬の空は冷たく高く晴れ渡っていた。
 ばばさまが云っていたトーチ・ポートまではもうそんなに遠くはないだろう。まばらに潅木の生えた草原を歩きながら、イーリアはそんな風に思った。

 イーリアは街からずいぶん離れた山育ちの娘だった。ばばさまが連れてきたたくさんの親なし子の兄弟姉妹たちと一緒に、山を切り開いて作ったそこそこの大きさの畑を耕し、狩をし、山の幸を集めて暮らしてきた。そうやって育ってそうやって暮らしてそうやって死んでいくのだと思っていたのだが、あるときばばさまに呼ばれて「お前は修行の旅に出るように」といいわたされたのだった。
 確かにイーリアはほかの子供たちより身体も大きくてすばしこかった。ばばさまばやっているように、危険なけだものに教われtも少しは弟や妹たちを守って戦うこともできた。
 「それはね、太陽神ペイロア様からの授かりものなのだよ」
 そう、ばばさまは云った。
 「その力はきちんとした師について磨き、そうして強くなったお前が善いものになることによってペイロア様にお返ししないといけない」
 ばばさまのおっしゃることはいつだって正しかったから、イーリアはその言葉通り身支度を整え、住み慣れた山を後にした。トーチ・ポートに行けばきっとよい師に巡り会えるから、そこできちんと修行をすればよいはずだった。
 
 そんなことを考えながら歩いていると、急によく響く声がイーリアの耳に届いた。
 「……だからさ、トーチ・ポートのラーザ大司教は……」
 おや、と思ってそちらを見ると、どうやら彼女と同じく街へ向かうらしい人たちが一団。

 いったいどういう人たちなのだろう、と、イーリアは首をひねった。大柄な青年らしき人が鎧を着込んで剣や盾を持っているから、あれは荒事師かもしれない。けれど、その後ろにいるよくわからない色の毛玉のような人間とかオオカミとか、白いタイツの小太りの男の子とか……旅芸人だろうか? 耳を澄ましても聞こえてくる言葉はやれメイドがどうの鋼鉄のパンツがどうのとさっぱり要領を得ない。ともあれ、街のことをうわさしてはいるようだ。だとしたら何か街につてのある人たちかもしれない。……声をかけてみようか。

 そう思い決めてそちらに歩き出したイーリアのすぐ脇で、やぶががさりと音を立てたかと思うと、一人の男が息を弾ませて飛び出してきた。鍛え上げた身体、粗末な布の衣。わたしと同じ修行者だわ、と反射的に思った。
 「どうされました……」
 歩み寄ろうとした瞬間、イーリアの目の前で男がカッと目を見開いたかと思うと、男の胸から血まみれの刃が突き出された。反射的に防御の構えを取るのと、刃が後ろに引き抜かれ、男が血を吐いて倒れるのが同時。そして声も出せずにいるイーリアの前で再びやぶががさりとゆれ、冷ややかな顔つきの男がもう一人。手にした血刀は明らかに今しがた倒れた男の身体から引き抜かれたもの。
 「何事ですか!?」
 イーリア、とっさに倒れた男と現れた男の間に割り込む。そのとき、倒れた男の懐から白い大きな石が転がり出たのをがちらりと目に映る。
 「退け、その石は俺のものだ」
 「……あなたの?」
 「そうだ、この男が盗んだのだ」
 云いながら現れた男はイーリアの足元に転がった石を拾おうとする。とっさにイーリアは男の肩先を蹴り飛ばしていた。この男は、悪人だ。この石がこの男のものかどうかはともかく、こいつは悪人だ。

 そう確信した瞬間、急にあたりが騒がしくなった。
 「お前、何しやがった!!」
 「強盗だぁー!!」
 青年の声、少年の声。同時にオオカミが一頭飛び込んでくる。叫んだ少年は……おや、さっきの毛玉?
 とっさに腰の鎌を抜き、男の足を払う。外れる。たたらを踏んで立ち止まった。と思った次の瞬間。
 男は拾った宝石を空に掲げた。その白い石から目もくらむ光がほとばしり、イーリアの身体を打ち――そしてイーリアの意識はふっつりと途切れた。


このシーンの裏側
posted by たきのはら at 23:39| Comment(2) | TrackBack(0) | 不揃いな冒険者たち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『駆け出し冒険者と穴倉の話』前口上

 えーと、そんなわけでまた新シリーズです。
 TRPG歴はそこそこ長いけれどD&Dは未経験、という人たちをD&Dの世界にひきずり……じゃない、ご招待し、ついでに他のメンバーも今まで見落としていたものを見直そうとか、今までやったことのないクラスをやってみよう、とか、そういう趣旨で行うキャンペーンです。私自身、渡竜のほかにもきっちり基礎固めをやるキャンペーンがあるとうれしいなぁとか思っていたので、声をかけていただいたところで一も二もなく参加。いや、趣旨云々以前に単に遊びたいってのも。
 今までさまざまなプレイ歴のある面子ということで、事前にブレインストーミングを行い、世界観をすり合わせながらのセッション開始となりました。

 で、今回の面々はこんな感じ。

 DM:ふぇるでぃんさん
 PL:あくあさん(PC:フレア/ローグ)
   Yu-RIEさん(PC:アルベルティーネ/クレリック)
   sakiさん (PC:レクサス/ウィザード)
   腐爺さん (PC:ジム/ファイター)
   えでぃさん(PC:マークス&ロボ/ドルイド&オオカミ)
   さぼりっこさん(PC:サンダスター/バード)
   たきのはら(PC:イーリア/モンク)

 D&D未経験者に対しては割とやりこんでいる人がインストラクターとしてサポートをしつつ、セッションを進めていく予定。私はまぁ、未経験者ではないけど教えができるわけでもない基礎クラスのひと、という扱いで、初モンクにトライ。ゲームを楽しみつつ、いろんな楽しみ方を再確認しつつ、また素敵なキャンペーンになっていけばいいな、と思いつつ、こちらもレポート開始。

 実は今回のセッションはキャンペーン二回目で、一回目のセッションは私は都合が合わず参加できなかったため、そちらの内容は今回の記録中に織り込む形で書いてあります。 


 ……というわけで、今回の顛末は……
posted by たきのはら at 22:02| Comment(4) | TrackBack(0) | 不揃いな冒険者たち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。