2005年10月24日

シリーズ第6回『公衆衛生狂騒曲』目次

 というわけで、第6回目次です。
 今回はたきのはらが参加できなかったため、レポーターはなおなみさん、章分け・章立て・裏側のみたきのはらでお送りしました。

 あううう、何かやっぱり参加しなかった回のレポートを見てると、なんともこう切ないものがありますよ。
 というわけで、次回はきっちり参加予定。キース君にお会いするのがたのしみですー♪

その1:プロローグ
その2:野火のケシュ
その3:キース・ライトブレード
その4:地下室に居るもの
その5:情報収集に必要なものは。
その6:研究者達の陰謀
その7:ドブさらい浚い。
その8:危険な研究室
その9:教授会談

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シリーズ第6回『公衆衛生狂騒曲』その9:教授会談

 ハンス教授の部屋を訪ねると先客が一人。変成術学科のオルドロン教授だ。
 彼はハンス教授と何事か話していると、ウィチカたちに気づいたのか顔を上げた。
 「オルドロン教授、お久しぶりです。ウィチカ・ロックフィールドです。以前の黒い氷の採集の件ではいろいろとお心遣いいただきまして。」
 挨拶もそこそこに、ハンス教授にお話があるのですが…と視線を投げるが、場所を譲るだけで部屋から出る気はなさそうだ。

 下水の状況を報告し金1000枚と引き換えに回収した首と本2冊を出す。本が出た所でオルドロン教授が興味を示した。おお、この本だよ。いや、ありがとう。あ、その研究ノートはトラップだから君にあげよう。盗難よけになるよ。と一気にまくし立てる。

 「オルドロン教授。元は変成学科の施設にあったものとはいえ、この本は彼女たちが回収してきたものです。現在の所有権は彼女たちにあるのでは?」
 「ハンス君の言い分もいちいち最もだね」

 さて、とハンス教授から向き直りウィチカ達の前に歩み寄る。

 「この本をいくらで売ってくれるのかね? 」

 とりあえず3で割れる数で、とか中を見せるのはなんかやばそう<( 見せたら中身そっくり覚えて「や、勘違いだったよ」と二束三文で買い叩かれるのでは!?と私思っていたのですが…被害妄想か?)と打合せしつつ、

 「中を見せてくれるなら、1万以上出しても惜しくないね」
 「そうですね。中を見せないで1万とは申し上げにくいですね。9千でどうです?」
 「それでは6千」
 「7千5百」
 「…ウィチカ君。君は魔法屋を営んでいるそうだね。私が学術会の方に紹介して…」
 「7千5百!」

 ふんと鼻息をはくと、硬貨では量があるから宝石でいいかね。と、1000金貨相当の宝石6つと500金貨相当の宝石3つ。両替用にと750枚の金貨を目の前に置いた。
 オルドロン教授がほくほく顔で本を抱え退出しようとした所、キースに言われサンプルXというビンが割れており、中のウーズがいなかったことを告げた。

 その報告を聞いた瞬間オルドロン教授、ぴたりと足を止めて振り返る。いわく言い難しな雰囲気で微妙に眉間に寄った皺が少し考え込むようにぴくぴくと動き、で、決心したかのように一呼吸。

 それを見た瞬間、ハンス教授とウィチカの顔に「しまった」という表情が浮かんだのだが。
 で。

「君たちは、粘体いわゆるウーズと一般に呼称される生命体について知っているかね?
 ああ、別に答えんでよろしい。代表的なもので言えばグレイ・ウーズ、オーカー・ジェリー、ブラック・プディング、そしてゼラチナス・キューブだろう、研究者によってはこの分類にグリーン・スライムを含めるものもいるな。
 確かに、自律行動能力らしきものが貧弱かつ個体の大きさがあまりにも他と違いすぎるゆえ、グリーンスライムは別物という意見は最もだ。イエロー・モールドやブラウン・モールドといったカビ・菌類の分類に含めるべきともされている。しかし、グリーンスライムはその根本的な繁殖・栄養摂取様式においてウーズ類に近い、いや、ある点においてはむしろ超越し……。

 何の話であったかな。おお、そうだウーズ類の話だ。

 周知の事実ではあるが、この次元界で最も強力な酸はウーズ類の分泌する酸だ。およそすべてのウーズは有機物および生命体由来の構成物を数秒で溶解する強力な酸を分泌しその溶解物を持って栄養とする。最も弱いオーカージェリーの酸でさえ人型大の動物を数分でかたちを失わしめ、ブラック・プティングに至っては鋼鉄はおろか、ミスラルやアダマンティンといった擬似魔法的鉱物まで溶解する。それらをとどめておけるのは石材のみであり、ゆえにこの大地が巨大なウーズになっていないのだ。仮にそうなっていたならこの大地はまさしくウーズに飲み込まれた巨大な混沌の塊となったろう。

 そこに、われらの目的はある。

 四大元素力の分化は乾湿軽重によって行なわれたが、第一物質界拘束則、すなわち元素の付加逆性の支配下では分化以前の世界物質すなわち“原初物質”を得る手段は見つかっていない。地水火風の諸元素を混合溶融させようとしてもマグマ、煙、泥土、氷といった複合元素が形成されるだけだった。
 だが、ウーズによる溶融は異なる。すでに述べたとおり、ウーズはほぼすべての物質を溶融し己と同じウーズへとすることができる。
 この働きにおいて顕著なのが先ほど述べたグリーン・スライムだ。グリーン・スライムこそは我々の求める真のウーズといえるかもしれない。なぜなら、グリーン・スライムは対象を溶解し、そして“同化”させる能力を持つからだ。他のウーズのもたらす単なる溶解とは異なり、この同化作用こそ物質界の存在が混沌の諸相を得た姿であると言える。
 つまりだね、ほぼすべての物質を溶解できるウーズ(石材に関してはまだこれを溶解する種は発見できていないが時間の問題だろう)、そして溶解した対象を同化するグリーンスライムの研究によりわれらはこの宇宙が物質的に形成されたときの様子、原始宇宙のモデル・複製となる物質“原初物質”を作り出すことができるのだよ!

 ウーズを知ること、理解することは宇宙を知るということだ。知っているだろう。なに、初耳だと私の講義を聴いていたのかね君たちは。いや、話したのであったかどうか……。
 まぁよい。いまここで改めて知っておきたまえ。

 ああ、ゼラチナスキューブの理由かね?

 これは粘体の中では珍しく比較的堅固な体組織を形成する。他のウーズが粘液だまりめいた外見である一方、場合によっては10フィートを超えるまで成長することがある。だが、それゆえに他の粘体と異なり壁や天井に張り付いて上るという移動様式が取れないのだ。したがって、穴の底に配置したときに自分のみの力では這い上がってこれない。ゆえに管理がラクなのだよ。
 さらに、個体調整する際にも、配置区画を整理するときにも、さらには単位体積あたりの浄化能は個体数に依存する以上、空間を最も効率的に利用できるその形状は最適なものだ。

 サンプルXは、この計画の次段階を見据えたものだ。研究途中ゆえまだはっきりとはいえないが、われわれはこのサンプルが捕食対象の“知識”“精神”といった物まで同化したのを確認している。さらには複数の対象の“知識”“精神”を同化したとき、それらがこのサンプルの中に同時に存在したことも確認されている。われらが目指した究極のウーズが求めるのが原初物質であるなら、このサンプルXが求める物は原初の世界精神。各精神体に分化する前のこの世界そのものの意識の源となった精神だ。そして、この二つが結合されたとき、我々の知る物質宇宙と精神宇宙が完全統一され我々は造化の神のもたらした秘蹟をこの手におさめるのだよ!」

 力強く言い切ったが、拍手が起きるわけではなく。それどころか露骨に胡散臭げなケシュの視線と目が遭ってしまったり。慌てて、そうそう、そのサンプルXだが担当研究者はリーズンスティーラーと名づけていたな、その内捕獲しなければならないかもしれないが、実験体だしガラスの中でしか生きられないだろうと言い残し退出した。

 オルドロン教授の靴音が完全に消えると、ふはーーーと深い息をはいた。
ハンス教授がよくファイアーボール分が不足しているというの…わかる気がするなーと思っていると
 「なんというか、いやな部分を見せてしまったな。これは俺のおごりだ」
 机の引き出しから3枚のチケットを渡す。
 「?これは??」
 「高級スパの無料券だ。ずっと下水での作業だったろう。それで疲れ流して来いってことだ」



このシーンの裏側。

シリーズ第6回『公衆衛生狂騒曲』その8:危険な研究室

 部屋には二つ扉があり、キースが〈聞き耳〉したところ左からポコポコと水音のような音が聞こえるとの事。中に入ると120フィートはある土管のような陶器のビンが並んでいて、目の高さに丸くガラス窓がはめ込まれている。先ほどのポコポコという音はこの土管から聞こえてくる。後ろには机が作りつけられていて、実験機材や本などが並んでいた。ケシュが『魔力探知』を唱えると、一冊のノートが微弱に光った。

 『魔力探知』の効果が続いていているうちに、右の部屋に入ってみる。こちらはベットが三つ並んでいる。寝室のようだった。
 こちらでもベッドの下のチェストと中の二つの品物に反応がある。チェストには鍵穴がないがこじ開けることができない。どうやらアーケインロックが掛かっているらしい。
 3人がかりでこじ開けてみて、駄目そうだったら箱ごと持ち帰るということになり、2人が手伝い、キースが何とか箱をこじ開けるのに成功した。中には着替えなどと一緒に反応のあった、巻物いれとノートが一冊出てきた。他にも〈捜索〉すると、もうひとつのベッドの下から、チェスとがひとつ。鍵をはずし中を開けると、ドワーフサイズの服と高品質のバトルアックスが一本、高品質のダガーが二本入っていた。

 続き部屋になっている扉を開けると、初めて入ってきた部屋と同じ作りになっていた。
 幸いコートは掛かっていなかった。一回りしてみて研究室に戻ってくる。改めて部屋を見てみるとポコポコ云う陶器にビンにはドラゴン語で右からグレイウーズ、ブラックプティング、オーカージェリー、と並び、サンプルXと書かれたビンが横倒しになっていた。中身は入っておらず割れたビンには粘液が残っていたが、残った粘膜の状態からは追跡するのは難しいとキースは断念した。ケシュは懐からイタチを出し、臭いを覚えさせていた。ウィチカもチューチューを取り出し覚えさせる(そいうえば霜に覆われた金属の筒もあった。ブラウンモールドと書かれていたが、どうやら氷の塔で生えていたのはこれだったらしい)

 さて、魔力の反応があるノートが二つあるわけだが…どちらかが罠なんだろうなあ。
 裏表眺めて、文字の羅列が無いことを確認すると、表紙を読んで見た。チェストの中に入っていた本は『その愛の綴り』とあり、研究室にあったほうは『研究ノート』と書かれていた。さんざん悩んだ末、どちらも開けずに学院に持ち帰ろうということになった。

 水門に近い方のせり上がり口を開けるため、部屋を移動しレバーで入り口を開けた。
 始めに見たときより何体か減っていた分だけ水の流れがよくなったのか水位が少し上がっていた。岸の近くに千切れたようないびつな形のゼラチナスキューブが引っかかっており中に人の頭のようなものが見える。遠くから棒でつつき中身を回収する。まだましな首だけ袋に入れ手で持っていくことにした。

 水門に詰まっているゼラチナスキューブも一体ずつ攻撃すれば急に水が出てこないだろうと、遠くから地道に倒してゆく。倒し終わってみれば水門の柵は圧力で曲がっており、キースが『雄牛の万力』の力も手伝って柵を戻すことができた。


このシーンの裏側。
posted by たきのはら at 15:37| Comment(1) | TrackBack(0) | 渡る世間は竜ばかり〜細腕繁盛記〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

シリーズ第6回『公衆衛生狂騒曲』その7:ドブさらい浚い。

 下水溝口から貯水だめの闘技場までは約200フィートといった所、それぞれ準備をし排水溝に入っていった。
 足元は瓦礫が多く足場がよくない。通れなくはないが走ったりはできそうにない。
 しばらく進むと前方奥に見える風景に違和感があるように気がした。それぞれよく目を凝らしてみると、通路がゼラチナスキューブで塞がれている。

 幸いゼラチナスキューブの移動速度は遅い。弓を射掛けながら後退してゆけば追いつかれることはなさそうだ。追いつかれること無く何本目かの矢で倒れてくれた。
 通路を抜けると、大きな空間に出た。闘技場のせり上がり口部分周辺の土地を除いて10フィート角で仕切られた仕切りの底にイソギンチャクのような繊毛のついたゼラチナスキューブが敷き詰められている。島は2フィートほど水面上にあり、せり上がり口のひとつが開いていた。

 島の対岸に下水が流れ込む格子があるがそこにゼラチナスキューブが4体つまっている。
 どちらにしても島まで移動しなければならないのだが、20フィートを〈跳躍〉で飛び越えるには無理がある。ヴェスタが逃げた際にゼラチナスキューブに捕まらなかった以上何らかの方法で移動していたはずだ。

 3人は〈捜索〉をしキースが隠しロッカーに、はしごとロープ、ショベルが入っているのを見つけた。はしごを掛け、安全のためロープを渡し島に上陸する。
 せり上がり口についていたタラップを降りると、作業着などを置いてある部屋に出た。
 工具類や日用品が入ったロッカーとコート掛けがあり、三つあるコート掛けのうち一着かかっていた。

 テレアキンが戻ってきているのかと思いウィチカがコートをつかむと、コートがひとりでに浮き上がり、ウィチカに襲い掛かってきた。掴みかかるすんでのところで、逃げ出し距離をとる。これはクローカーと云うものだったようで、コートに擬態して襲い掛かる化け物であったらしい。クローカーは『鏡の虚像』を唱えたように虚像を作ったり、うめき声で相手を昏倒させたりするので、なかなかダメージを与えられない。だいぶ善戦したがあと一歩のところで逃げられてしまった。


このシーンの裏側
posted by たきのはら at 15:28| Comment(3) | TrackBack(0) | 渡る世間は竜ばかり〜細腕繁盛記〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

シリーズ第6回『公衆衛生狂騒曲』その6:研究者たちの陰謀

 ハンス教授は苦虫を噛み潰した顔で下水についてのことを教えてくれた。
 そもそもこの下水のシステムは変成術科のウィザードのウーズの研究から始まった。貯水だめに溜まった汚泥を処理するためにドブさらい学名:ゼラチナスキューブをちょうど一匹囲う大きさの金属の仕切りを闘技場につくり、そこで溜まった汚泥は彼らの餌となり残った上澄み液を下水溝から流す仕組みを作り、闘技場の一角でウーズの研究をしているということだった。

 現在もウーズの研究は続いており、変成術学科のウィザード:テレアキン、ドワーフの助手ダング、最近小間使いに雇ったというヴェスタと云う男が行っているようだ。

 ヴェスタを保護していることを告げると、学院で彼の症状は治せるので連れてきなさいとのこと。判断力を回復したヴェスタはその時起こったことを話し出した。

 闘技場の一部をそのまま研究室として作業していたんだが、助手のダングと留守を守っているとき、自分の悪口が聞こえてきたような気がした。ダングもそうだったらしく、胡散臭く相手を睨んでいたが、お互い声を発していないのに声が聞こえることに気がついた。
 急に体長60cm位の小さな生物がどこからとも無く二人に襲い掛かり、引っかかれると身体が麻痺して動けなくなった。ダングが水門の扉を閉めようとした所から記憶が無く、いまここにいるといった状態らしい。

 聞いた話だけだとその生物についてはウィチカもケシュも心当たりがないなあと首を捻っていたが、ハンス教授はミーンロックではないかという。『次元の扉』を使い移動し、爪には麻痺の効果がある元人間だったもの…だという。

 「最近ファイヤーボール分も不足してるし下水溝に詰まったゼラチナスキューブ位すぐ排除できるんだが、この研究施設が変成術学科の管轄である限り力術学科の俺はおおっぴらに手を出せない。方々に口止めしなくちゃならんしな。
 変成術学科の方でも調査中だと言っていたが…対応がこれ以上遅れたら俺の所にお偉方から話来るんだろうなあ…」
 いやな感じにぶつぶつ物騒な事を言い出す前に、ウィチカは話を切り出した。
 「これ以上対応が遅れればウチの物件だって浸水確定ですしね。行きますよ。ただし蟲用の装備は支給お願いしますね」
 「で、いくら出るの?」
 「一人金1000だそう。で、これは独り言なんだが…ウーズを研究したノートが残っているはずなんだが、それがあると変成術学科の連中に恩を売ることができる。思った以上に給金が上乗せできるかもな。ま、独り言だ。その中身を書き起こしておくと俺の立場的に非常に優位になる…なんてことも独り言だ」
 「そうですね。そういえばテレアキンという人は?彼が動いてるなら…」

 独り言の部分は難しいのでは?という視線を感じハンスは鏡を取り出し何事かつぶやく。鏡には下水道で男が倒れているのが見える。この画像では場所まではわからない。身体には細かい引っかき傷が見られた。

 「あと学院街の衛兵にも私たちのことは言い含めておいてください。下水道帰りのナリで職質などされたくありませんし。では先生、失礼します」

 耐臭剤と防蟲剤、工夫のヘルメット(学院の紋章が入っているため返品すること)をもらい明日の早朝、第二城壁下水溝口に集合と決め解散することになった。


このシーンの裏側。
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シリーズ第6回『公衆衛生狂騒曲』その5:情報収集に必要なものは。

 なんにせよ下水の臭いやらジャイアントコックローチが出した臭い(これが一番強烈だったと思う。吐き気を伴うものすごい異臭だった)やらをプンプンさせたまま〈情報収集〉するには酷なので一同は公衆浴場に向かうことにした。
 普段使っている浴場へ行こうとすると、人だかりができている。
 みるとマンホールから下水があふれ辺りを水浸しにしていた。
 下町の下手城壁側の建物は1階が徐々に浸水しているので、避難してきた住人などが溢れ返っていて通りは混乱していた。行こうとしていた公衆浴場は下手城壁の近くだったので、かなりお高いが山の手の公衆浴場に行くことにした。

 山の手方面の公衆浴場で〈情報収集〉を試みるがあまり芳しい結果は得られなかった。ケシュがケイヴァーの連中が集まる酒場の場所を聞き出したので一向は酒場・ひねくれショベル亭へと向かった。

 ひねくれショベル亭は看板にへし曲がったショベルが立てかけている。山の手よりの位置にしてはとても親近感の持てる店構えだった。店の喧騒が扉越しに聞こえてくる。しかし、喧騒というよりは言い争っているような。
 扉をあけるとドワーフ、ノーム、ハーフリング…にしては目つきの鋭い屈強な厳つい男たちが一斉に振り返る。カウンター奥の店主が、
 「ここは香油の匂いをぷんぷんさせた、コギレイな奴らがくる店じゃねえぜ」
というと酒場の客が哂い出す。むっとして「この店に用があってきたのよ」と前にでるウィチカの肩口から「彼らに振舞ってくれ」とケシュが店の親父に1PP硬貨を放り投げた。
 店主は投げられた硬貨をひとしきり確認すると、奥から一樽持ってきて「おめぇら、こちらの旦那のおごりだとよ」と錫のジョッキで蓋を割った。

 彼らの話から、下水への探索は上のほうからストップが掛けられていて動きたくても動けない状態であるらしい。その事は彼らの苛ついた様子からもわかる。ケイヴァー直属の施設は2件先の建物土木課(呼称)のクラークが取り仕切っているがこの時間じゃ建物はしまっているとのこと。

 バスラたちと合流する為、奇跡の庭から程近い所にある酒場・現金(げんナマ)亭へと向かった。彼らと落ち合い、分かったことは、

・下水からドブさらいが少なくとも5体出没していること。
・ヴェスタを含めて3名、同じ仕事についていた奴らがいたこと。
・彼らは食料を買いだして地下に向かっていたこと。
・支払いは現金一括。硬貨も全てぴかぴかの新品だったということ。
・3人とも何の仕事をしてるかは口外していなかったこと。
・下水を第二城壁下の下水溝に流す際、地盤がもろく沈んだ都市の通路を使用し、大きな貯水だめとして昔の闘技場を使っていること。

 このまま町での〈情報収集〉は難しい。学院につてがあるのはウィチカだけなので、一向は学院街の酒場・三度目の待った亭へ向かった。あいにくハンス教授は不在で、今日は研究棟にいると教えてもらい扉前にいる使い魔のカーに取次ぎを頼み部屋に入る。
カラスのカーが言うにはハンス教授もウィチカに用があるようだったが…


このシーンの裏側。
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シリーズ第6回『公衆衛生狂騒曲』その4:地下室に居るもの

 カラコロと扉を開けると、カウンターからキースと同じくらいの身の丈の女性が出てきた。
 「いらっしゃいませ。…えと、行商の方ですか?」
 背負子にわっさと香草の束を背負ってるのだから無理も無いか。
 キースはタムリスの友人だと告げ、薬草園の香草とウィチカに宛てた手紙をさしだした。
 「あら、アルテア行き違っちゃったわね。とりあえず荷物置いてくつろいで下さい。今お茶をお出ししますね」

 ウィチカが手紙を読んでいる間、出されたお茶を飲んでいると、階下から物音と人の声がするので2人で地下に降りていった。

 物音は隠し部屋のあった棚から聞こえてくる。壁の向こうからは「跳ね扉が開かない」と何人かのあわてた声が聞こえる。何かに追われているようだったので、キースが扉を塞いでいた木箱を退かすと男が4人飛び込んできた。
 ウィチカが跳ね扉を閉めようとするが掛け金が外れているのか扉が閉まらない。
 相手がウィチカが押さえていた扉を押し開ける。男達を追っていたのは1.5mのジャイアントコックローチだった。通路はおろか天井にもにひしめいている。

 中に入ろうと扉前のジャイアントコックローチが異臭を放つ。中に入ってきた男の一人が悪臭に耐えられずしゃがみこんだ。ウィチカと入れ違いに移動してきたケシュが炎で扉前の敵を威嚇し、バスラが扉のそばのスイッチを押し掛け金をかけるとキースが木箱で扉を防いだ。しばらくコックローチは扉を押していたが、しばらくすると諦めたのか音はしなくなった。

 「で、あなたたちはなんなのかしら?」
 疑わしげな目で扉から出てきた男たちを見回す。
 「いや、我々は衛生委員会のもので…」
 「嘘だな」
 キースが男たちの動揺を〈真意看破〉で見破る。
 「そこのあなた。扉を閉めるとき私も知らないボタン押したわよね」
 「いやそれは…」
 この場所で長々話し込むには耐え難かったので、店に移り事情を聞くことにした。
 男たちは前の借主・カシュクールと面識があるようで、物入りの時には先ほどの扉から出入りをしていたということがわかった。ダイアラットが入ってくるなんておかしいとしきりにアルテアが言っていたが、人がくぐれるだけの扉が開いてれば納得だ。

 でかいコックローチが出たりドブさらいが出ているのも学院の連中の仕業に違いないとケシュは断言していたが、雨が降ると側溝に虹が出てたり何かやばい物が流れていそうな気はするので、強く「そんなことはない」と言い切れない。
 話を聞いている途中、様子を見に来た貸し本屋のボンバルが彼らにいらんちょっかいを出し、大家のメルラさんが来て、若い娘の家にならず者をあげるとは何事か!?と1時間ばかし説教されるなど色々あったにもかかわらず、彼らが連れてきた病人のような男はそのままうわ言をつぶやいていた。

 男(ヴェスタと云うようだ)の服装をよく見ると下水で薄汚れているがかなり上等の生地で仕立てられた服を着ている。仲間が持ち物を調べてみると蟲よけ剤、耐臭剤など下水での作業に必要な装備をしていることがわかった。
 なによりウィチカが気になったのは工夫用のヘルメットに見間違いようも無い学院の紋章が刻まれていたことだった。薬の入っていたビンも学院で使う器具と酷似している。

 仲間の話によると最近ヴェスタは新しい仕事を始めたと公言してたようだが仲間内でも何の仕事をしてたかは知らないようだった。バスラはヴェスタの仕事について情報を収集したら奇跡の庭で落ち合おうと言い残し勝手口から去っていった。



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シリーズ第6回『公衆衛生狂騒曲』その3:キース・ライトブレード

 レンデは首都トルスッガ=スガから2日ばかりの所にある森に囲まれた町。
 その森に近い酒場のテラスでタムリスは人を待っていた。
 足元にいた氷雨がふいと顔を上げる。タムリスの席が人影で陰る。
 「あんたと会うのも随分と久しぶりだが。しばらく会わぬうちに、やつれたな。キース」
 「色々あってな。その事はおいおい話すよ。君に頼みがあるんだ」
 キースはぽつぽつと自分に起こった出来事を話し始めた。タムリスは神妙な面持ちで話を最後まで聞くと深い息をはいた。

 「死人狩りと呼ばれたあんたがなあ。傷のほうはもういいのか?」
 「ああ。だが身体が以前のように思うように動いてくれなくてな。
 今の私では君にも敵わないだろうな」
 「よしてくれよ。あんたは…俺の目標だったんだ」

 その言葉にはあいまいに笑い、キースは野外での生活が今の状態では難しいので人里でレンジャーの雇い口はないかと切り出した。
 タムリスはしばし考え、
 「そうだな。私の古い友人の娘がロバを連れて商いをしているんだが。今も同じ仕事をしていれば、レンジャーの雇い口位は心当たりがあると思う」

 彼女に宛てた手紙と薬草園で採れたという香草を背負い、キースは タムリスの古い友人の娘に会うためエンドゥーガルダへと向かっていった。

 エンドゥーガルダは二重の城壁に囲まれた街で、この地方には稀な魔法使いが都市を治めている。街道筋からは城壁の向こうに魔法使いの塔が立ち並ぶのが見える。第二城門をくぐると近くの川を引き込んだ水門が二つ、粉引きの水車らしきごとごととした音や、田園が第一城門との間に広がっている。第一城門をくぐると下町の方に歩いていった。

 しばらく歩くとひときわ賑やかしい通りに出る。そこには老犬が道の真ん中でのそりと伏せており、大八車や人々は悪態をつきながらよけて通っている。

 老犬にどいてくれないかと〈動物共感〉で話しかけるが失敗。それを見ていたはなたれ小僧がたまねぎの皮を投げつけはやし立てる。流石にゴミを投げつけるのは何事か!と説教しようと鼻を拭いてないほうの手を掴むと、「びーどーざーらーいー」と大泣きされる。

 その泣き声を聞いて出た来た住人は小僧とキースを見比べると、「なんだ、またあの小僧か」と三々五々散っていった。出てきた住人の一人を呼びとめ、ウィチカ・ロックフィールドの店はどこかと訪ねる。
 男は引きつった顔であのロバの荷台に天秤が乗っかっている店だと教えると、そそくさと自分の店(看板から察するに貸し本屋らしい。)に入っていった。


このシーンの裏側。
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シリーズ第6回『公衆衛生狂騒曲』その2:野火のケシュ

 エンドゥーガルダには高台に位置する町を治める貴族や魔法学院のある《山の手》、倉庫街や問屋(ウィチカたちがいる冒険者小路は問屋街の一角になる)貧民層がある《下町》という区分が東西を別ける大道を境にはっきり分かれている。その貧民層の水場のひとつに奇跡の庭と呼ばれるところがある。曰く、盲目の乞食が目を開けて貨幣を数えていた。曰く、足萎え立って歩いていた。曰く、窃盗で捕まった男が平然と歩いていた……。とまあ後ろ暗い輩には過ごしやすい場所のようだ。

 野火のケシュのもとにイザリのバスラという男が「センセイ、急患だよ。仲間の様子が変だからちょっと見てくれよ」と駆け込んでくる。
 バスラとは雇われている盗賊ギルドの連中で面識はある、支度をして仲間が倒れているという下水道に向かった。だいぶ溜まっていた飲み屋のツケを払ってくれるというのだからまあ、営業時間外だが往診に応じようというものだ。

 盗賊ギルドは下町の下水道を熟知している。ケシュも大道近くまでの下水道は移動したことがあるが、道は入り組んでおり、所々貯水溜まりが干上がってできた空き地をギルドの連中は溜まり場として利用していた。
 しばらく下水道を歩くと溜まり場に案内される。そこには4人の男に囲まれて、白目をむいた男がうわ言をつぶやいていた。
 往診した結果、男の体は小さな引っかき傷がいくつかついており傷跡には緑色の分泌物が付着していた(見たところ爪による外傷だと思われる。
 ネズミなどの爪あとではないが何による傷跡なのかはわからなかった)ここで話していても埒があかないので、いったんギルドに戻ろうとしたとき、通路を見張っていた男がうぅとうめく声が聞こえた。その場にいたギルドの一人が異変に気づいた。
 「なあ、見張りのあいつ。様子が変じゃないか?」

 見張りの男はゆらゆらと、踊るように揺れている
 「ありゃあ、…っドブさらいじゃないか!何でこんなところに」
 「そんなこと言ってる場合か。捕まったら何も残らないぞ! 早くそこの扉を開けろ、逃げるぞ」

 ケシュが『蜘蛛の糸』を唱え一同は男をつれ溜まり場を後にした。
 扉を閉めると、下水をはさんで細い通路が続いている。
 「? いつもより水位が上がってないか?」
 急に上がった水位をいぶかしみながら先に進むと、小さくカサカサという音が聞こえる。揺れる明かりに油を落としたようなぬめりとした光沢と、周りを感知するように触覚が動く。数は1.2.…7体以上。
 方向は背後か斜めの合流の奥からかは判別できないがまだ、遠い。
 合流地点で2手に別れ近場の出口から外に出て、また落ち合おうということになった。合流時点を過ぎてしばらく後ろで悲鳴が聞こえる。
 捕まったか?!

 カサカサという音はだんだん近づいてきている。足を止めるわけにはいかない。
 「センセイ!この近くにカシュクールの家の隠し扉がある。そこが一番近い!」

このシーンの裏側。
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シリーズ第6回『公衆衛生狂騒曲』その1:プロローグ

 季節は5月第2週くらい。ウィチカ達がロバと天秤屋を始めて1ヶ月が経ったころ、手紙を括りつけたルリカケスが入ってくる。手紙の内容はアルテアの師匠のホーソーンからのもので、タムリスが管理している薬草園で春積みの香草が咲きそろったので採りにおいでとのこと。

 大体2週間で帰るから(薬草園はここから片道5日はかかる場所にある)と言い残し、フェランをつれてアルテアは出かけていった。

 その間ウィチカは学院のつてで小間物仕事をしながら毎晩ぱちりぱちりと木製の玉をはじいては、台帳をにらみ続ける日々をすごしていた。それなりに回転しているとはいえ、費用は少しずつ赤字の金額が増えてゆく。
 まあ、始めからうまくいくわけもない。仕事が途切れてないだけでもありがたいと思わなくちゃ。

 机の上でがま口を開けると金貨が数枚チャリンチャリンと申し訳程度に落ちてきた。

 …今後の出稼ぎ用にスクロール書いときたいんだけど、ほんとに手元にこれしかないのかしら。お金の管理アルテアに任せてたからなー。
 現在いくら資金があるのかわからないのよね。
 はあ、とため息をつきながら『魅了する人』の巻物を書き終わると、玄関でカラコロとベルが鳴った。



外野から。
posted by たきのはら at 12:44| Comment(2) | TrackBack(0) | 渡る世間は竜ばかり〜細腕繁盛記〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

シリーズ第6回『公衆衛生狂騒曲』前口上

 さて遊んできました渡竜第6回!……と行きたいところなのですが。
 今回、ワタクシ急用につき参加できませんでした(滝涙)。
 せっかくメンバーが増えたのにー。ゲストも来たのにー。DMがわざわざモンスター用意してくれたらしいのにー(いや、これは思いっきり要らないけど)。

 というわけで今回のレポーターはウィチカPLのなおなみさん。裏側(および章分け・章立て)担当はいつもどおり私で。参加できなかった分、多少いーかげんなコメントが多めになっております<をい

 というわけで……
posted by たきのはら at 12:34| Comment(2) | TrackBack(0) | 渡る世間は竜ばかり〜細腕繁盛記〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年10月16日

「四人の勇者がよこしまな領主を討った話」目次

てなわけで。
3年8ヶ月前のセッションレポ目次。

というか、本当は目次もへったくれもないんですけどね(苦笑)

その1:事の起こり
その2:夏至の夜の怪
その3:サルバスの町にて

なお、このレポートの元になったセッションは、Dungeon誌89号掲載の“River of Blood”を使用して遊んだものですので、今後遊ぶ可能性のある方はお読みになりませんよう。
posted by たきのはら at 14:33| Comment(2) | TrackBack(0) | レポート目次(Tales of MiddleAges) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

四人の勇者がよこしまな領主を討った話(3)

ネタバレ注意!以下のレポートはDungeon誌89号に掲載の“River of Blood”を使用して遊んだものです。


 サルバスといえばそれはもう大きな町で、町のまわりの木々には罪人の死体が鈴なりになっておりました。これほど大勢の人を吊るしても、町にはまだまだ人がたくさんいるのですから、町の大きさもわかろうというものです。ドニエプルの岸辺には草ぶきの屋根や丸太屋根の小屋がいくつも、のきをならべています。川のおもてにはたくさんの小舟がもやってあります。この舟の持ち主である商人たちは、舟に毛皮や蜜蝋や奴隷を乗せて、北はノヴゴロドから南はキエフ、はてはローマの皇帝(ツァーリ)の住むツァリグラード(コンスタンチノープル)までも旅をするのです。町の通りは、朝も早いというのに人でごったがえしており、スラヴ人の声にまじってスウェーデン人、ブルガール人、ギリシア人、それにニェーメツ(ドイツ)人の声が聞かれました。

 まずはカリッツァにお目通りを願い、オリガ公妃を匿っていただかねばなりません。
 カリッツァの屋敷は丸木づくりの二階建てなので一目でわかりました。屋敷の前には樫の丸木を輪切りにしたものが鐘がわりにつるされていて、訴えをする者はいつなんどきであろうとこの鐘を鳴らしてかまわないという立て札が添えられてありました。
 司祭様が進み出て鐘をならしますと、でてきたカリッツァは一行の中に公妃の姿をみとめ、
 「おおオリガ、娘よおまえがどうしてここにいるのだ」
と声高に叫びました。
 「おとうさま、お聞き下さい。
 フセスラフ砦のフセスラフはよこしまな男で、夫あるわたくしを見初め、わたくしを妻にしようとたくらんで夫イーゴリをだまし討ちに討ってのけたのです。その上タタールの盗賊に語らってオボーツクを我が物にしようとまでしてのけたのです。今は家令のバヤンがオボーツクを守り、そうしてこの四人がわたくしを守ってこのサルバスまで送り届けてくれたのです。
おとうさま、お願いでございます、一刻もはやくあのフセスラフめを討ち取ってください」
オリガが涙ながらに訴えますと、カリッツァは頷き、
 「討ち取りに行くまでもない、フセスラフめはちょうどこのサルバスに来て商談の最中。
 奴にじきじきにことの次第を訊き、罪状が明らかなら即刻吊るしてくれようではないか」

 その言葉の通りに、すぐに兵士がフセスラフを連れてきました。カリッツァが問い詰めると、フセスラフはおお、そのこととうなずいて申し述べたのでした。たしかにわたしはイーゴリ殿を宴に招きもてなしたが、その席でイーゴリ殿が倒れたのはわが砦の強い酒を飲みすぎたためのこと、それより夫と慕うイーゴリが酒ののみすぎで倒れたからにはオリガはわたしと一緒に暮らすほうがしあわせというもの、お父上からも説いてもらえませんか。なに、タタールのならず者どもを使ってオボーツクに害を為そうとしたと。それはまったく知らぬこと、奴らの口車は人を乗せて崖縁へと転がり落ちるもの、ご用心ご用心。
 「娘よ、イーゴリはフセスラフの催した宴の席で酒の飲みすぎで倒れたのだそうだぞ。確かにそれはありそうなことだ。それにフセスラフはお前を妻として迎えたいと云っている。これにも一理のあることだ」
 「とんでもないこと、おとうさま。この男は大嘘吐き。わたくしは嫌でございます。誓って申しますが、この男はわたくしの夫をだまし討ちにしたにちがいありません」
 「となれば神前にことの是非を問うしかないが」
 カリッツァは困り果てた顔で云いました。
 「しかし娘よ、おまえは自分のために雷神ペルーンのみまえであかしをたてる代理戦士はいるのか」
はいいますとオリガは応え、妾めが奥方さまのために剣を取らせていただきますとヴァイキング娘が続けて云ったのでした。

 それでは他の訴えがないようならば今日の正午にあかしをたてよう。
 そう言っていると今度は一人の老婆がやってきて、屋敷の前の鐘を鳴らしました。そうして涙ながらに訴えて云うには
 「夕べは月の佳い晩でしたから、娘が散歩に出ておりますと、そこのならず者の中のひとり、その恐ろしい娘がこんな巨大な刃物を持ち出して娘をどやしつけたのでございます。かわいそうに娘は倒れて死んでしまいましたが、ならず者達はそれでもそこを立ち去らず、哀れな娘の亡骸を小突いてはさあ化け物め正体を現せなどと言い募ったのでございます」

しまった、どおりで姿が元に戻らないはずだ、そう魔導師が云いました。
 「きっとこの婆あの正体はバーバヤーガで、あの娘にも化けていたに違いない、そうでなければ、あの森の中にはほかに誰もいなかったはずなのだからこの婆あがこんなに詳しく様子を語れるわけがない」
 タタール人もいいつのり、そうして、
 「それじゃ妾はあの怪しい娘を殺し損ねていたのかえ」
 そうヴァイキング娘は悔しそうに云ったのでした。
 「妾としたことが。確かに脳天を真っぷたつに打ち割ったと思っていたのに」
 「おとうさま、その老婆の云うことを信じてはなりません」
 オリガ公妃も云いました。
 「わたくしたちが昨夜通って来た道は闇夜より暗い森の中、そこを尋常の娘があるいているはずがございません。それにその娘とやらは鶏の一本足に乗った小屋の中から出てきたのでございますもの」
 「おお、おお、姫様までなんということを」
 そう老婆は云いました。
 「これを、この姿を見てもそんなことをおいいでしょうかねえ」
 そうして指し示すほうには、頭を無残に割られた娘の屍骸が横たえてあったのです。それをひと目睨むや、すぐに司祭様が大声で言いました。
 「おお、屍骸がある。では私どもの剣士はみごと化け物を討ってのけたのですぞ。その娘の屍骸は藁人形か何かに違いありませぬ」
 これまた一向に埒があかないので、これも神の御前に是非を問うことになったのです

 「化け物め。いつでもかかってくるがいいわえ、すぐさまお前の娘とやらと同じ目にあわせてやろうから」
 ヴァイキング娘はちっともためらうふうを見せずに叫びました。それで、すぐに神の御前で試合が行われることになりました。誰かこの婆のためにあのならず者と戦ってくれる勇者はいないのかと老婆は泣き叫びましたが、だれひとり応じる者はありません。なにしろオリガ公妃までが老婆はおそろしいバーバヤーガが化けたものだと云うし、なによりヴァイキング娘が、娘だてらにそれはもう呆れるほどの大剣を振りかざして突っ立っていたからです。
 「まったく、なんという情け知らずの腰抜けどもだろう!!」
 そう老婆は叫びました。
 「こうなっては仕方がない」
 そうして身の毛もよだつ骨の一本足の姿をあらわし、いきなりとヴァイキング娘に飛び掛ったのでありました。広場をとりまいていた多くの観衆が悲鳴をあげ腰をぬかして倒れました。魔導師さえもがぎゃっといって震え上がり、その場に腰を抜かしたほどですが、北の荒海でもっとたいがいな化け物を目にしていた娘はびくともしません。老婆は一声叫ぶと、ものすごい左右の爪でヴァイキング娘の目玉を抉り出そうとします。血だらけになりながら娘は一歩も引きません。とうとう老婆は散々に斬りたてられ、悲鳴をあげて臼を呼び、臼に乗りほうきで跡を消しながら飛ぶように逃げ去っていったのでした。

 化け物を追い払ったので、次はフセスラフと戦う番です。

 なに、こちらは間違ったことはひとつもしていない、であるから神の御前に進み出たところで何ひとつ恐れることはないと司祭様は娘にいいました。もっとも力ある神を奉じるこの私が言うのであるからして、雷神ペルーンもそなたを正しいと認めるであろうよ。
 そうして祈りを捧げますと、バーバヤーガの爪で血を流した娘の傷は、瞬く間に癒えたのでした。その奇跡を見て、広場を取り巻く人々は口々に、嘘吐きに奇跡が起こるはずはない、試合をするまでもない正しいのは公妃さまのほうに違いないとささやき交わしました。対してフセスラフは、どの神が一番よいものであるかはキエフ大公がお決めになることで、そうして大公は今、多くの司祭の言い分を聞き比べているところ、ユダヤの神が雷神ペルーンよりよい神であるかどうかなどわかるものかと云いましたので、カリッツァはそれもそうだ、そもそもこの町の神は雷神ペルーンなのだとうなずいて、このまま試合を進めるようにと告げました。

 そのころ、魔導師はいつも自分の手伝いをさせている烏を呼んで、フセスラフが陣取っている天幕の様子を覗いてこさせていたのです。烏が戻ってきて云うには
 「あのフセスラフめが連れている魔導師も、魔導師の手伝いのいぼ蛙もたいしたことはありません、私が覗いていてもそのあたりの烏との見分けもつかないのですから。
 とにかく、奴にはけち臭い魔導師がついていて、フセスラフに『雄牛の万力』の呪文を施しておりました。そのうえ、斬り立てられるようなら魔法でこっそり加勢するから、その隙にあの娘を斬ってしまえなどと申しておりました」
 「おお、それは容易ならぬことだ」
 魔導師と司祭様は口をそろえて云いました。
 「『雄牛の万力』の備えならわしにもある」
 「神の祝福も与えよう」
 「だが、試合中はもう何もしてやれぬぞ」
 「表立ってはな」
 「なに、おれがこっそり加勢する」
 そう、タタール人が云いました。
 「フセスラフの魔導師はまかせておけ」
 そうして駆け去っていったのは、おそらくフセスラフの天幕に忍び込む心積もりなのでありましょう。

 さて、いよいよカリッツァ公が主の座に着き、ヴァイキング娘とフセスラフはそれぞれに大剣を振り上げました。いくらも打ち合わないうちに、ヴァイキング娘は自分を眠らせてしまおうとする力を感じました。ほかにも次々と目に見えない邪魔が娘に襲い掛かります。目の前のフセスラフがにんまりと笑っているのも見えました。が、もちろんそんなことでひるむ娘ではありません。それに、おお、魔導師の呪文と司祭様の祈りの力は確かに娘を守っていたのです。斬りあううちにフセスラフの顔色はだんだん悪くなってきました。タタール人がきっとうまくやったにちがいありません。天の恵みか、フセスラフが足を滑らせた瞬間に、娘が一声叫んで振り下ろした剣は、フセスラフの剣を折り、盾を割り、その脳天を砕いてまっぷたつにしたのでした。

 フセスラフが嘘吐きの報いを受けて死に、オリガ公妃の潔白がわかったので、それを祝って宴が催されました。フセスラフ砦はそのままカリッツァが治めることになり、オリガはカリッツァの兵士に送られてオボーツクに帰ることになりました。
 「あのよこしまなフセスラフが死んだのですから」
 オリガ公妃は云いました。
 「わたくしは安らかにオボーツクに戻り、バヤンと共にオボーツクを守ります。私の息子が立派な若者に育った暁には、オボーツクは息子のものとなりましょう」

 勇者四人は喜ばしい知らせを持ちかえるため、皆よりも先にオボーツクへ帰ることとなりました。
夜が明けるとすぐに四人はサルバスの町を発ちました。オボーツクへ戻る道は、明るい森の中を抜けていくのでした。おやおかしなことだ、昨夜はあれだけ鬱蒼とした森のはずだったのだがとタタール人がつぶやきましたが、ともあれ、夏至の宵にはどんなことでも起きるに違いないのです。ヴァイキング娘が脳天を砕いた森の娘の屍骸も、宴の最中に日が落ちたとたん藁人形の正体を現したのですし、藁人形が人間の娘の姿になって口を利くというほどであれば、森が少しばかり生い茂ってみたところで文句をいうにはあたらないのでした。

 そうして、森の中で四人の勇者達は奇妙な樹を見ました。
 ひょろひょろと伸びた幹の上にこんもりと木の葉が茂っている様子は、まるで鶏の足の上に小屋が乗っているようにも見えました。時折森を風が抜けるたび、ひょろひょろの幹はひょこひょこと揺れましたが、それはまるで小屋が跳ねて歩いているようにも見えました。

 やがて森が途切れ、丈高い草が海となって揺れる場所に出ました。
砦の影が見えるあたりまでやってくると、そこには狼に似た三つの岩が並んでいました。左右の岩は灰色、そして真ん中のそれは雪白でした。風と草の波に洗われて、三つの岩は草原をどこまでも走っていくように見えたのでした。



今回の舞台裏。
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四人の勇者がよこしまな領主を討った話(2)

ネタバレ注意!以下のレポートはDungeon誌89号に掲載の“River of Blood”を使用して遊んだものです。

 一行が思わず手綱を引くと、馬は棹立ちになって長く高くいななきました。すると狼たちは足を止め、そうして真白い狼が口を開いて云うことには
「おお! 私にとってはよい時に会った、あなたがたにとっては悪いときに会ったというもの、なぜなら夏至の日の日が暮れた今こそ、私は口をきくことができる魔もの、恐るべき冬の狼なのだから」
 その返事にはヴァイキングの娘が雄たけびを上げ、冬の狼に向かって真っ直ぐに馬を走らせました。司祭様は心得た様子で馬首をめぐらせ、いっさんに逃げ出します。なにしろ前にお乗せした大事の奥方さまを守らねばならないのですから。翻る法服の背にうっすらと霜が張り付きます。冬の狼が吼え声の替わりに、冬のさなかの平原を吹き渡る冷たい風を吐いたのでありました。
「無駄なこと、そのような風、氷の海に生まれた妾は馴染みすぎるほど馴染んでおるわえ」
 身体中に氷を浴びながらヴァイキング娘が言い返しました。そうして狼どもの背後からはタタールの戦士が、それはもうあきれるほどの勢いで討ちかかりました。
 「夏至の日が暮れようが暮れまいが、おれにはかかわりのないことだ。残念だったな」
 みるみるうちに冬の狼の輝くような白い毛皮は朱に染まり、狼はがっくりと前足を折って叫んだのです。
 「あなたがたは私をどうしようというのだ。殺すか、このまま行かせるのか。
 私を殺せば私の毛皮は市場で高く売れるだろう
 だが、私をこのまま行かせるというのであれば、よいことを教えてやろう」
 「冬の狼よ、お前の毛皮になど用はない。いったい何を教えてくれるのだ」
 魔導師が答えて言いました。冬の狼はこのようなときに言葉を違える魔ものではないことを、魔導師はよく知っていたのです。すると、狼は居住まいを正して言いました。
 「この夜はおまえたちにまどわしを見せるだろう
 見るものがそのままの姿であると思わないことだ」

 狼たちと別れてさらに進むと、道は白樺の林へ入ってゆきました。林は次第に深く、いつしか鬱蒼とした森になってゆきました。木の葉は厚く葺いた屋根のように森を覆い、先頭をゆくタタール人が鞍つぼにぶら下げたカンテラから伸びる明かりだけが、危なげな道をどうやら照らし出すのでありました。
 と、タタール人が急に馬を止めました。
 「見ろ、なんと危ないことだ。これは去った年の戦の跡なのだろうなあ」
 森のなかの道いっぱいにぱっくりと落とし穴が口を開け、底にはくいにつらぬかれた髑髏が見えました。
 「明かりがなければおれもあの髑髏と並んで晒されていたところだ」
 そうして馬の首を少しばかり森の中に向けて進みだしたと思ったとたんに、一声の悲鳴と馬のいななきを残してタタール人の姿が消えました。はっとして見ると、道の脇には黒々と深い穴が穿たれており、そして道の真ん中に口を開けていたはずの落とし穴はきれいさっぱりなくなっているのでした。なんとしたことだと驚き騒いでいると、助けてくれと細い声がして、どうやら穴の縁にかかったらしいタタール人の指先が見えます。そこでようよう引き上げてやったのですが、可哀想に、タタール人が乗っていた馬は深い底に落ちて命を失ってしまったようでした。
 しかし急ぎの旅のこと、徒歩で行くわけにはいきません。仕方なくヴァイキングの娘が魔導師を自分の前に乗せ、タタールの戦士は魔導師が乗っていた馬に乗り換えて先を急ぐことにしたのでした。確かにこの夜はまどわしに満ち満ちているようでありました。

 林の中をさらに進むと鶏の足の上に乗った小屋が見えました。あれは話に聞く妖婆、バーバヤーガの小屋に違いないと魔導師が誰言うともなく呟きました。進んだものか、避けて森の中を通ったものか。遠巻きで相談するうちに、目の前で小屋の扉が開きました。
 中からはあかりをもった美しい娘が出てきました。娘は一行を見ると、にっこり笑ってこういいました。
 「緑の森は暗いでしょう、緑の沼はぬかるでしょう、旅のかた、どうぞ私と母親の小屋で休んでください」
 「とんでもない、娘さん。私どもは森には用がない。そうして私どもは先を急ぐのです」
すぐに司祭様が云いました。哀れな話だが、どうにもこの娘、神さまの祝福とは縁遠い様子に思えるのだよ。
 「それと申しましても、旅のかた、今夜は夏至の宵でございます。あやしのものどもが群れ歩き、打ち騒ぐ宵でございます。このまま森を行かれましてはきっと幾度も恐ろしい目にお会いになりましょう。短い夏の夜、少しばかり足をお留めになられたとて、道行きになんの障りがありましょう」
 「いや、お言葉はありがたいが我らはどうにも先を急ぐのだ」
 「それでもこのまま、あなたがたを暗い森にやったとあれば、私が母に叱られます。ではせめてご案内をいたしましょう。あやしのものどもの通らぬ道を」
そうして娘は司祭様と奥方の乗った馬のくつわを取りました。危ない、バーバヤーガの策略に違いないと魔導師がつぶやきました。そのとたん、ヴァイキングの娘はするりと鞍から滑り降り、森の娘の手をくつわから払いのけて云ったのです。
 「要らぬと申したではないか。人の云うことは聴くものだというに、化け物め」
そうして大剣を振り上げると、あっという間に娘の脳天を打ち砕いてしまったのでした。

 さて、では後はこの娘の正体を見届けるだけ。一行はぞろぞろと馬から下りて、娘の屍骸を取り囲みました。
 ところが脳天を打ち砕かれて死んだ娘は、いつまで経っても娘の姿のままそこに倒れているばかり。物の怪の正体をいつ現すかと眺めていても、いっかな埒はあきません。
 「もしや、この娘、死んだふりをしているのではないか」
 タタール人が言いました。
 「命があればこそ、いつまでも娘の姿なのだ」
 「それとも」
 と魔導師が言葉を継ぎました。
 「わたしたちはひょっとしたらずいぶんと拙いことを仕出かしてしまったのではなかろうか」
 そうしてヴァイキングの娘をじろりと睨みました。ヴァイキング娘は肩を竦め
 「妾の過ちだとでもお言いかえ。妾の剣が誤ったものを斬るはずがない。死体の姿が変わらないとすれば、これはもともと娘の姿をした化け物に違いあるまい」
 そう応え、それから馬に飛び乗ると魔導師の首根っこをつかんで鞍の上に引きずり上げました。
 「さて、随分と手間を食うたわえ。短い夏の夜、ぼんやりとすごしてよいはずがなかろうに」
 確かにその言い分は理に叶っておりましたので、皆馬に乗り、速駆けでその場を後にしたのでした。そして夜の残りには何ごともなく、一行は早朝、サルバスの町に到着したのです。

posted by たきのはら at 14:19| Comment(3) | TrackBack(0) | Tales of MiddleAges | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

四人の勇者がよこしまな領主を討った話(1)

ネタバレ注意!以下のレポートはDungeon誌89号に掲載の“River of Blood”を使用して遊んだものです。


 ロシアの子らがまだウォッカの蒸留のしかたも知らなかった昔のことです。
 ドニエプルの河沿い、キエフの都をすこしばかり北に外れた平野に四つの砦があり、それぞれを四人の領主が治めておりました。一番北の砦を治めるのはオハカル砦のオハカル、少し南、川がふた筋に分かれる場所を治めるのはオボーツクのイーゴリ、東の川沿いの砦を治めるのはフセスラフ砦のフセスラフ、そして河が再びひと筋になって海に注ぐ場所、もっとも大きなサルバスの町を治めるのはキエフ大公そのひとに任ぜられた代官、カリッツァという領主でした。西の川は昼なお暗い森に流れ込み、その森はというと怪物が出るともっぱらの噂で、勇敢な猟師でさえも踏み込むのをためらうという場所なのでした。
 さて、四人の領主たちはお互いにたいへん仲が悪く、隙さえあれば余所の砦を自分のものにしてしまおうと考えてばかりおりました。けれど、オボーツクのイーゴリは少しばかり頭の切れる男であったので、ある年の夏、カリッツァのもとに出かけ、その美しい一人娘を娶って帰りました。そうすればサルバスから攻められることはなかろうし、そこの婿になっておけばいずれよいこともあろうと考えたからです。
 やがて若い奥方は身ごもり、翌年の夏の始め、珠のような若君を産み落としました。祝いの席にはフセスラフ砦からも使者が口上を述べにやってきたほどです。その使者の顔を見て、イーゴリは驚きました。フセスラフ砦からの使者は誰あろう、領主フセスラフそのひとであったからです。
 「我らは長らく諍いをしてきたが」
 と、フセスラフは云いました。
 「諍いと祝いとはまた別の話だ。考えてみれば、わしはお主の婚礼の祝いさえしなかった。聞けば、先ごろは後継ぎにも恵まれたというではないか。それさえ知って知らぬふりをしていたのでは隣びととしての礼にも欠こうというもの。よって今日は祝いを述べにまかりこした。今日からはこれまでの諍いを忘れ、ほれ、お主とカリッツァ公が親戚づきあいを始めたように、隣人づきあいを始めようではないか」
 「それは願ってもないことだ」
 と、イーゴリは応えました。
 「諍いを繰り返してもなにもよいことはない。これからは隣人として共に栄えよう」
 二人は飲み、かつ食い、すっかり打ち解けたのでした。
 
 それから暫くしたある日、イーゴリのもとにまたフセスラフ砦からの使者がやってきました。使者が携えていたのは、夏至祭りの宴への招待状でした。先だっての宴でもてなされた礼に、こんどはフセスラフがイーゴリをもてなしたいというのでした。イーゴリは二人の供を従えて出かけましたが、その日の夕方、帰ってきたのはたった一人の従者と、そして死んで冷たくなったイーゴリのなきがらでした。
 驚き騒ぐひとびとに、従者は言いました。
 「どうか聞いてください。フセスラフはひどい男です。私たちが砦の広間に入っていくと、奴は山海の珍味を並べて私たちを手招きました。そして旦那様に杯をわたし、乾杯の辞を述べたのです。そこで杯を干すが早いか、おいたわしいことに旦那様は息を詰まらせて倒れました。お顔には紫の斑点が浮いてまいりまして、助け起こそうとするともう息をしてはいらっしゃらなかったのです。若いイワンが腰の剣を抜いて切りかかりますと、奴は大きなかなてこを取り出してイワンの頭をどやしつけました。それで、かわいそうに、イワンも死んでしまいました。
 そして、奴は旦那様のなきがらを私に寄越してこう言ったのです。
 『おまえはこの死体を持ってオボーツクに帰り、そして奥方にこの手紙を渡すがよい』
 と」

 さて、死んだイーゴリは、自分の身が守れるほどではなかったにしろ、頭の切れる男であったので、館には諍いが起こったときに備え、勇者を住まわせてあったのです。
 ひとりはタタール人の戦士。ひとりはヴァイキングの娘。ひとりは遠くギリシアからやってきたという魔導師で、いまひとりはユダヤの高徳の司祭様でした。
 魔導師はたいそう学のある男であったので、スラヴの文字も難なく解しました。
 「奥方に見せる前にわたしに手紙をよこしなさい」
 魔導師はいいました。
 「奥方のお心には毒なこともあろうから」
 まったく魔導師は正しかったのでした。手紙にはこんなことが書いてありました。
 『おお、美しい公妃オリガよ。夫と慕うイーゴリを亡くしてさぞや寂しかろう。わしも先の冬の寒さに連れ合いを亡くして寂しい。館の宝をすべて携え、このフセスラフの砦に来て暮らすがよい。もしいやだというのなら死ぬ支度をするがよい』
 魔導師が手紙を読み終わるか終わらないかのうちに、急に外でやかましくシンバルを打ち鳴らす音がしました。
 「大変だ、タタールの命知らずどもが攻め寄せてきたぞ!」
 物見台から見張りの叫ぶ声がしましたので、今度はタタール人の戦士が櫓によじ登りました。見ればたしかに荒馬を乗りこなした古強者が八人、館の門の前に寄せてきているのでした。
 「おおい、兄弟、これはどうしたことだ」
 タタール人は下の平原に向かって叫びました。
 「おお、フセスラフ砦の領主が色に狂って、オボーツクの妃を奪おうと領主に毒を盛って殺した。そして我らに金を寄越して、砦の財宝と妃を連れてくるように言ったのだ」
 「兄弟、おまえ、内側から門を開けて、我らを入れてはくれまいか」
 「そうしたらフセスラフからの金はもちろん、砦の財宝も兄弟九人で山分けとしよう」
 口々にそんな返事が返ってきたのでしたが、タタール人は首を横にふりました。
 「いいや、それはならん。おれはここの殿様には随分と世話になった。何しろこの冬の寒さに行き倒れていた命を救われ、今日まで飯と酒を存分に頂戴してきたからなあ。それよりはおぬしらが、フセスラフの首を取ってこないか。そうすればフセスラフ砦の財宝はおぬしらのものだし、ここの家令からもたんと礼が出よう」
 「いいや、ここの財宝と奥方を持たずに砦に戻ったら、今度は我らの首がなくなってしまう。残念だが兄弟、八人死ぬよりは一人死ぬほうがましだからな」
 「なんとまあ、わからずやな連中だ」
 こっそりと呟いたのは魔導師でした。
 「魔法の眠りに落ちて首を取られるがよい」
 そうしてなにやらぶつぶつとさらに呟くと、屈強の寄せ手のうち四人がたちまち眠りこけて鞍つぼから転がり落ちたのでした。これは危ないと引き上げる背中に、今度はヴァイキングの娘が呼びかけました。
 「かわいそうに、空手で戻れば首をなくしてしまうのだろう。だったら妾があの世まで道をつけてやろうかえ。首を持ったままにね」
 そうして強弓を引き絞り矢継ぎ早に矢を射掛けましたので、さらに一人が心臓を貫かれて転がり落ちました。
 こうして一度目の寄せ手は追い返したものの、このままではフセスラフの兵士達が大勢でやってきてオボーツクを踏み潰してしまうだろうことは、火を見るよりも明らかなのでした。

 「そこで、みなさまに相談がございます」
 四人を前に、家令のバヤンが口をひらきました。
 「このままではわたくしどもはすっかり死んでしまいましょう。そこで、お願いがございます。みなさまがた、奥方さまをお守りして、サルバスの舅どののところまで落ちて下さるわけにはまいりませぬか」
 「それでは、このオボーツクはどうするというのだえ」
 「奥方さまが無事に逃れられれば、舅どのは何の心掛かりもなくあのフセスラフめをぎゅうという目に会わせてくださいましょう。それまでは何としてでもわたくしめがこのオボーツクを守ります」
 「ほう、おぬしが。それで、何日くらいは持たせられような」
 「一晩と一日。それならばなんとかなりましょう」
 「サルバスまではどれほどかかるのだね」
 「今すぐ発てば明日の朝には着きましょう」
 「道は」
 「陸をゆくなら三つ。河を下るなら二つの道がございます」
 けれど、一行のうちに泳ぎを知っているのは北の荒海からやってきたヴァイキングの娘だけでしたので、河の道は取り様がないのでした。
 「しかたあるまいよ。陸の道を行こう。して、どのような道だね」
 司祭様が尋ねると、バヤンは肯いて応えました。
 「それでございます。まず河の東をゆく道は、タタールの命知らず、恐るべき盗賊どもの巣でございます。河の西を行く道は、森から迷い出てきた怪物どもの通り道でございます。河の中州をゆく道は、丈高い草の海、何が居るとも知れませぬ」
 「何かが居れば噂になるだろう。何が居るとも知れぬのならきっと何も居らぬのだ。中州が一番ましであろうよ」
 剛勇をもって鳴らすタタールの戦士がそう云いましたので、結局一行は中州の道をゆくことになったのでした。

 中州は見渡す限り、丈高い銀色の草の海でありました。馬に乗った一行の腰のあたりでざわざわと草が騒ぎます。日は傾き、草の海を泳ぎ渡るように馬を急がせる一行の影は、長く長く銀の波頭の上に落ちるのでした。
 「急いだほうがよかろうなあ」
 魔導師があまり愉快でなさそうな声で云いました。
 「こんなに急いで出立するとわかっておれば、門前の押し込みどもに魔法など使うのではなかった。一度唱えてしまった呪文は心から掻き消えてしまう。かてて加えてもうじき日が落ちる。夏至の宵はこの世ならぬものの祭り日だからのう」
 そう魔導師が言い終わるか終わらないかのうちに、草原に、まるでひとふきの強い風か、それとも足の速い船が過ぎた後のような波が立ちました。そうしてよくよく見れば、背の高い草むらを揺らすのは、風ではありません。一頭の白い狼と二頭の灰色狼が風のようにはやく駆けてくるのです。
 ちょうど大きな太陽が西の森に沈んでいました。

posted by たきのはら at 14:03| Comment(0) | TrackBack(0) | Tales of MiddleAges | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『四人の勇者がよこしまな領主を討った話』前口上

 ……本当なら今日は「渡竜」第6回のレポートをせっせと書いているはずだったのですが。
 なんということか、家人の急病のため、第6回は私はお休み。今回は新規キャラやゲストキャラも入って賑やかになるはずだったのに……

 ともあれ、第6回の顛末は、第7回の冒頭にでもダイジェストでお知らせしようかなと。第5回の最後でも書いたように、街中に暮らすのが苦手なアルテアがウィチカの「薬草園」に薬草の世話をしに出かけていたときにおきた事件だった、とでもいうことで。
 あうう、次回こそは必ず!!というか、遊べるはずだったのに、そしてここでレポート書いてるはずだったのに、って、どうにも切ないもんですね……

 で、悔しいので別のレポートをアップします。
 この話、遊んだのは2002年の1月半ばごろ。その頃はまだ「遊んだら即レポート」というパターンもできてなくて、でも、あまりに楽しかったのでレポートに起こしかけて、ところが書きかけのまま放置していたようなのです。ようだ、というのは先々代のPCのバックアップデータの整理をしていたら、とっくになくしたと思っていた書きかけレポートがひょっこり出てきたので。

 ……わぁ、こんなことやってたんだ♪、てのが半分。
 レポート書きかけで止まってるのがどうにも悔しかったのが半分。
 あと、「完全物語形式」というちょっと妙なことをやっていたのでこれで仕上げてみたかった、ってのがちょっと。

 で、危なっかしい記憶を掘り起こして(結構覚えているもんですねぇ)DMや他のPLの皆さんにチェックを貰って仕上げてみた次第。

 まぁ、楽しんでいただけたらいいなぁ、ということで。
posted by たきのはら at 13:57| Comment(2) | TrackBack(0) | Tales of MiddleAges | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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