2005年03月26日

後の日の物語2

 物質界に復活を目論んでいた"砂嵐"を斬り捨て、アリエン姫=エイリーノアからの求婚(即ち神格化)を拒んだ日から半月。

 俺――フレイ・ガーランドは壊滅状態に近いアクィラの復興作業に従事していた。――といっても特に職能がある訳ではなく、従って瓦礫の運搬作業程度しかできなかったのだが。
 半年前、初めて訪れた頃とは異なり、街並みはまだ瓦礫の撤去すら終わっていないところが大半ではあるが、街の空気は以前よりも軽やかに感じられる。恐らくは、人々の結束力が高まったせいであると思うのだが……。
 ともあれ、少なくとも復興作業が続く間は下らない勢力争い(などと言っては西方修道会を破門されてしまうだろうか……今となってはどうでもよいことだ)もなくなるだろう。
 これ以上、ここで俺が役に立つようなことがあるとは思えない。
 周囲の連中は、やれ英雄だの何だのと囃し立てているが、そのことが今後のアクィラにどれだけ貢献するかなど、考えたところで意味がない。既にアリエン姫が新領主、かつアクィラの守護神として動き出しているのだから。
 所詮、この身は他人を守る為に盾となり、そして自分を守る為に剣となることしかできない、それだけのものだ。仮初に身に付けた信仰の力など、一意専心に修練を積んでいるものとは比較にすらならない。俺はもう「神殺しの剣"浦波"」の所有者ではないのだ。

 「そろそろ頃合か」
 朝方の"山形"の一室にて、誰に語るでもなく呟く。
 これまでともに戦ってきた仲間達のことが脳裏をよぎる。皆それぞれの進む道がある。俺にもだ。そしてそれは必ずしも同じ方向ではない。ときに交じり合うこともあるだろうが、永遠ではない。
 それだけのことだ。

 荷物を纏め、カウンターに腰を下ろす。
 「いつもの朝食を」
 「あいよ」
 そう答えると、親父は安物のワインと干し肉、パンを俺の前に出す。それを黙々と食べる。
 そして食べ終わり、食事代とこれまでの部屋代、部屋の鍵を傍らに置く。
 「世話になったな」
 「……行くか?」
 長年の経験からだろう、俺の意図を汲み取った親父の問いかけ。
 「もういいだろう。傭兵は戦地に赴くか、雇われるままに護身を生業とするのみだ」
 「そうか」
 荷物を肩に担ぎ、半ば砂に埋もれたような入り口から外に一歩踏み出す。
 「……それに、これで全てが終いではない。また、風に乗ってこの地を訪れることもあろう」


 ……さて、これからどこへ向かおうか。
 西方に戻るには早すぎる。聞けば東方では未だに大国同士が小競り合いを繰り返しているらしい。そのあたりで一稼ぎしてみるのも悪くなかろう。また、北方、南方いずれの地にも未だ見ぬ世界が広がっている。

 まぁ、歩きながらでもゆっくりと考えてみることとしよう。
posted by たきのはら at 00:48| Comment(1) | TrackBack(0) | Aquilla血風録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年03月07日

後の日の物語1.5

 これは遠いかなたの話。

 巨大な悪魔の体が目の前に迫っていた。かつて西の国の王子の体を乗っ取り、王子を倒した剣士の体をまた乗っ取っていたもの。燃える巨大な悪魔。偽りなすもの(Diablo)。悪魔の爪が、牙が、炎と雷が撃ち込まれる。その一撃一撃がパラディグームの生命を削り取って行くのだった。パラディグーム卿はくそまじめな顔で、盾に隠した左手で紫色の霊薬をがぶ呑みに呑んだ。
 ……一滴で万人の傷を癒すとか聞いたが、ええい嘘つき奴、これではとても足りんぞ。
 どうやら妖法の種も尽きかけていた。卿は最後の力をもって槌をふり上げた。
 ――よ、妖法、鉄槌陣(Blessed Hammer)!
 光の槌が力なく飛んで「偽りなすもの」の側頭部を打った。これまで十二の妖法を打ち込んでまだ立っている魔物がこれで倒れる筈がなかった。
 だがどうだ。すぐ足元から地鳴りが始まっていた。赤い巨大な体が眼前で教会の石の床に倒れこんでいた。
 「光よ(Zakarum)! 感謝します!」
 卿は恐るべき速度で膝まづいて祈りを捧げ、恐るべき速度で大悪魔の屍骸の四囲に飛び散った宝物をかき集めた。供の弓兵はとうに屍になって転がっていた。卿は弓兵の体をかつぎ上げ、青い巻物を高々と掲げて叫んだ。
 「砦へ」
 全身が光に包まれて、卿は青い光の中に一瞬、帰るべき砦とは別の光景を見ていた。
 沙漠の中の城市だった。大きな大きな。
 ああ、そうであった。身どもはかつて一度、あのような所にいたのであった。そこで誰かを助けようとしたのであった。
 城市は砂ぼこりに包まれていた。中に人がいるのかどうか、一瞥しただけの卿には知り難かった。しかし光の中から砦に出てきた卿の顔は、何やら晴ればれとしていた。というのも、卿は砂ぼこりに包まれた城市の中に、最初から最後まで、何やら人々の笑いさざめく声を確かに聞いていたからである。



続きを読む
posted by たきのはら at 18:05| Comment(1) | TrackBack(0) | Aquilla血風録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年03月03日

後の日の物語1

 ――神とて殺そうと思えば殺せるのに、この世のしがらみはそうもいかんか。

 薄い書簡に目を通し終えて、アルカンは長嘆息した。
 どうやら扶桑との戦いは新たな局面に入ったらしい。 『神殺しの剣』を扶桑に渡さずにおくだけでは埒があかぬことになった、どうあっても持ち帰れ、邪魔者は皆殺しにせよ――。
 眉をしかめて手紙を丸め、近くにあった焚き火にくべる。破壊の爪痕も生々しい街路のあちらこちらには、臨時のキャンプが立ち並び、エイリーノア神殿の厚意による炊き出しが始まっていた。
 ――簡単に言ってくれるが、フレイやアルハンドラを皆殺しになどできるものか。そのうえあの神剣は……いまさら持ちかえるのも難儀な姿だ。それとも何か。俺は泣き叫ぶ姫君を肩にひっ担いで、大道を東に疾走せねばならぬのか?
 己の想像に小さくうめいた――そいつぁ全く気が進まん。
 だいたい所詮、剣は剣だ。戦いのあてにする気なら、どこぞのクマの方が役に立つ。
 とりとめない思考を巡らせながら、酒場へ向かう道の半ば、
「アルカン」
 聞きなれた小娘の声に、我にかえった。旅支度に身を固めた美笛が目の前に立っていた。
「故郷に帰るのか」
 そういえば、この小娘などは邪魔者の筆頭だ。始末しようとは幾度も思ったが、結局実行する機会はなかった。まあ、実際やるとなれば簡単にはいくまいが――。
「ううん。……まぁ、この街ではあたしの負けだったけどさ、ほら、砂嵐の剣なんてのもあったし、ほかにもありそうじゃない?神殺しの剣って。だから、ほかに探しに行くわ」
「成る程」
 内心で呆れかえった後で思い当たる――どうやら戦況の変化はこの小娘には届いておらぬらしい。と、アルカンの沈黙を何と取ったか、美笛は手を翻し刀のつばを軽く鳴らした。
「……?」
「ええと、さ。もう随分一緒に戦ったわけだし、いまさらいざこざもなんだから、さ。このまま、行っていいよね?」
 ああそうか、今の一瞬に斬ろうと思えば斬れたとでも言いたいか。俺に挨拶し、仁義を通したつもりなのか。
 アルカンは薄く微笑むと、そうして無言で道を譲った。
 
 ――まあ元気にやるがいい、小娘。次に逢うときは仇同士かもしれぬがな。
 
 遠ざかる姿をしばし見やって、アルカンは首筋をぼきりとならした。
「ああ。そうだな、残念だが」
 まるで夢みたいな物語も、どうやらそろそろおしまいなのだ。
「……仕事をせねばなるまい。人の世界はまだまだ続いていくのだ」



posted by たきのはら at 22:39| Comment(1) | TrackBack(0) | Aquilla血風録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。