2005年11月07日

『麦畑の英雄再び』目次

というわけで、DACお疲れ様セッション『麦畑の英雄再び』レポート目次です。
なんだかまたこのPC達を使って遊べそうな雰囲気なので、キャンペーン化か単発セッションのシリーズ化を見込んで目次カテゴリもしっかり作ってみたり♪

その1:モルトヒルの怪
その2:選抜部隊の面々
その3:記録が語るもの。
その4:モルトヒルにて
その5:沼の老人
その6:再び街にて
その7:不浄なる廃墟(1)
その8:不浄なる廃墟(2)
その9:不浄なる廃墟(3)
その10:麦畑の英雄再び

posted by たきのはら at 22:22| Comment(0) | TrackBack(0) | レポート目次(麦畑の英雄) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

その10:麦畑の英雄再び

 というわけで一行は意気揚々とモルトヒルに凱旋した。
 国王の恩賞に加えて件のリッチやその手下の溜め込んでいた財宝がずいぶんとあったので、今回の冒険行は命をかけるに足るだけのものだったには違いない。
 「……が、財宝があったらあったでつい名剣やら何やらが欲しくなる、そうなったらそうなったでまたろくでもない敵に切りかからなきゃいけないはめになる、因果な話かも知れん」
 というのはラルフの意見だったが、それぞれにはまた別の意見もありそうだった。

 なにしろエルにしてみれば今度の冒険行はれっきとした公務だったので、恩賞を受け取っていいものかどうかまず査定をうけなければならなかったし、ブランシュも似たようなものだった。だいたい組織というものは手柄話が合ったものに対しては、その手柄の5倍分の期待をかけてこき使うものなのだ。
 レインは今回のことで実力を認められてこのあたり一帯の若首領に任命されたはいいが、一党の長というのもそれはそれで面倒なもののようだった。
 リッキーだけは気楽なもので
 「おう、俺は本来の踊り手の修行に戻るぜ、ついでにこれだけ資金がありゃあ、もっとビッグなことができそうだしな」
 といい置いてふらりとどこかに行ってしまった。
 
 不憫かもしれないのはレナルドで、彼は「5年前の『麦畑を救った英雄一行』の兄より」という触れ込みでモルトヒルに莫大な額の寄付をしたのだった。災厄のもとが取り除かれたといっても1年の収穫が駄目になってしまったとあっては村を立て直すのにも相当の苦労があるだろう、との言葉を添えて。
 だから、と彼は言ったのだ。
 「オラのレンを探し出して欲しいだ。レンは世界中で一番可愛い女の子だから誰だって見たら忘れるはずぁねえ。だからこれだけ大掛かりにさがせば直ぐになんとかなるはずだ!!」
 とはいえ、村の絵師が5年前の記憶を頼りに描いて寄越す似顔絵にいちいち「オラのレンはもっと可愛いだ!!」とけちをつけていたのでは、彼の探索行の先はどうにも先が薄暗そうだった。
 
 ともあれ、モルトヒルは救われた。
 ちらついていた雪は止み、雪雲はぬぐったように消え去って、雪景色の上には馬鹿馬鹿しいような秋空が広がっていた。瘴気の元が消え去ったので大地と太陽が本来の姿を取り戻したのだ。
 重苦しく村を覆っていた雪は、一週間で消え去った。あの雪は瘴気を芯にして形を成していたに違いないだとレナルドは言った。
 これまでの災厄を埋め合わせるかのように穏やかな天気が続いた。
 12月の声を聞く頃になって、また雪がちらつき始めたが、今度の雪は穏やかな眠りの季節の到来を告げるものだった。

 そして、翌年。
 いつもより少しばかり早く、春が来た。いや、本来ならもうこのころには訪れているはずだった春が、ここ数年は遅れていただけの話かもしれない。

 ようやく大地は穢れない太陽の光に触れ、その春の芽吹きは胸がすくほどだったという。


このシーンの裏側
posted by たきのはら at 16:07| Comment(3) | TrackBack(0) | 麦畑の英雄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

その9:不浄なる廃墟(3)

 この奥にはご本尊が鎮座しているに決まっている。そのまま殴りこんでいってなるものか。
 というわけで、階段の途中で一行、足を止め、邪悪だの不死者だのの気配を読む。

 邪悪の気配は7体分。どれも不死者で、きわめて濃い闇の気配を放っていた。
 「やれやれ、もう少し準備をしてからにするか。どうせリッチ様のことだ、俺達が来たことなんざ全てお見通しだろう」
 気配を読み終わったラルフがうんざりしたように言う。
 「……そうだな。
 お互い居るのはわかっているというわけだな、30分後にまた来る!!」
 エルが階段の下に怒鳴り、いったん地下二階の小部屋に引き上げる。

 もちろん30分もぐずぐずしているわけにはいかない。大魔法使い様のことだ、火の玉ぐらいは打ってくるだろうとブランシュが守りの呪文を唱えている間に、ラルフは剣に聖なる力を宿らせ、リッキーは足首を軽く伸ばして身のこなしを確かめる。レナルドは銀の鏃を選んで腰に手挟み、一方レインはブランシュから渡された「ユニコーンの血」を武器に塗る。神殿で精錬した聖なる霊薬、悪しきものがこの霊薬を塗った武器で傷つけば、たちまち毒を受けたと同じ苦痛にさいなまれることとなる。
 その脇でエルが軽く顔をゆがめる。どうした、とレインが問うと、答えないままにやりと笑って口をぬぐった。指先にはべったりと血がついている。
 「心配はいらない、少しばかり頭脳労働をしたものでね……何、一度に二つの魔法を打ち出すだけの話だが」

 行くぞ、心臓が5つ打つのを合図に明かりを点す。
 そうブランシュが告げるのをきっかけにいっせいに階段を駆け下りる。

 ブランシュが掌を広げる。清らかな陽光にも似た光があふれ出し、部屋の最奥の玉座に座すリッチの姿を照らし出した。リッチの足元には6つの棺。そして棺の蓋も開かないのに、「何か」がそこから浮き上がる。
 「来たか、定命の者どもめ。わが行く先を邪魔立てするとはなんたる不逞、わざわざに手を下すも面倒な事なれど、虫けらも足元まで這いずって来たとあっては仕方ない、わが剣の錆となる名誉を呉れて遣わす」
 「それはこちらの台詞だこの腐れ魔法使い!最後に名乗っておけば墓石に名前ぐらい刻んでやるぞ!!」
 ラルフが怒鳴り返す。
 「消え行くものに名乗る名などない。冷たい塵となるがよいわ」
 それを合図のように、棺から浮き上がった白い影が6体、一行に殺到する。冷たい手に触れられたレナルドが思わず膝をつく。
 「あ、あれは……」
 「消し飛ばすだけのものの顔などいちいち覚えていられるものか!……去ね!!」
 影の手が太陽神の司祭の勢いにたじろいだ瞬間、聖水と銀の粉があたりに飛び散る。浄めの聖句を唱え終わると同時にブランシュの手は宙を薙いだ。6体の影は一瞬にして消し飛んだ。
 
 「……名乗っておくんだったな」
 リッチの耳が捉えた音声を理解したときには、レインの刃がのど笛を裂いていた。紡ぎかけた呪文が咽喉に詰まったのを吐き出す前に、リッチは再度の死を迎えていた。エルの魔法の矢とラルフの剣がその体を貫いていた。

 そして、復活しかけのリッチにとって大変不運なことに、彼は自分の魂を封じた杖をうっかり肌身離さず持ち歩いてしまっていたのだった。
 玉座の後ろに落ちていた杖はあっさりと発見され、粉々にされた上に焼き払われた。これでもう悪魔学に邁進して瘴気をばら撒くこともできまい。
 未練のように広間に残った瘴気はブランシュが念入りに浄めの儀式を施し、すっかり消し去ったのだった。

 「それはそうと……『目玉』は?」
 ふと気付いたようにレインが言った。
 「……もう、邪悪の気配はないが……」
 ラルフが首を捻る。
 後顧の憂いがあってはよくない、と、もう一度よくよく廃墟を探したのだが、目玉と称されるにふさわしい存在はどこにもない。
 と、はっとしたようにエルが言った。
 「目玉は、『開かなかった』のではないだろうか。地下一階の『魔法の目』、あれがもしや目玉だったのでは……」
 神様のお告げは解釈する人間の心の持ちよう次第で歪むからね、そういうことかもしれない。そうブランシュは答えた。

 結局全員が恐れていた「目玉の暴君」ことビホルダーはどこにも居なかった。感知されない以上、俺達は全ての邪悪をこの廃墟から除いたのだろう、もしそうでなければモルトヒルの謎が残ることでそうとわかるはずだ。いったん引き上げよう。
 ラルフが言い、そして結局そのようになったのだった。


このシーンの裏側
posted by たきのはら at 15:27| Comment(4) | TrackBack(0) | 麦畑の英雄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

その8:不浄なる廃墟(2)

 次の階は廊下が閉じた扉へと続くところから始まっていた。
 「この地図が正しければ……この階は小部屋を回廊がつなぐ形になっているはずだ。先ほどの魔法的罠の配置からして、敵が居なくても罠が満載というところだろうな」
 エルが言った。

 「ふむ……罠なら俺の出番か」
 レインが進み出る。
 用心しながら扉に手をかけ、ふと見ると扉には文字が刻まれている。
 「気をつけて、その文字も罠かもしれない、何かあったらすぐに退く余裕を作ってから読まなくちゃ」
 ブランシュが咄嗟に言う。が、特にどうということもなく、そこには古い字体でこう刻まれているだけだった。
 ―ここより先は封印の間
  この階の出口に至るには直進せよ
 苔むして角が取れた文字には、ほかにどうと言って怪しげなふうもない。というわけでおもむろに扉を開ける。
 そこは地図にあるとおりの小部屋と左右に伸びる回廊だった。ただ、入り口と向かい合って地図にはない細い回廊がもう1本伸びている。
 「直進せよ、ってことはあっちの回廊に入れってことか。まぁ、罠だろうな」
 そういいながら眺めると、その「地図にはない」回廊の床に、細く切り込みのようなものが見える。
 「踏んだら何か出るんだろう。……さて、どうする」
 「俺が行くかい?身軽さなら負けんが」
 「いや、待ちたまえ。何も身をわざわざ身を危険に晒すこともないだろう。安全そうな場所に控えていてもらいたい。私が魔法でなんとかする」
 「待つだよ、どんな罠か知れたもんじゃないだ、扉が閉じて水が入って皆であっぷあっぷって仕掛けかも知れねえ、退路の確保は重要だべ」
 というわけで入ってきた扉にかすがいを打ち込んで閉じないようにしておき、それぞれが壁際に引いたのを見届けるとエルは呪文を唱えた。
 見えない手が怪しげな床を押し込む。

 と、部屋の床がチェッカーボードの形に落ちた。幸い誰も足を取られたものはなかったが、それでも床の穴から立ち上る刺激臭に顔をしかめ、早々に左の回廊に逃げ込んだ。
 つまるところ、偵察が先行して回廊の仕掛けを踏むと安全なはずの部屋の床が落ち、そして部屋に待機していた仲間は穴の底に転がり落ちるという按配。その上あの刺激臭からすると、今はすっかり乾いてしまっていたが本来ならば穴の中には強酸が満たされていたものらしい。
 
 この封印の間を作ったのは本当に300年前の冒険者かね、と誰かが呆れたようにぼやいた。だとしたら大した根性曲がりだ。

 次の小部屋にも隠し回廊があった。
 よくよく見ると回廊の向こう側の壁にはぎっしりと矢狭間が穿ってあり、さらに目を凝らせばすべての矢狭間から鏃が覗いている。
 「……どうする、何だったら俺の相棒に仕掛けのあたりを踏ませてみるが。蛇の体なら矢狭間の下に潜り込める」
 レインが申し出たが、しかしあんなわかりやすい場所に仕掛けてある罠もあるまい、さっきも廊下の仕掛けで部屋に罠が発動するような根性悪の設計だ、何が起こるとも限らないとラルフが言って、その部屋の探索は沙汰止みになった。

 続く小部屋は、古地図が正しければちょうど入り口の小部屋の真向かいに位置しているはずだった。
 「直進せよ……ということは、この部屋のこちら側の壁にさらに下の階へ続く道でもあるんだろうな」
 レインが言い、向かって左側の壁を調べると、予想通りに隠し扉。そして鍵がかかっている。
 「……今まで鍵のかかった扉にはお目にかからなかった。ってことはますます当たりだな」
 隠し回廊の向こうにやはり細く切られた切込みが見える。
 「では、先ほどと同じ要領で行こう。全員回廊に回避して居たまえ」
 エルの魔法が仕掛けを作動させると鍵のかかっていた扉が爆発し、その向こうにはさらに下へと通じる階段が現れた。ご丁寧なこった、と誰かが言った。

 「……地図によればもう一部屋あるようだが、どうするね?」
 リッキーが首をすくめて言う。
 「冗談ではない、300年前の根性悪にこれ以上つきあう義理はない」
 ラルフがきっぱりといい、そして一行は恐らくリッチ(あるいは目玉――目玉とわざわざ言う以上、あの悪名高い『目玉の暴君』がお出ましになるのではないかと誰もが恐れていたのである)が潜んでいるのであろう、最深階を目指した。


このシーンの裏側
posted by たきのはら at 14:27| Comment(4) | TrackBack(0) | 麦畑の英雄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

その7:不浄なる廃墟(1)

 村で一晩休み、翌朝出発した。村人の声がしなくなると、レナルドの顔がようやく明るくなった。竜殺しの射手が竜に殺されてるなんて誰にも言えねえだよ、そもそもオラあの時、竜が吐いた酸の炎を避けそこねただ。目の前で鎧着込んだ司祭様が奇跡みたいに避けてたってのに。ああ悔しい。

 それをなだめながら湖を渡り、さらに行くと、北の山脈の尾根を背景に朽ち果てたモラディン神殿の門が見えた。
 「この階は5年前の報告によって作成された詳細な地図がある。ついでに言えば、リッチだの……ああ、あと『目玉』も居たのだったか……何だのがこんな明け広げの場所に居るとも考えにくい。とっとと階下に行こう」
 そうエルが言う。
 「そうだな、1階には邪悪の気配はない」
 「不死者もうろついている様子はないね」
 ラルフとブランシュがそれぞれに答えたので、1階の調査はそこそこに一同は地下への階段を下っていった。
 
 地下1階はどうやら大広間になっているようだった。
 「大広間なら……この地図か。ふむ、だだっぴろい部屋に柱が山ほど。敵がいれば攻め込むこちらは随分と不利だが」
 手元の古地図を手繰りながらエルが言う。
 「待て。静かに……何か、居る」
 進みかけた一行をレインが押し留めた。
 「何か居るんだが……言葉を交わしているんだが、何を言っているのやらわからない」
 「交わしている言葉はオーク語。……ああ、私はオーク語なんぞのために虎の子の巻物を使ったのか!!
 しかも『何か来たらぶっちらばるぞ』とかしか言っておらぬ……ええ、なんという無駄遣いを!!」
 エルがぶつくさ言うのをラルフが遮って
 「ふむ……なら、俺達がここにいるのには気付いてないという事だな。不意が打てる。オークばかりとも限らんだろうし、様子は見る方法はないのか?」
 「……わかった。様子を見る。……これでオークしか居なかったら本当に無駄遣いだが……」
 さらにぶつくさ言いながら呪文を唱えたエルの表情が、やがて引き締まり――
 「オークが二匹。腕に邪印を刻んでいる。鎧を着込んで大剣を持ったオーガが二匹、そしてさらに鎧を着込んでろくでもなく巨大な剣を引っつかんだトロールが二匹。
 まぁ、無駄ではなかったな」
 「ふむ、剣呑なことだな。だが連中はこちらに気付いていない、と。好機到来。……やるか」
 ラルフが剣の柄頭に手をかける。
 「それなりに準備もしていこうか。何しろあの竜の時は裸同然で突っ込まされたからな。司祭さん、頼むぜ」
 軽くつま先で戦いの舞のリズムを取りながらリッキー。
 「後ろから回り込むってのはどうだ。エル、何か手はないか?」
 レインがにやりと笑う。
 「竜の替わりにオークじゃ話にもならんだがなぁ……」
 ぶつくさとレナルド。
 「わかった。敵の布陣はここに示すとおり。レイン、剣呑そうなオークの後ろでいいな」
 「では、心臓が十打つのを合図に」

 戦いは心臓が三十打つ前に終わった。
 オークの背後から突如黒ずくめの若者が現れ、一瞬でそののど笛を掻き切ったのが合図。射手が矢の雨を降らせ、自由騎士の剣が唸る。扉の外で司祭が何事か唱えるとオーガの鎧を覆っていた鈍い輝きは失われ、一方でオーガとトロールに囲まれた剣呑な舞い手がふわりと身を沈めたかと思うと、オーガの剣が渾身の力で薙いだのは仲間のトロールの胴。必死のオーガが活路を求めて振り向けば、そこにはいつの間にやら黒い蛇が鎌首をもたげ、思わずたたらを踏んだ瞬間、忍者の刃先に肩先を深々と抉られている。

 敵の死体を焼き払い、部屋をよく調べてみれば、どうやらこの部屋は魔法の罠がいたるところに仕掛けられていたようだった。罠を作動させるのは壁にぎっしりと刻まれた魔法の目、もしここでオークども相手にてこずっていれば、そのうちに連中はわらわらと逃げ出して魔法の目を作動させ、侵入者は罠の中に取り残されるといった寸法だったらしい。

 「……本来なら地下に封じたリッチをこの部屋から外に出さないための仕掛けであったのだろうがなぁ。皮肉な話だ」
 エルがぽつりと呟いた。


このシーンの裏側
posted by たきのはら at 01:30| Comment(4) | TrackBack(0) | 麦畑の英雄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

その6:再び街にて

 態勢を立て直すだけにしては随分乱暴なやり取りだった。

 まずブランシュが物凄い勢いでペイロア神殿の上役にねじ込んだ。もちろん竜にまんまと騙されてのけたむしゃくしゃの八つ当たりも多分に含まれた勢いで。
 ―これはいったいどういうことですか、ろくでもなくずるがしこい上に冒険者たちを片っ端から食い殺し、しかもそれを悟らせもしなかったような竜がいるなど私は聞いていなかった。いえ命惜しさに言うのではありません、私もこの神殿の司祭、奉仕活動の中で召されること自体には何ら不満はございません、けれど明らかに手に余る敵に少ない手勢で当たらされるのは御免蒙ります。

 というわけで、まず倒れたエルとレナルドの復活の儀式にかかる費用の半額をペイロア神殿が肩代わりすることとなった(でなければ黒竜の溜め込んでいた財宝やら何やらをそっくりそのまま儀式費用として右から左に流さねばならぬところだったのだ)。

 一方でレインも仲間のところに支援を頼み込みに行っていた。ありゃまずい、相応の手練ればかりで隊を組んでいったというのにものの十数秒であっという間に半壊だ、このままじゃ誰も生きて帰れない、あんたがたも国王陛下のお触れは聞いてるんだろう、どうにか助けてくれ、できれば魔法の指輪か何か貸してもらえないだろうか。

 ともあれ死体にされてしまった二人も無事生き返らせ(竜を得意な敵としていたはずのレナルドは生き返り早々大変な落ち込みっぷりだったのだが)、改めて装備を整えなおし、さらにはみっちり訓練も積みなおして、一行は再びモルトヒルに向かったのだった。

 モルトヒルでは一行はすっかり英雄扱いだった。道を行けば誰もが嬉しそうに笑いかけ会釈をしてくるし、宿も食事もすっかり村が持ってくれるという。何しろ竜が死んで沼地が元の清らかな湖に戻り水がまともになったので、体調を崩していた村人も随分回復している。そのうえリッキーが人の集まるところと見れば出かけていって、見事な踊りを披露しながら一行の武勇を宣伝して回ったものだから、病の元を清めた人たちのことだ、雪の災厄のほうもきれいさっぱり元から断ってくれるに違いないと村人の期待はいやがうえにも高まっているというわけだ。
 ひとりレナルドだけは「あの優しそうな兄さんがあの弓と矢で竜を射殺したんだって」とささやかれるたびに、よっぽど首でもくくりたそうな顔をしていたのだが。


このシーンの裏側
posted by たきのはら at 01:11| Comment(4) | TrackBack(0) | 麦畑の英雄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

その5:沼の老人

 一夜明けて、一行は村の北のモラディン神殿跡地を目指した。
 もちろんその前にエルが村中を歩き回ってその様相を目に焼き付けたのは言うまでもない。リッチに邪竜だって?うっかりすると命がなくなる前に瞬間移動で戦略的撤退を敢行するはめになるやもしれないからな。

 ともあれ、北へ向かってゆくと、小川のほとりに出た。雪のちらつく中を流れるその川は……何やら酸っぱいような淀んだにおいを放っている。さらに行くとその小川がどろりと臭う沼地から流れ出している場所へ行き着いた。見遥かせばさらに北のほうから沼へと注ぐ流れが見え、そうしてその流れは沼の濁り具合に比してまだ澄んでいる。どうやら、元凶はここか。
 沼地に何やら潜んでいるのではないかと覗き込んだが何も見えない。

 と、見ると、沼の岸辺に一艘の小舟がもやってあり、その隣に老人が一人所在なげに座っているのが目に付いた。
 「おお、また一組来たな」
 一行が近づくと、老人はそう言って立ち上がった。
 「向こう岸まで行くかね」
 ああ、頼む、と答える。こちらは6人組に馬が一頭(ラルフが馬を連れていたのだった)、一度に向こうまで渡せるかと訊ねると、もちろんと答える。
 「先に行ったもの達から何か様子を聞いていないか?」
 エルが訊ねると、老人はゆっくりと首を横に振った。
 「いいや、ここ最近だと3日ほど前から3組ばかり船に乗せたが、まだ誰も戻ってきていないね。一番最近だと昨日の朝早くの組だったが」
 「……ふむ、てこずっているのか。それじゃ早いところ追ってやらねばなるまいな。急いで頼む」
 ラルフが言うと、老人は頷き
 「1人につき渡し賃は10gp」
 と答えたのだった。
 「おい、爺さん、そりゃいくらなんでも高すぎだろう、こっちは村を助けに来てやってるんだぜ?」
 たちまちレインが噛み付く。
 「高いと思うかね?だがこちらもこの雪の中、生きていかなきゃならんのじゃ。だいたいあんたたちだって国王陛下の恩賞に釣られた口だろうに」
 これまた老人も口が悪い。
 「冗談じゃない、それに俺たちをそんな素性の怪しいものと一緒にしてもらっちゃ困る、ここにいるのは中央からわざわざ出向いた……」
 「いや、わかったわかった、それじゃあこうしよう、儂が謎を三つかける。その謎にひとつ答えるごとに20gp渡し賃を引いてやろう、どうだね?」
 「……暇なんだな、爺さん」
 リッキーが呆れ顔で言うのに、おお、お若いの、あんたも長生きできたら年寄りの退屈の辛さがわかるだろうよと返す。この老人、いったい何を考えているとブランシュが睨んでも、どうやら本当に偏屈な渡し守が冒険者をからかって遊んでいるだけのことらしい。

 ともあれ老人、まず第一の謎を告げた。
 「我は植物を緑に染め、多くの人を茶色く染める。我は何ぞ」
 「太陽」
 たちまちブランシュが答えた。
 「それは太陽、木々や草を養い、一方で人の血を暖め肌を焼く力」
 「おお、ペイロア神の司祭様がおいでとは知らなんだ。約束どおり20gp引こう。では次。
 我は夜の真珠に引かれ、日に二度膨らむ。我は何ぞ」
 「潮。それは太陽の妹たる月に引かれ、日に二度満ち干する海の潮」
 すぐさまブランシュは答え、にっこりと微笑んだ。
 「おお、儂としたことが。しかし前の組はこの二問に頭を寄せ集めて2時間かかったのだがなぁ。では最後の問い」
 老人もにっこりと笑うと船に飛び乗り、そしていきなり竿で岸を付いた。
 「我は美味なる肉を好み、そして著しく飢えている。我は何ぞ」
 そしてあっけに取られる一行の目の前で、見る見る本来の黒竜の姿を現したのだった。

 まず我に帰ったのはレナルドだった。
 「オラの目の前に現れたが百年目だ、このトカゲの化け物め。オラの矢を喰らってとっととおっ死ぬがいいだ!!」
 そして目にも留まらぬ早業で矢を放つ。ラルフが猛然と討ちかかり、エルの両手から打ち出された光線も竜を射抜くが、しかし首から尾までを振り回して踊りかかってくる竜から遠ざかる暇もない。それどころか呆れるような身ごなしで一撃食らわせて飛び退ったリッキー以外は沼の縁に固まったまま、次に沼を回り込んで竜が吐いた酸の炎に残る五人がすっかり巻き込まれてしまうという有様。
 「ええい射手の誇りにかけてお前に負けるわけには行かねぇだぁ!!」
 震え声で叫ぶレナルドの矢は確実に竜に突き立ったのだが、それでもまだ立っている竜の尾と爪がエルとレナルドを打ち倒し、レインの放った斬撃が竜を倒したときには倒れた二人にはもう完全に息がない。

 「……だめだ、私には手の施しようがない」
 ブランシュが悲しげに首を振る。
 この状態ではこれ以上先には進めない。沼に巣食って水を汚し、ついでに通りかかる冒険者を片端から食い殺していた竜を倒せただけでも一歩前進、ひとまず態勢を立て直そう。
 というわけで村にしばらく留まってドルイド達に沼を浄めるよう頼んで回るというリッキーを残して一同は出発した都市へと引き返したのだった。


このシーンの裏側
posted by たきのはら at 00:11| Comment(7) | TrackBack(0) | 麦畑の英雄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年11月06日

その4:モルトヒルにて

 街で下調べができるのはここまで、後は現地での仕事だろう。
 そう判断した一行、不死者感知の棒状だの何だのと細々とした装備を買い整えるとモルトヒルへ向かった。

 着いてみれば、噂どおり。
 黄金の波が揺れるはずの風景は、見渡す限りの雪野原。国王の触れがあってから冒険者たちが随分やってくるようになって寂れた風はないものの、行き交う村人たちの顔にはなんとなし、生気がない。
 
 まずは様子を探ってみよう。
 そういうことになって、一行、それぞれ得意な場所へと散った。ラルフとリッキーは噂を拾いに街へ、エルは村役場へ。レインはまっすぐ宿屋に向かい、ブランシュはペイロアの社(運のいいことに、5年前のゴブリン騒ぎを解決した一行の中にはペイロアの僧侶がいたらしい。おかげでペイロア信徒は随分丁重に扱われているようだったのだ)へ。レナルドだけは一人「レンの足跡を探すだー!でも5年前の足跡だし、難しいかなぁ……」と呟きつつ、村の周囲を巡り始めてしまったのだが。

 それぞれに一仕事終え、宿に集まる。
 「よくないね、どうにも村に活気がない」
 「妙な雪のせいもあるだろうが、半病人ばかりだな」
 街に出た二人が言えば、レインが頷いて続けた。
 「どうにもね。今は麦の備蓄もあるが今後はそうもいかなくなるだろうと最初から思ってるから、みんなびくびくものらしい。しかもこの寒さのせいもあってか、身体の調子を崩すものも増えたとここのオヤジさんが言ってたな。
 それと」
 そうしてうんざりした顔でにやりと笑った。
 「『でかい鳥』がいるってさ。空のはるか上を飛んでいく、両腕を広げたぐらいの大きさの鳥。逆光で真っ黒に見えたって話だ。オヤジさんに言わせりゃあ、鶴に似てるそうだ、首が長くて」
 鳥、ねえ、と全員、溜息を吐く。
 その姿を知らなければ、ひょっとしたら竜を馬鹿馬鹿しく大きい鶴だと思うわけか。

 「で、鳥のことはさておくとして――いや、関係あるかもしれないけれど、病気のことのほうね」
 さらに陰鬱な声でブランシュが継いだ。
 「身体の調子を崩すのは寒さのせいだけじゃない、ここの司祭の話に拠れば、水が腐っているんだそうだよ。腐っているというか、濁って苦くなっているんだと。そんな水を飲めば当然身体を壊す。それに気付いて飲み水は司祭が浄化するようにしたそうだけれど、農地に注ぐ分はそれじゃおいつかず、当然その水が注ぐ土地の力も殺がれていっているんだそうだ。
 今年の地面は随分よくないそうだよ。今年の麦の生え方も実の入り方も酷いものだそうだ。確かに夏の天候不順もあったけれど、それだけでは説明がつかないぐらい収穫高が落ちている、と。……ひょっとしたら、今年の麦は、苦いよ」

 「俺が聞いた話じゃあ……『悪』ってのはそこに居たり、行われたりするだけで、周囲の状況を悪くするんだがな。例えば非道い人殺しがあったり、ろくでもない儀式が行われたり……」
 「さらに限定して言えば、年経た黒竜は具体的に水を汚す。知っていることとは思うが」
 リッキーの台詞を受けるようにエルが言った。

 リッチばかりか、相応に年を経た邪な黒竜がこの災厄に一枚噛んでいるのは、どうにも確からしかった。


このシーンの裏側。
posted by たきのはら at 21:46| Comment(2) | TrackBack(0) | 麦畑の英雄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

その3:記録が語るもの。

 というわけでまずはレイン。
 「ギルドの人間」という名乗りは必ずしも真実というわけではない。彼はこのあたり一帯に勢力を広げる忍者の一党の手練れなのだった。よって、そのあたりにつなぎをつければ情報も得られようというもの。
 只は教えられないな、と情報屋が言葉を濁すのに情報料2000gpを1700gpに値切り倒してどうにか引っ張り出してきたのがいかにもうんざりするような話。

 ―300年前にモルトヒルに居ついてた悪い魔法使いだって? ああ、そいつぁリッチだよ。自分をアンデッドにして永遠の命を得ようとしたってんだから、なまじっかな根性の奴じゃないさ。しかもな、そいつぁ悪魔学者だったんだ。魔物だけじゃない、本物の悪魔を地獄から呼び出して随分えげつないことをしてたはずだ。それで……何をしようとしたんだったかなぁ。悪魔を使って世界征服か、それともどっかこことは別の世界に行こうとしたんだったか。
 だが結局冒険者に倒された。だが倒すったってそれだけ根性の入ったリッチだってんで、封印するのがやっとだったそうだよ。モルトヒルの北のほうで封印して、封印の場所の上にモラディン神殿を建てておいそれとは出て来れないようにしたんだったが……だが、そのモラディン神殿ももう朽ちて、最近じゃ魔物の住処になっていたようだったよ。そうそう、その神殿に住み着いたゴブリンがモルトヒルの麦に悪さをして、やっぱり流れの冒険者に追っ払われたなんてな事件もあったなぁ。ちょうどあれは5年前だったが。

 その話を聞いた途端、一同、騒然となる。その冒険者の中にレンがいただよ、とレナルドが喚きだすのはさておき、リッチといえばただ事ではない。神殿の上役から300年前の冒険者がどうやってリッチを封印したか聞きだしてくるといってブランシュが飛び出していくかと思えば、エルはまっすぐ文書室に向かう。5年前のゴブリン騒ぎで封印が解かれたのであれば、その頃から瘴気は徐々に発生していたはず。モルトヒルはひょっとしたら5年前から汚染され始めており、そしてこの年になってそれが顕著になったということではないのか?

 ややあって文書室から戻ってきたエル、どうにも顔色が悪い。
 「……どうも悪い予想が当たっているように思う。平仄が合いすぎだ。
 5年前のゴブリン騒ぎが――そう、レナルドの妹さんのご活躍もあって――解決して以来、このあたりは随分安全になったというので人口が大幅に増えた。農民たちがだいぶ移転してきたのだな。日当たりのいい緩やかな斜面、少し北の山岳地へと連なる地域では牧畜も可能、豊富な雪解け水にも恵まれ、しかも安全とあってここ5年間の人口増加は10倍。耕地面積を広げるために村の中心部を半日分ほど南に移したこともあって、農業のための条件は格段に良くなった。もちろん作付面積も増えたし、働き手が増えたことによって大規模な農作業が可能になっている。作業効率は上がっているはずなんだ。事実、収穫は増えた。5年前の6倍にね」
 「増えたのなら結構なことじゃないか?」
 「とんでもない、リッキー、気をつけて聞いてほしい。人口増加は10倍、当然働き手も10倍だ。だが増収はたったの6倍、一人頭の収穫高はかえって減少している」
 「……土が痩せたんだな。無計画な作付けが災いして」
 「ラルフ、君までそんなことを。ここは酪農も盛んだといったはずだ。追肥は十分すぎるくらいに可能。たった5年で土地が痩せこけるなどありえない。そんなことも気付かないのかね。しかも……」
 そこまで言ってエルはぱらぱらと書類をめくりながら、口元を引き歪めた。
 「人数の増加と増収の割合の相関をざっと見たところ、5年前を境に収穫は頭打ちからゆるやかに減少に向かい、しかも作業効率の上昇分を計算に入れると、一人頭の収穫高は年を追うごとに著しく減少している。
 だいたいだな、私は『冒険課』の人間だから農業のことは詳しくはないが、土地的にこれだけの好条件に恵まれ、これだけの人口増加があれば増収は20倍から多く見積もれば30倍にはなっているはず。それがたったの6倍だ。どれだけ恐るべきことか、ここまで言えば君たちにもわかると思うが。
 つまり5年前のゴブリン騒ぎの際に恐らくはゴブリンどもの手で封印が解かれてしまっており――故意にか事故的にかはわからないがな――件のリッチは5年前からゆっくりと復活しかけており、そしてモルトヒルは5年前からリッチの瘴気に徐々に汚染され続けているということだ」
 「……わかった。で、俺たちにわかることがなぜここの役人はわからなかった?それと」
 「6倍の増収で騙されたのだ。人口を記録する課と農作物の収穫を記録する課が異なったため、私が気付くまで誰も数字をつき合わせようとはしなかったのだ、わかったかね自由騎士君。それと何だ?」
 「『冒険課』ってのは何だ、『すぐやる課』の一種か?」
 「やかましい、縦割り行政の弊害を最小にするための……」

 そこで扉が乱暴に開いたので、口論に発展しかけた会話はそこまでになった。

 「300年前の冒険者たちは、そのリッチをご丁寧に真正面から殴り倒した後にその場を聖別し、そしてモラディンの神殿を建てたのだそうだよ。なんの近道もありゃしない。王道ナシってことだ。
 それと、そのときはリッチの魂の宿った品物を破壊するには至っていないので……今の瘴気のモトがその300年前のリッチってのもありうる話だ。やれやれ、……ああ、それと」
 ブランシュはそういって、つづりもばらばらになり、引かれた線も消えかけた古文書を3枚、エルに手渡した。
 「神殿の図書館で見つけてきた。300年前のモラディン神殿の図面だよ。どうやら地下3階まであるようだけれど、どの地図がどの階のものかはもうわからない。それにだいぶぼろぼろだけど、ないよりはましだろう。それから神殿1階部分の地図はお役所の文書室にあるようだよ。5年前のゴブリン騒ぎのときに詳しい調書が取られているそうだから」


このシーンの裏側
posted by たきのはら at 20:39| Comment(4) | TrackBack(0) | 麦畑の英雄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

その2:選抜部隊の面々

 「……というわけで、君たちは、たぶん、モルトヒルの謎を解くために集まった人間の中では一番腕がいい。逆に言えばこれでダメならどうにもならないということだな。そのあたりは重々心得ておいてほしい。各々、準備を済ませたら揃ってモルトヒルに向かう。たった今5000gp分の仮払い申請書が来たので、準備に金がかかるようだったら私に言うように。審査の結果本件の準備に適当と判断されたらその金はこちらで持つ。モルトヒルには私も同行する。私はエルシード・レイファ。エルでいい」
 別室に集めた一同を前に、エルはそう言った。そして、ずり落ちた眼鏡をくいっと持ち上げる。やや神経質――というよりは、たいした気障なのかもしれない。

 「俺はラルフ。自由騎士だ。モルトヒルの惨状は捨て置けぬと思って触れに応じた。よろしく頼む」
 続いて言ったのは全身ミスラル製の鎧に身を包み、エルフの太刀を佩いた青年だった。金髪碧眼、輝くようなオーラを纏った好青年である。確かに只者ではない。
 「……まったくだ。ありゃあ、まずい。食えなきゃ人間終わっちまうしな。さすがに俺だって暢気なことばかり言っちゃあいられない。ああ、俺はリッキー。リッキー・デービスだ」
 応じて、何やら旅芸人風――というよりは遊び人風の男。南国の生まれか、褐色の肌に黒い瞳、黒い髪。本職は踊り手だという。確かに、しなやかな身ごなしには身に添えたふた振りの剣までも、ふと華麗な舞の小道具にさえ見せてしまうような何かがある。
 「オラはモルトヒルさいかなきゃなんねえだ!何しろオラの妹があそこで消息を断ってるだからな。だが、5年も前の話、足跡が見つかるかどうか……」
 次に話し出したのは純朴な田舎青年といったふうだったのだが、何やら言うことが微妙におかしい。どうやら行方不明の妹を探しているらしいのだが……

 「ありゃ、どう見たって妹が兄貴を嫌って逃げ出したように見えるけどね、どう思う?」
 やれ妹の足跡を追うためにレンジャーになっただの、妹の部屋の鍵を開けるために鍵開けを身につけただのと滔々と喋り続ける純朴風青年――名前はレナルドことレナンフィルド・フュームで、どうやら腕利きの射手らしいということはその怒涛のようなおしゃべりの切れ端からわかった――にやや呆れ気味だった青年――というよりは、やっと大人になったばかりといった風情の子供のような若者――は、隣に立っていたペイロア神殿から派遣された司祭だという女から話しかけられて我に帰った。
 「いや、まったくだ。っていうかありゃ何だ」
 「何だもへったくれもないだよ!!オラのレンは世界一可愛い女の子だ、何かあっちゃあいけねえ、オラがちゃんと見ててやらないと……」
 それをどうやら遮って、自己紹介をする。というかオマエが見ているのが一番危ないんじゃないか、というのは一応ハラの中に飲み込んで。
 名前はレイン。『漆黒の』レインといえばこのあたりではちょっとは名が通る。本職?……「ギルドの人間」だよ、ちょっと裏っかわの、ね。そういって額にかかった金髪をくしゃりとかきあげる。すると最後に残った女が口を開いた。
 「それじゃ私で全部だね。ブランシュ・ローレンス、ペイロア神殿から寄越されてきた。……ああ、準備にもう少し資金が下りるというのなら、先に言っておかなきゃいけないね。うちの神殿長様がお伺いを立てたところ、お告げがあった。今度の災厄にかかわりがあるのは邪竜に不死者、それに目玉だそうだよ」

 え、と一同の顔がひきつる。構わずにブランシュは続けた。
 「それから、モルトヒルの災厄は今回が初めてってわけじゃない。300-400年前にも似たようなことがあった。そのときの原因はろくでもなく邪悪で不浄な魔法使い、こいつが魔物を呼び集め、瘴気を周囲に撒き散らした。そのせいで大地は力を失い、大気には毒が混じり、太陽の光は地に届かなくなった。結局その魔法使いは冒険者に倒されたはずだったが……具体的にどうしたんだかは覚えていない。何しろ私にここに来るようにと侍祭の阿呆が言って寄越したのが昨日だったものでね、調べ物をしようにも時間がなかった」
 「瘴気ってのは今回も同じだよ」
 レナルドが勢い込んで言った。
 「みんな気付かないだか?オラ最初っからおかしいと思ってただ。この街にもなんとなく、寒さと一緒に嫌な気配が漂ってるだ。こうしちゃいられない、レンの身が心配……」
 台詞がおかしなほうに曲がり始めたあたりでリッキーがレナルドの足をきゅうと踏んづけ、ではこれまでの情報をもとに各自準備を整えるように、とエルが言って、ひとまずは解散となった。


このシーンの裏側
posted by たきのはら at 18:36| Comment(5) | TrackBack(0) | 麦畑の英雄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

その1:モルトヒルの怪

 怪、といってもそれはなまじっかのことではなかった。
 害虫や害獣、そして魔物であれば退治のしようもあるというもの。しかし、大地と太陽にそっぽを向かれたとあっては、人にどう手の打ちようがあるというのだ。

 10月になったばかりというのに、モルトヒル――国でも有数の麦の産地であるそのなだらかな丘陵地帯はそう呼ばれていた――に雪が降ったという。しかも太陽と北風の気まぐれどころの話ではない。降り始めた雪はたちまち勢いを増し、今では村全体がすっぽりと雪に覆われてしまったのだそうだ。そういえば今年は夏の気温もあまり思わしくなく、麦が熟れるのも遅かった。雪に埋もれてすっかり腐ってしまうよりは、と、食べられるかどうか、いや、実が入っているかどうかもわからぬ麦を、降り始めた雪の中、村人たちは必死で刈り取ったのだという。

 これはいったい何に由来するものだ。そもそも何が起きているのだ。さらに怪はモルトヒルに留まるものではないかもしれぬ。放っておけば国中が雪に覆われるのかもしれぬ。いや、そこまで行く前にも、有数の穀倉地帯が潰えたとあっては、翌年からの穀物の価格の高騰は明白、そしてこれが続けばいずれは飢饉へと発展するやもしれぬ。
 国王は急遽、触れを出した。
 ―モルトヒルの惨状の謎を解いたものに恩賞20万gpを与える

 国の正規組織はほとんど動かせなかった。なぜなら国の南方からゴブリンの部族が攻め寄せてきており、やがて来るかも知れぬ飢饉よりは当面のゴブリンに主力を傾けざるを得なかったためである。モルトヒルにとってさらに不運なことに、この触れに応じたのは冒険者と呼ばれるような山師たちのうち、実力と山っ気の差がもっとも歴然としているものばかりであった。どこに糸口があるとも知れぬ穀倉地帯の天変地異よりは、ゴブリン討伐隊のほうが実入りが良い――腕に覚えがあって血の巡りが真っ当なものはほとんどそのように考えたからである。

 とうとう国王はモルトヒル周辺地域の小領主、各神殿、そして種々のギルドにも内々に触れを出した。
 ―モルトヒルの怪を放置しておけば、いずれは国を滅ぼす災いになるやもしれぬ。この謎を解こうとするものに援助を惜しむな
 そしてそれぞれの組織も謎を解くよう努めよ、とその触れは結ばれていたのであった。
 そして……

 
 「まったくここの田舎役人どもときたら書類の扱い方もろくに心得ていないと見える、ええい、なんだこの人の列は、みっともない!!」
 「中央からわざわざ派遣されてきたエリート貴族」ことエルシード・レイファはこっそりと吐き捨てた。
 モルトヒルに程近い都市の片隅に設けられた冒険者登録所に放り込まれて数日。見所のある冒険者が来たら上手いこと隊を組ませ、その上で彼らと共にモルトヒルに向かうように、との領主様直々の文書に送り出されて来てみれば、登録所に来るのは浮かれ気分の駆け出しか、そうでなければゴブリン討伐隊での軍隊生活などとてもできないからここに来たというようなひねくれ者ばかり。しかも登録所を預かる小役人どもは新たな上司を一応は立ててくれるもののろくに動きもできないものばかり。

 いい加減うんざりする仕事ではあったが、一週間も詰めていればなんとか4-5人は使えそうなものも集まろうというもの。さらに週の終わりになって、ペイロア神殿から司祭も派遣されてきたというので、ようよう「モルトヒル対策選抜部隊」の結成と相成ったのだった。


このシーンの裏側。
posted by たきのはら at 18:06| Comment(2) | TrackBack(0) | 麦畑の英雄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『麦畑の英雄再び』前口上

 ええと、たきのはら、久々にまともにD&Dセッション遊んできました。
 事の起こりはDACの打ち上げでDMをやってくださった腐爺さんから「今度スタッフの皆さんもセッションやりましょうよ」とお誘いいただいたこと。それがいよいよ実現、ということになって、ほくほくと遊びに行ってきたのです。

 で、事前準備ということになり示されたレギュレーションを見て、ちょっとどうしよう、と思いました。
 PCは10Lv。40pt-buyで作成。使用ルールブックはD&D3.5版であればなんでもOK。所持金は66,000gp。……えーと、なんかめちゃめちゃ強そうですよ?ていうか「ルールよくわかってなくてまともに動けないのが悔しいから『1レベルから始めようキャンペーン』とかやってます」とかいう人間が行っていいんですか?シナリオのキーワードは邪竜に目玉に不死に非実体……あの、大丈夫なんでしょうか???

 ともあれ、まぁ、自分がハンドルできるPCを作って持っていけばきっとどうにかなるに違いない、と腹を決め、「葡萄作りの村の司祭様をやりますー」などとのんびりしたことを言っておいてPC作成開始。まぁ司祭様やるっていうんだし10Lvからできるって言うんだから、今までずーっと「眺めているだけ」だったComplete DivineとかBook of Exalted Deedとか使ってみようかなぁ。とにかく自分のできることとやるべきことさえアタマにたたっこんでおけばなんとかならないこともあるまいし……

 ……あの。
 信仰本とか善本とかって、使う気で読むと何だか無茶なこと書いてあるように見えるんですけど(いや、いままで、あの手の本は「まだ自分には扱いきれないものである」と思い決めて眺めていたんで……)。
 ていうか、「不死とか非実体とか言うんだったらペイロア司祭様だよね……」とか言いながら選んだRadiant Servant of Pelorって何やらむちゃむちゃなんですけど。いやいやこれは私がルールを読み違えているせいに違いない。世の中そんなに都合のいいことばっかりあるものか。

 とかなんとかアタマをひねりつつ、あちこちから入れ知恵をされつつ、あれこれいじっていくうちに。
 当初の「おっとり穏やかで、支援呪文とキュアに特化、あ、迷える魂を浄化する仕事もやります」というコンセプトとは似ても似つかない暑っ苦しい鉄火な姉御肌司祭様が。……なんでこうなったんだろう……(まぁ、結果的には支援に関しても相応にワークしたんで問題はないはずですが)。

 まあその、PC作るところからゲームですね、ホントに♪あと、Divine系の人たちに関する認識がちょっぴり変わったような……てゆか、フレーバーからではなく、「いかに使うか」ということを考えてあの人々を眺めると……ちょっとなんだかアレな感じかも。信仰心って怖いです。ええ。

 ともあれ、そんな感じでできたキャラを連れて行って遊んできました。当初の心配とはうらはらに、ちゃんと動けたし、他の人たちの動きはすごく勉強になったし、何よりえらい楽しかった。でも、高レベルに関してはもっときっちりルール読み込んでから、また遊びたいですよ。

 しかしまぁ。
 今回真面目にDMの殺意を感じましたよ。あと神様のご加護が大事ってのも実感したかも。
posted by たきのはら at 16:41| Comment(8) | TrackBack(0) | 麦畑の英雄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。